連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2016年01月28日 希望を保ち続けて

明けましておめでとうございます・・・と書く手も一瞬躊躇される今年の年明けです。昨年1月のワイナリー便りでは、『衝撃的なテロでの幕開け・・・』との出だしで記事を書きました。まさか11月にそれを上回るテロが発生するとは思いもよりませんでした。不幸にも巻き込まれてしまった方々には只々ご冥福をお祈りするのみです。新年早々、世界中で経済の先行きへの不安から株式および商品市場が下落し、明るい話題は見えてきませんが、至福飲料であるワイン生産に携わる者として、常に希望だけは保ち続けられるよう、前向きで明るい話題を提供していきたいと思います

前号にて2015年ヴィンテージは2010年以来の待望のグランミレジムが期待され、グランミレジムになるための5つの条件のうち4つの条件をクリアしたことを報告しました。そして最後の5つ目の条件、すなわち収穫時の気まぐれな雨の影響がどのくらいであったか次第と書きましたが、そのラグランジュのアサンブラージュは先週終了しました。他のシャトーのワインをまだ試飲していませんので、今日お伝えできるのは、あくまでラグランジュに関する私個人の印象ですが、2000年代でグランミレジムと言われる2005、2009、2010のアサンブラージュ時の印象と比べますと、力強さ、凝縮感はほんの一歩だけ及ばなかったように思います。ただ限りなくそのレベルに近い良年であることは間違いありません。もちろんプリムール試飲会さえ、まだ2ヶ月以上先の、あくまで現時点での印象に過ぎませんので、プリムール試飲会、そして瓶詰後の皆さんの評価が私の印象を上回るという希望は保ち続けたいと思います。他のAOCの情報に関しましては、あくまで生産者間情報からですが、メルロ主体の右岸はグランミレジムとの噂が飛び交っています。カベルネ主体の左岸では収穫期に雨が比較的多かった北部より南部のAOCが若干優位、との噂です。いずれにしましてもアサンブラージュ時のスタッフの表情(写真1)が物語っているように、2015年はどの産地でも笑顔あふれるヴィンテージになったのではないでしょうか。

最後に畑作業でのトピックをひとつ。2014年8月号、そして2015年5月号でこれまで白用に使っていた4haの畑を抜根し、新植へ向け排水設備の設置や牧草による土壌の活性化などの土台整備を行ってきた話をしました。準備が整った畑に、この12月から1月にかけてメルロの植え付けを行い、2013年の抜根から3年がかりで改植が終了しました。写真2は短い支柱を機械で設置した直後のもので、写真3はその支柱の横に植え付けた苗木です。苗木上部が赤いのは、台木に接ぎ木した部分の湿度を保ち、活着を良くするために固めた蝋で、春先に新芽はこの蝋の殻を破って萌芽してきます。
12月から1月の植え付けと書くと、なぜそんな寒い冬に?と疑問に思われるかもしれません。葡萄の新植が春先の3月〜5月に行われることが多いのは確かです。一方で、土壌中の水分が豊富にあり、かつ苗の芽が休眠している冬場(12〜2月)の植え付けも活着率が春先同様に非常に良好な事が知られています。最も避けるタイミングは7月以降の極度の乾燥時です。秋の植え付けも可能ではありますが、その場合には十分発根した苗をポットのままで植え付けるなど特殊な方法でないと十分な活着率が得られません。

今年はエルニーニョの影響で欧州は異常な暖冬が続いています。12月の平均気温は9.3℃と平年の6.4℃を3℃も上回る気温で、例年朝は-2〜-4℃まで下がるメドックでも今冬はほとんど氷点下に下がる事がありません。セップ茸の後に収穫され晩秋の山の幸として知られるシャントレル茸は、例年でしたら12月中旬ぐらいまでが旬のキノコなのですが、今年はなんと1月中旬になっても豊富に収穫されています(写真4)。
新植した葡萄の苗木には好条件と言える今年の冬ですが、あまりに早い萌芽は春先の霜害リスクを高めますので、一度本格的な寒さが待たれるこの頃です。

アサンブラージュの作業の間にもスタッフの表情には笑顔が。
写真1:アサンブラージュの作業の間にもスタッフの表情には笑顔が。
12月〜1月に植付の終了した元白用の畑
写真2:12月〜1月に植付の終了した元白用の畑
短い支柱に添う様に植え付けられた苗木
写真3:短い支柱に添う様に植え付けられた苗木
1月中旬でも豊富に収穫されるシャントレル茸
写真4:1月中旬でも豊富に収穫されるシャントレル茸
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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