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樽がワインの香りに与える影響

2026年10月

(写真)ワイナリーの樽熟成庫

今回のテーマは樽です。樽はとても古い容器で、紀元前から人類は樽を輸送用の容器として使って来ました。古代のワインの運搬はローマ時代は陶器のアンフォラが主体でしたが、ガリア(今のフランス)をローマ人が征服した頃からガリアで使われていた樽が地中海世界全体に広まり始めたようです。現在のワイン醸造において、樽は発酵の容器としても、その後の保存の容器としても無くてはならないものです。ステンレスタンクやコンクリートタンクなどのその他の素材の容器と樽の違いは、大きく2つ。樽材(多くの場合はオーク材)がワインと反応して木材が持っているアロマ成分やタンニンをワインに与える事。木材の隙間から微量の酸素を透過する事でゆっくりとした酸素供給を行い、理想的な酸化熟成の環境を与える事が挙げられます。今回のテーマは香りですので、オーク材がワインに与える香りについてお話していきたいと思います。
一般的に樽香と呼ばれるものにはバニラやナツメグなどがありますが、それを決めている樽の要素は大きく分けて以下の点があります。この後はそれをもう少し詳しく見ていきたいと思います。
(1)樽の素材
(2)樽の焼き方
(3)樽の使用回数
(4)樽の大きさ
(5)ワインが樽に入っている期間

目次
  1. 樽材が決めるワインの個性
  2. トースト(焼き)の効果
  3. 樽熟成を左右する要素

樽材が決めるワインの個性

上)フランス、アリエのオークの森

(1)樽の素材
ワイン用の樽に使用される木材で圧倒的に多いのはオークです。その理由としてはオークは素材の特性として耐水性が高く腐食や劣化のリスクが少ない事、またオーク材が持つアロマがワインとの相性が良い事が歴史的に良く知られているからです。しかも、曲げやすく樽の形に成形する事が容易な事もオークが選ばれて来た理由の一つです。オークの他には栗や桜、アカシアなどが一部のワイン産地やワインメーカーによって使用されていますが、非常に少数派です。
オークは大きくヨーロッパ系(ワイン用としてはフランス産、ハンガリー産、クロアチアのスラヴォニア産が良く知られています)と北米系(いわゆるアメリカン・オーク)、アジア系(ミズナラなど)の3つの系統に分かれますが、このうちヨーロッパ系と北米系が主にワイン用の樽材として使用されています(アジア系ではサントリーがミズナラの樽で熟成したマスカット・ベーリーAを生産しています)。まずはヨーロッパ系と北米系のオークから与えられるアロマの特徴の違いを見ていきましょう。ワインのアロマに影響を与えるオーク由来の香り成分としてはVanillin(バニリン)、Lactone(ラクトン)、Eugenol(オイゲノール)の影響が大きくなっています。
○ヨーロピアンオーク
⇒オイゲノールを多く含み、アメリカンオークと比較するとバニリンやラクトンは抑えめ。オイゲノールはクローブなどのスパイスを連想させる香りを産む成分です。香りに直接大きな影響は与えませんが、アメリカンオークと比較するとタンニンが多めで、ワインに引き締まった骨格を与えます。
○アメリカンオーク
⇒ヨーロピアンオークと比較するとバニリンやラクトンが多く、バニラやココナッツと言った甘い芳香をワインに与えます。逆にタンニンは少なめで、柔らかく華やかなタイプのワインになる傾向があります。

トースト(焼き)の効果

上)オーク樽の内面を焼いているところ

(2)樽の焼き方
一般的にワイン用の樽は内面を火で焼くトーストと呼ばれる工程を経ます。内面に熱を加える事で、オーク材に含まれるセルロースやリグニンなどの成分を分解し、含有される糖分のカラメル化によって甘香ばしい風味が生まれます。またタンニンも熱が加わる事で収斂味が和らぎます。
焼き方の強度によってライトトースト⇒ミディアムトースト⇒ミディアム+トースト⇒ヘビートーストと呼び名が変わっていき、ワインの風味に与える影響も変化します。一般的に、ライトトーストの場合は針葉樹などの生木を思わせる香りが強く、トーストしたパンやナッツ、バニラ、スパイスなどの風味は抑えめ、ミディアムになるとキャラメルやバタースカッチと言った甘香ばしさや、クローブやナツメグと言ったベーキングスパイスの風味が強まってきます。樽の香りと言った時に想像される基本的なアロマはミディアムが一番表現されると言っても良いと思います。ミディアム+になると、より香ばしい風味が強くなり、ほのかにスモーキーな感じが顕れてきます。ヘビーまで行くとスモーキーさや深煎りコーヒー、チョコレートと言った風味が強くなってきます。近年の傾向では樽のトーストを強くしすぎる事は少なくなっていて、ワインの持つ果実味を保持するライト~ミディアムトーストの樽を使う生産者が多い印象です。全くトーストしない樽を使う場合もありますが、この場合はオークの木材の香りが主体になり、甘さや香ばしさは与えられません。

樽熟成を左右する要素

上)大樽と小樽

(3)~(5)その他の要素 それ以外に要素としては樽の使用回数や大きさ、樽内でワインが熟成される期間などがワインの風味に影響を与えます。
(3)樽の使用回数
樽は初めて使用される時(新樽と呼ばれる)に最も多くの成分をワインに供給し、使用される回数が多くなるにつれて、徐々に与える成分が減っていきます。一般的には2回目に使用する場合(1空きと呼ばれる)には新樽の時の約半分の効果、3回目では新樽の2~3割、4回目ではごくわずかの影響にとどまり、5回目以降では樽から与えられる香りやタンニンの成分はゼロになると言われています(微量に酸素を供給する役割は果たします)。
(4)樽の大きさ
樽は一般的に小樽と呼ばれる225リットル前後(代表はバリック)のサイズ、中樽と呼ばれる400~500リットルのサイズ、大樽と呼ばれる1,000リットル以上のサイズに区分されます。入っているワインの容量に対して接触する樽の表面積が大きくなるほど、ワインに与えられる樽の成分は多くなります。つまり、ワインに樽由来の風味を多く付けたい場合は小樽を使用すると効果が大きいという事になります。
(5)樽内での熟成期間
樽の成分は時間をかけてワイン内に抽出されていくため、樽内の熟成期間を長くすればワイン内に取り込まれる樽の成分も多くなります。ほのかに樽の香りを付けたい場合は3カ月程度の熟成で済ませる事もあります。白ワインの場合は6~12ヶ月、赤ワインに場合は12~24カ月くらいの熟成期間が一般的ですが、生産者の狙いによってそこはコントロールされます。
他にも白ワインの場合は樽発酵⇒樽熟成、他の容器で発酵⇒樽熟成、樽発酵⇒他の容器で熟成など、発酵容器として樽を使う場合もあり、香りに影響を与えます。

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