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畑の標高(アルゼンチン・メンドーサ)

2023年06月

(写真)雪を抱くアンデスを背景にしたメンドーサのぶどう畑
世界で最も標高の高いところにあるぶどう畑はどこかご存知でしょうか?ギネスブックに掲載されているのはチベットにある畑でなんと標高3,563m。ほぼ富士山頂と同じ高さでぶどうが栽培されています!でも今回のテーマは中国ワインではありません(中国でも凄いワインがどんどん登場しているのですが)。恐らくぶどう畑の平均標高ではNo.1の国、それはアルゼンチンです。アルゼンチンはとても大きな国ですが、ワイン産地の殆どはチリとの国境となっているアンデス山脈の東山麓に集中しています。空撮写真を見て頂くとわかりますが、ここはとても乾燥した大陸性の気候。アンデス山脈からの雪解け水を使った灌漑でぶどうが栽培されています。そんな暑さと乾燥の地で、高品質なぶどうを栽培するための冷涼さを探した結果として、どんどん標高の高いところにぶどう畑が広がっていったのです。アルゼンチンでも最も標高の高い畑は3,000mを超えています。

目次
  1. 【標高の高さがワインの味わいに影響する事】
  2. 【メンドーサとそのサブリージョン】
  3. 【メンドーサのぶどう品種】
  4. 【メンドーサ・マルベックにおすすめの食べ物】
  5. 【代表的な1本】

【標高の高さがワインの味わいに影響する事】

では、標高が高いという事はワインの味わいにどのような影響を与えるのでしょうか?一つは気温です。気温は100m上がるごとに0.6℃下降します。つまり3,000mにある畑は海抜0mよりも平均20℃近くも気温が低くなります。もちろん3,000mにある畑はごく僅かで、畑が多いのは700~1,000mくらいのところですが、それでも平均5℃くらいは違うわけです。ぶどうの生育期間を春から秋の5~6ヶ月(仮に160日)とすると、ぶどうがその期間に受ける気温(ぶどうは10℃以上で活動するので目覚めから収穫までに受ける気温を有効積算温度と言います)の差は800℃にもなります。単純に緯度で比較すると北半球だと500㎞くらい北に移動する感覚で、かなり涼しい気候になります。それだけでなく、高い標高は夜の冷え込みを厳しくします。これは大気の濃度が薄くなるためで、お昼に暖まった熱を保持出来ない事から起きる現象です。冷涼で、昼夜の寒暖差も大きいというこの気候条件は高品質な果樹を求める場合には良い条件です(酸がしっかりと保持され、成熟までに時間を要する事で色々な成分がしっかりとぶどうに蓄積される、ぶどうの色付きは寒暖差の大きさが影響するため色付きも良くなる)。日本でも昔から果物の名産地として知られるのは、寒暖差の大きな盆地が多いですよね。ワインの味わいへの影響という点で考えると、標高の高いエリアのぶどうから生産されるワインは、よりしっかりとした酸味があり、色が濃く、風味が凝縮していると言えます。

標高が高い事で影響の出るもう一つが紫外線の強さです。山に登ると日焼けしやすいというのは良く聞く事かと思います。実際に標高1,000mでは海抜0mと比較すると10%程度紫外線量が増えます。紫外線は強力なので、ぶどうは紫外線の強い場所では自らを守るために果皮を分厚くします。ぶどうの果皮には色素の元であるアントシアニン、色々な香り成分、そして上質な赤ワインに不可欠の滑らかなタンニンが含まれます。果皮が分厚くなるという事はこれらの量が増えるという事で、出来上がるワインは色濃く、香り高く、滑らかなものになります。

つまり、標高の高い畑から生まれるワインは二重に色濃く、香り高くなるという事です。しかも良質な酸味とタンニンを持つので、果実の凝縮感はありつつも飲みやすい。という事で人気なのがアルゼンチンのマルベックです。

【メンドーサとそのサブリージョン】

(左)地平線からゆっくり昇って来るアルゼンチンの太陽 (右)アンデスを望むぶどう畑

アルゼンチンのワイン産地として最も有名なのがメンドーサです。メンドーサはアルゼンチンのワイン生産量の約70%を占める圧倒的な最大産地。中心地は雪解け水が流れるメンドーサ川流域に生まれたオアシスの町メンドーサ(標高約750m)で、元々はこの町の周辺とそこから斜面を下った600mくらいのところに畑がありました。ルハン・デ・クージョがこのエリアでは素晴らしいワインを産むエリアとして特に有名です。濃縮した力強い黒果実感と、フルボディの飲み応えのある味わいです。さらにメンドーサから北、東、南の三方にも畑が広がっているのですが、近年、急速に栽培面積を増やしているのがメンドーサから南西にアンデスを登っていくウコ・ヴァレーです。標高860m~1,600m超えのところまでぶどう畑が広がり、メンドーサエリアの中では最も標高が高く、冷涼な産地として注目を浴びています。トゥプンガト、トゥヌジャン、サン・カルロスの3つのサブ・リージョンが良く知られていますが、近年はさらにそれらを細分化した新しい原産地呼称(I.G.)が次々と登場してきました。このエリアのマルベックはプラムやさくらんぼなどの赤い果実感と、バラを思わせる華やかさ、透明感のある凛とした酸味が特徴で、マルベックが産地の気候で随分と風味の変わるぶどう品種である事が実感出来ます。アルゼンチンの産地の気候や土壌の研究は近年になって急速に進んでいます。今後ますます面白いワインが登場するのではないでしょうか。

【メンドーサのぶどう品種】

(左)マルベック(右)トロンテス

[マルベック]

アルゼンチンのぶどう栽培面積の2割強を占める、この国で最も広く栽培されているぶどう品種です。原産地はフランスの南西地方にあるカオールという場所ですが、現在では世界で栽培されているマルベックの実に9割近くがアルゼンチンで栽培されています。元々が原産地であるカオールでも「黒ワイン」と呼ばれた色の濃さが特徴のぶどう品種ですが、アルゼンチンのマルベックは、標高の高さからくる果皮の分厚さでより色濃くなるのが特徴です。凝縮感はあるのですが。硬い味わいや、渋さが前に出る味わいになる事は少なく、肉厚でジューシーな果実味が感じられます。

[トロンテス]

トロンテスと呼ばれるぶどうは「リオハーノ」「メンドシーノ」「サンファンニーノ」の3つの亜種からなっています。アルゼンチンが原産地で、現在でもほぼアルゼンチンでのみ栽培される土着のぶどうです。スペインの修道士たちが持ち込んで、広くアメリカ大陸で栽培された「リスタン・プリエト(アルゼンチンではクリオージャ・チカ、チリではパイス、アメリカではミッション)」と「マスカット・オブ・アレキサンドリア」の自然交配で生まれたとされています。香りに出るマスカットのタッチはこの遺伝子から来ています。バラやライチなどを思わせるアロマを持つアロマティック品種です。サルタ州のカファジャテなど、標高の高い畑で本領を発揮します。

【メンドーサ・マルベックにおすすめの食べ物】

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▶スナップエンドウとパンチェッタの春巻き

 

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▶ビーフステーキ Wオニオンソース

 

アルゼンチンは世界で最も食肉を消費する国の一つ。2019年の国連発表データでは国民一人当たりの年間の肉消費量がなんと297㎏で世界1位です。一日1㎏ちかく消費している計算でビックリします。中でも特に際立つのが牛肉の消費量の多さ。年間131㎏でこれも世界1位です。国の東部に広がるパンパと呼ばれる広大な大草原で育てられた牛の肉は、しなやかで柔らかな赤身肉でアルゼンチンの国民食はこの牛肉やソーセージを炭火で焼く「アサード」と呼ばれるバーベキューです。確かにメンドーサのワイナリーを訪れた時に、昼食をご馳走になったのですが一人前のステーキが日本の2.5倍くらいのサイズでびっくりした記憶があります。それでもその生産者のマルベックを飲みながらだと、ペロリと食べれてしまい、それにもビックリしました。アルゼンチンの牛肉は確かに軽やかで美味しいです。という事で、アルゼンチンのマルベックのオススメはもちろんバーベキューかステーキ。マルベックは外見からは濃厚に見えますが、カベルネ・ソーヴィニヨンの様な厳しい渋さは無い品種ですので、脂の多い霜降り肉より赤身中心の輸入のものの方が相性良しです。味付けもシンプルな方が美味しく感じるように思います。

【代表的な1本】

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アルマ 2022 ボデガス カロ

メドック格付け1級1位「シャトーラフィット・ロートシルト」を擁するドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社(DBR)が、アルゼンチンを代表するワイナリーであるカテナ社とのジョイントベンチャーとして立ち上げたのがカロ(CARO)。CAはカテナ、ROはロートシルトの頭文字です。一般的なメンドーサの濃密な果実味のワインとは少しスタイルの異なる、一歩引いたような落ち着きとエレガントな果実味が特長です。

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