- 実験編「豆知識」
色調からわかる事
2025年10月
(写真)色々な色調のワインたち
外観の2回目は色調。ワインの外観の中で真っ先に目が行く部分であり、多くの情報量を持った重要な項目です。
ワインには多彩な色があります。カテゴリーで分けると、大きく赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、そして近年はオレンジワインの4種に分かれますが、特殊な例では黒ワイン、グリ(灰色)ワイン、黄色ワイン、緑のワインなどと伝統的に呼ばれて来たワインも存在しています。
また、同じ赤ワインでも黒紫に近い色調のものもあれば、赤みの強いルビー色の色調のものもあれば、少し橙色が混ざるようなガーネットの色調もある、と同カテゴリーでも多彩な色が見られます。ワインの色は何で決まるのでしょうか?テイスティングではワインの色調から何を知る事が出来るのでしょうか?今回はそれを見ていきたいと思います。
ワインの色に影響を与える要素(1) 時間
(1)時間
ワインは常に変化していくお酒です。香りや味わいの変化についてもいずれお話したいと思いますが、外観もつくられてからの時間経過と共に変化していきます。上に白ワインと赤ワインの時間の経過による色調の変化の図を載せています。見て頂くと時間と共に減る色と増える色がある事がわかると思います。
白ワインで言えば、ベースになる色合いは通常は淡い黄色(白じゃないですね)で、そこに緑と茶色の2つの色が混ざりあってワインの色調を決定している事が多いです。そして緑はワインが出来てすぐが一番多く、時間と共に減少し、反対に茶色は出来立ての時点ではほぼゼロで、時間と共に増加していきます。この2つの色調がベースとなる黄色と混ざる事でワインの色が決まるので、出来たてのワインは緑の要素が強い黄色で、そこから緑が減り、茶色が増えるに従って、黄色⇒金色⇒琥珀色と変化していき、最終的には褐色になるという事です。前述したワインのタイプの緑のワインは若々しいスタイルで出荷されてきたもの、黄色ワインは長期熟成で色調が変化し黄色~黄褐色になってから出荷されてきたものがこの名前で呼ばれて来ました。
赤ワインでは、ベースになる色合いはルビー(赤が強い)で、そこに紫(青)と茶色の2つが混ざります。紫は時間と共に減り、茶色は白ワイン同様に時間と共に増加します。結果としてワインの色は紫⇒赤紫⇒ルージュ⇒ガーネット⇒トウニー(黄褐色)⇒琥珀色⇒茶色と変化していきます。面白いのは、白ワインも赤ワインも最終的には茶色に到達するというところです。白い花も赤い花も最終的に枯れると茶色になりますが、ワインもぶどうが液体に形を変えた植物性のものですので、同じだというのはわかりやすいところかなと思います。
つまり色からわかる事は、ワインが出来てからの時間経過です。緑や紫が多いと若い時期で、茶色が多いと出来てから時間が経っているという事ですね。例えば出来たてのボジョレー・ヌーヴォーを白い紙にたらすと、本当に綺麗な紫色になりますので試してみて下さい。一つ気をつけたいのは、この色の変化のスピードはワインごとに異なるという事です。例えば2~3年で飲む事を想定してつくられた赤ワインは10年すれば随分と茶色だと思いますが、高級カリフォルニアであれば10年経ってもまだまだ紫がタップリ残っています。紫や茶色の出方はあくまで、そのワインの寿命の中で今どのあたりに居るのかという目安だと思ってもらえれば良いですね。
ワインの色に影響を与える要素(2) ぶどう品種
(2)ぶどう品種
元々のぶどう品種が持っている色調もワインの色合いに影響を与えます。例えば上の左側の写真には、果皮がピンクのぶどうが幾つか写っています。一般的にはピンクの果皮のぶどうはそのままプレスして搾汁し、白ワインにされる事が多いです。搾ってすぐに果汁と果皮が分離された場合には、果皮の影響はワインの色には出ない事も多いのですが、完熟して果皮の色の濃いぶどうを原料にした場合や、醸造の過程で果汁と果皮とが接触している時間が長い場合には、出来上がったワインにうっすらと赤の色素が入り、肌色やごく淡いピンク色になる場合もあります。また、このタイプのぶどうを早めに摘んで果皮のピンク色が少ない状態でワインにした場合、水の様な透明に近い色になる事もあります。同様に、黒ぶどうからつくられる白ワイン(一般的にブラン・ド・ノワールと呼ばれる)も外観に赤の色素を感じる事が多いです。
赤ワインの場合は、元々のぶどうが持っている色素成分(アントシアニン)の量がワインの色調に影響を与えます。アントシアニンはぶどうの果皮に含まれるので、基本的には果皮が分厚いぶどう品種ほど暗いトーンのワインになり、薄いほど明るい赤の色調が強いワインになります。これは次回のテーマである「ワインの濃淡」にも大きく影響する要素になります。前述の「黒ワイン」は、上の図の右端にあるマルベックというぶどうからつくられて来ました。本当に暗くて濃い赤ワインだという事です。
ワインの色に影響を与える要素(3) 醸造方法
(3)醸造方法醸造方法もワインの色調に影響を与えます。例えば、白ワインとオレンジワインは同じ原料の白ぶどうからつくる事が出来ます。原料のぶどうをそのまま搾ってジュースだけにしてアルコール発酵したものが白ワインで、果汁に果皮と種子(時には梗と呼ばれる茎の部分も)を漬け込んでアルコール発酵し、果皮や種子からの成分を取り込んだのがオレンジワインです。果皮からフラボノイドがワインに抽出され、それが酸化される事でオレンジ色の色調になります。赤ワインとロゼワインも同様の関係性です。つまり人の意思がワインの色に大きく影響しています。
白ワインでも前述の通り果皮と果汁を一定期間接触させておく、スキンコンタクトという技法を使うと、果皮の色素の影響がワインに出る事もありますし、あと例えば樽を使って醸造する事で、穏やかな酸化熟成が促進されワインの色調が濃い黄色~金色になりやすい傾向があります。赤ワインでも樽を使う事で、色素成分であるアントシアニンと樽から抽出されるタンニンの成分が結合して色素が安定する傾向があります。また赤ワインの色調で言うと、酸が高い(pHが低い)ワインほど赤の色素が目立ち、pHが上昇するにつれて紫の要素が目立つようになってくるというところもあります。ワインのpHは収穫時期や醸造方法によって変化するので、人の手の影響もワインの色調に影響を与えると言って良さそうです。