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サントリーホールでオルガンZANMAI!
バッハへのオマージュ

オルガン:椎名雄一郎 聴きどころ紹介

オルガンといえばバッハ、バッハといえばオルガン。そんなイメージがつくほど、両者は深い関係にあります。生涯で1,000曲以上の作品を生みだしたバッハのオルガン曲はなんと228曲!膨大な数のオルガン曲が今も演奏されています。そんなバッハのオルガン曲全曲演奏会を達成したのが椎名雄一郎。まさに日本のオルガン界で、バッハ演奏の第一人者ともいうべきオルガニストです。オルガン通向けの本公演では、バッハとその音楽に影響を受けたブラームスやレーガーといった作曲家の作品を、バッハのオルガン曲を知り尽くした奏者が奏でる珠玉のコンサートです。

演奏者本人が演奏曲目について解説します。

曲目解説

 オルガンといえば、まずヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685~1750)の作品を思い浮かべるのではないでしょうか。バッハはドイツ・バロック時代最大の音楽家であり、オルガン作品を200曲以上残しています。しかし彼の音楽は、それ以前のオランダ、北ドイツ、中部ドイツ、フランス、イタリアの音楽の影響を受けて書かれています。そしてバッハは19世紀以降のオルガン音楽に多大な影響を与えました。今回は「バッハへのオマージュ」として、バッハの作品と19世紀以降、バッハを意識して作曲された作品を演奏します。

 幻想曲とフーガ ト短調 BWV 542「大フーガ」と愛称が付けられています。このフーガは1720年、バッハがドイツ・ハンブルクの聖ヤコビ教会オルガニストの職に応募した際に作曲されました。採用試験の審査員だったオランダ出身の作曲家ヤン・アダム・ラインケン(1623~1722)に敬意を表して、フーガのテーマはオランダ民謡から採られています。バッハはオランダ民謡をヴァイオリン風にアレンジし、全体はイタリアの弦楽合奏のように仕上げています。一方幻想曲は自由奔放でドラマティックな部分と、対位法的な部分が交互に現れる、北ドイツ・オルガン楽派のトッカータ形式に拠っています。しかしバッハは単なるトッカータ形式の模倣ではなく、無伴奏ヴァイオリン作品を思わせる音型を挿入しています。元々幻想曲とフーガは別々に作曲されましたが、作品全体として北ドイツとイタリアから学んだ、バッハの一つの集大成ということができるのではないでしょうか。

 『ライプツィヒ・コラール集』に収められている「バビロンの流れのほとりにて」BWV 653も、やはりラインケンとの関係が深い作品です。原曲のコラール(会衆歌)は、旧約聖書の詩編137編に拠る歌詞です。バビロン捕囚時代のユダヤ民族の歌で、バビロンで捕虜としての生活を余儀なくされ、彼らが最も大切にしている神を賛美する歌まで、敵の楽しみのために歌わされると、深い絶望を歌います。ラインケンがオルガニストを務める聖カタリーナ教会の土曜日の晩禱では、彼がこのコラールを元に30分程度即興演奏をしていたと伝えられています。前述の採用試験の際、バッハもこのコラールをテーマとして即興演奏し、ラインケンから賛辞を受けました。バッハの作品はテノールの声部にコラール旋律が置かれ、コラールはそのままではなく、装飾されて演奏されます。

 フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)は、忘れ去られていたバッハの『マタイ受難曲』を復活上演したことで有名ですが、オルガニストとしてもヨーロッパ各地で活躍しました。『6つのオルガン・ソナタ集』はバッハを手本としつつ、ピアノのテクニックも取り入れています。オルガン・ソナタ第6番 ニ短調第1楽章は、有名なコラール「天にまします我らの父よ」による変奏曲です。冒頭は単純な和声体でコラール旋律を提示し、その後4つの変奏が繰り広げられます。第2楽章は第1楽章と続けて演奏され、同コラールの冒頭1節の旋律をテーマとするフーガです。メンデルスゾーンのバッハへの敬意と19世紀に生きたメンデルスゾーンの音楽観が感じられます。

 ヨハネス・ブラームス(1833~97)のオルガン作品は、若い頃の習作と晩年の11のコラール前奏曲が残されています。親しい友人であったクララ・シューマン(1819~96)が亡くなった年に書かれました。彼はこの時期、聖書の言葉を歌詞に用いた『4つの厳粛な歌』作品121を作曲しています。11のコラール前奏曲は遺作ですが、作品122として1902年に出版されました。『4つの厳粛な歌』と共に、死を予感して作曲された音楽と言われています。バッハのコラール前奏曲「汝の御座の前に今や我は進み出て」BWV 668が、死ぬ直前に作曲されたという逸話が語りつがれていたことから、ブラームスは最後に、バッハに倣ってコラール前奏曲を作曲して死にたいと思ったのかもしれません。「心から我が魂は喜びに満ち」はピアノ作品を思わせる伴奏音型に乗って、コラール旋律が奏されます。「身を飾れ、おお愛する魂よ」は3声部で書かれたシンプルな作品で、コラール旋律冒頭が音型として、縮小形、反行形で曲全体に散りばめられています。「おお、この世よ、さらば」はバッハの『オルガン小曲集』に収められている「おお汚れなき神の小羊」BWV 618を意識して作曲されています。BWV 618は順次下行する2音からなる「ため息の音型」が曲全体に現れますが、ブラームスのこの作品も、この音型を曲全体にわたって聴くことができます。バッハの作風を模倣して、作曲されていることは明らかです。

 マックス・レーガー(1873~1916)は、ドイツのオルガン音楽史上バッハ以降で最も重要な作曲家といえるでしょう。彼はオルガンを「演奏会用の第一級の楽器」と呼び、対位法を用いてバッハ、メンデルスゾーンの伝統を維持していくことが、自分の責務と考えました。レーガー自身はカトリック信者でしたが、バッハに倣いコラールによる前奏曲、幻想曲等の作品を残しています。B–A–C–Hの主題による幻想曲とフーガは、バッハの名前の綴りをドイツ語音名に読みかえた音列( B–A–C–H=シ♭-ラ-ド-シ)を主題としています。この主題はバッハ自ら『フーガの技法』で用いているほか、バッハの息子、シューマン、リスト等もこの音型を使った作品を作曲しています。
 幻想曲は様々な音価、リズム、テンポで、また調性音楽の極限に挑戦していると思われる和声の中で、バッハの主題がほとんど常に演奏されます。フーガは二重フーガとなっており、第1フーガは声楽的にバッハの主題が演奏されます。第2フーガは器楽的な8分音符からなる主題です。2つのフーガとも徐々にテンポが速くなり、2つのテーマが同時に奏されます。最後は幻想曲冒頭が現れ、バッハの主題、第2フーガの主題が組み合わされて、壮大に終わります。

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