主催公演

ウィーン・フィルハーモニー ウィーク
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ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2020
ダイワハウス スペシャル
ワレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ウィーン・フィル動く 次の時代へ

奥田佳道(音楽評論)

 妖しくも烈しい音彩を紡ぐロシアの鬼才ワレリー・ゲルギエフ(1953年生まれ)と新世代の台頭も著しいウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が、さあ、相乗効果を発揮するときが近づいてきた。
 それぞれをよく知るファンにとっても、これから最高峰のオーケストラ芸術に抱かれたいと願う新しい聴き手にとっても、間違いなく至福のひとときとなる。

© Terry Linke

両者の歩み、近況
 ゲルギエフとウィーン・フィルは、23年前の1997年夏、ザルツブルク音楽祭で上演されたムソルグスキーの歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』(ショスタコーヴィチ版)を仲立ちに出逢い、意気投合した。翌年にはプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番(ソロはブロンフマン)とチャイコフスキーの交響曲第5番がザルツブルクの祝祭大劇場を興奮させる。
 サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場の総帥(そうすい)でもあるゲルギエフは2000年4月、伝統と格式を誇るウィーン・フィルの定期公演に初めて招かれ、ムソルグスキー/ラヴェルの組曲『展覧会の絵』とストラヴィンスキーのバレエ音楽『火の鳥』に腕を揮う。ヘルベルト・フォン・カラヤンに想いを寄せたウィーン、ニューヨークでの特別公演も任された。
 〈ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2004〉でのチャイコフスキー後期三大交響曲が忘れられないという方もいらっしゃることだろう。ザルツブルク音楽祭ではベルリオーズの歌劇『ベンヴェヌート・チェルリーニ』もファンを大いに喜ばせた。
 ウィーン楽友協会大ホールでの定期公演の数々、世界各国への演奏旅行、シェーンブルン宮殿サマーナイト・コンサート2018(2020にも出演予定)と、晴れ舞台は枚挙にいとまがない。昨年夏、ゲルギエフとウィーン・フィルはザルツブルクでヴェルディの歌劇『シモン・ボッカネグラ』を奏でている。ウィーンでは今年初め、ムーティ、ゲルギエフ、ウィーン・フィルによるマリス・ヤンソンス追悼コンサートも開催された。

© Terry Linke
シェーンブルン宮殿サマーナイト・コンサート2018

ききどころ
 気宇壮大なロシアの調べは申すに及ばず、フランス音楽にも独自の揺らぎ、舞いを添えるマエストロ。バレエ、オペラ、劇音楽とも相愛である。
 今年11月の〈ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2020〉4公演のプログラムは、そんなゲルギエフとウィーン・フィルの歩みを鮮やかに映し出す。

デニス・マツーエフがプロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番を
 腕に覚えのあるロシアのピアニスト、指揮者がこよなく愛するプロコフィエフ若き日の名作、ピアノ協奏曲第2番に、あらためて想いを寄せたい。
 サンクト・ペテルブルク音楽院在学中の1910年代前半に作曲されたものの、原譜紛失により新たに書かれ、1924年にパリで作曲者自身のピアノ、クーセヴィツキーの指揮によって初演された壮絶なコンチェルトである。ピアニストにとってもオーケストラにとっても魅せ場、見せ場の連続だ。豪胆なソロ、トッカータ的な跳躍、ひんやりとした叙情美に魔境的な調べ。モダニスト、プロコフィエフのすべてがここにあると評しても過言ではない。これをゲルギエフの若き盟友デニス・マツーエフが弾く。役者が揃ったようである。

© Terry Linke

ゲルギエフ&ウィーン・フィルと初共演、堤 剛
 今年ウィーン・デビュー60周年!を寿(ことほ)ぐ堤 剛も「ロココ風の主題による変奏曲」で〈ウィーク〉の一翼を担う。
 堤 剛は1960年秋、18歳のときに岩城宏之指揮NHK交響楽団のウィーン楽友協会公演でハイドンの協奏曲(第2番)ニ長調を弾き、3年後にはミュンヘン国際で第2位、ブダペストのカザルス国際コンクールで第1位に輝き、かの地での演奏活動をスタートさせている。ウィーンでも1964年に楽友協会の小ホール、ブラームスザールでリサイタルを開催した。その後ウィーン交響楽団、ライナー・キュッヒル率いる弦楽四重奏団、ウィーン室内管弦楽団とも共演。ザルツブルクでのマスタークラスも任された。堤は、私たちが漠然と思い描く以上に楽都と深い絆で結ばれている。

© 鍋島徳恭

 ウィーン・フィルとの共演は初めてだが、メンバーとは室内楽を通じて旧知の仲。ゲルギエフともチャイコフスキー国際コンクールの審査員仲間である。
 「ゲルギエフさんの素晴らしさについては、私が何か付け加えることもないでしょうが、人間力が大きく、たくさんの壮大なアイディアをもっている音楽家です。ロシア音楽の神髄は歌ですが、とにかく歌わせるということにかけては最高の指揮者のひとりでしょう。ウィーン・フィルもオペラ、室内楽で共演相手や歌い手の声を聴き、それを引き立てるオーケストラです。演奏中の表情がまたいいでしょう。一人ひとりが音楽を能動的に創る、まさに室内楽なのですね。その姿勢で指揮者のイメージを具体的にしていくのです。若い人が増えましたが、時がまるく流れるウィーンの味わいは、他では得られないものです。私も『ロココ』を弾いた後、客席で今のウィーン・フィルをじっくりと味わいたいと思っています」

 組曲で聴く機会の多いストラヴィンスキーのバレエ音楽『火の鳥』を、オリジナルに準拠した巨大な4管編成(全曲、1910年版)で楽しめるのも客席の喜びとなる。プロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』は、どのナンバーが、どんなふうにサントリーホールの空間を満たすのか、が私たちの関心の的。しかもあのゲルギエフのタクト(手の動き)に導かれて聴くのだ。
 コンサートマスターの妙技も華となるリヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』。フルートとオーケストラによる幻想曲と言えるドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』、それにドビュッシー・オーケストラ芸術の昇華『海』と名曲ぞろいだが、ウィーン国立歌劇場管弦楽団を母体とするウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が──ゲルギエフ同様──バレエ音楽、そしてフランス、ロシア(スラヴ)の調べと実は相愛だと言うことを記しておこう。

次世代へ
 2018年夏、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は次代を担う音楽家に声をかけ、教え、室内楽やオペラではともに演奏する〈オーケストラアカデミー〉を設立した。
 昨年8月末のザルツブルク音楽祭。ゲルギエフ、ハイティンクのとのリハーサル、公演が佳境を迎えていたとき、ウィーン・フィルの名コントラバス奏者で事務局長のミヒャエル・ブラデラー氏が(第一期の)アカデミー生たちをステージのメンバーに紹介した。沸き起こる大きな拍手。新世代の活躍が目立つ国立歌劇場管弦楽団、ウィーン・フィルは、さらに次の時代を見つめているのだ。
 コロナ禍で世界のオーケストラが活動停止を余儀なくされた中、医学的、科学的な検証を経ていち早くステージでの活動を再開させたのも、今年創立178年のウィーン・フィルだった。

© Lois Lammerhuber
  • © Mischa Nawrata
    医学的、科学的な検証
  • ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2004
    (2004年11月21日)

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