サントリー ワイン スクエア

異次元突入を確信

2019年も、ふと気が付くと春の息吹を感じる3月となりました。フランスでは昨年11月に始まった『黄色いベスト運動(デモ)』が全仏中に広まり、一部で深刻な暴動にまで発展しています。パリほどではないもののボルドーでも道路封鎖、中心部での破壊行動が行われ、エリアによっては高校での暴動まで起こっています。驚くべきはフランス人の70%が『黄色いベスト運動』に共感を示している事で、単なるガソリン増税への抗議ではない奥深い背景が横たわっており、着地点が見えにくい状況と言えます。米中経済戦争、ブレクジットなど、見渡せば至る所に不安定な状況が広がっていますが、それが理由ではないのでしょうけど、今年は例年より時間が経つのが早く感じられます。

それもそのはず、気象データを見るとそれも納得です。今年2月のボルドーの平均気温は平年より+2.7℃、最高気温は2月21日の25.7℃と過去最高記録の1926年の26.2℃に次ぐ記録でした。ラグランジュに設置してある気象台でも2月の平均気温は平年の+1.7℃を記録しています。体感的には3月下旬のような温かい好天が2週間以上続き、2月末にはアーモンドやビオレはもちろん、チューリップなど春の花々が我先にと花を咲かせ、もう春が到来したのかと錯覚するほどでした。こうなると、我々ワイン生産者は気が気でなくなります。ぶどうの萌芽が早まれば、霜害のリスクが高まるためです。2017年の悪夢はまだ一昨年の事で、農業従事者にとっては昨日の事のように感じられるのです。

ワイン関係の重要イベントも何故か今年は前倒しです。2018年ヴィンテージを一堂に集めてテイスティングするプリムール試飲会は4月2日から始まり、例年6月開催のVINEXPOも今年は5月中旬に開催されます。これも時の過ぎるのが例年より早く感じられる理由かもしれません。

プリムールへの準備も着々と進んでいます。アッサンブラージュは1月中旬に早々と終了し、3月にはクルチエとの試飲会、ネゴシアンへのお披露目、そしてジャーナリストの試飲会へと連なっていきます。

では、前号で『異次元への突入』と表現したワインの仕上がりについてご報告しましょう。 ラグランジュのファースト比率は55%と、1984~86年を除いて、初めて明確に50%を上回りました。シャトーもののアルコール度数は14.5度とニューワールド並みの度数となりました。でもご安心ください。酸もしっかりと残っているため味わいはしっかりとボルドースタイルに仕上がっています。アルコール度数、そして全てのエレメントが高い次元でバランスが取れた2018年が、世紀のヴィンテージと評価されるのか、あるいはボルドーらしからぬスタイルと言われるのか、審判の下りる4月のプリムール試飲会が待ち遠しいかぎりです。

アッサンブラージュが終わった現在、個人的には過去最高の出来となった2016年を超えた可能性が確信に変わりつつあります。偉大な2016年を収穫した時には、これと並ぶ、あるいは超えるヴィンテージがこんなに早くやってくるとは想像もしていませんでした。でもこれこそが、自然と向き合う農業の面白さと言えるのでしょう。

最後に今回も、何枚かの写真でラグランジュの近況をお伝えしてレポートを終えたいと思います。まず写真1と2。これは新年早々に始まったアッサンブラージュ時の写真です。シャトーもののベースワインは、この時点でグラスの向こうが全く見えないほどの驚きの濃さでした。

写真3は、昨年秋の収穫後に着工した樽貯蔵庫第4棟建設工事の映像です。ラグランジュには奥行き108mの樽熟庫が3棟並び、今でも思わず息を飲む壮大さを誇っています。しかし2009年の白用の畑の拡張、そして2012年のオー・メドック用の畑の購入で、徐々に樽熟庫が手狭になってきたため、2年かけて第4棟を建てる事としました。写真4に写っているのはラグランジュ初代社長のデュカス夫妻です。前評判の高いプリムール2018の試飲に立ち寄られ、第4棟の建築現場も視察して行かれました。ラグランジュ取得直後の第一期大型設備投資を陣頭指揮したデュカス前社長も、昨今の第二期大型投資で更に進化を遂げるラグランジュの姿に感慨深そうでした。

写真1:新年早々(1月4日)に行われた第1回アッサンブラージュの光景
写真1:新年早々(1月4日)に行われた第1回アッサンブラージュの光景
写真2:シャトーもののベースワインは、光を通さないほどの驚きの濃さ
写真2:シャトーもののベースワインは、光を通さないほどの驚きの濃さ
写真3:樽熟庫第4棟の、屋根を除く骨組み部分がほぼ完成
写真3:樽熟庫第4棟の、屋根を除く骨組み部分がほぼ完成
写真4:デュカス前社長夫妻が来訪し建築現場を視察
写真4:デュカス前社長夫妻が来訪し建築現場を視察