森づくり最前線
ゾーニング

森をつぶさに見つめて、エリアごとに
最適な整備計画を立てる

撮影地:京都府長岡京市奥海印寺 他
公開年月:2013年9月

エリアごとに違う。そんな森を、一律に捉えて、一様に整備するのでは、水を育む力と生物多様性に満ちた、健全な森づくりは望めません。
そこで大切になってくるのが、「ゾーニング」をしっかりと行うこと。つまり、植生のありかたや森林のタイプごとにきちんとしたエリア区分を行い、エリアごとにどのような森を目指すべきか理想像を思い描き、最適と思われる整備計画を立てることです。

現在を調べる。過去を知る。未来を予測する。

適切な「ゾーニング」を行う上でまず欠かせないのが、森の現状を知る植生調査を綿密に行うことです。そして、仮に今後、何の整備も施さなかったとしたら、そのエリアはどういう森になっていくのかを予測します。より正確な予測のためには、そのエリアが、どのような足取りをたどって、現在のような姿になっているのか、森の来歴を知ることも欠かせません。
森林整備の基本となる「ゾーニング」。それは、エリアごとに、森の現在と過去と未来とを紡ぎ合わせる作業でもあります。

  • さまざまな種類の樹々の植生図
  • 10m×10mの調査区の設定
  • 植生図を起こすための植生調査

エリアごとに最適な整備計画

植生調査を行い、森の過去を知り、森の将来像を思い描いた時、特に手を加えなくても森の多様性が保たれると予測できる区画もでてきます。そうしたエリアでは、森の遷移の様子を見守ることにします。数年後、数十年後、何らかの理由で整備が必要な状態になったとすれば、その時に有効な手だてをこうじる、という考え方です。

こうした判断を下すのも、「ゾーニング」の重要な側面です。けれども、日本の森は、その多くが、一度は人の手が入った歴史を持っていますから、ほとんどの場合、何らかの整備を必要としています。

例えば、そこが放置されたスギやヒノキの人工林であれば、適正な間伐などの作業が欠かせません。思い描く森の将来像によっては、すべてのスギ・ヒノキを伐採して、新たに広葉樹などを植える計画を立てる場合もあります。

かつては、薪や炭、腐葉土などの供給源として利用されてきたのに、ここ数十年、人の手が加えられなかった場所では、常緑の広葉樹がはびこり、真っ暗な森になっているケースが多く見られます。そうしたエリアでは、常緑の樹を伐って、森の中に光を取り戻すことで多様な植物の再生をうながす場合もあります。

ひとつの森も、つぶさに見れば、実に多様な姿をしています。その多様性にそくして、多様な整備方法を用意する。“水と生命(いのち)の未来を育む”森づくりにとって、「ゾーニング」は、基本となる重要な要素なのです。

図1:植生調査をもとにした、森の未来予想図
図2:整備ゾーニング

図1は、植生調査をもとにした、森の未来予想図。仮に何の整備も行わない場合、100年後にどのような森になっていると思われるかを表したものです。

現在の植生をつぶさに知り、何も手を加えなかった場合の森の未来像を予測したら、次に、森を将来目指す姿に誘導していくために必要な整備計画を、各エリアごとに立案します。整備作業を行って、森がどのように姿を変えていくか、長い目で見守り続け、また別の整備が必要と思われれば、その時々で対応していく。「ゾーニング」による整備計画に基づいて、50年、100年先を見据えた、順応的な“水と生命(いのち)の未来を守る”森づくりが続いていきます。

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