- 実験編「豆知識」
濃淡と粘性からわかる事
2025年11月
(写真)濃厚な赤ワイン
外観の3回目は濃淡と粘性。前回お話した色調とも大きく関係する要素で、こちらも多くの情報量を持った重要な項目です。以前はこの2つに加えて「ディスク」と呼ばれるワインの表面に顕れる様子も表現する事がありましたが、近年はディスクはあまり語られなくなっています。
まずは濃淡。これは単純に見て、濃く見えるか淡く見えるかです。白ワインでも濃淡はありますが、特に赤ワインにおいて重視される傾向のある要素です。赤ワインの場合は、色が淡いと、味も薄そうと思われる傾向があるので(実際には淡い色でも強いフレーバーを持つ赤ワインは沢山あるのですが)、ワインメーカーも赤については濃いめのものを出したいと思う事が多いように思います。という事で、今回の前半ではワインの濃淡はどうやって決まっていくのかをまずは見ていきましょう。後半ではワインの粘性を決める3つの要素についてお話したいと思います。
ワインの濃淡に影響を与える要素
ワインの濃淡に影響を与える要素は大きく分けて以下の3つです。
(1)ぶどうの熟度
(2)ぶどう品種
(3)醸造方法
それぞれがどのように影響するのかを見ていきましょう。
(1)ぶどうの熟度
ワインの濃淡は、原料のぶどうに含まれる色素がどれだけワインに抽出されるかによって決まります。つまり、原料に含まれる色素の量が元々少なければ、淡い色のワインにしか成りようがありません。ぶどうに含まれる色素(黒ぶどうの場合はアントシアニン、白ぶどうの場合はフラボノイド)は、ぶどうが成熟するにつれて徐々に増加していきます。ぶどうの色づくタイミングをヴェレゾンと呼んでいて、それまで緑色の果皮で果肉も硬かったぶどうが、ヴェレゾン(上写真)を機に色付きを開始し、そこからどんどん色が濃くなっていきます(白ぶどうも緑→金色になっていきます)。基本的には長く待って良く熟すほど色素の量が多くなるという事なので、同じ産地の場合だと遅積みぶどうのワインの方が早く収穫したぶどうからのワインよりも濃くなる傾向があると言えます(そればかりではないのは後で述べます)。また同じぶどう品種の場合だと、寒い産地のワインよりも暖かい産地のワインの方が濃くなり、暖かい年の方が寒い年よりも濃くなる傾向があります。
一つ注意したいのは、暑すぎるとぶどうの生育が止まる事、そして夜の温度が一定以上の高さだとぶどうの着色が悪くなることです(秋が暖かいと紅葉が色付かないのと同じメカニズムです)。きちんと熟す温かさがありつつ、きちんと夜温が下がるエリアがしっかりと色づいたワインが出来る場所です。
(2)ぶどう品種
前回の色調のところでもお話しましたが、果皮の分厚いぶどう品種の方が果皮に含む色素の量が多くなるため、果皮が薄いぶどうよりも、果皮が分厚いぶどう品種の方が色が濃くなる傾向があります。果皮の分厚い品種の代表的なものとしては、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、マルベックなど、果皮の薄い品種の代表的なものとしてピノ・ノワールやグルナッシュ、ガメなどが挙げられます。果皮の分厚さという点でもう一つ考慮する必要があるのが、ぶどうが晒される紫外線の量です。紫外線の量が多いとぶどうが自らを守るために果皮を分厚くして、色素を増やすため(人間が日焼けして色黒になるのと同じですね!)紫外線の多いエリアのぶどうは色が濃くなる傾向があります。標高の高いところや、ぶどう生育期の晴れが多い地中海性気候のワイン産地などのワインがそれに当てはまります。
醸造方法
(3)醸造方法
元々の色の濃さのポテンシャルはぶどうで決まります。その点では(1)と(2)が濃い色調のワインが出来る重要な要素なのは間違いありません。しかし、ぶどうが持つ色素を全てワインに抽出するかどうかは人間が決める事です。白ワインの場合は、通常はぶどうをすぐにプレスして果汁だけにしてしまい、果汁だけをアルコール発酵させてワインにするため、ぶどうの熟度=ワインの濃さと思って良いのですが、赤ワインはそういうわけにはいきません。赤ワインの色は、ぶどうをつぶして出た果汁に果皮(と種子、時には梗[こう]=茎の部分も)を何日も漬け込んで、徐々に果皮から色素を取り出す(浸漬=マセレーション)ことで付いていきます。発酵が進み、アルコールが上がっていくにしたがって抽出が強まっていき、最後はワインメーカーの判断でワインと果皮を分離した時点で色付きが止まります。もちろん漬ければ漬けるほど色は濃くなるのですが、それと一緒に渋味の成分も出てしまってエグみが増していきますので、きちんと色素もタンニンも取り出されつつもエグみの無い、丁度良い塩梅のところでマセレーションをやめるのがワインメーカーの腕の見せ所です。そのためには抽出する方法を選択したり、漬け込む期間を調整したり、温度を調整したりします。つまり、ぶどうの色素ポテンシャルとは別に、ワインメーカーが目指す味わいの方向性によってもワインの濃さは変化するという事になります。また梗と一緒にマセレーションすると、色素が梗に吸着して減ってしまうので色が淡くなったり、醸造後に樽熟成する事でアントシアニンを安定させて色を濃くしたりと、色々な要素がワインの濃淡に関わってきます。白ワインの場合でもプレスする前に果皮と接触させる「スキンコンタクト」という技術を使うと、一部のフラボノイドがワインにうつり、濃い色調になります。
ワインの色に粘性に影響を与える要素
今回の最後に、ワインの粘性についても見ておきたいと思います。上の写真に見える様に、あるタイプのワインは上の写真の様にグラスの壁面にしっかりとついて、液体がなかなか落ちて来ません。この様に、なかなか落ちてこないワインを「粘性が強い」と表現し、反対にサラサラとすぐに落ちていくワインを「粘性が弱い」と表現します。ワインの中に含まれる何かの要素が多いと粘性が強くなるので、それを知っておくとワインの味わいの想像がしやすくなります。ワインの粘性が強くなる要素は以下の3つです。
(1)ワインに含まれるアルコール分
(2)ワインに含まれる糖分
(3)ワインに含まれるグリセリン分
それぞれが高いほど粘性は強くなり、逆に低いほど粘性は弱くなります。例えばですが、糖度の上がりやすいぶどうを暖かい土地で完熟するまで待って収穫したぶどうでワインをつくると、そもそものぶどうが持っている糖分が多いのでアルコール度数が高くなり、かつ酵母がもともとのぶどうの糖分を喰いきれず(酵母は一定以上のアルコール度数になると、自ら生成したアルコールの殺菌効果によって死滅します)糖分がワインに残り、かつアルコール発酵の副産物であるグリセリン分も多くなるという感じになります(グリセリンの生成にはそれ以外の要素も色々と絡んでいるんで一概には言い切れないところもありますが)。粘性が強いワインは、味わい自体もパワフルなものが多くなるのはこれらが関連しているからです。