連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2009年5月28日

昨年9月より世界中が巻き込まれた経済危機から半年、巷でのキーワードは『100年に一度』のようですが、ご多聞に漏れずボルドーのプリマーも大嵐の状況となっています。経済が急速に悪化した昨年末には『ヴィンテージ2008のプリマーは実施しない』という噂がボルドー中を駆け巡りました。年が明けてもシャトーコス・デストゥールネルのプラッツ氏がプリマーを9月に延期すべきと言い出すなど、情報に右往左往させられる状況でした。

この状況に変化を与えたのは、3月31日〜4月2日にボルドーで行われた恒例のユニオン・デ・グランクリュ・プリマー試飲会です。ヴィンテージ2008は予想外に品質が良いとの噂が昨秋からあったものの、涼しい夏と9月前半までの悪天候による品質への懸念から、実際にサンプルをテイスティングするまでは品質については皆が半信半疑の状況でした。しかしプリマー試飲会でサプライズに近い品質であることが確認されると、買い手のネゴシアン(ワイン商)、さらにはクルチエ(ワインの仲買人)からも実施すべきとの声が高まりました。もちろん価格を顧客が納得するレベルまで下げる事が前提であったことは、言うまでもありません。

プリマー試飲会の終了後、まず先頭を切って開始したシャトーが、サンテミリオンを代表するシャトー・アンジェリュスであったこともサプライズでした。4月6日に前年比−41%でオファーを開始したのですが、市場はこの勇気ある決断に冷ややかな反応でした。この恐怖感のなか、続いて勇断したシャトーは4月15日の一級のシャトー・ムートン・ロートシルトと二級のシャトー・レオヴィル・バルトンです。これに他の一級シャトーも前年比45%の価格ダウンで追随した事で、その後は雪崩を打ったような開始ラッシュとなりました。通常ならトリをとるはずの一級シャトーが先頭を切ってオファーを開始した事、さらにインポーター(ワイン輸入業者)やネゴシアンの購入資金が限られた現況への不安から、出来るだけ早く開始したいというシャトーの思惑が背中を押したとも言えます。
しかし市場の反応は予想通り極端で、シャトー・ランシュ・バージュやシャトー・ベイシュヴェルなどブランド力のあるシャトーは日数がかかりながらも完売に漕ぎつけた一方、それなりの知名度にもかかわらず、オファー数量の10%〜30%しか売れないシャトーも多く見受けられる厳しい結果となりました。

ラグランジュは慎重に状況判断を進めてきましたが、近隣のシャトー・ベイシュヴェルとシャトー・タルボが4月20日、4月21日と相次いで開始してきたため、4月27日にプリマー・オファーを開始しました。価格は、シャトーもので約12%ダウン、フィエフ(※1)は現状でもリーズナブルな価格との判断から、昨年と同じ価格でのオファーとしました。
結果はと言いますと、ネゴシアンからの反応は得意とする市場によって差は見られたものの概ね良好で、日数はかかりましたが、5月12日に完売することができました。これは、ラグランジュのサポーターとして安定的に購入を継続してくださる顧客の方が多数いらっしゃる事を示しており、ここ数年続いた投機的な動きとは一線を画し、『飲んでいただけるワインの最高峰を目指す』という我々の取り組みが正しかったことを証明してくれたものと思います。経済状況の厳しさは増すばかりですが、市況に左右されることなく、ラグランジュの目指す方針は今後も地道に継続していくつもりです。

最後に、ヴィンテージ2009の生育状況にも触れておきましょう。1月、2月と平年を約1℃下回る気候が続き、3月は逆に平年を0.5℃上回ったのですが挽回に至らず、遅い萌芽となりました。4月の気温は平年を0.8℃上回ったものの、雨の日が多かったため日照不足の気候となり、生育は平年よりも1週間以上の遅れが見られます。5月に入り天候は回復しつつありましたが、5/11、5/13と各地で雹(ひょう)が降り場所によっては大きな被害が出ています。幸いラグランジュでは降雹はありませんでしたが、マルゴーやサンテミリオンの一部では壊滅的な被害の畑もあるようです。被害が軽い事を祈るばかりですが、今後数日も不安定な気候が続き、再度、降雹の恐れがあるとの予報ですので、予断を許さない状況が続きます。
一連の不安定な気候が今後のワイン市況を暗示するものでないことを祈るばかりです。

※1 レ フィエフ ド ラグランジュ。
シャトー ラグランジュのセカンドラベル。セカンドとはいえ、その品質の高さに定評がある。

プリマー試飲会場光景(ブラネール・デュクリュ)
プリマー試飲会場光景(ブラネール・デュクリュ)
シュヴァル・ブランでの試飲会場を飾るレ・ザルムの花々。
シュヴァル・ブランでの試飲会場を飾るレ・ザルムの花々。
5月11日の降雹で、エイジンヌの路上はあたかも雪化粧のよう。
5月11日の降雹で、エイジンヌの路上はあたかも雪化粧のよう。
キャンディー大の雹(Sud Ouest紙5月12日掲載写真より引用)
キャンディー大の雹(Sud Ouest紙5月12日掲載写真より引用)
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。  
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