連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2012年8月23日 もどかしい2012の夏

熱いロンドンオリンピックも幕を閉じ、ふと気が着けば8月中旬になってしまいました。開花が始まった6月上旬に記した前報では、その後の天気予報が良好だったため遅れていた生育も取り返してくれると楽観した報告をしましたが、残念ながら6月、7月と期待した天候には恵まれませんでした。

まず6月は、9日から5日間連続の雨となり、しかも最高気温も20℃に届かない天候となったため、開花時の受粉がうまくいかず結実不良の果房が目立つ区画が見受けられます。この開花期の天候不順の影響で、7月に発表されたボルドーの収量予想は、前年を下回る予想となっています。「今年の収量に関してはあまり心配しなくても良さそうです」と前報で記しましたが、ラグランジュでも収量が少なかった昨年を更に下回る可能性が出て来ました。

6月後半は好天に恵まれたのですが27日の35℃を除くと最高気温は25℃前後の涼しい好天でした。7月に入るとまた雨がちの天候と低温が続き、15日からようやく日照に恵まれるようになったのですが、平年より涼しい日が続き、7月通算の平均気温は平年より1.3℃も下回りました。 

8月に入り、ようやく夏らしい暑さになっています。連日30℃を超え、暑い日は37℃にまで達しています。下旬も引き続き30℃を超える暑さが続く予報で、予報通りであれば今度こそ生育の遅れは取り戻せると期待されます。ベレーゾン(着色)は開花が一律でなかったこともあり、8月に入ってだらだらと進んでいる状況で、収穫期が長期間に亘ることを暗示しています。導入したばかりの小型タンクが、今年も十分に活躍してくれる事でしょう。

今日はそんな6、7月にあったトピックスを二つお話しましょう。

一つ目は、<高接ぎ>です。写真1をご覧ください。手前側の区画では6月というのに新梢があまり伸びていないのに気が付かれた事と思います。この株元をアップしたのが写真2です。巻かれた白いテープの間から出た新梢、これは今春接ぎ木をした芽が伸びたものです。「何のために接ぎ木を?」 はい、この畑はこれまでプティ・ヴェルドが栽培されていました。以前のオーナーが経済的に行き詰まり、栽培し易いメルロ主体の品種構成としていたため、取得直後の85、86年の大改植時に、ワインに骨格を与える目的で意図的にプティ・ヴェルドを一等地に多く植え付けました。植付けから27年を経過し、カベルネがようやく本来の力を発揮し始めたため、プティ・ヴェルドもその役割を終えつつあります。もちろん難しい年には力を発揮してくれますので一定面積での栽培は継続しますが、カベルネに向いた一等地の畑についてはカベルネに切り替えていこうと考えています。写真2に戻りましょう。接いだカベルネの新梢が伸びたら、両腕の先から出ているプティ・ヴェルドの新梢は競合しますので、冬の剪定時にこの両腕を落としてカベルネの新梢のみを育てます。写真3は昨年接ぎ木を行い、既にプティ・ヴェルドの両腕を落とし、高接ぎが終了した株の写真です。

高接ぎのメリットは、既に深く伸びた根をそのまま活かせる事です。抜根して植え替えると25年という長い年月を待たねばならないのですが、高接ぎでは接ぎ木後数年で樹齢の高い株と遜色のない品質の葡萄がえられるようになりますので、この期間を短縮できる事になります。

二つ目の話題は、7月4日にラグランジュの樽熟庫で開催されたクラッシックコンサートの夕べです。これはLes Estivales de Musiques au coeur du Médoc(メドックミュージックフェスティバル)が主催するプレステージシャトーでのコンサートイベントで、2年前にはシャトー庭園での野外コンサートとして開催し好評を博したものです。今年はあいにく天候に恵まれず、樽熟庫での開催となりました。

フェスティバルの狙いは、将来を嘱望される若き音楽家に活躍の場を与えることとの事で、今回のラグランジュでの演奏会の目玉は、昨年ブザンソン指揮者コンクールでグランプリを受賞した垣内悠希氏が指揮を執ったことです。期待に違わぬ素晴らしい指揮でアキテーヌ交響楽団の魅力を十分に引き出し、満席となった400人を超える聴衆を魅了してくれました。演奏会の後、醸造棟で行われたカクテルはすし詰め状態でしたが、素晴らしい演奏の余韻と美酒で皆が大満足の夕べとなりました。回を追うごとに盛り上がるコンサートとなっていますので、来年以降も協賛を継続していきたいと思います。
高接ぎを行った区画
高接ぎを行った区画(※写真1)
高接ぎを行った株の拡大写真
高接ぎを行った株の拡大写真(※写真2)
前年に高接ぎを終了した株
前年に高接ぎを終了した株(※写真3)
樽熟庫でのクラシックコンサート(指揮者は垣内悠希氏)

樽熟庫でのクラシックコンサート(指揮者は垣内悠希氏)

(※写真4)
コンサート終了後の醸造棟でのカクテル
コンサート終了後の醸造棟でのカクテル(※写真5)
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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