ザ・プロデューサー・シリーズ
大野和士がひらく

〈現代オペラ〉クロニクル
大野セレクションの室内楽
オペラ『リトゥン・オン・スキン』

テーマ作曲家
〈ミカエル・ジャレル〉

第29回
芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会

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写真:ミカエル・ジャレル

世界の第一線で注目される作曲家に焦点を当て、作品を紹介します。サントリーホール開館当時に武満徹(1930〜96)が提唱した「ホールが創造空間となる」ことを目指し、毎年管弦楽作品を委嘱し、世界初演も行います。

国際作曲委嘱シリーズNo. 42 テーマ作曲家〈ミカエル・ジャレル〉

ジャレルの作曲ワークショップ

8/25(日) 
15:00開始(14:30開場)ブルーローズ(小ホール)

若い作曲家の作品を、ジャレルが公開でクリニック、アドバイスします。
名指導者としても名高いジャレルの音楽手法をじかに知ることが出来る貴重な機会です。
(楽譜と音源を使用します)

  • 講師:ミカエル・ジャレル
  • 進行:細川俊夫
  • 受講生:東 俊介/伊藤 彰/中橋祐紀/前川 泉
    (50音順、受講順は当日発表)

協力:国立音楽大学

■料金(聴講料)

  • 自由席 一般 1,000円/学生 500円
  • テーマ作曲家3公演セット券 5,000円(8/25+8/26+8/30 S席)限定50セット
サントリーホール・メンバーズ・クラブ先行発売: 5月14日(火)10:00〜5月16日(木)
一般発売: 5月17日(金)10:00〜

※セット券は一般発売日よりサントリーホールチケットセンター(電話・窓口)東京コンサーツ(電話・Web)での取り扱い。

※学生席はサントリーホールチケットセンター(電話・Web・窓口)のみ取り扱い。25歳以下、来場時に学生証要提示、お一人様1枚限り。

《室内楽》

8/26(月) 
19:00開演(17:45開場)ブルーローズ(小ホール)

*プレ・トーク
[ミカエル・ジャレル&細川俊夫]
 
18:05〜18:50頃 ブルーローズ(小ホール)

  • ミカエル・ジャレル(1958〜 )
  • エチュード ピアノのための(2011)
  • ピアノ:永野英樹
  • 『ベーブング(ヴィブラート)』クラリネットとチェロのための(1995)
  • クラリネット:上田 希
  • チェロ:多井智紀
  • 『分岐された思考』弦楽四重奏のための(2015)
  • ヴァイオリンI:辺見康孝
  • ヴァイオリンII:亀井庸州
  • ヴィオラ:安田貴裕
  • チェロ:多井智紀
  • 『無言歌』ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための(2012)
  • ヴァイオリン:辺見康孝
  • チェロ:多井智紀
  • ピアノ:永野英樹
  • 『エコ』声とピアノのための(1986)
  • ソプラノ:太田真紀
  • ピアノ:永野英樹
  • 『分岐』アンサンブルのための(2016)日本初演
  • 指揮:キハラ良尚
  • フルート:上野由恵
  • クラリネット:上田 希
  • バス・クラリネット:山根孝司
  • 打楽器:神田佳子
  • ピアノ:永野英樹
  • ヴァイオリン:辺見康孝
  • ヴィオラ:安田貴裕
  • チェロ:多井智紀
  • コントラバス:地代所 悠
C. Daguetミカエル・ジャレル

■料金

  • 指定 3,000円/学生 1,000円
  • テーマ作曲家3公演セット券 5,000円(8/25+8/26+8/30 S席)限定50セット
サントリーホール・メンバーズ・クラブ先行発売: 5月14日(火)10:00〜5月16日(木)
一般発売: 5月17日(金)10:00〜

※セット券は一般発売日よりサントリーホールチケットセンター(電話・窓口)東京コンサーツ(電話・Web)での取り扱い。

※学生席はサントリーホールチケットセンター(電話・Web・窓口)のみ取り扱い。25歳以下、来場時に学生証要提示、お一人様1枚限り。

《管弦楽》

8/30(金) 
19:00開演(18:20開場)大ホール

  • 横井佑未子(1980〜 )
    『メモリウムⅢ』オーケストラのための(2012〜13/19)改訂版世界初演
  • ミカエル・ジャレル(1958〜 )
    ヴァイオリンとオーケストラのための新作(2019)世界初演
  • ミカエル・ジャレル:
    『...今までこの上なく晴れわたっていた空が突然恐ろしい嵐となり...』オーケストラのための(2009)日本初演
  • アルバン・ベルク(1885〜1935):管弦楽のための3つの小品 作品6
  • 指揮:パスカル・ロフェ
  • ヴァイオリン:ルノー・カプソン
  • 管弦楽:東京交響楽団
B. Ealovegaパスカル・ロフェ
Paolo Roversi Eratoルノー・カプソン

■料金

  • 指定 S 4,000円/A 3,000円/B 2,000円/学生 1,000円
  • テーマ作曲家3公演セット券 5,000円(8/25+8/26+8/30 S席)限定50セット
サントリーホール・メンバーズ・クラブ先行発売: 5月14日(火)10:00〜5月16日(木)
一般発売: 5月17日(金)10:00〜

※セット券は一般発売日よりサントリーホールチケットセンター(電話・窓口)東京コンサーツ(電話・Web)での取り扱い。

※学生席はサントリーホールチケットセンター(電話・Web・窓口)のみ取り扱い。25歳以下、来場時に学生証要提示、お一人様1枚限り。

永野英樹(ピアノ) インタビュー

パスカル・ロフェ(指揮) インタビュー

テーマ作曲家 ミカエル・ジャレルについて細川俊夫(サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ監修)

ミカエル・ジャレルは1958年にフランス語圏のスイス・ロマンド地方の首都ジュネーヴに生まれました。ジュネーヴ音楽院で作曲を学んだあと、ドイツのフライブルクで作曲をクラウス・フーバーの元で学び、その後パリのIRCAMで研修を受けたあとは、様々な委嘱作品をメジャー・オーケストラ、アンサンブル、世界的なソリストたちから受け、国際的な作曲活動を続けています。昨年秋、350周年を迎えるパリ・オペラ座で新作オペラ『ベレニス』(主演:バーバラ・ハンニガン)を発表し、大きな話題になりました。また旺盛な作曲活動と並行するように、ウィーン音楽大学とジュネーヴ音楽院の二つの重要な音大の作曲教授として、数々の若い優れた才能を育ててきました。

私は彼のフライブルク時代に作曲のクラスメートでしたので、彼のことをもう35年以上も知っています。学生時代には、作曲に非常に慎重で、作品は少なかったのです。それが現在の多産な創作活動、そして忙しい教育活動を見ると、学生時代に培った音楽の基礎が、大きく花開いているように思われます。

ミカエルの音楽を知る人は、誰もが彼のエクリチュールの高さを語ります。音楽を「書く」ことの技術の高さです。そのテクスチャーは緻密で繊細、そして生き生きとした創意に溢れています。作曲は作曲家の内に聴こえて来る音を、楽譜に転写するだけではなくて、「書く」という行為によって、音楽に空間を与え、新しい組み合わせを創案し、音楽に新しい次元を与えるのです。その「書く」ことの力をまざまざと見せてくれる名匠が、ミカエルです。日本では「エクリチュール」というと、すでに死語になった18、19世紀の和声構造を学ぶことのように捉えられていますが、本来の「エクリチュール」は新しい音楽次元を探索するための作曲家の「書く」ことへの冒険であり、音楽の空間化へのチャレンジでもあるのです。現在のヨーロッパでも、少しずつそうしたエクリチュールへの関心が薄れ始め、コンセプチュアルな音楽が強く台頭してきています。こうした時代に日本でも、もう一度ヨーロッパの伝統的な「書くこと」の意味をミカエルの音楽を通して、考え直してみることは、とても大切なことだと思います。

永野英樹(ピアノ)インタビュー

現代音楽は、クラシック音楽からの流れを汲んで理解すべきだ、と思っています

パリを拠点に活躍する永野英樹さんは、「大野セレクションの室内楽」と「テーマ作曲家〈ミカエル・ジャレル〉室内楽」に出演します。永野さんは、現代音楽を世界最高水準で演奏するヴィルトゥオジティ(超絶技巧)集団「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」のピアニストとして、四半世紀近い年月を重ねてきました。卓越したテクニックと現代音楽作品に対する深い理解で高い評価を得ている永野さんに、お話を伺いました。

永野英樹

「現代音楽」を演奏することとは

「現代音楽」に関心をもったきっかけは?

小さい頃から音楽を聴くことが好きで、FMラジオのクラシック音楽番組をよく聴いているうちに20世紀初頭のピアノ音楽を聴くようになったのが、現代音楽に関心が向いたきっかけでした。
東京藝術大学入学後にパリ高等音楽院に留学し、ジャン=クロード・ペヌティエ先生に師事しました。彼はフランス人ではありますがドイツ音楽をよく弾く方で、僕の最初のレッスンはシューマンで、在学中はもっぱらクラシック音楽を勉強していました。当時、先生はパリ音楽院を退職される時期で、別の学校に移った先生を追いかけて5、6年レッスンを受けていたのですが、その最後の時期に20世紀以降のピアノ作品のコンクールを受けるようにと言われて、コンクールに入賞しました。この時が、現代曲だけに取り組んだ最初でした。

アンサンブル・アンテルコンタンポラン(以下EIC)入団はこのコンクールの後に?

そのコンクールの後は、ショパン国際音楽コンクールを受けたんです。でもうまくいかなくて、パリに帰り、その1か月後にEICのオーディションを受けました。しかしすぐに次の準備をする気持ちにはなれなくて。オーディションの準備期間はかなり短かったです。

どんなオーディションなのですか?

EICに入る前から思っていることですが、僕は「現代音楽」を19世紀までのクラシック音楽とあたかも別の分野のように考えることが不思議でした。クラシック音楽からの流れを汲んで現代音楽を理解すべきだと、ずっと思ってきました。EIC創設者である故ピエール・ブーレーズもまったく同じ考えでした。なので、EICのピアノ・オーディションには必ずベートーヴェンのソナタが入っています。フランス音楽からはドビュッシー。それとシェーンベルク、ウェーベルン、ベルクから。これが基本で4つ目に20世紀後半からの作品になります。
現代音楽作品には、演奏技術的に無理なものもたくさんあります。作曲家が楽器を弾きながら作曲したというものだけではなくて、頭の中で創り上げた作品も多いですから、そうした楽譜を処理し弾きこなす能力が必要です。となると、基礎が重要になってきますね。こんなことはできないから無茶苦茶でいいや、と演奏してしまえば、聴く側も現代音楽は無茶苦茶なものと捉えてしまうと思います。

アンサンブル・アンテルコンタンポランについて

スーパーアンサンブルEICのメンバーとは。

1976年に創設され2016年に40周年を迎えました。創立時からは若干人数は増えていますが、基本的には31人のアンサンブルです。あらゆる作品を網羅できるようないい具合の編成になっています。ピアノは3人。ヴァイオリン3人、ヴィオラ、チェロは各2、コントラバスは1人です。管楽器もそれぞれ2人で、ハープは1人、打楽器は3人です。この編成に、音楽監督の指揮者がいます。

永野さんの前任者であるピエール=ローラン・エマールや、チェロのジャン=ギアン・ケラスが在籍していたなど、EICには名手が多いですね。

ケラスは僕が入団した頃はまだ在籍中で、僕のEICでの最初の室内楽コンサートでドビュッシーの『チェロ・ソナタ』を共演しました。 EICのメンバーは皆、耳がとても良いんですよ。入団当初、最初の合わせで、フルーティストから「何小節目の何拍目って、あなた何弾いている?」と訊かれたことがあります。「ああ一緒の音だわ」って。それぞれは自分のパート譜だけを見て演奏していますが、お互いに誰が何の音を弾いているとか確認しながらリハーサルをしているんです。でも、いまは慣れちゃって、その凄さが分からなくなっているかもしれません(笑)。

EICでの演奏で、たいへんだと思ったことは?

ピアニストにとって、指揮者に合わせて演奏する機会は稀ですが、アンサンブルのなかだと、指揮についていかなくてはなりません。しかも、ピアノはアンサンブルの端に置かれてしまうので、指揮者との距離が遠く、指揮者からの指示と音を出す間に「時差」が出てしまうのでなおさらたいへんです。また、打鍵するとポンと鳴るピアノとは違って、他の楽器はたいてい音が出るまでに「待ち」がありますから、他の楽器とのタイミングを合わせるのも難しいんですよ。それから、自分が弾いていない間の小節数を数えるのもけっこうたいへんですね。皆さん、小節数を数え間違えて落ちてしまうことってよくあります。

現代音楽作品を演奏する醍醐味、やりがいとは?

過去の作曲家たちについての研究がなされていても、実際のところは分からないわけですよね。現代音楽だと、作曲家自身や、作曲家が亡くなられていても初演した演奏者やお弟子さんからアドバイスをいただけます。作曲家の欲しているものをそのまま提供できるところは、とてもおもしろいですね。
また、初演でも再演でも、演奏によって作品を評価されるウェイトというか演奏者の責任は、クラシック音楽よりも重いと感じています。

リーム、ジャレルの音楽

サマーフェスティバルでは、リームの『ビルドニス:アナクレオン』と、ジャレル『エチュード』、『エコ』の室内楽作品4曲に出演されます。

リームにはEICの練習に立ち会っていただいたことがあります。非常にユニークで不思議な作曲家です。彼の音楽はすごくクラシックな感じの部分とそうではない部分があって、とらえどころがなく進んでいくような感じがします。なのに、最終的に全体を眺めるとよくできている。最近、そういう傾向の音楽が多いです。
ジャレルは、書法としてはもう少し現代寄りですが、響きはドビュッシーからのフランス的な流れを汲んでいると思います。「響き」にこだわりのある作曲家ですね。たとえばピアノ・パートでは、指で弦に触れながら鍵盤を弾いて倍音(ハーモニクス)を響かせるといったことをします。指で触れる場所の選び方で出る倍音が変化しますので、その鍵盤の指定まで細かく指示します。また、「三連符の速さから徐々にゆっくりしていけ」とか目安のテンポはあっても各々の感覚で演奏することを指示する部分があって、楽器間の縦線がぴったり合わずに不規則になるようなことをします。そうすると、アンサンブルから独特な響きが生まれてくるのです。
作品タイトルには詩的なものがいくつもありますが、ジャレルの音楽には、詩的な音の響き、音色を追求するという側面があると思います。でもその反面、楽器間の縦線がしっかり合ってバリバリと聴こえてくる部分もあって、そういう部分はブーレーズに近いと思います。

永野さんがソロで演奏される『エチュード』(2011)は?

純粋にピアノの鍵盤からの音だけの作品です。リスト国際ピアノコンクールの課題曲のために書かれた曲ですから、演奏はたいへんです。以前ジャレルさんは「ピアノはどう書いてよいか分からないんだよ」とおっしゃっていましたから、彼なりに決断して書いた曲なんじゃないでしょうか。今回来日されますから、直接伺ってみたいと思っています。
日本で、ジャレルを今回のようにまとまってとりあげるのは、初めてだと思います。サマーフェスティバルは貴重な場です。室内楽だけでなく管弦楽まで含めて、しかもこれだけの期間をとって音楽祭を開催するという機会は、世界的にも滅多にありません。現代音楽に関わる者として、こうした企画をぜひ続けていただきたいと、お願いしたいです。

パスカル・ロフェ(指揮)
インタビュー
取材・文:伊藤制子

耳を研ぎ澄ませ、そして耳と心を自由にして、聴いていただきたい

フランス人指揮者のパスカル・ロフェは、現代音楽のスペシャリストでもあり、ヨーロッパの音楽シーンで数多くの新作初演を手掛けてきた。日本でも2015年のN響Music Tomorrowで、藤倉大作品を表情豊かに演奏したことは記憶に新しい。今回のサントリーホール サマーフェスティバルでは、8月30日にテーマ作曲家〈ミカエル・ジャレル〉の管弦楽演奏会の指揮をつとめる。ロフェとジャレルは長年来の盟友で、オペラ『ガリレオ』の世界初演、『航路』他を収めた管弦楽曲集の録音などでも、緊密な共同作業を行ってきた。今回、新日本フィルとの4月の演奏会のため来日したロフェに、ジャレルの音楽と8月30日の演奏会について、話を聞いた。

パスカル・ロフェ

ロフェさんは個人的にもジャレルさんととてもお親しく、大変長いお付き合いだと伺っていますが、まずジャレルさんとの出会いについてお話くださいますか。

ジャレル氏とは、ずいぶん前にウィーン・モデルンで出会ったのが最初です。なぜウィーンだったのかというと、当時彼がウィーン音楽大学教授として住んでいたからです。その時、アンサンブル・クラングフォルム・ウィーンによる《Music for a while》を聴きました。彼の作風の特徴は非常にフラジャイル、壊れやすい音楽で、透明なエクリチュールがとても印象的でした。また同世代ということもあって親近感を感じ、以後互いに親密な関係を築いてきました。

ジャレルさんの音楽の作品を特徴づけている要素として、たとえばフランス音楽からの影響があると感じますが、いかがですか。またジャレルさんの音楽は現代の音楽においてどんな位置を占めているのでしょうか。

彼自身はスイス人ですが、作曲家としてはフランス音楽に属すると思います。ドビュッシーやラヴェルに始まる近現代のフランス音楽の精緻なオーケストラ書法とその美意識からの影響を感じる面が多いですね。さらに彼を特徴づけているのはその素晴らしい耳だと思います。ひとつひとつの音にとても真摯に向き合っており、多彩な響きを聴き分ける卓越した耳こそ、大変繊細で知的な音楽の創作を可能にしているのだと思います。
戦後の音楽にはさまざまな潮流がありましたが、その中で、ジャレル氏は、アフター・ダルムシュタット世代とも言えるような自在さをもっている作曲家だと感じます。特定の潮流や流派に属することなく、そうしたものからもっと自由に作曲しているのではないでしょうか。

C. Daguetミカエル・ジャレル

ロフェさんが指揮をされる8月30日のオーケストラ演奏会についてうかがいます。この日はジャレルさんの新作と旧作、そして彼が影響を受けた曲と彼が推薦する新鋭の作品から構成されています。ジャレルさんは先ほどロフェさんもお話くださったように、近代フランス音楽の影響を色濃く受けており、「クロード・ドビュッシーの3つエチュード」といった編曲作品もありますので、ベルクの「管弦楽のための3つの小品」が選ばれているのは少し意外に思いました。

たしかにドビュッシーのジャレル氏への影響は明白ですが、ドビュッシーを選ぶと少し分かりやすすぎるからかもしれませんね。今回のベルク作品ですが、ベルク自身がかつて恩師であるシェーンベルクから「大作を書いてみるように」と言われて取り組んだ管弦曲で、名人芸性も感じられます。ジャレルはオーケストラ作品を数多く書いていますが、協奏曲が多く、純粋なオーケストラ作品は意外と少ないのです。今回のプログラミングにあたって、そうしたことも意識して、オーケストラそのものを味わうことのできるベルク作品を選んだのかもしれません。

Simon Fowler Eratoルノー・カプソン

ジャレルさんの新作は、世界的な名手ルノー・カプソンさんをソリストに起用するヴァオリン協奏曲です。この新作について何かジャレルさんとお話されたりしていますか。カプソンさんは幅広いレパートリーをもつ人気奏者ですが、特に現代音楽奏者としての彼の魅力について教えてください。

新作については、つい先日ジャレル氏とは電話で話しをしたばかりです。これまで彼は3曲ヴァイオリン協奏曲を書いており、今回が4曲目になりますが、今回はかなり難曲になるようですね。とくに最初の4分がとても難しいらしいですよ。ジャレルはこれまでフルートのエマニュエル・パユやオーボエのフランソワ・ルル-、そしてヴィオラのタベア・ツィンマーマンのような名演奏家のために種々の協奏曲を書いていますが、彼らはもちろん、カプソンのような新世代のスター奏者が古典作品だけではなく、現代作品を積極的に取り上げ、協奏曲の可能性を広げているのはとても素晴らしいことです。

ジャレルさんの旧作として、古代ローマの詩人・哲学者ルクレティウスの『物の本質』に由来する「・・・今までこの上なく晴れ渡っていた空が突然恐ろしい嵐になり・・・(2009年作曲)が日本初演されますが、こちらはどんな作品なのでしょうか。

ジャレル氏は文学にも高い関心を寄せてきました。私は2006年に彼のオペラ『ガリレオ』の世界初演を指揮しましたが、台本はブレヒトです。ただ劇作品をのぞくと、ジャレル氏の多くのオーケストラ作品は、文学的な意味合いというよりも、もっと純粋な音としての造形に依っていると思います。今回日本初演される作品は、全体は4つに分かれており、大きな2つの部分に小さい2つの部分が続く構造を持っています。アジタートで始まり、エネルギーの解放を感じさせる高度な技巧も組み込まれた作品です。

RafaPenades横井佑未子

ジャレルさんが推薦した若手作曲家作品として、横井佑未子さんの「メモリウムⅢ」が改訂版世界初演されます。彼女の音楽についてはいかがですか。またロフェさんは現代音楽祭などで新作を初演なさる機会も多いですが、現在、興味をお持ちの若い世代の作曲家などはいらっしゃいますか。

ジャレル氏の中では教えるという仕事が重要な意味を持っており、彼は作曲の教師としても大変すぐれていると思います。私自身は横井さんのことは直接には知りませんが、彼女はジャレル氏の弟子のひとりと聞いています。私は彼の判断に全幅の信頼を置いていますので、今回の演奏会のために推薦した新鋭ということですから、大変期待しています。現在、横井さんは「メモリウムⅢ」を改訂中なので、完成を待っているところです。私は先入観を持ちたくないので、初版ではなく、これから届く改訂版にのみ、新しい気持ちで向き合っていくつもりです。
現在、創作界には大変若く優秀な新人がたくさんいますし、私が面白いと思う方ももちろんいるのですが、具体的なお名前は挙げずにおきましょう。うっかりお名前を挙げ損ねてしまう方がいるといけませんので。ともかく今回の日本での夏の一連のフェスティバルで、このような現代の音楽を取り上げてもらうことは大変喜ばしいと考えています。

今回のジャレル作品を軸にした演奏会には、多く音楽ファンが期待しています。最後に演奏会を楽しみにしている日本の皆さんに一言お願いします。

耳を研ぎ澄ませ、そして耳と心を自由にして、聴いていただきたいと思います。誰もが好むと好まざると、自分の生きている時代から逃れることはできません。ですから自分が今、生きている世の中、そしてこの同時代の作品にもぜひとも関心をもっていただきたいのです。そしてジャレル作品を中心に、新しい音楽世界を体験できる8月30日の演奏会をぜひ楽しんでいただけば嬉しいです。