サントリー ワイン スクエア

気象異変と業界異変

今年の暖冬に関しては、フランスのみならず世界各地で挨拶がわりに使われるほどグローバルな話題となっています。とはいうものの、特に年が明けてからのボルドーの暖冬は驚くべきもので、振り返ってみますと冬らしい冬はクリスマス前後の10日間ぐらいしかなかったような感じでした。1月24日にはボルドーでは珍しい雪景色が見られましたが、例年であればメドックでは朝方は、-4 ~ -5度程度が普通なのに、この雪の日でさえ最低気温は -2度程度にしか冷えませんでした。気象台のデータによると、1、2月の平均気温は平年より2度以上高く、特に一日の最低気温の平均に限ってみると3度以上高いというデータになっています。ちなみに2月の最低気温の平均は6.8度で、これは平年2月の3.4度を上回るばかりか、平年3月の最低気温平均の4.6度をも大きく上回っていることには驚かされます。

この気候でぶどうの萌芽もかなり早まりそうです。先行指標となる柳の芽吹きは既に平年を2週間以上早いペースで進んでいますので、ぶどうも動き出すのは時間の問題でしょう。萌芽の早い年の心配は霜害ですが、これは4月の天候次第ですので今から心配しても意味がありません。一般的には、早い萌芽はその後の気候しだいではありますが、長い生育・成熟期間を期待できることから品質にとってはプラスと考えられます。

さて、穏やかな気候とは一転、ボルドーのワイン業界には思いもよらぬ大嵐が吹き荒れました。日本でも一般紙に掲載されましたので既にご存知の方も多いとおもいますが、ボルドー行政控訴院(高等裁判所級)は2月27日に、2003年に制定されたメドック地区のクリュ・ブルジョワ新格付を無効とする判決を言い渡しました。これは新格付に漏れた約70シャトーが同格付の無効を訴えた訴訟への判決で、判決は1932年制定の格付けへの回帰、すなわちクリュ・ブルジョワの資格を剥奪された約200シャトーの復帰、および2003年に制定された3段階のヒエラルキー(<クリュ・ブルジョワ・エクセプショネル>、 <クリュ・ブルジョワ・スペリュール>、<クリュ・ブルジョワ>)を廃止し、それ以前の『クリュ ブルジョワ』のみの1階級に戻すことを命令しています。

メドックの生産量の約40%を占めるクリュ・ブルジョワの最初の格付けは1932年に行われ、その後2度の改訂が行われましたが法的な裏付けがなかったため、醸造家、クルチエ(※1)、ネゴシアン(※2)らからなるボルドー商工会議所の審査委員会が2003年に新たな格付けを行い、格付けは農務省の政令によって認められることとなっていました。新たな格付けは、ボルドーのワイン危機の打開策の一環として、格付けにあぐらをかいた低品質ワインの駆逐という意味では一定の評価も受けましたが、444シャトーを一気に247シャトーへほぼ半減させた過激さと、選考にあたったジャッジの構成に問題があったため、改革は振り出しに戻ることとなりました。

また、今回の判決は10年に一度の格付け見直しを実施している、サンテミリオン グランクリュ格付けにも飛び火し訴訟に発展しており、そもそもボルドーの格付けとは何なのかという、根本的な問題をあらためて提起することとなりました。想定された事とは言え控訴審でこのような結果となったことから、当面の格付け再検討の可能性は限りなくゼロに近づいたと思われますが、クリュ・ブルジョワのみならず、今回の判決がボルドーのファインワイン業界にどのような影響を及ぼす事となるのか、今後の動向に注視していく必要があります。

暖冬ながら、1月24日夜半の雪でシャトーは期せずして雪化粧。
暖冬ながら、1月24日夜半の雪でシャトーは期せずして雪化粧。
10cm強の積雪で、ヴィンヤードも白銀の世界に。
10cm強の積雪で、ヴィンヤードも白銀の世界に。
湿った雪の重みで、シャトー横にある樹齢200年超の樫の大木もあえなく倒木。
湿った雪の重みで、シャトー横にある樹齢200年超の樫の大木もあえなく倒木。
  • ※1 クルチエ:ワインの仲買人
  • ※2 ネゴシアン:ワイン商