サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2025
CMGプレミアム イスラエル・チェンバー・プロジェクト
メンバーインタビュー&演奏曲目紹介
アサフ・ヴァイスマン(ピアノ)
ティビ・ツァイガー(クラリネット)
ミハル・コールマン(チェロ)

【出演者・曲目変更のお知らせ】
6月19日(木)・21日(土)のイスラエル・チェンバー・プロジェクト(ICP)に出演を予定しておりました、ミハル・コールマン(チェロ)、ティビ・ツァイガー(クラリネット)、アサフ・ヴァイスマン(ピアノ)の3名は、昨今の国際情勢の影響により渡航ができないため、来日がかなわず、当公演への出演ができなくなりました。今回はゲストを迎え、曲目を一部変更して開催いたします。
伊東裕(チェロ)、コハーン(クラリネット)、秋元孝介(ピアノ)が両日とも出演し、上野星矢(フルート)は19日(木)にも出演いたします。
本インタビューの情報は掲載時点のものとなります。最新情報は下記リンクより公演詳細ページをご確認ください。
イスラエルとニューヨークを拠点とする室内楽のアンサンブル、イスラエル・チェンバー・プロジェクト(ICP)が、サントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンを通じて初来日を果たす。2008年に弦楽器、管楽器、ハープ、ピアノ奏者を含む8人のミュージシャンで結成されたICPは、現在は12人のコアメンバーを中心に、演奏レパートリーに合わせてゲストも招聘しながらユニークな活動を展開している。
今回は、2月27日にニューヨークで演奏会を終えたばかりのメンバーのうち、ピアノのアサフ・ヴァイスマン、クラリネットのティビ・ツァイガー、チェロのミハル・コールマンに話を聞くことができた。

「音楽的、個人的、文化的」な一体感と、幅広いバラエティに富んだサウンド
話を聞いたのは演奏会の翌朝だったが、演奏会の後は(おそらく身体が興奮しているからだろう)、眠れないことがほとんどだという。そんな寝不足状態に加え、この日のツァイガーとコールマンは、この後、イスラエルに向かうという忙しい朝だった。それにも関わらず、彼らが気持ちよく積極的に時間を割いて語ってくれたのは、ICPがあくまでメンバーが活動を自律的に主導する、いわばミュージシャン・コレクティブとして、メッセージの発信に積極的だからだろう。
ちなみにヴァイスマンはICPのエグゼクティブ・ディレクターを、ツァイガーはアーティステイック・ディレクターを務めている。そんな2人はICP運営の中心的存在であることは間違いないのだが、3人の語りは、お互いがお互いのセンテンスやアイディアをいつ引き継いだのかがわからないくらい、滑らかだ。そんな3人から、ICPメンバーのひとりひとりの声が、文字通り同じ重さを持っていることは容易に想像できる。

ICPのユニークさとして、彼らはまず、活動を超える、長年にわたって培われた「音楽的、個人的、文化的」な一体感を挙げた。イスラエルに生まれて幼少の頃から楽器に取り組み、やがて欧米で研鑽を積んだという音楽的な旅路を共有する彼らだが、メンバーによっては小学生の頃からという長い付き合いであり、全員がお互いの演奏を熟知しているという。例えばハープのシヴァン・マゲンとチェロのコールマンの共演は、「楽器の方が彼らより大きかった頃」から続いているそうだ。
また、彼らの強みとしては、いつも同じグループで演奏するトリオやカルテットとは異なり、ICPでは、幅広いバラエティに富んだサウンドを持つメンバーがそれぞれ活動を続けながらも、アンサンブルとして統一感を持った演奏を長年続けていることが挙げられるという。弦楽器に加えて、ハープ、フルート、クラリネット、ピアノを含めたユニークなメンバー構成が、レパートリーを多彩にしていることも見逃せない。メンバーを念頭に置いた新作委嘱にも積極的だ。

「プロジェクト」であることの意味
そして、「アンサンブル」でもなく、「合奏団」でもなく、「プロジェクト」という彼らの名前だ。それは、彼らのミッションには、演奏することだけではなく、社会的な要素もあるからだという。
まずイスラエルで教育を受け、海外(欧米)で勉強してキャリアを積んだという彼らは、彼らが育ったイスラエルにお返しをしたいという思いが常にあるという。また、イスラエルの外に向けて、彼らはイスラエルの文化の一部を代表する存在でありたいと考えてもいるそうだ。彼らがイスラエルの作曲家による作品を中心に新作を委嘱することに積極的であるのも、そうした思いが背景にある。
ICPは、様々な文化的経済的背景を持つ学生に向けたマスタークラスやレッスンを通じたアウトリーチなど、社会的、教育的活動にも積極的だ。サントリーホールでの演奏会には、後述するように日本の演奏家も参加するが、彼らが言うところの「地元の演奏家との演奏」も、ICPの地域コミュニティとの関わりを積極的に追求する姿勢と合致する。


つまり、彼らの芸術的観点には「プロジェクト」的な要素が含まれていることが、その名前の由来だという。そして、彼らはICPの支援者や寄付者が、単にツアーを行うための飛行機の費用に寄付しているのではなく、彼らの社会的活動や教育活動という使命を達成するために支援してくれているのだと付け加えた。
「私たちがこれほど長く活動を続けてこられたのは、このミッションを強く支持しているからだと思います。それは、若い音楽家が求めるような(単なる演奏活動といった)基本的な要素だけでなく、より根本的で奥深いものを含んでいるということです。イスラエル人として、そして海外で暮らすイスラエル人として、多様な楽器を揃えた室内楽グループを持つことは私たちにとって特別な意味を持っています。そして私たちは、本物の音楽、あらゆる音楽の一部となりたいと願っています。」(ツァイガー)

ICP初来日公演に対する想い
コアメンバーはこれまでに増えることはあっても、一人も辞めたことがなく、17年にわたりアンサンブルとして演奏を続けてきたことが彼らの誇りだという。ゲストとして参加するミュージシャンも、長年にわたり共演を重ねてきた者が多いが、今回シーズン・ゲストとして参加するヴィオリストの赤坂智子は、ツァイガーとICP創立前から共演している。ICPとの共演も10年以上にわたる彼女は、コアメンバーではないものの、「私たちの一員」「ファミリー」と感じられる存在だという。ちなみに、今回の来日は、2019年に赤坂が、ハネムーンで日本を訪れていたヴァイスマンをサントリーホールに紹介したことがきっかけだという。
コールマンは八王子のガスパール・カサド国際チェロ・コンクール入賞経験を持つなど、個人として日本を訪れたことのあるメンバーもいるが、ICPとしての来日は今回が初めてとなる。彼らとしても、そのユニークさを最大限に発揮しようと、初来日に大きな期待を寄せているようだ。
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第1日目(6月19日)の曲目について
曲目はインタビュー掲載時点の情報となります。最新情報は下記リンクより公演詳細ページをご確認ください。
第1日目に演奏されるシューマン:幻想小曲集 作品73は、筆者もニューヨークで聴いたが、もともとクラリネットとピアノを想定して書かれた曲を、彼らはクラリネットとハープで演奏する。マゲンは、よくピアノパートを(編曲することなく)そのままハープで演奏するとのことだが、クラリネットのツァイガーは、ハープとの共演ではピアノとは全く異なるアプローチで演奏をするそうだ。その理由を尋ねると、「彼は爪弾くから」と笑いながら答える以上の説明はなかったが、二人の清澄なサウンドが醸し出す緊張感には、エレガントでありながら非常に屈強な美しさに満ちていた。この「エレガントな屈強さ」という印象は二人だけにとどまらず、演奏会全体を通じて感じられたものだった。ツァイガーのふくよかで柔軟なクラリネット、そしてハープ演奏に対する繊細で儚いといったステレオタイプを覆す、マゲンの輝きに溢れた演奏は、間違いなくこの日のハイライトの一つだった。
ハイドン:トリオ ト長調 Hob. XV: 15も、元は鍵盤楽器とヴァイオリン、チェロによるトリオだが、今回はICPらしくハープとヴァイオリン、チェロで演奏される。ブルッフ:8つの小品 作品83は、クラリネットとヴィオラ、ピアノのために書かれた作品で、「トモコ(赤坂)との共演が楽しみ」だという。
マルティヌー:室内音楽第1番 H. 376は、赤坂を含めた6人全員で演奏されるが、ピアノとハープが共に含まれる稀な作品であり、両楽器が「シンフォニックな種類のサウンド」を与え、彼らのユニークさを際立たせる作品とのことだ。ICPが初めて録音したCDにも収録されているとのことだが、滅多に演奏されることがないというこの曲をライブで聴ける、貴重な機会となりそうだ。
第1日目の最後は、ヴァイスマンが「室内楽レパートリーのハイライトのひとつ」と語るブラームス:ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 作品60で飾られる。この曲はICPも何度も演奏しているが、赤坂との共演は今回が初めてとのことで、彼らも新しい発見を楽しみにしているようだ。
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第2日目(6月21日)の曲目について
第2日目のプログラムでは、赤坂を含む1日目の6人に加えて、サントリーホール室内楽アカデミーの元フェローである小川響子(ヴァイオリン)と上野星矢(フルート)もゲストとして迎えられる。
前述のように、ICPは委嘱作品やイスラエルの作曲家の作品の紹介をミッションのひとつに掲げているが、2日目に演奏されるギラド・コーエン :『蛍の哀歌』は、彼らのために作曲され、2017年に初演された作品だ。この作品は、クラリネット、ハープ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという、彼らのためならではの珍しい編成で作られており、唯一の目的である子孫を残すホタルの生涯を美しく描いたものだという。
2日目の後半で演奏されるベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」は、ICPがユヴァル・シャピロに委嘱し、2024年に初演されたばかりの室内アンサンブル用編曲版で演奏される。交響曲、特に「英雄」のようにシンフォニックなスコープで知られる楽曲を取り上げることは大きな挑戦だったというが、テルアビブでの初演は大成功を収めたとのことだ。パーフェクトな編曲だと彼らも述べており、指揮者なしで室内アンサンブルとして演奏することで、この楽曲に対する全く新しい視点が得られるという。来年の米国初演に先立ち、イスラエル以外での演奏は今回の日本が初めてとなるとのことで、ICPのユニークさが際立つ演奏となりそうだ。
この他、2日目には、ハープと弦楽合奏のレパートリーとして最も頻繁に演奏されるというドビュッシー:『神聖な舞曲と世俗的な舞曲』や、ポーの「赤死病の仮面」というホラーストーリーを基にした、ハープと弦楽四重奏が共演するカプレ:『幻想的な物語』など、ハーピストをコアメンバーに持つICPならではの作品が取り上げられる。
以上、ハイドンから現代曲まで、250年以上にわたる音楽を網羅した、スタイルや作曲家の点でも非常に多彩な、ICPならではのプログラミングと言えるだろう。彼らも、このような多様なプログラムを通じて、広い視野でアンサンブルを提示することを目指しているようだ。
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日本の聴衆を前に演奏すること、サントリーホールに出演すること
最後に、日本に行くにあたり何を楽しみにしているか尋ねると、まず「フード!」と明るく答えて笑わせてくれた。そして、日本の聴衆を前に演奏すること、サントリーホールで演奏することへの期待を語ってくれた。
「サントリーホールは伝説的なホールであり、一流のアーティストたちが毎年出演する素晴らしい演奏の場です。そうした場の一員になれることは、非常に名誉なことです。また、日本ではクラシック音楽がより重要な役割を果たしていると理解しています。そんな日本に触れられることを、とても楽しみにしています。」(ヴァイスマン)
「ステージ上に100人ものメンバーがいるようなオーケストラの演奏とは違い、より親密な室内楽では聴衆が非常に大きな役割を果たします。私たちは聴衆を感じますし、親密さは聴衆にとっても同様です。日本の聴衆を前に演奏することを、とても楽しみにしています。」(ツァイガー)

左よりアサフ・ヴァイスマン(ピアノ)、ミハル・コールマン(チェロ)、ティビ・ツァイガー(クラリネット)