連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2008年4月24日

1月、2月と平年を2℃上回る気候が続きましたが、3月はほぼ平年並みの気温となりました。しかも雨や曇りの日が多く、統計上の日射量が平年の40%減となった上に、3月中旬以降に長い寒の戻りがあったことなどから、畑や品種によって萌芽の開始にもバラつきが生じた様です。全体としては平年より少し早い程度の萌芽となった感じでしょうか。

4月の声を聞いても、静かに春の扉を叩くような気温の上昇が続いています。4月1日から3日間行われたヴィンテージ2007プリマー試飲会も、気候と同様、静かに熱気を高めていきました。 昨年の冷夏・多雨から97年来の不作との噂が流れ、悲観的な記事が多かったことを考えればやむを得ない事ではありますが、良年しか買わないアメリカからの訪問者は確かに少なかったように思います。一方で新興市場を代表するアジアからの訪問者は昨年にも増して目につき、着実に市場が育ちつつあることを実感しました。ラグランジュではジャーナリストの試飲会の会場として場所を提供しているのですが、今年はインドネシアや韓国からのジャーナリストの方もお迎えしました。アジアに次いで今年のプリマー試飲会で存在感を示したのはEU諸国と東欧・ロシアでしょうか。自分の舌でしっかりと評価し、小さな年をむしろ買い場と考えるEU諸国のバイヤー達は特に熱い視線を注いでいたように思います。

さて、ヴィンテージ 2007はどんな評価を受けるのでしょうか? 肉厚で骨格のしっかりしたスタイルを好むアメリカのジャーナリストからは、予想通り『線が細い』という意見を聞きました。一方でEU諸国のジャーナリストからは『難しい年にも関わらず、予想よりずっと良い』とのコメントが聞かれました。3日間、シャトーでのイベントの合間をぬって、各会場で試飲した私の感想は、もちろんEU諸国寄りのものです。いくつかのシャトーでは残念ながら青臭い未熟香が出たものも見受けられましたが、全体としては熟したタンニンと果実味が心地よく共存した、レベルの高いワインが多かったように思います。中には熟成よりも早飲みタイプと決め付けたようなコメントも見られましたが、個人的には『早くから楽しめ、熟成にも耐えうる』ワインとなるような気がします。・・・造り手のえこひいきかもしれませんが(笑)。いずれにしても今後どういう熟成を経ていくのか、とても楽しみなワインです。

今回のプリマー試飲会の期間で最も注目を集めたニュースは、実はワインの品質よりも、コマンダリー デュ ボンタン※(通称:ボンタン騎士団)のグラン メートル(会長)の交代だったかもしれません。1997年の就任以来、文字通りボルドーの顔としてボンタン騎士団を牽引してきたシャトー ランシュ・バージュのジャン・ミッシェル カーズ氏が退任し、後継者にシャトー ディッサンの若き当主、エマニュエル クルーズ氏が就任。そのお披露目が3日夜のボンタン騎士団主催の晩餐会の席で行われたのです。カーズ氏は既に2年前に、ランシュ・バージュの経営を息子に委ねており、今回の退任も想定された事ではありました。しかし実際にその時が来てみると、一つのエポックが終焉した一抹の寂しさを感じずにはいられませんでした。
一方で後を継ぐクルーズ氏は40歳の若さとバイタリティ、そして社交性を併せ持つ魅力ある人物ですので、彼が新しいエポックを造り出してくれることは間違いありません。彼がどのような時代を造り上げていくのか、コマンダリーのメンバーとして、温かく見守っていきたいと思っています。

※ コマンダリー デュ ボンタン フランスボルドー地方のメドック、グラーヴ、ソーテルヌ地区のワイン生産者やワイン商が中心となり、世界各国でボルドーワインの振興を行なっている団体。貢献した人々に騎士の称号が与えられる。ボンタン騎士団ともいわれる。

ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。  
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