アーティスト・インタビュー

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サントリーホールでオルガンZANMAI! 「オルガン×オペラ座の怪人」

大木麻理(オルガン) インタビュー

飯田有抄 (クラシック音楽ファシリテーター)

大木麻理 ©Mari Kusakari

サントリーホールでオルガンZANMAI! 「オルガン×オペラ座の怪人」は、ミュージカルの名作『オペラ座の怪人』をオルガン・バージョンでお届けするコンサート。自他ともに認めるミュージカル好きのオルガニスト大木麻理さんが、ミュージカルの名曲の数々をダイジェストで、オルガンの多彩な音色とスケールでお届けします。
また、浦井健治さんによる朗読でさらに物語に浸っていただけるのも楽しみです。
大木さんにこれまでのミュージカルとのかかわり、今回『オペラ座の怪人』に取り組む期待や意気込みをお伺いしました。

大木麻理 ©Mari Kusakari

大木さんはオルガン界きってのミュージカル・ファンとのことですね。

はい、子どもの頃からミュージカルが大好きで、東京藝術大学のオルガン専攻に在学中も、ミュージカルの公演に通うためにアルバイトをしていました。オルガン専攻の学生というとバッハ・カンタータ・クラブなどに所属するのが普通なのですが、私は声楽科の学生たちが作ったミュージカル研究サークルで、お稽古ピアニストとしてお手伝いしていました。とにかくいろんな作品を観続けてきましたので、今回の企画のお話をいただいたときには本当に嬉しかったです。サントリーホールの方は私がここまでミュージカル好きだとはご存知なかったので、驚かれていましたが(笑)。

オルガンZANMAI! 昨年の公演より

そんな大木さんにとって、『オペラ座の怪人』はどんな作品ですか?

子どもの頃から数えると、劇団四季の公演やロンドンのプロダクションを含め、通算20回以上は観てきた大好きな作品です。第一に、アンドリュー・ロイド=ウェバーの音楽が大変素晴らしいですね。そしてもちろん、ガストン・ルルー原作の物語が魅力的です。悲劇なのに悲劇ではないというか、悪者であるはずのファントム(怪人)が愛すべき存在であり、なんとも言えない切ない世界観を持った作品です。

オルガンZANMAI! リハーサルより

今回は俳優の浦井健治さんの朗読と、大木さんのオルガン演奏によるバージョンという、まったく新しい『オペラ座の怪人』が誕生します。この公演のために朗読の台本も、オルガンの楽譜も書きおろされるとのこと。このインタビューを行なっている時点では、編曲は制作途中とのことですが、やはり印象深い名曲はすべてこの1時間のステージで演奏していただくことになりそうですね。

迫力満点な「序曲」、クリスティーヌが歌う「Think of Me」、そして私がもっとも好きな「The Music of the Night」など、有名曲が次々と登場する予定です。今回は浦井さんの朗読が物語を進行してくださり、音楽は歌の部分も含めすべてオルガンで表現していくことになっています。多くの方がすでに世界観を共有している名作ミュージカルですから、そのイメージを壊さずに、なおかつオルガンの魅力を活かした形でどのようにお届けできるか、私にとっても大きな挑戦です。
オルガンは、可能性のいっぱいある楽器ですし、大きなボリュームで迫力のある音楽を響かせるのは得意です。一方で不器用な一面もあります。例えば、他の楽器のように強弱を柔軟につけるのは難しいですし、歌のように繊細に聴かせたい部分を表現するにはさまざまな工夫が必要です。そんなオルガンで、「The Music of the Night」のように内なる思いが静かに高まっていく繊細な音楽をどう表現できるのか、難しい部分もあるとは思いますが、これから練り上げていくのが楽しみです。

オルガン:大木麻理

浦井さんの朗読とのコラボレーションにも期待が膨らみますね。

そうなんです。ですが、緊張してしまいそうです。というのも、もう何年も前ですが、私は浦井さんがミュージカル『エリザベート』でルドルフ役を演じられた舞台を拝見し、それ以来、お声、演技、立ち姿の美しさ、華のある存在感すべてに魅せられてきたのです。今回の共演はとても光栄なことですが、浦井さんの朗読に惹き込まれすぎて、自分の演奏を忘れないようにがんばります(笑)。

    浦井健治(ナビゲーター)

最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

これまで、ミュージカルの名曲を寄せ集めたコンサート形式の公演はあったと思いますが、ここまで一本の作品をしっかりと取り上げて形にするという試みは、おそらくオルガン公演史上初めてなのではないかと思います。
サントリーホールの壮麗な響き、巨大なオルガン、美しいシャンデリアの輝きは、『オペラ座の怪人』という作品の世界観を映し出す素敵な空間になると思います。生のオルガンで聴く迫力と、浦井さんの素敵な朗読によって、非日常をたっぷりと味わっていただきたいと思います。

大木麻理(オルガン) プロフィール

東京藝術大学、同大学院修士課程修了。DAAD、ポセール財団の奨学金を得てリューベク国立音楽大学、デトモルト音楽大学に留学し、満場一致の最優等で国家演奏家資格を得て卒業。第3回ブクステフーデ国際オルガンコンクール日本人初優勝、第65回「プラハの春」国際音楽コンクールオルガン部門第3位、チェコ音楽財団特別賞ほか国内外で多数受賞。CDアルバム『エリンネルング』『51鍵のラビリンス』がレコード芸術特選盤に選出されたほか、オルガンで参加した『Live from MUZA!』は、第58回レコード・アカデミー賞の特別部門(録音)を受賞した。ソロのみならず国内外のオーケストラ、アンサンブルと多数共演、ラジオやテレビ出演などオルガン音楽の普及に努める。豊かな音楽性と高度なテクニック、個々のオルガンの可能性を活かした音色作りは各所で高い評価を受けている。神戸女学院大学および東洋英和女学院大学非常勤講師、ミューザ川崎シンフォニーホールオルガニスト。

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