連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2014年05月29日 2014年始動(その2)

前号にて異常な暖冬でのスタートと説明しましたが、その後も冬らしい寒さが訪れる事もなくそのまま春本番に突入し、萌芽は平年より一週間ほど早いペースで始まりました。萌芽の早い年に心配された霜害に合う事もなく、開花へ向けた生育が進んでいます。難しい年が3年続き、今年こそ量・質とも恵まれた年を期待したいところですが、量に関しては、若干の懸念が見られます。これは前年の6月までの天候不順の影響で、この時期に翌年の花芽の分化が進むのですが、温度と日照が十分でないと花芽の分化が不十分で花房数が少なくなったり、花房の一部が巻きひげに分化してしまうという現象が見られます。今年の花房には一部肩の部分が巻きひげになった房が多くみられますので、収量が限定されてしまうリスクがありそうです。前年の影響がこんなところにも及ぶのが農業の難しいところでもあるのですが、5月に入ってから平年より低い気温が続いてますので、開花期の好天を祈りたいものです。

こんな春先、ラグランジュでは幾つかのトピックスがありました。恒例のユニオン・デ・グランクリュ主催のプリムール試飲会が4月1〜3日に開催され、サンジュリアンの今年の会場はラグランジュだったのです。一昨年サンジュリアン、ポーイヤック、サンテステーフの27シャトーを集めたメイン会場として使われ、しばらく次は無いと思っていたのですが、サンジュリアンの会場が今年から急遽独立する事となり、急な依頼にも対応できる大きな樽熟庫を持つラグランジュに白羽の矢が立った次第です。例年、世界60ケ国以上から5000人規模の業界関係者がボルドーに集う季節の風物詩でもあるのですが、2013年ヴィンテージは事前の評判が芳しくなかったこともあり、4000人程度にとどまったようです。とはいえ会場となるシャトーは、3日間で1000人分近い食事の準備をする上、駐車場での誘導、ワインのサーヴなどかなりの人員が駆り出されることとなり、並行して畑や樽熟庫での定常作業もきっちりと行なっていく事は簡単ではありません。こういったことを、率先して、しかもやりがいを持って実行してくれるラグランジュのメンバーにはいつも誇りを感じています。

このプリムール試飲会開催に向け、急ピッチで進めたのは、シャトーアプローチの正門の設置です。ラグランジュはこれまで目立つ正門を持たず、シャトー街道から奥まった場所に慎み深く佇むシャトーという感じでしたが、昨年の花祭りの際にシャトー庭園の池へ向かうアプローチを舗装しました。本来はこのタイミングで正門も設置する計画でしたが、ガラディナー後の花火を庭園前から打ち上げる事が決まり、セキュリティの関係でせっかく舗装したアプローチをお披露目する事が出来ませんでした。従って正門の設置も延期となり、この春に晴れて設置された次第です。これまでご訪問頂いた方々から『入り口が判り難い!』との声を再三頂いていたのもこれで解消されることと思います。シャトー街道からベイシュヴェル村でサンローラン村方向へ左折し、グリュオー・ラローズを左に過ぎたところにこの正門はありますので、次回のご訪問時にはぜひこちらからお入りください。

最後に、今年の春のもう一つのトピックを。それはプリムールが非常に早く進んだことです。 プリムール試飲会の開始前にポンテ・カネがいきなりプリムール販売を開始し驚かせ、更には試飲会2日目にはポムロールのギャザンが開始するなど、異例の早さとなりました。試飲会翌週の7日以降、徐々に開始シャトー数が増え、一級シャトーのラフィットもこの週に開始しました。前評判の高いヴィンテージでは、ネゴシアンもリスクを取って買いに入りますが、あまり前評判の高くないヴィンテージでは、ネゴシアンの銘柄選別も、より厳しくなる傾向があります。従って限られた買い手の資金の争奪戦となってしまう恐れがありますので、シャトーは出来るだけ早く出そうと考える傾向にあります。しかし、こうしたシャトーの動きとは裏腹にネゴシアンの反応は芳しくなく、スムーズに完売まで辿り着いたシャトーは一握りしかないという厳しい状況でした。収量が極端に低かったため価格がさほど下がらなかったことと、ヴィンテージ自体の評判が低く、買い手サイドとしてプリムールで買う必要性を感じなかったことも一因でしょう。ラグランジュも4月15日に開始し、前年を5%ほど下回る価格でオファーし、完売には辿り着いたものの、完売まで2週間以上もかかる異例の長さでした。
2004、2007年のように、瓶詰後に再評価されるヴィンテージなのかもしれません。

昨年初夏までの天候不順の影響で、肩の部分が巻きツルに分化した花房。
AOCサンジュリアンのプリムール試飲会場となったラグランジュ樽熟庫。
シャトーへのアプローチに新設された正門。葡萄畑を800m程進むとシャトーです。
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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