アーティスト・インタビュー

ホール・オペラ® ヴェルディ:ラ・トラヴィアータ (椿姫)
若き音楽家たちによるフレッシュ・オペラ ヴェルディ:ラ・トラヴィアータ (椿姫)

三戸はるな(ソプラノ) インタビュー

ホール・オペラ®『ラ・トラヴィアータ』にてアンニーナ役を演じる三戸はるな

2021年10月に開催した「ホール・オペラ®」 および「若き音楽家たちによるフレッシュ・オペラ」の『ラ・トラヴィアータ』上演において、三戸はるなはアンニーナ役をつとめました。
ホール・オペラ®では世界で活躍する歌手たちと共演、フレッシュ・オペラでは三戸が2017年から4年間在籍したサントリーホール オペラ・アカデミーの修了生たちとの共演となりました。
アンニーナの役どころや、共演者から影響を受けたことなどをインタビューで伺いました。

ホール・オペラ®『ラ・トラヴィアータ』にてアンニーナ役を演じる三戸はるな

三戸さんはホール・オペラ®およびフレッシュ・オペラ公演において、『ラ・トラヴィアータ』のアンニーナ役をつとめられました。役どころについて教えてください。

アンニーナはヴィオレッタの小間使いで、いつも彼女の側にいます。そしてヴィオレッタの最期を看取る数少ない人物のうちのひとりです。
『ラ・トラヴィアータ』には社交界の仲間たちなど多くの登場人物が出てきますが、実はアンニーナが劇中で会話をするのはヴィオレッタとアルフレード、グランヴィル医師の3人だけです。そして出番があるのはパーティーのような華やかな場所ではなく、ひっそりと暮らす郊外の家や、あとは臨終を待つばかりといった寂しい部屋の中。アンニーナは「社交界の高級娼婦」としてのヴィオレッタではなく、彼女のもっとプライベートな場面に関わってくる人物なんです。それに気が付いた時、いわゆる「主人と召使い」といった単なる上下関係だけではなく、例えば親友のようにヴィオレッタを思いやり、尽くしている、そんなアンニーナ像でいいんだと思えたので、とても自然に感情を乗せて演じることができました。

今回の田口道子さんの演出では、アンニーナの在り方にとてもこだわっているのを感じました。「『蝶々夫人』では、お客さんは蝶々さんを観て泣くんじゃない、スズキを観て泣くんだよ。」と話してくださったことがあったのですが、今回の舞台ではアンニーナをそういう存在にしたいと伺い、「これは責任重大だぞ」と思いました(笑)。歌う場面は少ないですが、とてもやり甲斐があり、思い入れのある役になりました。

ホール・オペラ®『ラ・トラヴィアータ』より ズザンナ・マルコヴァ(ヴィオレッタ)と三戸はるな(アンニーナ) 
同上

今回の稽古から本番まで、共演者から影響を受けたことや感想などを聞かせていただけますか。

ホール・オペラ®の海外キャストが合流するまでの期間は、カバーキャスト、つまりフレッシュ・オペラのキャストの皆さんと一緒に稽古を重ねていきました。共にサントリーホール オペラ・アカデミーで勉強してきた仲間であり、尊敬する歌い手でもある大田原瑶さん、石井基幾くんと同じ舞台に立てるというのはとても嬉しかったです。2人とも毎日のように稽古をしていく中でどんどん新しい表現に挑戦していくので、その姿を見て「私も負けていられないぞ」ととても励みになりました。

そして、実は海外キャストのいるプロダクションにソリストとして参加させていただくのは今回が初めてだったので、最初はかなりプレッシャーも感じていました。でも海外組の皆さんと合流してからは、世界レベルの演奏とサントリーホールの素晴らしい響きを毎日のように聴くことができ、あまりに贅沢な時間で毎日が楽しくて仕方がなかったです!日々皆さんの歌や演技から刺激を受け、感じたことを次の稽古ですぐに試すことができて、非常に多くの経験を得ることができました。ホール・オペラ®とフレッシュ・オペラ両方に出演させていただくのはなかなかハードなスケジュールでしたが、そんなことも忘れるくらいとにかく幸せでいっぱいでした。こんなにも素敵な経験を踏ませていただいたサントリーホールには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

フレッシュ・オペラ『ラ・トラヴィアータ』より
大田原瑶(ヴィオレッタ)、三戸はるな(アンニーナ)、石井基幾(アルフレード)
三戸はるな(アンニーナ)、石井基幾(アルフレード)

三戸さんは「サントリーホール オペラ・アカデミー」の第4期生・5期生として学んでこられました。これまで研鑽を積んできたことが、今回の舞台にどのように生かされたでしょうか。

アカデミーでは発声の技術や音楽的な表現はもちろんですが、「言葉を表現する」ということをとても重要視しています。今回、特にヴィオレッタ役のマルコヴァさんの歌唱を聴いて、それがどういうことなのかを強く実感しました。その言葉、セリフを言うためにどんな風に息を吸い、そして吐くのか、楽譜にはなぜfやpの指示があるのか、歌だけでなく、ピアノのパートに書かれている音楽は何を表しているのか。
これらを理解しないまま歌っても、サッバティーニ先生の耳には通用しません。本当に基本の「キ」みたいなことなのですが、アカデミーでこうした根本的なことに向き合い続けてきたからこそ、「生きたイタリア語で歌う」ということが少しでもできるようになったと思います。これはオペラの舞台においても必要不可欠なことだと思います。

三戸はるな(ソプラノ)
国立音楽大学声楽専修卒業。東京藝術大学別科修了。二期会オペラ研修所第59期マスタークラス修了。サントリーホール オペラ・アカデミー プリマヴェーラ・コース第5期修了。多摩フレッシュ音楽コンサート2016入選。第8回東京国際声楽コンクール入選。オペラでは、これまでに『ラ・ボエーム』ミミ役、『ルサルカ』外国の王女役、『フィガロの結婚』伯爵夫人役、『イル・トロヴァトーレ』レオノーラ役などを務める。2019年、サントリーホール オペラ・アカデミー公演『フィガロの結婚』ではマルチェッリーナ役を好演。二期会準会員。
*写真はオペラ・アカデミー修了コンサート(2021年7月)

今回の『ラ・トラヴィアータ』の舞台はさらに飛躍するチャンスになったことと思います。今後の活動予定や目標を聞かせてください。

私はこの夏にオペラ・アカデミーを修了し、これから色々なコンクールやオーディションに挑戦していきたいと思っているところです。具体的なことはまだ決まっていませんが、いつかは海外へ、という気持ちもあります。私の憧れの役は「トスカ」と「蝶々さん」で、どちらもとても大変な役なのですが、彼女たちをいつ歌う日がきてもいいように、これからも日々鍛練を積んでいきたいと思います。

フレッシュ・オペラ『ラ・トラヴィアータ』 演出の田口道子、出演者の皆さんと