- 実験編「豆知識」
清澄度と輝きからわかる事
2025年09月
(写真)アルコール発酵中の濁ったワイン
今回から、外観の各要素から見ていくポイントについてお話しようと思います。まずは清澄度と輝きから。ワインの外観を見るときに、最初にチェックするのがこの部分です。
前回の最後で清澄度は色々なポイントを見ていく前の入口の部分にあたると申し上げました。多くの場合、市場に出荷されているワインは澄んだ状態です。色が濃い赤ワインの場合は、色素の影響で透き通った感じには見えない時もありますが、冒頭の写真の様に明らかに濁った状態のワインは、お家の近くのワインショップやスーパーマーケットなどの売場を見ても通常は発見出来ないと思います。また、ワインの中に固形物が入っている事もそれほどないでしょう。つまり、澄んだ状態がスタンダードで、澄んでいない場合にはその「澄んでいない」という事の理由がある訳です。理由は多くの場合は以下のどれかです。
ワインが澄んでいない理由
(1)清澄作業を行っていない(無清澄)もしくは軽めに行っている
ワインの醸造工程の中で、清澄というものがあります。アルコール発酵が終わったワインには、発酵のために働いた酵母の死骸やたんぱく成分などが浮かんだ状態になっています(目に見えないものも多いです)。これらを沈殿させることで、透明な状態にする作業を清澄と言っています。ワインは発酵が終わってから静置しておくと、ワイン中に浮遊している成分はゆっくりと底に沈んでいき、澱となって沈殿します。澱が沈殿したワインの上澄みだけを他の容器に移動させること(澱引きと言う)を何度か繰り返すことでワインは相当澄んだ状態になります。とは言え、沈み切らずにワイン中に浮遊し続ける細かい成分が色々とあるので、これを沈殿させるために行う作業が清澄です。具体的には清澄剤と言われるものをワインに投入する事で沈殿させます。清澄剤としては卵白、ゼラチン、ベントナイト、活性炭などが知られています。ワインを澄んだ状態にするために、一般的に行われている工程ではありますが、ワインの中に浮遊している成分には必要ないものだけではなく、ワインの旨味や風味をつくり出している成分も含まれます。清澄作業をやりすぎると、折角のワインの味わいを損なってしまう可能性もあるという事です。ワインの生産者の中には、味わいを損ねたくないという理由で、澱引き作業だけ(その分じっくりと時間をかけます)で瓶詰めして出荷したり、澱引きを軽くしかしないところもあります。その様なワインは少しぼんやりとして見える事があります。
(2)濾過作業を行っていない(無濾過)もしくは軽めに行っている
清澄に続いて行われる一般的な工程として濾過があります。こちらはイメージがつきやすいと思いますが、フィルターを通すことで不要な浮遊物や固形物を取り除く工程です。ワインの品質保証のための大切な工程ですが、こちらも清澄作業と同様にワインの味わいを取ってしまうことにもなるため、行わなかったり、フィルターの目を粗くして濾過のレベルを軽くする場合もあります。
(3)商品設計として濁っている
絶対数としては多くないですが、濁っている事を売りにしているワインもあります。そのようなワインの多くが、新酒の様につくられてすぐに消費されるワインで採用されています。一部のスパークリングワインには、泡をつくるための発酵が終わった後に澱抜き(デゴルジュマン)をせずに出荷されるものもあり、このタイプはワインを注いでいるうちに瓶底に沈殿した澱がワインに溶け出してどんどん濁っていきます。
固形物やそれ以外の濁り
ワインには豊富な酸が含まれており、その中の酒石酸と呼ばれる酸がワイン中のカリウムなどのミネラル分と結合して析出したものが左上写真の酒石です。ガラス片の様に見えますが元々ワインに含まれている成分です。多くの要素を持つワインに出る事が多く、ワインのダイヤモンドとも呼ばれます。口に入れるとザリザリして不快ですが、口にしても体への悪影響はありません。通常は瓶底に沈んでいますので、もしグラスに入るとしても底に残ったワインをグラスに注ぎきる最後の1杯に入る事が殆どです。赤ワイン(特に濃厚なもの)に顕れる沈殿物として、澱があります。これは赤ワインに含まれるタンニンやアントシアニンなどの成分が時間と共に重合し、ワイン中に溶け込みきれなくなって析出したものです。酒石同様に口にしても心地よくはないですが、人体に悪影響はありません。こちらも多くの成分を含んだワインに顕れやすいため、出ている事自体は悪い事ではありません。これらも澱引き、清澄、濾過の工程を経る事で出にくくすることが可能です。
最後に、生産者が意図せずに出てしまう濁りもあります。例えば、甘さが残ったワインで酵母の除去が不完全だったために起こる再アルコール発酵や、意図しない微生物の働きによるものなどです(滅多にありません)。その場合は「何か問題が起こったな」という事がわかります。清澄度を見る事がテイスティングの入口とされるのは、異常へのチェックというこのポイントが大きいです。