連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2018年3月8日 自然がもたらす恵みと悲劇

難しい2017年のアッサンブラージュ(ブレンド)が終了しました。前号で、ラグランジュでは霜の害に遭った株の根元にスプレーでひと株ひと株マーキングして、収穫のタイミングを変えるという手間暇のかかる対応を取った事を報告しました。これにより株単位で収穫時期を分けるという前代未聞の対応にまで踏み込んだわけですが、結果は期待を裏切らないものになったと確信しています。生産量の面では、品質を優先するためシャトーものの生産量を落とす判断を選択したため予定より減りました。一方で、最後まで議論になった中間ロットをセカンドに回したことで、フィエフの酒質は、大霜害のあったヴィンテージとは感じさせないレベルに仕上がっています。2月からクルチエを招いての試飲・および情報交換を開始しており、クルチエからも『これほど難しい年としては脱帽する仕上がりだ』とのコメントを得ています。ボルドー全体の一般論として、2017年の品質は「2015年には届かないが、2014年++レベル」とのコンセンサスが得られつつあるように思います。来月に迫ったプリムールに明るい話題ではあるのですが、もちろん『価格が妥当なら』の一言を最後に付けることをクルチエは決して忘れません(笑)。
さて、今日は先週末に起こった悲しい出来事に触れたいと思います。より自然な農法への回帰が各地で模索されつつあるフランスで、近年拡大しているのがL'éco-Pâturiage (エコ・パテュラージュ:自然で経済的な放牧)です。これは、除草剤などの農薬を減らすため、羊などを放牧して草を食ませる昔ながらのやり方への回帰です。フランス全土で300以上の自治体と150社以上の企業が、既に取り組みを開始しています。ボルドーでも活用し始めたシャトーが散見され、ラグランジュも今年より開始しました。隣のグリュオー ラローズもビオディナミへの取り組みの一環として一足早く開始しています。自然に優しく、手間もかからない一石二鳥の仕組みを誰もがハッピーと考えていた矢先に悲劇は起こりました。
それは3月2日の金曜日です。ラグランジュの草地と隣のグリュオー ラローズの草地に放牧されていた羊の群れのうち、ラグランジュ側に放たれていた群れには被害はありませんでしたが、グリュオー ラローズの用水路付近の低地にいた約120頭が、急に増水した河川水で、なんと溺死してしまったのです。翌日の新聞に大きく記事が掲載されましたが、経緯は定かではありません。その場に羊の飼い主がいたのか、そしてなぜ逃げ遅れたのかもわかっていません。放たれていた場所は、過去何十年もこれほどの洪水は無かった場所だとグリュオー ラローズがコメントしていましたので、関係者すべてに油断があったのでしょう。先週前半は今冬で最大の寒波が居座り、ボルドーも連日-6℃を記録していたのですが、水、木と寒さが緩みまとまった雨となっていました。ラジオでは高潮の時間に河川の水位が上がるアラームは出ていたものの、平年の2倍の雨量を記録した1月でさえも放牧地は洪水にはなっていなかったので、油断があっても不思議ではありません。

昨年は大霜害という形で牙をむいた大自然が、今年は洪水という形で襲ってきたのです。自然な農法を皆が模索する中で起こったこの悲劇は、改めて基本的なことを考えさせてくれました。すなわち、自然がもたらす恵みとは、その背後にある厳しさと表裏一体であるという当たり前の事実です。過去の自然な農法にただ回帰すれば良いという簡単な話ではなく、『自然への畏敬や恐れ』も歴史に学びながら、温暖化という新時代にアレンジしていく事が如何に大切であるか、を思い起こさせてくれる出来事でした。

手強い2017年アッサンブラージュに真剣に取り組むチーム ラグランジュ
写真1:手強い2017年アッサンブラージュに真剣に取り組むチーム ラグランジュ
エコ・パテュラージュでラグランジュ草地に放牧された羊の群れ(遠景)
写真2:エコ・パテュラージュでラグランジュ草地に放牧された羊の群れ(遠景)
エコ・パテュラージュでラグランジュ草地に放牧された羊の群れ(近景)
写真3:エコ・パテュラージュでラグランジュ草地に放牧された羊の群れ(近景)
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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