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それ以外に見ておくべき事、スティルワイン以外の外観のポイント

2025年12月

(写真)グラスに注ぐ事で可視化される、ワインに含有される炭酸ガス

外観の最終回はこれまで見て来た事以外に見ておくべきポイントと、スパークリングワインやフォーティファイドワインなど、一般的なスティルワイン以外のワインで注意するべきポイントについてお話したいと思います。今回で外観編は終了し、次のステップ「香り」編へ進みたいと思っています。
まずはスティルワインでさらにチェックするべきポイントですが、ガスの有無があります。「ガスが有る」=スパークリングワインのカテゴリーになるんじゃないの?と思われる方も居るかも知れませんが、EUを中心としたワイン生産国では、一般的にスパークリングワインと呼ばれるワインは含まれる炭酸ガスの圧力が3気圧以上のものを指します。それよりガス圧が低いものはに弱発泡性のワインと呼ばれ、通常のスパークリングワインとは別とみなされます(例えばフランスでは通常のスパークリングワインはヴァン・ムスー、弱発泡性はヴァン・ペティヤンで名前も違います)。さらにガス圧が1気圧未満のものはスパークリングワインとみなされず、スティルワインとして販売され、飲まれています。グラスに注ぐと、その瞬間はフワッと全体にガスの泡が広がりますが、その後すぐにおさまり、グラスの壁面に小さなガスの泡が付着しているようなタイプのワインで、それなりに見かけると思います。スティルワインでチェックするガスと言うのは、こういうタイプの泡立ちの事です。では、それを見て何を判断するのでしょうか。

目次
  1. ガスが見えるワインとは?
  2. スティルワイン以外の外観のポイント

ガスが見えるワインとは?

(写真上)発酵中のワインが炭酸ガスを発生しているところ

ワインにガスが残るパターンは大きく分けて次の3つ(もしくはその組み合わせ)です。

(1)出来てからあまり時間が経っていないワインである
 ぶどう果汁がワインになる時には、ぶどうが持つ糖分を酵母がアルコールに変換します。その際に同時に炭酸ガスが発生します(アルコール発酵の化学式=C6H1206→2C2H5OH+2CO2)。通常はアルコール発酵を開放型の容器で行うことで発生した炭酸ガスは自然に飛んでいくのですが、新酒の様に炭酸ガスが抜ける間もないくらい早くに飲んでしまう場合や、保存容器が密閉型でガスが抜けにくい場合、瓶詰めされたワインがスクリューキャップなどの嫌気的な栓で閉じられていてガスが抜けにくい場合などに比較的よく見るパターンです。

(2)醸造過程で意図的に炭酸ガスを残したワインである
 ワインが時間と共に風味を変化させていくワインである事は良く知られています。これをワインの熟成と呼んでいますが、熟成は言い方を変えると緩慢なスピードで起こる酸化であるとも言う事が出来ます。フレッシュな果実味を愉しみたいスタイルのワインや、もしくはつくり手の意思として酸化防止剤の添加量を抑えたい(もしくは入れたくない)タイプのワインなどの場合、ワインに炭酸ガスを含む事で瓶スペースやワイン内に含まれている酸素を減らす事が出来るので、先に述べた様なワインにとっては有利となります。まだワイン内に炭酸ガスが残った早めのタイミングで、意図的に瓶詰めする事が多い様です。

(3)瓶詰めの過程で炭酸ガスを吹き込んでいる
 これも意図しているところは(2)と同じです。このタイプは瓶詰めの際ワインに炭酸ガスを少量吹き込むか、ボトルに炭酸ガスを吹き込んでからワインを詰めるという製法でつくられます。酸素を減らす事で酸化のリスクを抑える事が出来、そして微量に残った炭酸ガスの口当たりで清涼感を出す事でフレッシュさを感じやすくなりますので、軽快で飲みやすいタイプのワインにとっては理想的です。こちらは設備も必要になりますので、比較的大きなロットで生産されるカジュアルなワインで広く採用されています。

という事で、スティルワインでガスが見えた場合には、果実味を中心として軽やかで爽やかな風味のワインが想像出来るという事です。ガスが残る時点で、ある程度醸造、熟成、瓶詰などの工程の中であまり酸素にふれずに密閉された空間にあったという事が想像出来ますので、必然的にそのような風味になる事が多くなります。

スティルワイン以外の外観のポイント

(写真上)スパークリングワインの泡立ち

では外観編の最後に、スパークリングワイン、フォーティファイドワイン、フレーバードワインと言う、スティルワイン以外のワインたちの外観を見る際に注意しておきたいポイントをまとめておきましょう。

○スパークリングワイン
・注ぐ際に生まれる泡のムースのキメの細かさ
・泡の粒の細かさ
・泡の持続性
⇒スパークリングワインの泡のキメの細かさや持続性は、その製法によって変わってきます。個体差はあるものの、一般的には瓶内二次発酵の製法で生産され、出荷されるまでに長く瓶で熟成されたスパークリングワインはムースや泡の粒が細やかになり、泡が長時間継続的に続く事が多いとされます。反対に、最も簡単にスパークリングワインを生産する方法である炭酸ガス吹込み製法(カーボネーション)の場合、泡が崩れるのが早く、比較的早期に泡が抜けてしまう傾向があります。

○フォーティファイドワイン
・粘性の強さ
⇒フォーティファイドワインはその日本語名(酒精強化ワイン)の通り、高濃度のアルコール(度数70~95%程度)をワインに加えて、保存性を高めたものです。一般的なアルコール度数は15~21%程度と、通常のスティルワインよりかなり高めになっています。また、アルコール度数を高める事で酵母をはじめとした微生物を殺しワインの安定性を高める事が可能なため、温度管理が難しかった近代までは残糖を残した甘口ワインをつくるための効果的な方法でもありました。歴史的なそんな経緯もあって、現在でもフォーティファイドワインには甘口が多いです(辛口もあります)。アルコール度数が高く、残糖もあるという事は、粘性が高くなりやすいという事です。スティルワインと比較すると明らかに粘性が異なるので、機会があればじっくり見てみて下さい。

○フレーバードワイン
・特殊な色
⇒フレーバードワインは、ワインにハーブやスパイスなどを漬け込み、その風味を移しとったものです。柑橘類の果皮や、草根木皮などは天然の色素も持つため、それらの色がワインの色調に影響を与えます。また赤のベルモットの様に、白ワインベースで生産しつつカラメル色素で色味を調整しているものもあります。

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