連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2006年3月11日

異常に乾燥した昨年の帳尻を合わせるかのように、今年は異常に雨の多い冬となっています。ただ3月に入って一雨ごとに寒さも緩んできましたので、ぶどう樹が動き出すのは例年より早いかも知れません。セラーでも、長い樽熟成の旅に入ったワインたちが、プリマー試飲会に向け態勢を整えつつあります。ボルドーの慣習により、各シャトーとも3月の中旬までは、クルチエ(※1)以外には試飲させません。シャトーは1月から2月にかけてクルチエとの試飲および情報交換を通して、産地全体、または他シャトーの出来ばえなどを把握し、さらにネゴシアン(※2)の購買意欲や市場動向の情報を加味し、プリマーの値付けや数量を検討していきます。ラグランジュでは、3/13(月)よりネゴシアンやジャーナリストへの試飲をオープンにします。これにより直接ネゴシアンの意見も聴き、さらに4月のユニオン・デ・グランクリュ試飲会の反応を見て、最終的な方針決定に至ります。

昨秋の収穫時点からグランミレジムとの評判が高かったこともあり、クルチエの情報では今年は昨年の倍の値段を想定しているシャトーもあるとの話でした。もちろん今の時期は、意図的にアドバルーンを上げて様子を見るシャトーもありますので、今後の動向をしっかり見ていく必要がありますが、大幅な価格上昇になることは間違いなさそうです。2000年以降、暗い話ばかりのボルドー市況でしたが、グランクリュに限っては大きな転換期を迎えた感じがします。

さて、こういった明るい話題とは対照的に、昨今の新聞を賑わせているのは、ご存知の鳥インフルエンザです。EUで最初に感染が確認されたのがフランスとなってしまい、しかも日本が即座にフランスからの輸入禁止措置を他国に先立って発表したことから、反応が心配されたのですが、40ヶ国以上が追随したこともあり、今のところ過剰反応は見られていません。国内の鳥肉の消費減は30%を超えたとの報道もあり、ヴィルパン首相自らテレビの前で鳥肉を食べ安全をアピールする姿は、何処の国も同じという感じでした。

実はこの鳥インフルエンザ問題は、思わぬところでラグランジュにも影響を及ぼしています。ボルドー、アーカッションのエリアは、アフリカと北ヨーロッパ間の渡り鳥の中継場所として知られており、問題が懸念されだした昨年11月ごろより、地元の自治体では様々な対策が執られ始めました。ボルドー最大の公園、パーク・ボードレーでは、何度か週末に公園が閉鎖され、池に居た白鳥、鴨、その他の鳥が捕獲され、一時的に隔離されています。ラテン系のフランス人らしからぬ対応だなあ、などと関心していたら、なんと先週、ラグランジュにもサンジュリアン村長よりレターが届き、ラグランジュのシャトー前の池の白鳥を隔離するよう指示があったのです。長らく池に居てラグランジュのシンボル的存在だった白鳥は、実は数年前に野犬にやられ、現在は鴨だけになっているのですが、各村々でこのような個別の対応をとっていることには驚きました。ラグランジュの敷地内では社宅の庭で鳥を飼っている従業員もおり、この鳥も隔離対照となっていて、その徹底振りには驚きました。…でも従うかどうかが、ラテン系の問題ではありますが(笑)。もちろんラグランジュでは、従業員社宅も含め、すべて対応しました。

今朝の新聞によると、フランス南部・ランド県で今月予定されていた第18回フォアグラ見本市が、鳥インフルエンザの影響で急きょ来年に延期されることが決まったそうです。ランド県はフォアグラの大産地で、鳥インフルエンザ対策では他県に先駆け、フォアグラ生産用のヒナ約70万羽に予防接種を始めたばかりでしたので、関係者の落胆も大きかったようです。

ワインもそうですが、工業製品と違い農産物では、技術では解決できない自然との闘いが常に目の前にあります。今回の件を通して改めてフランスは農業立国なのだなあとしみじみと感じさせられました。

※1 クルチエ:ワインの仲買人

※2 ネゴシアン:ワイン商

11月まで子供たちを楽しませてくれていた、パーク・ボードレーの白鳥や鴨たち。
11月まで子供たちを楽しませてくれていた、パーク・ボードレーの白鳥や鴨たち。
3度に渡る閉鎖と隔離作業により、ほとんど鳥の姿が見られなくなった公園の池。
3度に渡る閉鎖と隔離作業により、ほとんど鳥の姿が見られなくなった公園の池。
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。  
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