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サントリーが挑む「水から生まれて、水に還る」エネルギーの製造
──「グリーン水素パーク -白州-」が始動
サントリーグループは「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージとして掲げ、水源涵養活動「サントリー 天然水の森」などを続けてきました。水を守り、大切に使い、自然に還すこと、この継続的な取り組みを発展させ、サントリーとして初となるグリーン水素の製造に踏み出します。将来的には製造から販売までを目指すもので、国内初の取り組みとなります。
今回は、25年10月に実証を開始した水素製造施設「グリーン水素パーク -白州-」にプロジェクト立ち上げから携わってきた、サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部の松本和紀が、水素社会の実現への想いやグリーン水素製造への挑戦についてご紹介します。
未来を切り拓く、日本最大規模の水素製造施設「グリーン水素パーク -白州-」誕生
この10月、山梨県北杜市にあるサントリー天然水 南アルプス白州工場と白州蒸溜所の隣に、日本最大となる16メガワット規模の水素製造設備「やまなしモデルP2Gシステム」が稼働する「グリーン水素パーク -白州-」が完成しました。山梨県とサントリーを含む企業10社が協力して進めてきたプロジェクトです。ここでつくられるのは、再生可能エネルギーを使って水から生み出すグリーン水素。製造から利用までCO2を排出しない、自然の恵みに満ちたエネルギーです。まずは第一段階として、サントリー天然水 南アルプス白州工場で活用をスタートし、将来的には製造から販売までのサイクルを手がけ、世の中に広めていく計画です。
入社当初、私は群馬県にあるビール工場で設備の設計や導入を担当し、省エネや省水に取り組んでいました。その後、開発部門や品質部門などを経て、再び設備に関わる業務に戻ったとき、山梨県から声をかけていただいたのが、グリーン水素製造システム「やまなしモデルP2Gシステム」のプロジェクトでした。省エネや省水の経験はありましたが、私にとって水素はまったく未知の分野。しかも、エネルギーをつくる側に立つのはサントリーとしても初めての試みで、知見がないゼロからのスタートでした。
はじめは「グリーン水素を始める」と聞いて、びっくりしたという松本さん。未知の分野に飛び込む不安はあったが、プロジェクトを通して水素エネルギーへの知識や理解がどんどん深まり、いまは水素の可能性をもっと追求して広めていきたいという。
「水と生きる」サントリーの、水素という選択
サントリーが水素に取り組む背景には企業理念の考え方が息づいています。「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命の輝き』をめざす」こと。このパーパスが事業活動を進める上での基盤となっています。
水と自然の恵みを使って製品をつくり、お客様にお届けする──サントリーは水と自然の恵みに支えられている企業です。だからこそ、水や森を守り、育む活動を長年続けてきました。しかし、気候変動などの地球環境の変化により、その自然循環が脅かされ始めています。サントリーには「2030年には温室効果ガス排出量を自社拠点で50%削減」「2050年にはバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロ」という大きな目標があり、その達成に向け注目したのが水素です。水素は燃やしてもCO2を出さず、水と電気さえあればつくれるクリーンなエネルギー。「水から生まれて、水に還る」という循環の特性も、サントリーの理念や活動ともつながります。とはいえ、これまではコストのハードルが高く、関心はあっても一つの企業だけで実際の取り組みには容易に踏み出せない状況でした。そんなときに声をかけていただいたのが山梨県です。サントリーが水源涵養活動で育んだ水と、山梨県が持つ水力・太陽光による再生可能エネルギー。この両者が結びつき、使うときだけではなく製造工程でもCO2を排出しない「サントリーグリーン水素」により、2030年以降の脱炭素社会実現に向けた新しい挑戦への扉が開かれました。一社単独では成し得ないことを、さまざまなステークホルダーと協働することで可能性は広がります。今回のように、自治体との連携によって地域資源を活かしながら、地元の産業や環境教育の推進など、地域の発展や活性化にも貢献していきたいと考えています。
10月11日、白州の地で実証開始式が行われ、持続可能な未来へ向けたサントリーグループの新たな挑戦「グリーン水素」が本格的に動き出した。
経験なき挑戦を支えた「やってみなはれ」の精神
これまで経験のないことに挑戦するのですから、プロジェクトの推進は決して容易ではありませんでした。通常の設備導入なら、完成品を購入して工場に導入すればよいのですが、今回のプロジェクトは山梨県をはじめ民間企業10社がおのおのの技術をもって協力し合い、「実証」を重ねながら新しい設備をつくっていきました。各社で方針やテーマが異なるため、スケジュールや優先事項の調整も一筋縄ではいきません。さまざまな壁を前に、それでも水素の製造から販売までを一貫して担う“日本初の挑戦”に踏み切れた原動力は、創業者から受け継がれている「やってみなはれ」の精神だったと思います。失敗を恐れずに新しい価値創造に挑み続けること、それこそがサントリーらしい取り組みなのだと改めて感じました。
一社だけでは成し得なかった「グリーン水素パーク -白州-」の実現。得意分野も異なる技術開発企業10社と山梨県が協力し合い、未来へ踏み出した協業を象徴している。
水素のワクワクする可能性を追求、わかりやすく伝える役割を担うサントリー
水素を世の中に広めるためには、まず水素のことを知ってもらう必要があります。そこで欠かせないのは、つくる・つかうだけではなく「伝える」ことです。大切なのは、情報を正しく、わかりやすく伝えること。飲料・酒類を販売する会社として広く知られているからこそ、「なぜサントリーが水素エネルギーに取り組むのか?」という疑問も、多くの人の関心を呼び、理解への入り口につながります。
実際に「すばらしい取り組みですね」という声を一般の方からもいただいていますが、まだ認知度は十分ではありません。そこで、広報のほか、TikTok「サントリー水タイムズ」公式などを通じて、身近なプラットフォームで情報を届ける発信も始めています。さらに、工場見学のような“つくる→はこぶ→つかう”を体験的に学べる場を設ければ、楽しみながら理解を深めてもらえるでしょう。毎日の暮らしのなかで、直接手に取る商品を扱うサントリーだからこそ、水素の価値と可能性を、わかりやすく伝えられる。伝われば、きっとみなさんにも水素と共にある未来にワクワクしていただけると思っています。
「水から生まれて、水に還る」──自然の恵みに満ちた魔法のようなエネルギー、グリーン水素。白州の森から始まった一歩は、自然環境をよくする方へ進んでいく道しるべとなり、未来を育んでいくチカラとなる。
100年後の子どもたちにも胸を張れるように、いまから
水素は多くの可能性を秘めた、まさに頼れる存在です。シンプルな分子なのでさまざまな用途に幅広く活用できますが、すべての面で優れているわけではないこともあり、何にでも水素を使えばよいのではなく、他のエネルギーとあわせて、適材適所に使うことが大切です。だからこそ、まずは水素をどう置き換えれば最も役立つのかという事例を積み重ねていきたいと思います。
今回の挑戦には、数々のハードルがありましたし、これからもきっとあるでしょう。しかし、その歩みすべてが、私自身、そしてサントリーグループが社会のために成長し続け、社会を良くする力を大きくすることにつながっていくのだと思います。
サントリーグループの価値観の一つに「利益三分主義」という「事業活動で得たものは、自社への再投資にとどまらず、お客様へのサービス、社会に還元したい」という考え方があります。一人ひとりの考え方や行動が、自然環境をよくする方へ無理なく楽しく変わっていく──そんな社会の源になりたいとサントリーグループは考えています。そのために、グリーン水素を暮らしに根づかせ、未来を明るく照らす存在へと育てていく活動を続けていきます。「グリーン水素パーク -白州-」の完成はゴールではなく、むしろ、ここからが本当のスタートです。広大な森に囲まれ、清らかで豊富な水に恵まれた地から、水素社会の実現に向けた新たな挑戦が始まるのです。
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