連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2014年08月28日 見えざる武装

5月の報告から間が空きましたので、開花の状況から報告を始めます。メルロは6月1日からの週に開花しました。この週は低温で雨がちだったので区画によって結実不良が若干みられました。一方でカベルネ・ソーヴィニヨンの開花は6日から素晴らしい好天に恵まれ良好に進みました。期待された夏の天候は、7月17日には39℃まで上がる真夏日もありましたが、6月最終週から7月中旬まで低温が続き、平均すると7月は、ほぼ平年並みでした。8月に入っても低温と雨が多い天候が続いており、葡萄の生育も足踏み状態となっています。ヴェレゾン(着色開始)は平年並みに始まりましたが、その後の低温で区画によっては8月中旬でもまだ1/3程度しか着色が始まっていない区画もあります。地元では昔から「7月の天候がアロマをつくり、8月の天候が味わいをつくる」と言われるほど夏の天候は重要ですので懸念されるところではあります。しかし近年の栽培技術の進歩と収穫を細かい区画でぎりぎりの最適期まで待つための武器、すなわち小型タンクや光センサー選果台の導入などで、現在のラグランジュは従来のヴィンテージよりも不順な天気に対応する力があります。最近は9月と10月の天候が味わいを造る年も出てきました。これから収穫へ向けての天候に大いに期待したいものです。

さて今回は、葡萄畑の改植に関する貴重なノウハウをお伝えしましょう。ラグランジュではレ ザルム ド ラグランジュ用の畑の一部を植え替える作業をしています。昨年に抜根して今秋の植え付けに向け整備を進めている区画で、こういった機会でもないと目にすることもない作業の写真を撮りましたので、以下、写真を使いながら紹介したいと思います。

まず写真1は昨年抜根し更地となった区画の写真です。写真手前のほうにあるコンクリートの四角い物体はドレイン(土中に埋設する排水設備)のコレクターです(写真2)。この区画は85年に植付をした区画ですので、ほぼ30年ぶりに交換の為掘り上げられたものです。フランスのワイン法ではテロワールの個性を維持するため、葡萄畑に土を入れたり灌水することは厳しく規制されており、唯一認められている作業がドレインを設置して過剰な水分を抜くことです。以前は素焼きの土管を埋設したのですが、近年は写真3のような合成樹脂のチューブを使うようになっています。細かい穴の開いた細いチューブ(写真3手前側)を地下1.5-2mぐらいの深さに張り巡らし、これを区画の周囲を囲むように設置する太いチューブ(奥の黒いチューブ)に集め、集まった水をコレクターを経由して排水していきます。でもこんな太いチューブを地下深くにどうやって埋設するのか、疑問に思われませんか?

答えは写真5のチューブ埋設機です。世界有数のワイン生産国ならではの機械と言えますが、こういった機械の存在自体がワイン王国の奥深さを示しているとも言えます。こうしてチューブを埋設した上部には玉砂利を敷き、水の回収をし易くするのです。
一見、何も手を加えていないように見える畑でも、許された範囲内で可能な限りの手を尽くし、最高のポテンシャルを引き出す努力がなされているとても良い事例かと思い、紹介させて頂きました。

更地となった葡萄畑
写真1:白用品種の株を抜根し、更地となった葡萄畑。
ドレインのコレクター
写真2:約30年前の植え付け時に埋設されたドレインのコレクター(集水ポイント)。
レイン用チューブ
写真3:新たに地中に埋設するドレイン用チューブ。
細かい穴の開いたチューブ
写真4:チューブには土中の水が浸みこむための細かい穴が開いている。
ドレインチューブ埋設機
写真5:ドレインチューブ埋設機。
埋設作業
写真6:埋設機を使い埋設作業を行っている光景。
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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