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土地の味(フランス・ブルゴーニュ地方コート・ドール地区)

2022年01月

(写真)
前回ご紹介したシャンパーニュ地方のぶどう畑は約33,000ha。今回ご紹介するブルゴーニュ地方(ボジョレー除き)のぶどう畑は約30,000haで、ほぼ同規模のワイン産地と言って良いかと思います。シャンパーニュ地方でつくられるワインのアペラシオン(ワインのラベルに書かれる産地名)は、3つ。例外的な歴史的産地のロゼ・デ・リセイ以外は、どこでつくってもスパークリングワインならACシャンパーニュ、スティルワインならACコトー・シャンプノワです。それに対して、ほぼ同じ面積のブルゴーニュ地方のアペラシオン数はなんとほぼ100個。どうしてこんなに数が違うのでしょうか?
フランスのアペラシオンの考え方からすると、産地名が違うという事は、明らかに他と異なる特徴的な味わいがその土地から生まれるという事になります。
この「ぶどうを栽培する畑の場所によって、出来るワインの味わいが異なる」という、何とも魅力的で、かつ何とも奥の深い秘密を発見したのは、ブルゴーニュ地方を基盤として活動を行った中世のキリスト教シトー派の修道士たち。神に捧げるための最高のワインを求めた彼らは、より良いものを求め畑の土を食べてまでその秘密を知ろうとしたという伝説も残っています。彼らはそうやって、味わいの違いごとに畑を区分けしていきました。ブルゴーニュ地方(特にコート・ドール地区)に残る100ものアペラシオンは修道士たちが残した遺産とも言えるかと思います。彼らが区分したこれらの畑たちは、「ブルゴーニュのぶどう畑のクリマ※」として、2015年にユネスコの世界文化遺産にも登録されました。今回はその畑による違いを見て行きたいと思います。
※クリマ…特定の名前がついたぶどう畑の小区画の事。

目次
  1. 【ブルゴーニュ地方のアペラシオンとその階層】
  2. 【ブルゴーニュ地方のぶどう品種】
  3. 【コート・ドールの村ごとの味わい特長】
  4. 【コート・ドールのワインにおすすめの料理】
  5. 【代表的な1本】

【ブルゴーニュ地方のアペラシオンとその階層】

ブルゴーニュの100個のアペラシオンを見て行くと、ACシャンパーニュの様に地方全体をカバーするACブルゴーニュもありつつ、さらにそれが地区(例:ACブルゴーニュ・コート・ドールやACマコン)に細分化され、さらに地区内(例:コート・ドール)でも村ごとのアペラシオン(例:ACジュヴレ・シャンベルタンやACヴォーヌ・ロマネ)に細分化され、その村の中でも条件の良い畑は区画毎に1級(例:ACジュヴレ・シャンベルタン・プルミエ・クリュ・カズティエ)や特級(例:ACシャンベルタン・グラン・クリュ)に細分化されます。細分化され、面積が狭くなるほど格が上がるとされ、地方名⇒地区名⇒村名⇒畑名(1級)⇒畑名(特級)という畑の場所による明確なヒエラルキー構造があるのがブルゴーニュです。

具体的にそのヒエラルキーの差を見てみると、例えばブルゴーニュ地方で最も有名なグランクリュの畑は世界で最も高級なワインとして知られるロマネ・コンティ(1本約250万円、2022年1月現在)で、この畑はわずか1.8haしかありません。そこから道1本挟んで隣接するのはこれも有名なグラン・クリュのロマネ・サン・ヴィヴァンという畑ですが、これが約10ha。同じ生産者のロマネ・サン・ヴィヴァンは約40万円。これでも高いですが、道1本の違いで価格が1/6になってしまいます。さらにロマネ・サン・ヴィヴァンの北端から道を1本挟むと、そこはプルミエ・クリュのスショで2万円~10万円くらいまで。そこから100mほど道を下ると村名ACヴォーヌ・ロマネの畑になり1万円前後、そこからまた100mほど道を下ると平地になり、ACブルゴーニュの畑となって5千円くらい。徒歩でもほんの10分程度で回れる範囲で、ワイン1本あたりの価格で500倍もの差がつく産地は他に無いかと思います。

何がそんなに違うのか?と言うと、コート・ドール地区の土壌は基本的にジュラ紀の粘土石灰質ですが、畑の位置によって微妙に粘土の含有率が異なったり(実際に畑の土の色も微妙に異なります。白っぽい土壌の畑のワインは軽やかで繊細、赤っぽい土壌の畑のワインは厚みがあり力強い味わいになる傾向があります)、目に見えない深い部分(ぶどうの根は届く範囲の)の土壌の質が違ったり、斜面の斜度(日照量や水はけに影響)が違ったり、斜面の向き(日照量に影響)が微妙に違ったり、標高(気温に影響)が異なったり、畑の上部の地形によって風の通り道(気温などに影響)が異なったりなどなど、ほんの少しずつですが違いがあります。この「微妙な気象や土壌条件の違いが、微妙だけど決定的なワインの質や風味の違いを産み出す」というのが、コート・ドール地区の最大のポイントです。

実際の畑の場所を見てみると、最も良いとされるグラン・クリュは斜面中腹の最も気温・日照量・水捌けなどの好条件に恵まれた場所に位置し、1級はその周辺。村名は斜面上部(標高が高く、寒くなる)か、平地に近い斜面下部(斜度が下がって日照条件や水捌け条件が悪くなる)に位置します。地方名のACブルゴーニュは、大きな県道より東の完全な平地(土壌も変わる)という感じになります。

それを思いながら同じ生産者の畑違いやクラス違いを味わえば、「ワインの味わいは原料となるぶどうの産地によって大きく変わる」というワインの神秘の深いところを実感出来るのではないでしょうか。

 

【ブルゴーニュ地方のぶどう品種】

(左)ピノ・ノワール (右)シャルドネ

わずかな例外を除いて、赤ワインはピノ・ノワール、白ワインはシャルドネの単一品種で醸造するのがコート・ドールの伝統。単一品種でつくるからこそ、ぶどう品種の部分でのワインの味わいの差異が無くなり、より土地ごとの味わいの違いがクッキリと描き出される事になります。

 

ピノ・ノワール

ブルゴーニュ地方原産とされる、とても古くからある黒ぶどうです。早熟で果皮が薄く、栽培産地を選び、病気にも弱い生産者泣かせのぶどう品種ですが、驚くほど精妙に土地の違いをワインの味わいに反映する力を持ちます。濃厚なワインにはならず、キメの細かい繊細なスタイルのワインになるぶどうで、特に香りの複雑さや華やかさは数あるぶどう品種の中でも別格と言っても良い素晴らしさです。良い畑から生まれたこの品種からのワインを飲んでワイン好きになる人も多い、世界のワイン用品種の中でも、特に高貴とされるぶどうです。

 

シャルドネ

こちらもブルゴーニュ地方原産。ピノ・ノワールとグエ・ブランの自然交配で生まれたピノ・ノワールの子供の一人です。ピノ・ノワールと異なり、多彩な自然条件への適応柔軟性があり、世界中のワイン産地で栽培されています。順応する気候の多さから、ワインのスタイルは多彩で、冷涼エリアの柑橘系の香りと引き締まったボディのタイトなスタイルから、暑いエリアのトロピカルフルーツ系のリッチなスタイルまで、かなりのバリエーションがあります。ブルゴーニュのシャルドネは大きくシャブリ、コート・ドール、マコネと3つのスタイルに分けられますが、特にコート・ドールのワインたちは、タイトさとリッチさを兼ね備えた世界が目指す味わいです。

 

【コート・ドールの村ごとの味わい特長】

【コート・ドールの村ごとの味わい特長】

コート・ドールのワインは、ピノ・ノワールは伝統は木桶発酵(現在はステンレスタンクも多いですが)⇒オーク樽熟成、シャルドネはオーク樽発酵⇒オーク樽熟成が基本です。醸造のスタイルも合わせる事で、土地ごとの味わいの違いが明確になります。

大きな括りでは村ごとの味わいの特長を知っておくと味わいの想像が付きやすいと思いますので、以下に味わいの傾向ごとに村名を挙げておきます。

[ピノ・ノワールのワイン]

(1)がっしりとした硬くて力強いタイプ

フィサン、ジュヴレ・シャンベルタン、モレ・サン・ドニ、ニュイ・サン・ジョルジュ、アロース・コルトン、ショレ・レ・ボーヌ、ポマール、モンテリー、マランジュ

(2)ふくらみのある柔らかなタイプ

ヴージョ、ヴォーヌ・ロマネ、ラドワ、サヴィニー・レ・ボーヌ、ボーヌ、シャサーニュ・モンラッシェ、サントネ

(3)キメ細かい繊細なタイプ

マルサネ、シャンボール・ミュジニー、ペルナン・ヴェルジュレス、ヴォルネイ、オーセイ・デュレス

[シャルドネのワイン]

(1)軽快なタイプ

ラドワ、サン・ロマン、オーセイ・デュレス、サン・トーバン

(2)緻密で厳しいタイプ

アロース・コルトン、ペルナン・ヴェルジュレス、ピュリニー・モンラッシェ

(3)ふくらみのある柔らかなタイプ

サヴィニー・レ・ボーヌ、ボーヌ、ムルソー、シャサーニュ・モンラッシェ

 

【コート・ドールのワインにおすすめの料理】

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▶鴨とりんごときのこのパイ(写真:中本 浩平)


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▶海老マカロニグラタン(写真:平松 唯加子)

 

コート・ドールのピノ・ノワールに合う素材としてまず挙げたいのが鴨などの野鳥類。独特の血の香りとキメ細かな肉質が魅力の鴨肉と、ジュヴレ・シャンベルタンやヴォルネイなどのキメ細かくも芯のあるアペラシオンのワインの相性は、完璧と言っても良い素晴らしさがあります。コート・ドールの名物料理としては他にピノ・ノワールで牛肉を煮込んだブッフ・ブルギニョンや、同じくピノ・ノワールで雄鶏を煮込んだコック・オー・ヴァンも有名で、もちろんこれらとの相性も抜群です。

シャルドネに合う素材としては、海老&カニをまず推したいと思います。シャルドネには、味わいの強い甲殻類とガップリ4つに取り組める強靭さがあります。特に大型の甲殻類をグラタン風にクリームと一緒に仕上げた料理は、風味の強いもの同士を合わせる事で生まれる爆発的な旨味が印象的です。もちろん、ソテーした白身魚も良い相手です。バターを使って調理するとさらに相性が良くなります。また、鶏肉・豚肉などの加熱して白くなるいわゆるホワイトミートとの相性も抜群です。カリっと焦げ目をつけたり、シャルドネと相性の良いチーズと一緒に焼くと最高です。ブルゴーニュの名物料理として有名なものに、ハーブ入りのガーリックバターで焼いたエスカルゴがありますが、これはガーリック風味が強いのでもう少しシンプルな安めのシャルドネやアリゴテを合わせる事が多いです。

 

【代表的な1本】

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ジュヴレ・シャンベルタン ムッシュ ジェラール セレクション(ブシャール ペール エ フィス)

ブシャール ペール エ フィスは1731年創業で、1775年から約250年に亘ってワインづくりを続けている、老舗中の老舗。大手のワイン商でありながら、130haもの自社畑をコート・ドールに所有する、この地区最大級のドメーヌ(自社畑のぶどうからワインを生産するワイナリー)でもあります。ブルゴーニュ地方のワイン産業の中心地であるボーヌの町の元領主の館(シャトー・ド・ボーヌ=建築者はルイ11世と12世)が本社という事からも、このワイナリーの格の高さが伺えます。そのワインづくりは一言で言うと、「テロワールの忠実な表現」。土地の味わいを知るのに最適な生産者の一つと言えます。

このワインはそのブシャール社のワイン目利き(ワイン調達責任者)であるジェラール アーセンドゥー氏が、コート・ドールでも最も有名な村の一つジュヴレ・シャンベルタンのワインの中から選び抜いた1本。粘土や酸化鉄の多い土壌から生まれる、骨格のしっかりとした力強い長期熟成型のワインです。

 

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