サントリー ワイン スクエア

異常気象の常態化

夏の帰省で一時帰国し、記録的な猛暑と次々来襲する台風の脅威を体感しながらワイナリー便りを書いています。7月の西日本大水害の被災者の皆様には心からお見舞いを申し上げます。21世紀に入ってから、『○○年ぶりの・・』や『記録的な・・』という言葉をいったい何回聞いたでしょうか。ワイナリー便りでの過去のタイトルを見ても、自然が猛威を振るった記事の回数が増えてきており、世界中で異常気象が異常でなくなってきている実態に改めて驚かされます。農業であるワイン造りでは、如何に自然と共存し、その恵みを品質に落とし込んでいくかが問われます。ボルドーでは、今年も猛威を振るう気候変動との戦いが続いているのです。

前報では3月の異常寒波と洪水について報告しました。その後も容赦のない猛威は続いています。まずは雹害。5月26日大きな雹害に続いて、サッカーワールドカップの決勝でフランス中が沸きあがった7月15日、ボルドーは大きな雹害に襲われました。エリアによってはゴルフボール大の雹が降り、車の屋根もへこむほどの激しさでした。昨年4月にボルドーを襲った26年ぶりの大霜害に比べエリアは限定されていましたが、2回の降雹で2000haを超える被害となりました。半分に当たる約1000haがソーテルヌとランゴン周辺エリアで、残り半分がメドック南部とコート ド ブールでした。メドックでは350haが被害を受け、そのうち115haが収量50%以上の減、さらに80haは80%を超える大幅な収量減が見込まれています。

続いて懸念されているのが、ベト病の蔓延です。ミルデューと呼ばれるベト病は、19世紀半ばに猛威を振るい、うどん粉病と並び最も恐れられた菌類による病害ですが、近年の気候の乾燥化と栽培技術の進歩、そして効果的な薬剤使用により、その被害はコントロール下にあると考えられてきました。それが5月以降、南フランスを中心に猛威を振るい、ボルドーでも6月以降にペサック・レオニャンなどで深刻な被害が散見されています。4~6月と平年より気温が2℃近く上回って、丁度ベト病菌が最も活動する温度帯になり、しかも雨が多かった事が主な原因ですが、昨今、多くのシャトーがビオロジックな管理に移行している事も要因の一つと思われます。ビオディナミを売りにしている著名なグランクリュでは収量が50%減になりそうなシャトーもあるようです。ラグランジュでは、今年からビオディナミの栽培面積を30haに拡大する計画でしたが、早期の情報収集と予兆管理からこの緊急事態への対応を優先し、ビオディナミの面積を例年の8haのみにとどめたため、被害は10~20%減で抑える事が出来ました。上述の霜害による収量減と併せ、ボルドーは昨年に続く収量減のリスクが頭痛の種となりそうです。

厳しい現状から入りましたので、読者の方は品質に関して心配されたかもしれません。でもご安心ください。7月上旬では更なる深刻な事態も懸念されましたが、7月は暑く乾燥した天候が続き、特に中旬からは35℃を超える日も多く、7月の平均気温は平年より+2.4℃となりました。連日の暑く乾燥した気候が、ベト病の蔓延に一定の歯止めをかけてくれました。7月のラグランジュの降水量はわずか23mmとなり、8月に入っても猛暑は継続しています。8月の天候予報では、週一回程度の適度な降雨と暑い夏の継続と言われていますので、期待したいと思います。現時点の生育状況は2006年、2010年や2016年に類似していますので、このまま好天が継続するようなら、品質面ではかなり良年となる可能性が高まってきています。捕らぬ狸の・・・にならないよう、最後のひと房を収穫し終えるまで、気を引き締めて臨むことは言うまでもありません。