ワインって難しい・・・?
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ワインの味わいを表現することば

2025年07月

(写真)色とりどりの果物たち

前回お話した通り、味覚には個人差がありますから、同じワインを飲んでも感じている事は人それぞれで異なります。ワインの味わいを表現することばは、その感じ方の違いを擦り合わせて、お互いの感覚を共有するために使われるものです。でも、感覚を的確な言葉にするというのはとても難しい事ですよね。時々小説を読んでいると、驚くほどに自分の感覚と近い事が書かれている文章があったりしてビックリしますが、あれはやはりプロの作家の文章力のなせる技だなと思わずにはいられません。

そんな技術が無い僕の場合は、このタイプのワインはこんな風に表現するのだなと、ワインに詳しい先輩やソムリエさんのコメントを聞きながら、模倣をする事でワインを表現する基本をつくりました。そして、その中で、ワインの表現に使われていることば一つ一つにワインがつくられている産地や、醸造に使われている技術、原料のぶどうの特徴などが込められている事を学んで来ました。

ことばと醸造の関連の例を挙げると、例えば「トースト」と言えばワインづくりの過程で滓と一緒にある程度の期間貯蔵した白ワインの事を連想しますし、「いちごキャンディやぶどう味の風船ガム」と言えばカーボニック・マセレーションと言う技法を使った出来立ての赤ワイン(ボジョレー・ヌーヴォーの様な)を連想します。ワインを表現することばにはそれぞれ意味が持たされていて、それらを組み合わせる事でワインの見た目・香り・味わいなどのイメージが立体的に立ち上がって来るようになっています。

目次
  1. ワインの表現
  2. テイスティングに使うことば
  3. 一般的なテイスティング用語と自分のことば

ワインの表現

上)見た目からもわかるワインの違い
実際に二つの白ワインを表現した文章を載せてみます。どのようなワインを想像されますか?
白ワイン①
「緑がしっかりと見える淡い黄色。強い輝きとサラリとした粘性。中程度のボリューム感のトップノート。レモンや青りんごなどの爽やかな果実を連想させる香りに、ディルの様な甘いハーブのタッチ。ほんのりとスモーキーさ。中程度のアタック。イキイキとしたフレッシュな果実味と、引き締まった鋭い酸味、スッキリとした後口のキレのある辛口。」
白ワイン②
「しっかりとした濃さのある金色。トロリとした感じのある強い粘性。力強く広がるアロマティックなトップノート。金木犀や黄色いバラなどの大輪の花や、杏やネクタリンなどの黄色い核果実のコンポートを連想させる力強い香り。ハチミツや白胡椒などのスパイスのタッチが複雑さを加える。力強いアタック。コクと厚みのあるどっしりとした果実感と、良く熟したまろやかで穏やかな酸味。口の中で再び広がる華やかな果実の香り。わずかな残糖と、余韻に残るほろ苦さが印象的な、ボリュームのある味わい。」
結構違うタイプの白ワインだなという感じがすると思います。色々なワインを飲んでいる方なら、あの辺りでつくられた、こんな品種の白ワインかな?と想像出来るかもしれません。そして白ワイン②の説明の方が少し長いですが、2つのコメントは同じポイントを押さえながら説明が進んでいるのがわかると思います。これが説明する「型」と言えるものです。ワインをテイスティングする時には違いを知るために見るべきポイントがあって、それを順番に並べたものがこの「型」と言う事になります。つまりワインを表現する時には、使うことばも大切ですが、表現の順番や型も大切になってきます。

テイスティングに使うことば

写真上)白ワインの香りの表現に使う果物の種類一覧
上の図は、白ワインの香りを表現する時に使う果物をリスト化したものです(あくまで備忘のために僕が使うことばをまとめたものであって、これが公式なものですとか、これにないものは使いませんとかでは全然ないのでご注意下さい)。果実の色と果実のタイプでマトリックスになっているのがわかると思います。個人的な感覚ですが、果実の色は原料ぶどうの熟度によって左右に変化し、果実のタイプは原料ぶどうの品種の影響を大きく受ける様に思います。もちろん例外は色々とあるわけですが。
ワインの表現は、「青りんごの様な香りがする」みたいに、実際に存在するものの香りに例えるのが一般的です。ある程度共通の経験のあるものに例える事で、感覚を共有するわけです。例える例を沢山持っている方がより詳細に感覚を共有する事が出来るわけですが、「共有=相手にもその感覚がある事が前提」になりますので、あまりに詳細な例え(ある非常に狭いエリアにのみ生育する花の香りなど)はかえって共有出来ない事にもつながると言う認識も必要です。もう一つ面白いのが、ワインはぶどうからつくられるお酒であるにも関わらず、果物に例える際に「ぶどう」が殆ど出てこない事です。実際に、原料ぶどうの風味がそのまま出て来るワインは、マスカットのワインと、アメリカ系の血を引くぶどうを原料としたワインくらいな気がします。どんな順番に、どんな言葉を使ってワインを見ていくのかという事は、次回以降でお話させて頂きます。

一般的なテイスティング用語と自分のことば

ワインスクールなどワインを教えてくれる場所に行くと、テイスティングの用語の書かれた紙を渡され、ワインを表現する際にはそこから言葉を選ぶのがまず最初のやり方です。普通はいきなりスラスラと言葉は出てこないので、まずは用意されたことばから選ぼうという事です。安心感もあって良いのですが、繰り返すうちに、どんなワインも同じようなコメントになってしまう可能性も含みます。自分の体験に基づいた表現が入ってくると、そこに一気にイキイキとした表情が顕れます。基礎を身につけたら、臆さずに自分のことばで語るようにしてみて下さい。きっとそのワインがより身近に感じられるのではないかとおもいます。

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