連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2012年6月14日 VINEXPO香港とプリムール

昨年収穫期より4回に亘りラグランジュ便りを書いてくれた篠田健太郎氏が4月に帰国し、登美の丘ワイナリーのエノロジストに就任しました。滞在中に肌で感じたものを、オリジナリティを持つ日本ワインの創造に活かしてくれる事を期待したいと思います。ということで、今回より椎名がラグランジュ便りの執筆者に復帰します。

4月からちょっと間が空きましたので書きたい話題が盛りだくさんですが、まずは今年の生育状況から始めましょう。3月15日の25℃を筆頭に3月最終週は連日25℃を記録する異常な暖かさで始まった春先でしたが意外や意外、今年は平年より一週間以上遅い萌芽となりました。2月前半に連日最低気温が-10℃付近となる60年振りとも言われた大寒波があり、2月の平均気温が平年より5℃も下回った影響が大きかったようです。しかも4月は降水量が平年比220%となる低温多雨の気候となったために、萌芽後の生育も非常にゆっくりでした。5月に入ると天候も一転、平均気温は平年比+0.8℃でしたが、10日の32℃を最高に30℃を超えた日が3日もあり、日照時間は平年比+20%と晴天の多い月となりました。6月に入っても好天が続き6月2日には何と34℃を記録しています。遅れていた生育は一気に挽回し、開花は平年より少し遅い程度にまで追いついて来ました。今年の開花の特徴は、メルロ、カベルネ、プティ・ヴェルドの3品種が、ほぼ同時期に開花していることです。4月の低温で開花の早いメルロに遅延が見られた事と、5月下旬からの暑さでカベルネやプティ・ヴェルドが一気に開花したためです。予報では開花期終了まで天候は概ね良さそうですので、今年の収量に関してはあまり心配しなくても良さそうです。

次の話題はプリムールとVINEXPO香港です。近年、ますます関連性を強めている二つのイベントですが、今年のVINEXPO香港は5月29-31日に開催されました。香港でのVINEXPOは、1998年、2006、2008、2010年に次ぐ5回目の開催で、回を追うごとにその規模を急激に拡大してきています。今年の参加者は15,000人で、記録的と言われた前回の12,600人を更に上回りました。試飲会およびコンフェレンス参加者数も6,000人から8,000人に増えています。前回は2000人に制限されたユニオン・デ・グランクリュ(UGC)主催の試飲会が、今年は制限なしとなったこともこの数字に貢献しました。また、初日の夜に催されたコマンダリー主催の晩餐会は、12人席テーブルが73卓!! グラン・ハイアット自慢のレセプションホールでも収容しきれずに隣の部屋に跨って席が用意されるという想像を絶する規模で行われました。世界的な経済危機の影響が中国にも及び、今年の成り行きに注目が集まりましたが、このように数字上では前回2010年から更なる拡大を示す結果となりました。一方、個人的には2008年や2010年に感じたバブル的な熱狂は明らかに収束した印象を受けました。中国経済が踊り場にあることは勿論ですが、更に中国人参加者のワイン知識レベルが向上した事もその背景と思われます。ラフィットなど一握りのブランドだけではなく、値頃感のあるワインへも興味が移り始めたことは、中国のワイン市場にとってはポジティヴです。波はありながらも長期的に見て、まだ確実に拡大余地のある魅力的な市場であるとの実感を改めて感じました。

この中国市場の動向が大きく影響するのがプリムールです。2009、2010と続いた高値ヴィンテージを支えたのは言うまでもなく中国市場だからです。ネゴシアンが、『今年は通常の年に戻る時』とアナウンスし、ロバート・パーカーがこれをサポートするようにヴィンテージ自体に厳しいコメントをしたため、上位シャトーは前年から40%以上も下げるプリムールとなりました。ラフィットを除く一級シャトーは足並みを揃え、前年より40%下げました。その他のシャトーはこの一級シャトーの価格をベンチマークに、競合とのポジショニングに最大の注意を払いながら、VINEXPO香港前のタイムリミットとなる5月中旬にほぼ一斉にオファーを開始しました。結果は、スムーズに完売したシャトーは数えるほどと言われる難しいプリムールで、2004年や2007年の様に、瓶詰後の出荷時点で再評価されるヴィンテージとなるのかもしれません。
決して悪いヴィンテージではありませんので、プリムールで買われた方、また見送った方、瓶詰後に出荷される時を楽しみにお待ちください。

凧糸に沿って樽の端を合わせていく
ほぼ満開となったメルロの果房(6月6日)(※写真1)
特製の器具を使って2段目の樽の位置合わせを行う
同じ日のカベルネの果房もほぼ満開(※写真2)
セラーに美しく並んだ樽
VINEXPO香港:広すぎて視野に収まりきれないUGCの試飲会場(1)(※写真3)
旧レセプションのぶどう柄タイル
VINEXPO香港:広すぎて視野に収まりきれないUGCの試飲会場(2)(※写真4)
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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