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  • ワインの産地編

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夏こそ飲みたい、涼やかな緑のワイン

2021年07月

皆様、緑のワイン(ヴィーニョ・ヴェルデ)をご存知ですか。世界には一般的に見かける赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン以外にも、近年第4のスティルワインのカテゴリーとして注目を浴びるオレンジワイン(アンバーワインとも)、特定の産地でしかつくられていない特殊なワインである黄色ワイン(ヴァン・ジョーヌ)、灰色ワイン(ヴァン・グリ)、黒ワインなど見た目から名前が付いたワインが色々とあります。最近は実際に見た目が青色のワインなんかも存在しています(これは着色ですが)。
ではヴィーニョ・ヴェルデは実際に緑色をしたワインなのでしょうか?答は〇でもあり×でもあります。
実際のところはヴィーニョ・ヴェルデとは、ポルトガル最北部のミーニョ地方に位置し、同国とEUのワイン法で保護されたワイン産地の名前です。ポルトガルのワイン法の品質分類では最上位に位置するDOCに認可されていて、世界的に人気があります。ポルトガルのDOCワイン生産量の20%近く、そしてポルトガル全体のワイン生産量の1割近くを占める大変重要な産地で、白ワインが主体(全体の85%くらい)です。この白ワインの中で伝統的につくられてきたスタイルが、ほのかに微発泡で、アルコールが低くて(8~9%くらい)、柑橘(グリーンレモン)や青りんごを思わせるフレッシュなアロマの軽やかなもの。こういったワインは出来るだけ若々しい状態を愉しむもので、白ワインは若い状態であればあるほど外観に緑色を帯びる傾向がありますので、風味の爽やかさも含めてこのようなスタイルのワインを「緑のワイン」と呼んでいたとされています。ただ、DOCヴィーニョ・ヴェルデでは赤ワインやロゼワインも生産されていて、それは当然緑色をしていません。近年は樽熟成をするような凝縮感のある白ワインも生産されています。なので、「ヴィーニョ・ヴェルデ=見た目も緑」とは言い切れないところです。
とは言え、このエリアのワインに共通する点は、イキイキしたハリのある酸味と、気候や品種由来の涼やかさや軽やかさ。重いワインを飲むのが辛くなってくる蒸し暑い日本の夏に、ヴィーニョ・ヴェルデは本当に美味しく感じられますので、今月はこの産地を見て行きたいと思います。

目次
  1. 【ヴィーニョ・ヴェルデのワイン産地】
  2. 【ぶどう品種】
  3. 【ワインのスタイル】
  4. 【代表的な1本のおすすめ料理】
  5. 【代表的な1本】

【ヴィーニョ・ヴェルデのワイン産地】

ヴィーニョ・ヴェルデは、ポルトガルの最北端、スペインのガリシア地方との国境付近に位置するミーニョ地方全体に広がる大きなワイン産地です。大西洋に向かって開けたエリアで、特に山岳部から海に流れ込む何本もの川沿いに、海霧や湿った空気が入り込むため、年間の雨量は1,200mmと世界のワイン産地の中では多めになります(山梨に近い雨の量)。気候は海洋性のため、年間を通して穏やかです。そう言った気候なので、ポルトガルの中でも特に植物の緑に恵まれた場所で、ヴィーニョ・ヴェルデのヴェルデ(緑)にはそういう意味も含まれているようです。土壌は主に、ワイン用ぶどうに向く水はけの良い花崗岩です。

上の地図にもある通り、北のモンサン・イ・メルガソから、南のパイヴァまで9つのサブリージョンに区分されています。この中で直接大西洋に面しているのはリマ、カヴァド、アーヴの3つで、この3つのエリアには中央にそれぞれ川が流れている事もあって海洋性の影響が最も顕著です。その他の6つのサブリージョンは多かれ少なかれ大陸性の気候の影響を受け、より寒暖差が大きく雨が少なくなる傾向があります。

この気候の差によって、栽培されるぶどう品種や出来るワインの味わいに変化が生まれます。

例えば、最も北で内陸部に位置するモンサン・イ・メルガソではアルバリーニョが主体で、最も力強く凝縮感のあるワインを産むのに対して、その南に位置するリマ、カヴァド、アーヴでは海洋性の影響が強いのでローレイロが主体になり華やかでまろやかなワインが生産されます。そして南部の内陸部に位置するバストやアマランテ、そしてそれぞれのサブリージョンの内陸部では黒ぶどうが多めに栽培されるといった感じになります。

【ぶどう品種】

写真(左)アルバリーニョ(右)ロウレイロ

ヴィーニョ・ヴェルデでは複数品種をブレンドしたワインが多数派です。ポルトガルはぶどう畑のhaあたりの固有品種の数が世界1位。ヴィーニョ・ヴェルデも固有品種からつくられますので、あまり聞いた事のないぶどう品種も多いのではないかと思います。主要なぶどうの特徴は以下のようなものです。

[アルバリーニョ] 白ぶどう

ヴィーニョ・ヴェルデで最も力強いワインを産む品種です。花梨や黄桃などを連想させる熟した果実のアロマと、複雑で力強く、強靭なミネラル感を感じさせる味わいが特長。モンサン・イ・メルガソ地区の主要品種ですが、その質の高さから他地区やポルトガルの別産地(他の国でも)でも増加傾向にあります。

[ローレイロ] 白ぶどう

全域で栽培されますが、特に沿岸部のリマ、カヴァド、アーヴで本領を発揮する品種です。エレガントなアロマと味わいが魅力で、品種名の由来となったとされるローリエの花やジャスミンなどに例えられるフローラルな香りが特長です。

[アリント(ペデルナン)] 白ぶどう

全域で栽培される品種です。柑橘やりんごを連想させる果実味と、少し潮を感じさせる風味、キレ味鋭いシャープな酸味が特徴です。ブレンドに酸と引き締まった質感を与えます。

[トラジャドゥーラー] 白ぶどう

全域で栽培される品種です。熟れた洋梨や桃などを連想させる豊かな果実のアロマと、柔らかく包み込むような、まろやかな果実味が特長です。

[アザル] 白ぶどう

内陸部を好む品種で、バストやアマランテが主要産地になります。柑橘類や青りんごを連想させるアロマが強く、ワインの味わいにフレッシュさを与えます。

[エスパデイロ] 黒ぶどう

ロゼワインの主力品種です。赤ワインにするとあまり色が出ませんが、色々なベリー類を連想させるアロマと、フレッシュな果実味を持つぶどうです。

[ヴィニャン] 黒ぶどう

赤ワインの主力品種です。かなり濃い色調と、野生のベリー類(木苺や桑の実)やスミレの花を連想させるアロマを持ちます。タンニンはそれ程強くなく、フレッシュな酸味があり、冷やして美味しいこの地方ならではの赤ワインを産みます。

 

【ワインのスタイル】

ヴィーニョ・ヴェルデは、複数の品種をブレンドして味わいのバランスを取るスタイルが主体です。生産量の大部分を占める白ワインでは、花を思わせる香りが豊かなロウレイロを主体に、キッパリとした酸味のアリント、豊かな果実味のトラジャドゥーラのブレンドによるスッキリ爽やかな味わいのクラシックなスタイルがその代表。産地名である「緑のワイン」の名前にピッタリのフレッシュな味わいです。

ただ、近年はそれだけではなく、単一品種のワインも増加中で、特にアルバリーニョ単体からつくられるものは力強く凝縮した味わいで知られます。その強さは法定のアルコール度数がクラシックなスタイルでは8~11.5%なのに対して、アルバリーニョだと最低が11.5%で最高14%となる程です。お隣ガリシアのリアス・バイシャスの海のアルバリーニョとはまた異なる、厳格な味わいの山のアルバリーニョです。ロウレイロ単体のものも増加中で、こちらは華やかな香りと丸みのある豊かな果実味が魅力の優美なスタイルのワインとなります。

クラシックなものは、産地全体からのぶどうをブレンドしたものが主体でしたが、モンサン・イ・メルガソのアルバリーニョの様に、9つあるサブ・リージョンの名前をラベルに表示した、より産地の個性を表現した高品質なヴィーニョ・ヴェルデも増加中です。

量としては圧倒的に白ワインが多いヴィーニョ・ヴェルデですが、実は歴史的には赤の方が多い産地でした。軽やかな日常消費用の赤ワインとして人気があったようです。現在では全体の1割にも満たない生産量なのでなかなか見かけませんが、ヴィーニョ・ヴェルデの赤ワインは色が濃いのに軽やかで、イキイキとした軽快な酸味のある、他の産地のワインではあまり経験する事のない独特の味わいです。ヴィニャンが主力品種で、それにボラサルやアマラルと言った品種をブレンドします。面白いのは、赤ワインで通常は行われるマロラクティック発酵をしない赤ワインがこのエリアでは一部生産されている事です。キレ味鋭い酸味は一度体験してみても良いものかと思います。

ロゼやスパークリングワインも生産されており、「ヴィーニョ・ヴェルデ」と言っても、決して軽やかで爽やかな白ワインだけではなく、多彩で幅広い味わいのワインを産む、魅力的な産地である事がわかりますね。そしてさらに付け加えるなら、かなりコスパが高いです。

 

【代表的な1本のおすすめ料理】

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▶セビーチェ(写真:中本 浩平)

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▶いわしのグリル(写真:中本 浩平)

 

今回ご紹介するガゼラのようなクラシックなスタイルの軽やかなヴィーニョ・ヴェルデは、魚介類との相性が抜群です。特に新鮮な素材をそのまま味わうようなカルパッチョやセビーチェ、お刺身などの生で愉しむものや、シンプルな塩焼きなどと合わせると、ワインの軽快な酸味や、シャープな切れ味が後口をスッキリさせてくれるだけではなくて、嫌な部分のない上品な魚介類の旨味だけが口の中に残る感覚があります。

いわしの塩焼きはポルトガル人の大好物。1ヶ月遅れになってしまいましたが、毎年6月12日は有名なリスボンのイワシ祭りの日で、シンプルにイワシの塩焼きにオリーブオイルをかけてパンと一緒に頂きます。そのお供がヴィーニョ・ヴェルデなんですね。本当は現地では赤のヴィーニョ・ヴェルデを合わせるのが定番ですが、ガゼラでも相当美味しいですよ!

【代表的な1本】

img_990_6.jpg

ガゼラ

ローレイロを主体に、アリント(ペデルナン)、トラジャドゥーラー、アザルをブレンド。柑橘類を連想させるフルーティですっきり&フレッシュな味わいと、シュワッと感じられる微発泡が特長です。アルコール度数が9%と通常のワインに比べて低めなのと、産地の気候を反映したイキイキとしたキレ味鋭い酸味があるので、スムーズな飲み心地でとても軽やか。まさにクラシックスタイルのヴィーニョ・ヴェルデの典型と言える、体も気持ちもリフレッシュさせてくれる味わいです。キリっと冷やして、出来るだけフレッシュな状態でお愉しみ下さい。

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