連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2011年12月8日 「多忙な季節」の締めくくり

11月のボルドーは曇り空と雨が多いのが普通です。わたしはまだボルドーに来て3年目なので冬は2回しか経験していませんが、ずっと晴れの続く10月から11月に入ると一転して連日雨の印象がありました。今年は、というと11月に入ってからは比較的好天が続いています。夏の天候が湿っぽかった分、今バランスをとっているのかもしれません。
寒くなるこの季節、ボルドーでも風邪が流行ります。面白いことに、こちらでは、風邪の原因は「湿った空気が細菌やウイルスの活動を活発にするから」といいます。「乾燥が原因」という日本とは正反対ですね。

さて、ラグランジュでは今年収穫したすべてのブドウの醗酵が完了しました。「やっと終わった!」と、ここで一息つきたいところですが実はまだ大変な作業が残っています。ワインの液体をタンクから抜き出すのはポンプがやってくれますが、一緒に醸していた皮や種などの固形分が大量にタンクの中にあるのです。固形物ですから機械やポンプでは出来ません。そうです、この作業は人間がやるしかないのです。タンクの中に人が入って排出作業を行うわけです。
長靴に合羽の上下という完全装備で下部扉からタンク内に入るのですが、その前に絶対にしておかないといけない事があります。タンク内に充満していた二酸化炭素を放出する作業です。これをやらないでタンクに入ると死んでしまいます。
まずできあがったワインをタンクからポンプで抜きます。そしてタンクの下部扉を解放してそのまま数時間さらにワインの液が自然落下するのを待ち、同時にタンク上部から新鮮な空気を送り込みます。
タンクに入るとすぐにワインの香りとアルコールの刺激にむせそうになります。堆積物の量はもの凄い量です。自分の顔の高さくらいまであります。勇気を奮い起こして果皮や種の山に立ち向かいます。大きいフォーク(酪農家で干草をすくうようなフォーク)でそれを崩し、スコップですくってはタンクの外に出し、またフォークで崩してはスコップでタンクの外へ…。このような作業を延々と繰り返します。タンク内は暑く足元が滑ります。特に下のほうに堆積したブドウの皮や種は酵母のオリと一体となってがちがちに固まっており、崩すのにたいへん力が要ります。15分も経つと全身汗だくになって腕に力が入らなくなり意識が朦朧となってくるような作業です。
ちなみにタンクの外に出したこれらの皮や種にはまだワインが結構沢山含まれています。これを圧搾するとプレスワインが取れます。

今書いたように1本のタンクの作業だけでも大変そうですよね?この作業を朝から晩まで、毎日毎日、全ての醗酵タンクが終わるまでやり続けるのです。
この作業が終わると、短期間でブドウからワインへと大きな変化を遂げるステージから、樽の中で時間をかけ少しずつ変化するステージに入ります。ずっとつきっきりでワインに寄り添って行ってきた作業がようやく一段落するのです。
今年の収穫と醸造の区切りとして従業員一同が集まって収穫打ち上げ会が開催されました。会では仕込み期の重労働をこなした従業員への慰労のため「レ フィエフ ド ラグランジュ1995年」および「シャトーラグランジュ1985年」の「ジェロボアムボトル」(容量5L)がふるまわれました。16年、26年という長期の熟成を経てもなお、フレッシュな果実香が今でもしっかり保持されていることに驚きました。5000mlという大容量ボトルならではのゆっくりした熟成の世界なんですね。
ワインを味わいながら今年の収穫時期の苦労を振り返りました。皆思い思いに仲間と談笑し、今年のワインの出来についての議論に花を咲かせるうちに、すっかり深まった秋の夜も更けていくのでした。

ブドウの皮や種を出す作業(タンク外より)
ブドウの皮や種を出す作業(タンク外より)
ブドウの皮や種を出す作業(タンク内より)
ブドウの皮や種を出す作業(タンク内より)
収穫打ち上げ会の様子
収穫打ち上げ会の様子
レ フィエフ ド ラグランジュのジェロボアムボトル
レ フィエフ ド ラグランジュのジェロボアムボトル
篠田健太郎
ワイン生産研究本部、登美の丘ワイナリー等を経て2009年9月よりボルドー第二大学醸造学部に留学中。
 
現在シャトーラグランジュの販売は(株)ファインズで行っております。
詳しくは(株)ファインズのホームページをご覧下さい。 http://www.fwines.co.jp/
 
連載トップへ戻るバックナンバー一覧へ