連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2006年1月28日

グランミレジムへの歩みを続けるワインたちは、アサンブラージュ(ブレンド)の配合も固まり、これから約一年半の樽熟成の旅に入りつつあります。ラグランジュの2005年ヴィンテージ・シャトーものは、平年よりメルローの比率が高い(40%超)配合になりそうです。アルコール換算の平均糖度が14.5%にも達する完熟したメルローが、ワインにボディとコクを与え、エレガントさを失わないカベルネ、そしてメルロー同様14%を越えたプティ・ヴェルドが絶妙のバランスを醸し出していますので、あとは樽熟による育成を待つばかりです。

そこで今日は、樽熟成の神秘を支える、樽材についてご報告します。

『日本語では“熟成”という一語で表されますが、フランス語では、瓶に詰める前に樽の中で保管するプロセスである、“エレバージュ(育成)”と瓶に詰めて保管するプロセスの“ヴィエイイッスマン(加齢)”の二つに分けて認識されています。エレバージュは発酵し終えたばかりの、人間で言うと未だ少年・少女段階のワインに対して、個性を持った大人へと仕上げていくようなものです。樽材独特の香りや味を溶け込ませたり、赤ワインであれば、樽の外側から侵入する酸素を利用してタンニン(渋味成分)とアントシアン(色素)を結合させ、安定した濃い赤色を形成したり、とワインとしてのポテンシャルをどんどん高めていくプロセスであります。』

となると、樽材はどんな個性を持った大人に育てるかの重要な鍵を握っていることになります。主な樽材はオーク(柏)ですが、エキス分の抽出量の多いヨーロッパ産と、バニリンなどの香り成分が主となるアメリカ産では、同じオーク材でもまったく性格が異なります。あとはどんな『大人』に育てたいか、によってそのタイプを選ぶことになるのです。

実は1月20日に価値ある体験をしてきました。仏産オークの中でも最高級の品質を誇るトロンセ(森の名前です)で、樹齢340年のオークの伐採式に参加したのです。トロンセは植付や間伐などの管理から区画ごとの樽業者への販売まで、すべてがONF(国有林管理庁)の管理下に置かれています。その一角にはChene de Morat(モラのオーク林)と呼ばれる区画があり、1670年にコルベール提督が軍艦製造用に植付したオークの何本かが生き残っています。39mの高さを誇るこの大木のうちの1本が、昨年11月にONFから競売に出され、ボルドーの樽製造業者、シルヴァン氏に落札されました。そして1月20日に約100名の招待者の見守る中、伐採式が執り行われたのです。生育の遅いオークは、100年経ってやっと若い林となり、200〜250年で伐採されるという想像を絶する時間軸でのサイクルの中にあります。コルベール提督も、340年後にワイン用の樽材として伐採式が行われるとはよもや思わなかったことでしょう。そのゆっくりとした生育が育んだ成分がワインへ抽出され、グランクリュワインに性格を与えているかと思うと、さらにワインの奥深さを感じずにはいられません。むしろ、抽出されるエキスや香り成分以上に、樹が育み、そして与えてくれた『時間』に私たちは無意識のうちに感動させられているのかもしれませんね。

どんよりとした冬空の下での伐採式でしたが、伐採前、そして伐採された後も、340年の老木は、立ち会った人々に何かを語りかけているようで、神妙な気持ちにさせられました。切り倒された木は直ちにシルヴァン社に輸送され、板にされ、2年間天日で乾燥されます。その後約60樽のワイン樽として、2008年にシャトーに出荷されることとなります。競争倍率は高いですが、ラグランジュでも是非一樽購入し、樹が育んだ340年の『時間』をワインに付与してみたいと考えています。

モラの林にそびえる樹齢340年の大木。周辺のオークは背が低いですが、既に樹齢は20年を超えています。
モラの林にそびえる樹齢340年の大木。周辺のオークは背が低いですが、既に樹齢は20年を超えています。
根元の切り出し作業。 
根元の切り出し作業。
倒木後。 目が細かく、年輪の幅が狭いことがよくわかります。
倒木後。目が細かく、年輪の幅が狭いことがよくわかります。
樹齢80年程度の幼木林。まっすぐに伸びた将来残す木を、赤でマーキングします。
樹齢80年程度の幼木林。まっすぐに伸びた将来残す木を、赤でマーキングします。
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。  
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