- 実験編「豆知識」
外観で見るポイントとそこからわかる事
2025年08月
(写真)色々なワイン
さて、前回までは実際にテイスティングに入る前の前段の部分でしたが、今回からはテイスティングの実践に入って行こうと思います。2回目でお話した通り、テイスティングには流れがあり、その基本は「外観を見る」⇒「香りを嗅ぐ」⇒「味わう」です。最初に来るのが外観を見る事。「見る」と言う作業は沢山の情報が入って来るとても大切な作業です。
では、何を見れば良いのでしょうか?大きく分けて外観からわかる事は3つ。それは「ワインのタイプ」「ワインの熟度の高低」そして「ワインの年齢」です。幾つかのポイントを見ながら、そのポイントを組み合わせてこの3つの事を考えていきます。
以下に見るポイントを挙げてみます。
①清澄度
②輝き
③ガスの有無
④色調
⑤濃淡
⑥粘性
以上6つが一般的に見るポイントとされています。もう少し簡略化する場合でも清澄度と色調、濃淡については必ず見ますのでそこはかなり重要という事になるかと思います。これらの複数のポイントを合わせて、「タイプ」「熟度」「年齢」を考えていくわけです。
ワインのタイプ
ワインのタイプとは、単純に言うとスティルワイン、スパークリングワイン、フォーティファイドワイン、フレーバードワインというカテゴリーの違いと、あとは同じカテゴリーの中でも赤、白、ロゼ、オレンジと言った色の違いの事を意味します。先に挙げた中で特に③~⑥のポイントがこの判断に関わって来ます。例えば③のガスの有無は想像がつくと思いますが、カテゴリーのスパークリングワインを区別します。スパークリングワインにも弱発泡性と通常の発泡性の違いがあるので、ガスの量にも気を遣う必要があります。スパークリングワインの製法もガスの出方や消え方に影響を及ぼしています。またスティルワインの中でも出来立ての若いワインだと、アルコール発酵やマロラクティック発酵と言った発酵時に生成された炭酸ガスがまだ抜けきらずにガスが見られる事もあったりしますし、スティルワインを瓶詰めする際に酸化を防ぐためにガス置換をしている場合などでも同様の現象が起こる事があります。ガスひとつとっても細かく見ていくと色々な事がわかるんですね。
例えばフォーティファイドワインやフレーバードワインは、通常のスティルワインよりもアルコール度数が高い傾向があります。アルコール度数は液体の粘性に出ます。もうひとつ液体の粘性に大きな影響を与えるのが糖分です。フォーティファイドやフレーバードのワインは、甘口のものも多く、粘性は強くなる傾向があります。もちろんスティルワインやスパークリングワインの甘口でも粘性は強くなります。強い粘性を持つワインがあったらそういう事が想像出来るわけです。
色調からわかる事は当然ワインの色タイプです。濃い赤だったら赤ワインですし、ピンク色だったらロゼワイン、黄色だったら白ワインです。しかし、これも面白いところがあり、赤ワインがだんだん薄くなっていったらロゼワインになるわけですが、その境目には明確な決まりがありません。出来てから少し時間が経ったロゼワインと、ピンクの果皮のぶどうからつくったオレンジワインはそっくりな色をしている場合もあります。
濃淡も色調に大きな影響を及ぼします。例えば赤ワインだと凄く濃い場合と薄い場合とで、元々のぶどうが持っている色素量の違いが想像出来て、ある程度のぶどう品種のイメージが湧く場合もあります。
多くの場合、ワインのタイプは外観でほぼ想像がつきます。これは外観を見る時のとても大切なポイントの一つです(もちろん絶対ではないのが面白いところですが)。
ワインの熟度の高低
ワインの外観からわかる事の2つ目が「ワインの熟度」です。ワインのタイプのところで述べましたが、ワインの粘性にはアルコール度数が大きく関係しています。フォーティファイドワインの様に高アルコールを別に加えるのでなければ、ぶどうが持つ糖分が発酵によってアルコールに変わるわけなので、アルコールが高い=原料のぶどうが良く熟していたという事になります。もちろんぶどう品種によって糖分が多いかどうかの差があるので同じ品種のぶどうで比較した場合という事になりますが、2つのワインを比較して片方のワインが著しく粘性が強い場合には、そのワインの方が「暖かい産地でつくられた」「暖かい年のぶどうがつかわれた」みたいな想像が出来るわけです。
粘性以外のポイントで言うと「濃さ」も重要なところです。暖かいエリアは多くの場合日照量が多い(もしくは強い)ので、ぶどうが紫外線から身を守ろうとして果皮を分厚くします。その結果として出来上がるワインの色が濃くなる傾向があります。
ワインの輝きからもそのあたりを想像する事が出来ます。ワインの輝きはワインのpHと関連する(pHが低いほど輝きは強い傾向がある、そしてワインの持つ酸度が高いほどphは低くなる傾向がある)ので、輝きが強すぎない方がワインの熟度が高い傾向が強いという事です。
もちろん色々な要素が外観に影響するので、これが絶対という事ではありませんが、見るポイントから色々な事が想像出来るのがわかると思います。
ワインの年齢
最後がワインの年齢です。ワインは時間と共に風味が変化していくお酒です。一般的には「ワインの熟成」ということばで知られている現象ですが、出来立ての果実や酵母の風味が際立つところから、時間と共に様々な要素が生まれて複雑になっていくこの変化は、ワインというお酒の大きな魅力の一つと言って良いと思います。そんな熟成の様子をワインの色から判断する事が出来ます。ワインは色々な要素によって寿命が異なってくるため、年齢と一言で言ってしまうと語弊がありますが、そのワインがその寿命の中でどの辺りに居るのかという事を、色調から想像する事が可能です。
その見方については、次回以降に詳しくお話出来ればと思います。
ところで、①~⑥までの見るポイントでこれまでの話の中で一つだけ判断の基準として出てこなかったものがあります。①のワインの「清澄度」ですね。3つの事をわかるためのポイントだったのに、そこに必要ないなら見なくて良いのでは?という疑問が出るのではないでしょうか。清澄度は何のために見るのか?それは入り口として見るポイントなのです。恐らく、皆様が飲まれているワインの多くは濁っていないでしょう。世界で流通している多くのワインは濁らないために清澄や濾過と言った工程を踏んで出荷されています。もし、その過程を経て出荷されたのに濁っている場合は、出荷後に何等かの問題が起こったという事です。でも、生産者によっては清澄や濾過をせずに出荷するところもあります。例えばオーストリアやドイツの様に、新酒の時期には濁ったワインを飲むのが伝統である国もあります。濁っていても問題が無い場合も多くあるわけですが、濁っている場合は「濁っているな」と認識する事でワインの見方が変わります。
それが清澄度を見る大切なところというわけです。次回以降はポイントそれぞれの具体的な見方についてお話をしていきたいと思います。