ワインって難しい・・・?
世の中で広く言われるワインの常識を、ワインのプロが実際に検証!
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テイスティング編スタートします!

2025年04月

(写真)比較試飲

みなさまこんにちは。今月からワインの常識非常識の新しいシリーズをスタートします。題して「テイスティング編」。産地編に続いてこちらの連載を書かせて頂く、サントリーの柳原と申します。テイスティング編とはしましたが、テイスティングを学ぶというのではなく、ワインをもっと美味しく飲んで頂くためのきっかけの一つになるような連載にしたいなと思っています。どうぞ宜しくお願いいたします。

「ワインの事は良くわからないから...」「ワインは難しくて...」、その他同じような言葉は多くの方から良く聞く言葉です。世界には何百万種類というワインが存在しますし、しかもその多くが日本語表記でもないわけで、良くわかります。

お酒飲むのに「飲む」じゃなくて「テイスティング」という言葉を使うというのも、何か敷居を高くしているような気もします。例えば僕の場合、テイスティングと聞くと、「ラベンダーやイチジクの香りがします。」とか「とても滑らかで上品な味わいです。」とか「瑞々しくてこの季節のアスパラガスなんかに良く合いそうですね。」とか、何かそのワインについて言わなければならないような気持になります。ワインを仕事にして15年以上経ちますが、いきなりワインを飲んでコメントを言うというのは今でも相当に緊張します。僕の場合は仕事なのでやりますが。

では「楽しく飲むためなら、テイスティングなんてしなくていいやん。」となるかと言うと、ワインには「ここを押さえておくと、もっと美味しく感じる」というポイントがあったりするので、このシリーズではそのあたりを分解して、お伝えしていきたいと思っています。

目次
  1. ワインの味わいが決まる4つの要素
  2. ワインとそれが生まれる土地
  3. ワインが伝えてくる事

ワインの味わいが決まる4つの要素

上)ワインの味わいが決まる4つの要素
 冒頭で述べた通り、世界には何百万種類という数のワインが存在しており、味わいが異なります。そういう意味では、世界にあるワインを全て飲む事は事実上不可能ですし、ものすごくワインを飲んでいる方でも実は世界に存在しているワインのほんの一部しか飲んでいないという事で、本当にワインを理解するというのはとてもとても難しい事なのではないかなと僕は感じています。だから15年以上飲み続けていても全く飽きないとも言えるし、もちろんその多様性がワインの大きな魅力なわけですが。
とは言え、ソムリエさんやバイヤー、酒販店さんなどのプロは、それだけ沢山の数のワインの味わいを把握しています。これはどうやっているのでしょうか。色々飲んできた中での僕の結論は、ワインの数はあまたあれど、それを分解していくとどうも4つの要素が影響してそうだと言う事です。
その4つとは、
1.天=産地の気温、日照量、雨の多さなどと、毎年の天候の違い(ヴィンテージ)
2.地=産地の土壌、地形、標高など
3.人=栽培や醸造に使用される器具や容器、適用される技術、生産者の思想など
4.ぶどう=原料になるぶどうが元々持っている味わいの強さや風味の特徴
です。一般的に言われてるのと一緒と言われそうですが、長く試した結果、一緒の結論になったという事です。
それぞれの要素がまた物凄く多岐にわたるので、簡単なわけではないですが、例えば気に入ったワインがあれば同じ生産者のワインをまた買ってみるとか、そのワインと同じぶどう品種でつくられたワインをまた買ってみるとか、同じ産地のワイン(同じ国となると広すぎてかなり違うものもあると思います)を買ってみるとかすると、好みのワインに出会える確率が増えますし、それを何度かやっていると香りや味わいに共通点がある事に気づくと思います。
優秀なソムリエさんたちはその経験をとても沢山しているので、飲まなくても何となくこういう味わいだろうなと言うのがわかるという事だと思っています(ちなみに僕は開けてみたら、「想像と大分違うやん」という事もそれなりの頻度であります)。

ワインとそれが生まれる土地

写真上)長野県・高山村の美しいぶどう畑
上記の4つの要素の中で、半分を占めるのが天と地という、いわゆる自然の要素です。もちろん、その自然の中で(もしくは自然に対峙して)自分が良いと思うワインをつくろうと努力する人の力も、出来上がるワインの味わいにとてもとても大きく影響するのですが、収穫されたぶどうと全く違ったワインをつくる事は普通は出来ません。つまり、「どこで、どの様にぶどうが栽培されたか」「どんな年だったか」というのがワインには常に刻印(記憶と言う言い方もあります)として残っているという事になります。もちろん色々な産地や年のワインを混ぜてしまえば、その刻印はわからなくなってしまうわけですが、多くのワインがラベルに産地名やぶどうの収穫年(ヴィンテージ=元々ぶどうを収穫するという意味)を記載しているのは、そこがワインの味わいにとってとても大切な部分だからという事になります。例えば、上の写真には長野県の北部にある高山村というところの標高約700mのところにあるぶどう畑が映っていますが、この写真を見ると澄んだ涼やかな空気が想像出来ると思います。そして、実際にここから出来るワインを飲んだ時にもこの写真から受けるのと同様の澄んだ空気の印象を受ける事が出来ます。
僕も行った事が無い産地のワインを飲む時には、どういう場所でつくられたかな?と想像しながら飲む(で後から検索して産地の写真を見たりする)のですが、良い思い出として残るワインには確かに産地の味わいが映し出されていると感じています。そういう点では、良く知っていて自分が好きな土地がワインの産地で、そこのワインを飲むというのは、凄く幸せな事のように思います。今は日本の殆どの土地でワインがつくられているので、それも出来る時代になりましたね。

ワインが伝えてくる事

写真上)シャトー ラグランジュのセラーでの作業
日本独自の交配(交雑)品種
 もちろん人とぶどうの部分も大事です。雨が降るとか、日が照るとか、暑いとか、寒いとかの自然の営みに対して人間が出来る事はなかなかないですが、その自然の営みの影響を受けたぶどうやワインに対して、人間が出来る事は色々とあります。ぶどうが成る前でも、ぶどうの段階でも、ワインになってからも、最終的にどんなワインになるかを決めるのは人間です。そして、その前のワインの性格の大体の方向性みたいなものを決めるのはぶどう品種です。それらが全部ワインには出て来ます。僕はその感覚を他のお酒で感じた事が無く、やっぱりワインってすごいなあと思っています。
次回からは、具体的にどんな風に飲んでいくと、上記の4つの要素を感じやすくなるのかを考えながらお話していきたいと思います。

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