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第二アロマを生む特殊な醸造法とその目的(1)

2026年07月

(写真)選果中の全房のぶどう

今回は、前回の最後で挙げた、どちらかと言うと登場頻度はそれほど高くはない醸造技術によってワインに発生する第二アロマを取り上げて行きたいと思います。
<代表的な特殊な醸造技術>
●全房発酵
●カーボニック・マセレーションとセミ・カーボニック・マセレーション
●スキン コンタクト
●シュール・リー
●フロール(産膜酵母)
●自然酵母
の6つを挙げましたが、一つ一つのボリュームがなかなか大きかったので、今回は全房発酵からスキン コンタクトまでの前半の3つを取り上げたいと思います。

目次
  1. 全房発酵
  2. カーボニック・マセレーションと
    セミ・カーボニック・マセレーション
  3. スキン コンタクト

全房発酵

上)ぶどうの除梗(じょこう)の様子
<全房発酵(ホール・バンチ・ファーメンテーション)>
全房発酵は赤ワインで採用される醸造方法です。多くの赤ワインはぶどうの果皮と種子を果汁に漬け込んで色素やタンニンをワインに抽出(マセレーション)する前に、ぶどうの梗(こう=軸の部分、上の写真参照)を取り除きます。大きな理由としては、梗には粗いタンニンが含まれるためにそれを抽出してしまって果実味と渋さのバランスを崩すのと、梗に含まれる青臭い風味(IBMP=イソブチル・メトキシピラジン)がワインに加わる事を避けるためです。 しかし、元々タンニンをあまり多く含まないタイプのぶどう品種や、梗に青臭い風味が少ない品種(ピノ・ノワールなど)の場合、逆にこれらの要素をワインに与えるために一部もしくは全部のぶどうの梗を一緒にマセレーションする事があります。梗を含む房全部を使用するので、この醸造技術の事を全房発酵と呼んでいます。
梗を除かないという事は基本的にぶどうが潰れていない(果汁が酸素に触れない)状態で発酵タンクの中で保持されるため、ぶどうの中で酵母ではなく、酵素によるぶどうの細胞内発酵が起こります。この酵素による細胞内発酵で発生する香りがまずは全房発酵で生まれる第二アロマの重要なものになります。これはどんな香りかと言うと、イチゴやバナナ、キャンディー、風船ガムなどのフレッシュ&フルーティな甘い香りです。一般的な全房発酵の場合は、マセレーションを続けながら徐々に足で踏んだり、棒でつぶしたりしながら、徐々に果汁の中に果皮、種子、梗を漬け込んでいきます。この梗が果汁の中に漬けこまれてアルコール発酵が行われる時に、梗が持つ香り成分がワインに抽出されていくのですが、これが全房発酵がワインにもたらす第二アロマのもう一つのものになります。梗からの香り成分としては大きくスパイシーさと青臭さの2タイプが挙げられ、前者はワインに複雑さを与える要素と考えられており、後者はそのレベルによってネガティブな風味をワインに与える事もあります。特に梗がきちんと熟していない場合や、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの元々梗に強い青臭さを感じさせる要素を持った品種を使った場合はネガティブな青臭さに通じる事が多くなる傾向があります。このスパイシーさや、適度な青臭さは、ワインが熟成していく中で果実味と混然一体となって得も言われぬ色気を醸し出す芳醇な香りになる事があります。個人的な経験から言うと、そこまでには醸造されてから少なくとも5年くらいの熟成が必要だと思っています。スパイシーさや青臭さのレベルをコントロールするために、一部のぶどうだけを全房で投入したり、除梗した上で良い梗だけを選んでマセレーションしているもろみに戻す事も行われています。

カーボニック・マセレーションと
セミ・カーボニック・マセレーション

上)カーボニック・マセレーションの様子
<カーボニック・マセレーション(マセラシオン・カルボニック=仏語、MC=略称)とセミ・カーボニック・マセレーション(セミ・マセラシオン・カルボニック、以下セミMC=略称)>
同じ全房を使った醸造でも、イチゴやバナナ、キャンディーなどのフレッシュ&フルーティな甘い香りのみが欲しく、スパイシーさや青臭さは求めない場合に採用される技術がカーボニック・マセレーション(以下MC)です。この発酵技術の工程としては、まず炭酸ガス(CO2)で満たした発酵容器に全房のぶどうを投入します。ぶどうは炭酸ガスに包まれ酸素に触れないので、全房発酵と同じくぶどうの中で酵母ではなく、酵素によるぶどうの細胞内発酵が起こります。そして同じくイチゴやバナナ、キャンディーなどのフレッシュ&フルーティな甘い香りが発生します。全房発酵とMCの違いは、この後に果皮・種子・梗をマセレーションするかどうかにあります。MCの場合は、細胞内発酵が進んでぶどうの果皮が割れ、ジュースが出て来た時点でプレスにかけ、果汁(少しアルコールは発生している)ともろみ(果皮・種子・梗)を分けてしまいます。そしてその後は果汁のみをアルコール発酵させるのです。梗が分離されていますのでスパイシーさや青臭さは出ずに、甘い香りだけのするフレッシュ&フルーティなワインが出来上がるというわけです。味わいの部分で言うと、果皮や種子、梗を漬け込んでタンニンを抽出しないので渋さの少ない軽やかなタイプの赤ワインを生む製法になります。これはボジョレー ヌーヴォーの製法として良く知られていますが、元々収斂味の強い、厳しいタンニンを持つ品種(例えばカリニャン)から早飲みタイプのフレッシュな赤ワインをつくりたい時などにもしばしば使われる技法です。
近い製法としてセミ・カーボニック・マセレーション(以下セミMC)というやり方もあります。違いはあまり大きくないのですが、最初から発酵容器に炭酸ガスを吹き込んでおく変わりに、アルコール発酵で生まれる炭酸ガスを利用するという点が異なります。具体的には、発酵容器に全房のぶどうを投入していくと、容器の一番下にある果実が上のぶどうの重さに押される事で、自然に潰れて少量の果汁が搾り出されます。この果汁が酵母の力でアルコール発酵されると副産物として炭酸ガスが発生します。発生した炭酸ガスが容器の中に充満するとMCと同じ状態がつくり出されるという事になります。発生する第二アロマはMCと大きくは変わりません。ボジョレーの巨匠として知られる、ジョルジュ デュブッフ社ではテイスティングだけでMCとセミMCの区別をつけるのは非常に困難だと言っています。ただ、クリュを含む本来のボジョレーの製法はこちらのセミMCです。

スキン コンタクト

上)スズランの花(リナロールを持つ花の事例)
<スキン コンタクト>
スキン コンタクトは白ワインに使用される醸造技術です。スキン(果皮)コンタクト(接触)の名前の通り、一定期間の間搾ったジュースにぶどうの果皮&種子を漬け込んでおく事をこう呼んでいます。ジュースの温度が高いと自然に酵母が活動を始めて、アルコール発酵が始まってしまいます。こうなるとこれはもう赤ワインと同じく果皮をマセレーションしたオレンジワインと言う別のカテゴリーになってしまいますので、スキン コンタクトの場合にはアルコールが発生しない様にごく短時間もしくは、ジュースを人為的に冷やした状態(一定以下の温度帯では酵母は活動を停止するので)で果皮を漬け込む事がポイントになります。 スキン コンタクトの大きな目的はぶどうに含まれるアロマ成分をより多く取り出す事にあります。ぶどうの香りや風味成分の多くがぶどうの果皮に含まれるため、果汁に漬け込む事で果皮から果汁にその成分が移行するのです。特にリースリングやゲヴュルツトラミネール、ソーヴィニヨン・ブランなど、元々香りの量が多いアロマティック品種でスキン コンタクトを取り入れると、とても華やかな香りを持ったワインをつくる事が出来ます。また、果皮に含まれるフェノール成分(渋みや苦味を含む)が微量にジュースに移行する事で、より骨格のあるワインが生まれるという事もあります。その反面、やりすぎるとフェノール成分を抽出しすぎてエグみや苦味を強く感じてバランスを崩してしまうワインになったり、漬け込んでいるうちに酸素に触れてしまい本来の果汁が持っていたフレッシュな果実のアロマが揮発してしまうと言ったリスクも背負う醸造方法です。スキン コンタクトによって、リナロールやゲラニオールなどのテルペン類(花の香りを連想させる)や柑橘系の風味をもたらすヘキサノール類が増加するため、それらの香りがスキン コンタクトがもたらす第二アロマと言えるでしょう。

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