連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2010年6月24日

遅れに遅れたプリマーも6月10日を境に、急に動き始めました。プリマーを世界中のインポーターに販売するネゴシアン(ワイン商)が、各インポーターからの購入の意志を確認するには最低でも2週間必要と言われています。7月上旬から始まる長期ヴァカンス前に販売を終わらせたいネゴシアンにとっては、6月中旬までに販売を開始しないシャトーは身勝手で強欲なシャトー以外の何物でもありません。一方でシャトーにとっては、他のシャトーより先に出すことは、プリマー販売価格を最大にする機会を逃すばかりでなく、もし判断を間違えればステイタスの序列を壊しかねないリスクを負う事となります。歴史的なヴィンテージとの前評判の高い今回のプリマーでは簡単に判断できないという事情があります。

こうした綱引きで遅れたプリマーでしたが、ラグランジュは6月14日に開始しました。一級も18日のラフィットを皮切りに他の一級シャトーが追随し、ようやくプリマーも終焉を迎えつつあります。前回の便りにてパーカーがONCE UPON A TIME (1899,1929,1949,1959,2009)と総括し、とんでもない価格となる可能性に触れていたことをご報告しましたが、結果はと言いますと、まさに狂乱とも言うべき結果となりました。前年価格の4倍以上となった一級シャトーのシャトー出し価格は、比較となる前回の偉大なヴィンテージの2005年をも凌駕し、史上最高値となっています。もし経済危機でなかったとしたら、と想像するだけで鳥肌が立ちそうです。

ラグランジュも他のシャトー同様、2005年を上回るこれまでの最高値で完売する事が出来ました。しかし、その価格は一級シャトーの10分の1にも満たない価格でしかありません。我々が目指す『消費されるワインの最高峰を目指す』という意味では、狙い通りの結果であったと満足しているのですが、一級やスーパー二級の価格にはただただ驚くばかりです。

では何が今回のこの高値を支えたのでしょうか。日本と韓国を除くすべての新・旧市場が買ったという話も耳に入ってきますが、この高値を支えたのは予想どおり中国市場でした。中国のインポーターが買ったのみならず、将来の中国での販売に確信を持ったネゴシアンがリスクを負って買いを入れたという情報も入ってきています。中国、恐るべし・・・です。

そんな中国の熱気を私自身も肌で感じる事ができたのは、5月末のVINEXPO香港でした。目にしたのは、詰め掛けた参加者を入場制限する程の賑わいとなったグランクリュの試飲会場です。これがシャトー側の値付けを強気にさせた事、そしてネゴシアンをリスクテイクの背中を押した事は容易に想像できます。

VINEXPO香港の機会を利用し、今回初めてインドネシアへも足を延ばしました。アジアでは香港と並びシンガポールがワインの先進国として知られています。インドネシアも遅ればせながら、ソムリエ協会の立ち上げなどワイン消費国としての胎動が活発化していました。今回の訪問のきっかけは2年前の日本での試飲会にさかのぼります。参加されていたジャカルタ日本人会のお二人に、ジャカルタのボルドーワインの会の精力的な活動のお話を伺い、もし機会があればぜひセミナーをと依頼されたことが始まりです。その後もボルドーワインの会の皆様から熱いラブコールを何度も頂いたことから、今回のテイスティングセミナーの実現に繋がりました。私も知らなかったのですが、イスラム教の国でもあるインドネシアではワインの通関も非常に厳しい等、開催には幾多のハードルがありました。しかしジャカルタ日本人会のメンバーの皆様が、都度、知恵と努力を惜しまずに粘り強く頑張ってくださったお陰で、短期間の準備にも関わらず素晴らしいテイスティングセミナーを実施する事ができました。

日本人が所有するフランスシャトーのワインセミナーを、日本でも、そしてフランスでもないインドネシアの地で、日本人が一緒になって盛り上げる事が出来たという事にとても感慨深いものがありました。『ワインは、時を超え雄弁に物語る』という表現を聞いた事がありますが、今回、時のみならず場所をも超え、物語ってくれるという認識を新たにしたところです。

開催に向け、一丸となってお膳立てをしてくださったジャカルタ日本人会、特にボルドーワインの会の皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

熱気に包まれるVINEXPO香港のグランクリュ試飲会場。
熱気に包まれるVINEXPO香港のグランクリュ試飲会場。
ラグランジュのテーブルでも積極的な質問が。
ラグランジュのテーブルでも積極的な質問が。
ジャカルタ日本人会でのテイスティングセミナー後に記念撮影。
ジャカルタ日本人会でのテイスティングセミナー後に記念撮影。
夜のワインメーカーズディナーでボルドーワインの会の皆様と。
夜のワインメーカーズディナーでボルドーワインの会の皆様と。
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。  
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