連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2005年11月17日

グランミレジムへの胎動を始めたワインたちは、アルコール発酵を終え、マロラクティック発酵(二次発酵とも呼ばれ、乳酸の働きでリンゴ酸を乳酸に換え、口当たりをまろやかにします)に入りつつあります。間違いなくポテンシャルが高いミレジムではありますが、一方で、思わぬ落とし穴が待っている年とも言えそうです。それは、今年のように糖度が高く発酵が遅延しやすい年には、ブレタノミセスという酵母による異臭発生(獣臭とか焼けた香りなどと表現されます)のリスクも高いからです。実際に今年は非常に発酵がゆっくり進む年となりました。発酵が停止してしまわないよう温度管理やエアレーション(ワインに空気を与え、酵母を活性化する)など、気の抜けない管理が続けられました。長いものではアルコール発酵終了まで一ヶ月近くかかったロットもありましたが、きめ細かな手当により有害微生物による揮発酸の上昇もなく、無事セカンドステップに移行できました。マロラクティック醗酵の期間中も、乳酸菌の活性を高めるため亜硫酸を低いレベルに保ちますので、まだ気を抜くことはできませんが、山は乗り切った感触を得ています。

土日もなく収穫・仕込みが続いた10月が過ぎ、ふと落ち着いて周りを見渡すと、ボルドーは既に晩秋から初冬への移行を急いでいるかのようです。11月上旬までは、秋の好天と暖かさが持続していたのですが、10日過ぎには初霜が降り、紅(黄)葉と落葉が始りました。

収穫期間中、週末も子供の相手をしてあげられなかった罪滅ぼしに、久しぶりに子供を森の散策に連れ出しました。…というのは口実で、実は、私がセップ採りにチャレンジしたかったのですが。ご存知のようにフランスの秋といえば、何と言ってもセップです。イタリアではポルチーニと呼ばれ、同様に秋の味覚の代表選手です。一口にセップといっても約15種類もあり、有毒のセップ・ド・サタン、および通常食用にしない2種を除いても食用とされるものが10種以上あります。この中で最も珍重されるのが、セップ・ド・ボルドーと呼ばれるもので、名前のとおり、ボルドー周辺のアキテーヌ地方、及び南のランド地方が主産地となっています。日本の松茸ほどではありませんが、市場での価格も高く、採取者はそれぞれ自分の秘密の場所を持っていて、決して人に教えないのは松茸の場合と同様です。 

さて、子供を連れ出すこと3日、椚、楢、柏の木の周辺というヒントをもとに探したものの、初めの2日は栗拾いだけに終わりました(笑)。そして3日目、ありました! 待望のセップをゲット! 勘が掴めると、2時間で約2kgぐらいの収穫が得られました。早速記念写真を撮り、夜はバターで炒めて楽しみました。

翌日、鼻高々でラグランジュのセップ茸名人でもあるセラーマスターのムッシュウ・レイモンに写真を見せると、『うん!これはセップだけどセップ・ド・ボルドーじゃないよ。味はそんなに美味しくなかったろう?』との一言。早速きのこ図鑑のサイトにアクセスして確認すると、ボレ・ベ(Bolet Bai)というセップの一種で、Comestible excellent(食用・美味)と記載されていました。ムッシュウ・レイモン曰く、『セップ・ド・ボルドーには今年はもう遅すぎるから、来年教えてあげるよ。』 図鑑で美味と出ているものを、美味しくなかったろう?というくらいですから、本命のセップ・ド・ボルドーの採りたてはさぞかし美味しいのでしょう。来年の秋、再チャレンジし、またご報告します。

最後に、毎年秋に恒例となっている、超特大セップの記事をひとつ。新聞記事の写真を添付しましたので御覧下さい。見にくいのはご容赦願います。右側の男性が持っているセップは何とひとつで2.5kgもあり、今年ぶっちぎりで No.1の栄誉に輝きました。左の女性が持っているのが約1.2kgで、昨年の最大はこのレベルだったそうです。もちろんこの大きさでも美味しいのかどうかまでは定かではありませんが・・・

楢の林の湿った場所で発見
楢の林の湿った場所で発見
子供たちも自分で見つけて大喜びでした
子供たちも自分で見つけて大喜びでした
2時間で、約2kgの収穫
2時間で、約2kgの収穫
今年断トツで最大の栄誉に輝いたセップ
今年断トツで最大の栄誉に輝いたセップ
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。  
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