人と自然と響きあう企業として
サントリーグループは、食品酒類総合企業として商品を通じてお客様に水と自然の恵みをお届けしています。美しく清らかな水、豊かな土壌で育まれる植物や森林、川・海・大気、そして生き物がつくり出す生態系サービスはサントリーグループの経営基盤そのものであり、それらを守り、大切に使い、循環させていくことは私たちの重大な責任であるとともに、事業継続の生命線であると認識しています。
今から50年以上前の1973年、“Today Birds, Tomorrow Humans” (今日、鳥に訪れる幸福は、明日の人間を幸せにするかもしれない。)をスローガンに、サントリーグループは愛鳥活動を開始しました。環境のバロメーターといわれる野鳥たちを通じて環境について気づきを得、鳥や人、さらにはすべての生きものが豊かに暮らせる環境を未来に引き継ぐことを目的としています。
そして2003年、九州・熊本で水源涵養機能の向上と生物多様性の再生を目的に開始した「サントリー 天然水の森」は、16都府県26カ所、12, 000ヘクタール※を超える規模まで拡大し、日本国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養しています。現在、事業を展開する世界各地で水源保全活動などの自然との共生の取り組みが拡がっています。
※2025年7月末時点
近年では、2022年に国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)にて昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されるなど、ネイチャー・ポジティブに向けた取り組みが加速しています。
サントリーグループは、2023年、Science Based Targets Network(SBTN)による世界初の自然環境保全への企業向けガイダンスの試験運用に日本企業として唯一参画し、同年9月には、試験運用での分析結果を活用し、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)試行開示を行いました。
そして、今般、TNFD提言およびTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に則り、サントリーグループの統合的な環境経営への取り組みを開示しました。
第1回愛鳥キャンペーン新聞広告
(1973年)
気候変動、生物多様性、水の安全保障、資源循環という深く関連し合う課題に対し、より効果的に貢献するためには、包括的な対策が不可欠です。「天然水の森」をはじめとする自然に関する活動は、複合的な環境課題の解決をめざす、大勢のステークホルダーとの協働による取り組みです。
サントリーグループは、今後も科学的根拠に基づく世界共通の基準と整合した「ネイチャー・ポジティブ」および「ネットゼロ」の実現に向けて貢献していきます。
| サントリーグループの自然に関するこれまでの歩み | 現在までの活動の拡がり・インパクト | |
|---|---|---|
| 1973年 |
|
|
| 2003年 |
|
|
| 2004年 |
|
|
| 2022年 |
|
|
| 2023年 |
|
|
本開示の位置づけおよび対象
本開示の位置づけ
- マテリアリティ分析により特定された「水」、「気候変動」、「容器包装」、「原料」については相互に関連し、影響を及ぼしていることから、TNFD・TCFD提言などの個別開示ガイダンスに準拠し、統合的に開示しています。
- サントリーグループは、2023年に発表されたSBTNによる企業向けガイダンスの試験運用に日本企業で唯一参画しました。TNFDの枠組みであるLEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチのステップのうち、LとEについて、SBTNのStep1, 2での、直接操業とバリューチェーン上流の分析結果を活用しています。TNFDとSBTNのアプローチの相関については、下図をご参照ください。
TNFDとSBTNの連携
開示のスコープ
- サントリーグループの国内外の事業のうち主要な事業である①飲料・食品関連事業②酒類関連事業③その他事業を対象としています。
- 具体的には、サントリーグループの以下の事業のバリューチェーン全体を対象としています。
- ①飲料・食品関連事業:サントリー食品インターナショナル
- ②酒類関連事業:サントリー、サントリーグローバルスピリッツ
- ③その他事業:サントリーウエルネス他
自然関連・気候関連課題がある対象地域
- 自然に関しては、直接操業の生産拠点79拠点(日本国内生産27工場、海外生産52工場)、バリューチェーン上流については、主要8原料の調達国を評価対象としています。
- 気候変動に関しては、自社拠点、バリューチェーンの上流・下流に関連する地域について評価対象としています。
ガバナンス
サントリーグループでは、持株会社制度を導入しています。持株会社であるサントリーホールディングス(株)の取締役会は、社外取締役1名を含む9名(2025年4月1日現在)の取締役で構成されています。取締役会では、グループ全体の経営課題について具体的な検討・協議・意思決定を行うとともに、グループ各社の業務執行を監督する役割を担っています。また、執行役員制度の導入により、経営の意思決定と業務執行を分離し、機動的な意思決定を実現しています。
サントリーホールディングスでは、グループのグローバルな事業拡大に伴い、海外グループ会社を含めたグループ全体のリスクマネジメント推進体制を強化するため、サステナビリティ関連リスクを含む全社的リスク管理(ERM)を推進する「グローバルリスクマネジメント委員会」を設置しています。また、サステナビリティ戦略の議論と目標に向けた進捗管理を行う「グローバルサステナビリティ委員会」を設置しています。
グローバルリスクマネジメント委員会は、リスクマネジメント部門管掌役員が委員長、主要事業のリスクマネジメント部門長などが副委員長を務め、主要機能部門担当役員がメンバーとして参加しています。このグローバルリスクマネジメント委員会のもと、主要事業会社にリスクマネジメント委員会やリスクマネジメントチームを設置し、これらの委員会・チームを通じて、サントリーグループの重要なリスクの把握と管理に向けた連携を行っています。グローバルリスクマネジメント委員会は四半期に1回開催し、サントリーグループ全体のリスクの把握や対策のモニタリング、クライシスマネジメント体制の整備などの活動を推進しています。自然関連リスクおよび気候変動関連リスクは最重要リスクの一つとしてグローバルリスクマネジメント委員会で議論され、対応状況をモニタリングしています。
グローバルサステナビリティ委員会においては、サステナビリティ部門担当役員が委員長、主要事業の担当役員が副委員長を務め、主要機能部門の担当役員、国内外事業会社および機能部門長などがメンバーとして参加しています。グローバルサステナビリティ委員会では、サントリーグループで定めた「サステナビリティ・ビジョン」の「サステナビリティに関する7つのテーマ」を中心に、サントリーグループ各社と事業の中長期戦略の議論を行っており、自然および気候変動関連への取り組みについても議論しています。
グローバルリスクマネジメント委員会とグローバルサステナビリティ委員会は常に連携をとっており、重要な意思決定事項については、取締役会でさらなる議論を行い、審議・決議を行います。グローバルリスクマネジメント委員会とグローバルサステナビリティ委員会は、サステナビリティ戦略の進捗、リスクと機会の特定ならびに特定されたリスクに対する低減、回避、移転および受容方法などについて、相互に議案として取り扱うことで検討を行うほか、定期的に取締役会に報告し、取締役会において、サステナビリティ戦略の方針・計画などについて議論・監督しています。特に、グローバルリスクマネジメント委員会の全社的リスク管理(ERM)によりグループ最重要リスクとして評価されたサステナビリティ関連リスクについては、対応策などに関してグローバルサステナビリティ委員会にて議論の上で、グローバルリスクマネジメント委員会に対応状況を報告しています。また、グローバルサステナビリティ委員会では、全社的リスク管理(ERM)により抽出されたリスクを踏まえ、重要課題(マテリアリティ)分析結果の審議を行い、取締役会で承認を受けています。
<サステナビリティに関する取締役会への主な報告・決議事項(2024年実績)>
- 「サントリーグループ人権方針」改定
- 「環境目標2030」で掲げる水の目標値改定
- 「環境目標2030」に向けた進捗報告
その他、取締役会では、定期的に外部有識者を招いて勉強会を実施するなど、サステナビリティ経営に対するアドバイスを受ける機会を設けています。また、役員報酬の決定に用いる目標には「サステナビリティ」の項目が設定されています。
重要課題のうち、「気候変動」、「容器包装」、「人権」に関しては、主要事業や機能部門の実務者を中心に、より具体的な戦略や取り組みを議論する場として、「GHG Scope3削減推進全体会議」、「容器包装タスクフォース」、「人権ワーキングチーム会議」をそれぞれ開催しています。
GHG Scope3削減推進全体会議は、関連する機能部門および主要事業の経営企画部門のもと、「環境目標2030」の達成に向けたScope3排出量削減を推進しています。具体的には、Scope3排出量の削減ロードマップを策定し、Scope3排出量削減の主要方策の確実な実行に向けた課題と対応の方向性について議論をしています。
容器包装タスクフォースは、サステナビリティ部門担当役員、広報部門担当役員および関係する機能部門長(サステナビリティ部門、イノベーション部門、経営企画部門、財務部門、法務部門、インテリジェンス部門およびものづくり部門など)をメンバーとし、容器包装に関する2030年目標達成に向けた計画策定と進捗管理を目的として開催しています。具体的には、プラスチックに関する課題への取り組みの方向性の議論に加え、サステナブルペットボトルに関する2030年目標達成のためのロードマップ策定や、日本国内の自治体や企業と締結している「ボトルtoボトル」水平リサイクルに関する協定の進捗などの議論を行っています。
人権分野では、サステナビリティ部門、サプライチェーン部門、人事部門、法務部門、コンプライアンス部門などの機能部門と主要事業会社のサステナビリティ担当者による人権ワーキングチームを運営しています。人権に関する国内外の情報の共有、バリューチェーン全体での人権侵害リスクの特定や対応、啓発活動など人権デュー・ディリジェンスの推進に向けた議論を毎月実施し、部門横断で活動しています。
体制図
| 役割・権限 | メンバー | 開催頻度 | 2024年の主な審議事項 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 取締役会 |
|
|
年12回以上 |
|
|
| グローバルリスクマネジメント委員会 |
|
|
年4回 |
|
|
| グローバルサステナビリティ委員会 |
|
|
年6回程度 |
|
|
| 重要課題に関する推進会議体 | GHG Scope3削減推進全体会議 |
|
|
年3回 |
|
| 容器包装タスクフォース |
|
|
隔月 |
|
|
| 人権ワーキングチーム |
|
|
月次 |
|
|
戦略
サントリーグループでは、中長期的なマクロ環境の変化を踏まえたサステナビリティ経営を推進していくため、サントリーグループにとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し、サステナビリティ戦略へと反映しています。
2023年には、ダブルマテリアリティの概念のもと、サントリーグループの財務インパクトおよび環境・社会への外部インパクトを特定し、評価を実施しました。
また、マテリアリティ分析の結果を踏まえ、同年、「サントリーグループ サステナビリティビジョン」を改定しました。
「サントリーグループ サステナビリティビジョン」に掲げる7つの重要テーマは、“NATURE”(水、容器包装、気候変動、原料)と “PEOPLE”(健康、人権、生活文化)から構成されており、サントリーグループは、“NATURE”と“PEOPLE”に相互依存関係があることを意識し、双方が「響きあう」社会の実現を目指してステークホルダーの皆様と共に活動を行っています。
重要課題(マテリアリティ)の特定プロセスの詳細はこちらをご覧ください。
サントリーが考えるサステナビリティ経営 サントリーグループのサステナビリティ サントリー
環境に関する方針
「水と生きる」をコーポレートメッセージに掲げる企業として、サントリーグループは地球環境そのものが大切な経営基盤と認識しています。
環境に関する最上位方針である「サントリーグループ環境基本方針」では、「水のサステナビリティ」、「生態系の保全と再生」、「循環経済の推進」、「脱炭素社会への移行」、「社会とのコミュニケーション」の5つの重点課題の方針を定めています。
「水のサステナビリティ」については、事業活動を展開する世界各地の水資源の状況に応じた取り組みを推進するため、「水理念」をグループ全体で共有しています。
また、循環型かつ脱炭素社会への移行に向けたサントリーグループの取り組みとして大きな役割を担うプラスチック製容器包装については、「プラスチック基本方針」のもと、多様なステークホルダーと共に課題解決に向けた取り組みを推進しています。
さらに、サントリーグループは、環境課題が人権課題と深く関連していることを認識しており、「サントリーグループ人権方針」のもと人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築し、自らが社会に与える人権に対する負の影響を特定し、その未然防止および軽減を図っています。人権尊重における重点テーマの一つとして掲げている「先住民を含む地域住民の権利」においては、先住民の権利ならびに土地および天然資源の所有権・使用権に関する正当な所有権を尊重し、水や土地、天然資源を取得する場合には、それらのアクセスへの負の影響を回避し、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を実施することをコミットしています。
上記の諸方針の考え方は、「サントリーグループサステナブル調達基本方針」および「サントリーグループ・パートナーガイドライン」などを通じてサプライヤーとも共有し、共に施策を実行しています。
方針およびガイドライン
自然関連の依存・インパクト・リスク・機会の特定プロセス
サントリーグループは、自社事業と自然とのインパクト・依存関係の評価の精度をさらに高めるべく、SBTNで推奨されているツールやデータベースを活用し、サントリーグループが自然に影響を与える負荷(圧力)およびサントリーグループの事業が依存する生態系サービスを明らかにしました。
直接操業については、国際標準産業分類ISIC(International Standard Industrial Classification)の経済活動区分から自社の事業活動が該当する活動区分を選択することにより、評価対象とするサントリーグループの主要事業活動を分類して定義するとともに、SBTNが開発したMST(Materiality Screening Tool)を活用することにより、事業活動による自然へのインパクトを俯瞰的に把握しました。
バリューチェーン上流では、当社の主な原材料を対象にMSTによる評価を行うとともに、SBTNが自然へのインパクトが大きいとされる原材料をリスト化したHICL(High Impact Commodity List)を活用して特に自然へのインパクトが大きい原材料を特定するとともに、主要な調達国における環境および人権インパクト、自然の状態を評価しました。(詳細は「自然に関する優先拠点の特定」に後述)
一方、自然への依存関係については、自然資本分野の国際金融業界団体と国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCSC)などが共同で開発したオンラインツールENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)を活用し、依存関係を俯瞰的に把握しました。
自然へのインパクト
- ※SBTNの対象外の項目であるため、地域の状態の評価や優先順位付け、リスク・機会の評価では対象外とした。
自然への依存
上記の自然へのインパクト・依存関係を基に、経路関係を整理した図は以下のとおりです。
自然関連の依存・インパクト・リスク・機会の間の関連性 ― インパクトと依存の経路
バリューチェーンにおける自然への依存・インパクトおよび対応策
自然に関する優先拠点の特定
直接操業
直接操業における優先拠点の特定にあたり、2023年に参画したScience Based Targets Network(SBTN)の企業向けガイダンスの試験運用パイロットで得た知⾒に基づいて水使用と水質の観点で拠点の絞り込みを実施しました。
まず、生産拠点が依存する自然状態を評価するため、流域の利用可能な水資源量と水質を解析しました。この評価には、Aqueduct 4.0および世界⾃然保護基⾦(WWF)が開発したWater Risk Filterの複数の指標を使用しました。
利用可能な水資源量については、Baseline Water Stress、 Water Depletion、 Blue Water Scarcityの3つの指標を使用し、最も高いスコアをリスクスコアとしました。これらの指標のスコアが高い地域は、需要に対して水資源が逼迫する可能性が高いことを示しています。
水質の評価には、Coastal Eutrophication Potential、Nitrate-Nitrite Concentration、Periphyton Growth Potentialの3つの指標を用い、最も高いスコアをリスクスコアとしました。各指標のスコアが高いほど、富栄養化にさらされる可能性が高いことを示しています。
さらに、生産拠点の操業が流域に与える影響を評価するため、水使用量と排水に含まれる水質汚染物質(窒素、リンの重量当量)を正規化し、拠点ごとに一覧化しました。ただし、水質汚染物質は、排水を直接河川に放流している拠点に評価対象を限定し、下水道を経由して放流する拠点は除外しました。次に、自然状態への依存度と影響度の両方でリスクが高い拠点を特定するため、利用可能な水資源量のスコアと水使用量の正規化スコアを掛け合わせた値、水質のスコアと水質汚染物質の正規化スコアを掛け合わせた値を算出し、ランクが上位10流域に含まれる拠点をそれぞれ優先拠点としました。特定した拠点のうち、生物多様性統合評価ツールIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)と複数の生物多様性指標による評価から、半径20km圏内に保護地域や生物多様性重要地域(Key Biodiversity Area)と近接し、かつ、生物多様性の脆弱性や回復困難性が比較的高いと想定される拠点を特定しました。
優先度の高い拠点数
| 優先度の高い拠点数 | 飲料事業 | 酒類事業 | その他 | |
|---|---|---|---|---|
| 水資源量への依存・影響リスクが大きい拠点数 | 9 | 4 | ー | |
| うち生物多様性への影響が大きい拠点数 | 3 | 3 | ー | |
| 水質への依存・影響リスクが大きい拠点数 | ー | 15 | 3 | |
| うち生物多様性への影響が大きい拠点数 | ー | ー | ー | |
特定した優先拠点を対象に、⽔マネジメント(取⽔と節⽔)および地域との共⽣による水源涵養・保全の観点で、各拠点のリスク低減の取り組みレベルを評価して、進捗状況を確認しています。なお、⽔資源の状況は各⼯場の⽴地する流域ごとに異なるため、リスク低減の取り組みは現地の実情にあわせた対応を⾏っています。
水リスク評価の詳細については、以下をご参照ください。
バリューチェーン上流(原料調達)
主要8原料(大麦、コーヒー豆、とうもろこし、生乳、緑茶葉、ホップ、オーク材、サトウキビ)とそれぞれの主な調達国について、環境および人権へのインパクトを評価しました(原料と調達国の組み合わせ45パターンを評価)。
環境および人権へのインパクト評価は、二次データに基づく結果であり、サントリーグループの事業活動によるインパクトを示したものではありませんが、これまでの活動の妥当性を確認するとともに、今後のさらなる取り組みの優先順位を決定する上での基礎データとして活用していくことを目的としています。
<評価の対象および評価方法>
| 評価対象 | 使用データ | |
|---|---|---|
| 原料調達先への依存度 | 調達先(国)の偏り | 市場集中度の指標である「ハーフィンダール・ハーシュマン指数」を各原料の購買量割合に応用して試算し評価 |
| 環境へのインパクト | 気候変動 | サントリーグループのGHG Scope3算出に使用している調達先・原材料ごとの排出係数 |
| 水使用 | 世界各国の原料ごとのウォーターフットプリント (UNESCO-IHE水教育研究所のレポート) |
|
| 汚染 | 世界各国の原材料ごとの肥料使用量(IFASTAT) | |
| 土地利用 | 世界各国の原材料ごとの単位収穫量あたりの作付面積(FAO) | |
| 人権へのインパクト | ①児童労働②強制労働③労働時間④適切な賃金と福利厚生⑤差別・虐待・ハラスメント、⑥結社の自由・団体交渉⑦救済へのアクセス、⑧健康・安全性 | Verisk Maplecroft社が提供しているコモディティリスク評価 |
主な原料の環境および人権へのインパクトに関するヒートマップ
- ※N/Aは評価データの不足により、今回は評価できなかった項目
今回の調査の結果、環境へのインパクトおよび人権へのインパクトの双方でコーヒー豆が最もリスクが高く、サントリーグループのコーヒー豆の調達国の中では、ブラジルにおけるリスクが高いという結果になりました。サントリーグループは国際的なサステナブル認証を取得しているブラジルのバウ農園から一部調達をしている他、商社や現地パートナー企業などと連携して調達先の農家を支援するプログラムを推進しており、現在の調達戦略の方向性の妥当性を確認することができました。
また、緑茶葉については、GHG排出量や水使用量などの観点から環境へのインパクトが比較的大きいという結果になりましたが、サントリーグループでは緑茶葉の産地である熊本県の球磨地域農業協同組合と協働し、茶葉製造工程において環境に配慮したプロセスを導入することで、一般的な製造工程に比べてGHG排出量を30%以上削減するなどの取り組みを行っており、今後もさらなる活動を検討していきます。
肥料の使用量から判断された「土壌汚染」のインパクトが高いと判断された6原料(大麦、コーヒー豆、トウモロコシ、緑茶葉、ホップ、サトウキビ)のうち、4原料(大麦、コーヒー豆、トウモロコシ、サトウキビ)については再生農業などの持続可能な農業を推進しており、今後も活動を拡大させていく予定です。
今回の調査を通じ、一般的にリスクの高い「原材料」×「調達先(国)」の組み合わせについて把握することができたことから、今後は調査結果を基に、現地調査なども踏まえた戦略の検討を進めていきます。
気候変動および自然に関する財務的なリスクと機会
将来的なリスクと機会を検討するにあたり、気候変動については2つのシナリオ、自然については1つのシナリオを前提に、それぞれ財務インパクトの評価を行いました。
気候変動に関するシナリオ
| シナリオ | 1.5℃ 移行シナリオ (RCP 2.6/ SSP 1-1.9) |
3.0℃/4.0℃ 物理シナリオ (RCP 8.5/SSP 2-4.5) |
|---|---|---|
| 想定する世界観 |
|
|
自然に関するシナリオ
自然に関する規範的なシナリオは存在しないため、TNFDが提示する4つのシナリオを基に解釈を加え、将来的なリスクと機会の検討を行う上で妥当と考えられるシナリオの検討を行いました。
サントリーグループは、ネイチャー・ポジティブが成功するシナリオ1(Ahead of the Game)の世界観を志向するものの、戦略のレジリエンスを検証することを目的に、物理リスクおよび移行リスクが最も深刻に顕在化すると考えられるシナリオ2(Go Fast or Go Home)を選択し、リスクと機会の洗い出しと財務インパクト評価を行いました。
自然に関するシナリオ
- ※TNFD最終提言v1.0より一部解釈・改変
リスクと機会の一覧
上記で設定したシナリオのもと、気候変動および自然資本に関する主なリスクと機会の洗い出しと対応策の整理を行いました。その結果、物理的リスクへの対応については、概ね対策がとられているか、または検討が着手されていることが確認できました。また、移行リスクへの対応については世界各国での法制化の動向や消費者嗜好を注視し、対応戦略を柔軟に練っていく必要性を再確認しました。
機会については、リスクの低減などを通じて獲得していく事業継続に向けた機会と、消費者嗜好を捉えた画期的な商品・サービスの提供による事業成長機会を拡大させていきます。
<リスクと機会が発現する期間の定義>
リスクと機会が発現する期間を以下のように区分しています。
中期については、「環境目標2030」、長期については「環境ビジョン2050」に基づく期間設定としています。
- 短期:評価時点から1年以内
- 中期:2030年までの期間
- 長期:2050年までの期間
<財務インパクト評価の基準>
全社的リスク管理(ERM)と評価基準を統一し、財務インパクトが中~大と想定しているものを一覧化しています。
| カテゴリ | サブ カテゴリ |
主なリスクと機会 | 自然資本・気候変動との関係性 | バリューチェーン | 財務 インパクト 評価 |
リスク顕在化時期 | 対応策 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 物理 | 急性/ 慢性 |
異常気象(洪水・高潮・暴風など)による操業停止 | 気候変動 | 直接操業 | 中~大 | 短~中 |
|
| 物理 | 慢性 | 周辺地域の過剰取水や干ばつの増加に伴う水不足を起因とした操業停止 | 自然資本 気候変動 |
直接操業 | 中~大 | 中~長 |
|
| 物理 | 慢性 | 周辺地域の水質悪化による品質管理や排水規制の対応コスト増加 | 自然資本 | 直接操業 | 中~大 | 中~長 |
|
| 物理 | 急性/ 慢性 |
農作物の収量減・栽培適地移動などによる調達の不安定化・調達コスト増加 | 自然資本 気候変動 |
上流 | 中~大 | 中~長 |
|
| 移行 | 政策 | 炭素税の導入によるコストの増加 | 気候変動 | 上流/直接操業 | 中~大 | 中~長 |
|
| 移行 | 政策 | 原料や容器包装などに関する規制対応コスト増加 | 自然資本 気候変動 |
バリューチェーン 全体 |
中~大 | 中~長 |
|
| 移行 | 市場 | 持続可能な商品の消費者嗜好変化への対応遅れによる売上減少 | 自然資本 気候変動 |
直接操業 | 中~大 | 中~長 |
|
| 移行 | 評判 | 環境・社会課題に関するNGO・メディアの批判による売上減少 | 自然資本 気候変動 |
直接操業 | 大 | 中~長 |
|
| 機会 | 水資源を大切にする企業姿勢が社会に認知されることによるブランド価値の向上 | 自然資本 気候変動 |
下流 | 大 | 短~長 |
|
|
| 機会 | 新たな市場・収益機会の獲得による売上増加 | 自然資本 気候変動 |
下流 | 大 | 中~長 |
|
|
特定したリスクと機会のなかでも「周辺地域の過剰取水や干ばつの増加に伴う水不足を起因とした操業停止」、「炭素税の導入によるコスト増加」、「農産物原料の収量減・栽培適地移動などによる調達の不安定化・調達コスト増加」の3点については、気候変動の観点から財務インパクト額を試算しました。
| リスク | 財務インパクト額 | 算定の考え方・方法 |
|---|---|---|
| 周辺地域の過剰取水や干ばつの増加に伴う水不足を起因とした操業停止 | 機会損失コスト260億円 (2030年・2050年/3℃~4℃シナリオ) |
水ストレスが高いエリアに立地する全自社工場において、1カ月間の取水制限を想定した場合のコスト影響を試算 (為替前提:1ドル=146円) |
| 炭素税の導入によるコスト増加 |
2030年:生産コスト190億円増 2050年:生産コスト350億円増 (1.5℃シナリオ) |
2019年の自社排出量(Scope1、2)をもとにIEA NZEの炭素税価格予測値を使用し、試算
|
| 農作物の収量減・栽培適地移動などによる調達の不安定化・調達コスト増加 |
2030年:調達コスト59億円増 2050年:調達コスト80億円増(※)(3℃~4℃シナリオ) |
科学的なデータに基づいた気候変動影響試算ツールを活用して農産物収量影響を把握し、原料単価増と使用量の仮定に基づきコスト影響を算出 (為替前提:1ドル=146円) |
2050年 4℃シナリオにおける主要原料品目・産地への収量影響調査
| 事業 | 原料 | 北米 | 中南米 | アジア | 欧州 | オセアニア |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 酒類・飲料 | 大麦※ | カナダ 収量: |
イギリス 収量: フランス 収量: |
|||
| 酒類・飲料 | トウモロコシ※ | アメリカ 収量: |
ブラジル 収量: |
中国 収量: |
||
| 酒類・飲料 | サトウキビ※ | ブラジル 収量: |
タイ 収量: |
オーストラリア 収量: |
||
| 酒類 | オーク材 | アメリカ 木材量: |
日本 生育適域: |
スペイン 生育適域: |
||
| 酒類 | ホップ | アメリカ 収量: |
ドイツ 収量: チェコ 収量: |
|||
| 飲料 | コーヒー豆 | ブラジル 収量: コロンビア 収量: グアテマラ 収量: |
-
※加工原料用の原料産地も含む
2025年7月末時点での分析では、以下の表のとおり、2050年における4℃シナリオに基づく事業への影響額の総額は80億円の見込みです。コーヒー豆、烏龍茶葉、トウモロコシ、大麦については、生産量の減少に伴い価格上昇し、調達コスト増加が見込まれる一方、サトウキビおよびテンサイについては生産量増加に伴い、価格が下落し、事業にはプラスの影響がある見込みです。
2050年 4℃シナリオにおける主な原料の調達額への影響
-
※サントリー、サントリーグローバルスピリッツ、サントリー食品インターナショナルを対象に試算
-
※為替は、1ドル=146円
-
※トウモロコシは加工原料含む酒類・食品用途の試算
-
※大麦は酒類用途のみを対象に試算
自然と気候に関するサントリーグループの取り組み
自然と気候は相互に関連し影響を及ぼしあうものであることから、両課題への統合的な対応を図ることが有効です。また、各取り組みについて、地域コミュニティやビジネスパートナー、お客様などへの影響に配慮し、他の民間企業や政府機関などと協働することで取り組みの効果を最大化する、ステークホルダーとの適切なエンゲージメントを行うことが重要であると考えています。
今般、サントリーグループが行っている自然と気候に関する取り組みを整理し、自然へのインパクトに関してはSBTNが提唱している「AR3Tフレームワーク」、そしてTransition Plan Taskforce(TPT)が発行している気候移行計画に関するフレームワークおよびTNFDが発行している自然移行計画に関するディスカッション・ペーパーの「エンゲージメント戦略」の要素との紐づけを行いました。
その結果、各重要課題について、重要なステークホルダーに配慮しながら取り組みを行っていることが確認できました。さらなる自然・気候移行計画の推進にあたっては、「公正な移行」を考慮する必要について認識しており、原料産地におけるステークホルダーとのエンゲージメントなど、公正な移行の手順を検討していきます。
今後、各種の移行計画のフレームワークに沿って、サントリーグループが行うべき追加的取り組みを検討していきます。
AR3Tフレームワーク
移行計画における主な取組み
| 重要課題 | 移行計画における主な取組み | 気候変動への対応 | 自然への対応 (AR3Tフレームワーク) |
エンゲージメント戦略 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 緩和 | 適応 | 回避 | 軽減 | 復元 ・ 再生 |
変革 | 地域 | バリューチェーン | 産業界 | 国・地方自治体の政策 | ||
| 水資源 |
水源涵養・保全 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||
| 自社工場における節水 | ● | ● | |||||||||
| 次世代環境教育「水育」 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||||
| 原料 |
再生農業をはじめとする持続可能な農業 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |||
| 容器包装 |
ペットボトルの「ボトルtoボトル」水平リサイクルの推進 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||
| ペットボトルのリサイクル啓発 | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||
| 植物由来素材等のペットボトルの開発 | ● | ● | ● | ● | |||||||
| その他資源の有効活用 | ● | ● | |||||||||
| 気候変動 |
エネルギー:グリーン水素など再生可能エネルギーの導入推進 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||
| エネルギー:物流の効率化など省エネルギー化 | ● | ● | ● | ||||||||
| BCP: 洪水など災害へのレジリエンス向上 | ● | ● | ● | ||||||||
ネットゼロに向けたロードマップ
各重要課題に関する活動内容の詳細については、以下をご覧ください。
| 重要課題 | 該当ページ |
|---|---|
| 水 | |
| 原料 | |
| 気候変動 | |
| 容器包装 |
移行計画における重要な取り組み①
地域コミュニティをはじめとするステークホルダーを巻き込んだ水源涵養活動・啓発
ステークホルダーのエンゲージメント:
- 地域
- バリューチェーン
- 国・地方自治体の政策
科学的知見に基づいた森林整備および水源涵養
サントリーグループにとって水は最も重要な原料であり、地域との共有資産です。サントリーグループでは、日本国内工場の水源エリアの良質な地下水を育み、森林と生物多様性を保全・再生する活動である「サントリー 天然水の森」活動を2003年以降行っており、2019年以降、日本国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上を涵養する 「ウォーター・ポジティブ」を実現しています。
サントリーグループはこの活動をボランティア活動ではなく、基幹事業と位置付け、以下の目標のもと森林整備を行っています。
- 水源涵養林としての高い機能を持った森林
- 生物多様性に富んだ森林
- 洪水・土砂災害などに強い森林
- CO2吸収力の高い森林
- 豊かな自然と触れ合える美しい森林
良質な地下水を育む森は、生物多様性に富んだ森です。森林が本来持っている機能を回復すれば、そこに生育する動植物相にも変化があることから、「サントリー 天然水の森」では、鳥類を含む動植物の継続的な生態系モニタリングによる計画的な管理を行っています。
具体的には、環境のバロメーターといわれる野鳥たちに注目することで、彼らを支える生態系全体の変化の状況を総合的に把握できると考え、専門家による野鳥調査を毎年行っています。 また、日本国内すべての「サントリー 天然水の森」(26カ所)において、生態ピラミッドの最上位に位置するワシやタカなどの猛禽類の営巣・子育ての支援を目指した「ワシ・タカ子育て支援プロジェクト」を進めており、「サントリー 天然水の森」を鳥類の目から見つめ、生物多様性豊かな森づくりを進めることを目指しています。
また、「サントリー 天然水の森」で植樹をする際には、生物多様性への悪影響を及ぼすことのないよう、周辺の森で種を採取し、DNAにまでこだわった地域性苗木を生産した上で植樹を実施しています。
活動推進にあたっては、サントリーグループ内の水専門研究機関である「水科学研究所」による最新の水文学の知見に基づく調査研究とともに、水、森林、生物、整備、土壌などの研究者や専門家、地元住民の方々と連携し、科学的な根拠に基づいて100年先をも見据えた継続的な活動を展開しています。
なお、「サントリー 天然水の森」6カ所※(合計2,776ヘクタール)は、2030年までに自国の陸域・海域の少なくとも30%を保全・保護する「30by30」目標達成に向け環境省が推進する「自然共生サイト」に認定されています。(2025年7月時点)
- ※ひょうご西脇門柳山、とうきょう秋川、しずおか小山、日光霧降、近江、赤城
-
※1京都府長岡京市では、「西山森林整備推進協議会」のメンバーとして、地域の方々と協働して森林保全活動にあたっています。この活動の面積は「天然水の森」の総面積に算入していません
次世代環境教育「水育」
サントリーグループは、2004年以降、次世代環境教育「水育」を実施しています。子どもたちが自然の素晴らしさを感じ、水や、水を育む森の大切さに気づき、未来に水を引き継ぐために何ができるのかを考える、次世代に向けたサントリー独自のプログラムです。現在、水育は世界8カ国で展開しており、累計参加者は119万人を突破しています(2024年12月末時点) 。水の課題はそれぞれの土地で異なることから、水育のプログラムは各国のNGOや行政の協力のもとカスタマイズしています。
持続可能な水利用に関する認証機関からの評価
地域行政やNGO、教育機関、地域住民などのステークホルダーと連携した、サントリーグループの水課題への流域全体への取り組みは、Alliance for Water Stewardship(AWS)認証※でも高く評価されており、「サントリー 九州熊本工場」、「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」、「サントリー天然水 南アルプス白州工場」は最高位「Platinum」を取得しています。サントリーグループは、日本企業で唯一「Platinum」を取得している企業です。
- ※AWSは、世界自然保護基金(WWF)やThe Nature Conservancy(TNC)などのNGOと企業が共同で設立した、水のサステナビリティをグローバルに推進するための機関です。AWS認証は、世界中の工場を対象とした持続可能な水利用に関する認証で、水の保全やスチュワードシップ(管理する責任)の推進を目的としています。
世界に拡がる水源涵養・保全活動
現在、サントリーグループは、日本を含め、世界8カ国33カ所※において水源涵養・保全活動を推進しています。スコットランドでは、ウイスキー製造に不可欠なピート(泥炭)の持続可能性を確保するとともに、水源としても重要なピートランドを保全・再生する「ピートランド・ウォーター・サンクチュアリ」プロジェクトを推進しています。同プロジェクトでは、2030年までに400万米ドル以上を投資し、1,300ヘクタールの泥炭地を復元、2040年までにサントリーグループで使用する泥炭の2倍の量を生み出すことができる面積の泥炭地復元を目指しています。
このように、事業の生命線である水と、水を育む自然を守る取り組みは世界中に拡がっています。
- ※日本国内26カ所、海外7カ所
ランドスケープアプローチの実践例
サントリーグループは、自然課題に対して関連するステークホルダーを巻き込んで効果的に取り組むため、ランドスケープアプローチ※を実践しています。
- ※ランドスケープアプローチとは、一定の地域や空間において、土地・空間計画をベースに、多様な人間活動と自然環境を総合的に取り扱い、課題解決を導き出す手法です。
熊本地域における地下水の保全活動
九州熊本工場の所在地である熊本市は、豊富な地下水を有する水と緑に恵まれた豊かな地域であり、水道水の100%を地下水で賄っています。一方、近年では大規模な都市開発や工場進出に伴う田畑などの土地改変による地下水涵養量の減少や水災リスクの高まりなどが懸念されており、水循環の保全(ウォーター・ポジティブ)とそれを支える自然環境の再生・保全(ネイチャー・ポジティブ)を地域全体で推進することが一層重要となっています。
サントリーグループでは、2003年以降、「サントリー 天然水の森 阿蘇」における森林整備などを通じた水源涵養の取り組みに加え、山・川・田んぼが一体となった地下水涵養活動「冬水田んぼ」を行っています。上流の森と川を整備することにより、冬の河川流量を増やし、その分を扇状地の田んぼで地下に浸透させる、新しい水源涵養の試みです。その際に、田んぼを有機に転換するため、地元農家の方々と共に多様な水田生物を復活させ、病虫害を低減する技術開発も行っています。また、地元の小学生と共に、田んぼの生き物調査を実施するなど、地域に根ざした取り組みも進めています。
2025年3月には、サントリーホールディングスを含む6組織による産学金協働で熊本の水循環の保全を目的とした「熊本ウォーターポジティブ・アクション」を始動させ、雨庭や冬水たんぼなどのグリーンインフラを用いて、地下水の涵養とともに内水・外水氾濫の軽減、ヒートアイランド対策、景観や生物多様性の向上を推進しています。
メキシコ: Charco Benditoプロジェクト
サントリーグループの自社工場が所在する国レベルの水ストレス評価において、メキシコは水ストレスが高い国の一つです。そこで、サントリーグループのテキーラメーカーであるCasa Sauza社は、メキシコにおけるCharco Bendito プロジェクトの提携企業として、水源涵養活動を行っています。この流域イニシアチブは、飲料業界の環境に関する円卓会議(BIER)および他の製造企業13社との協働で、森林再生、土壌保全、帯水層涵養活動を通じて、レルマ・サンティアゴ川流域で、周辺に建設された高速道路で分断された生態系と森林を回復するための取り組みです。
本プロジェクトでは、地域社会との取り組みの中で、水へのアクセスを持たない地域住民への飲料水の提供や、養蜂と蜂蜜の生産を通じて地域での持続可能な農林業への就業を支援し、また地域社会の重要な遺産地域を保護しています。
移行計画における重要な取り組み②
再生農業をはじめとする持続可能な農業の推進
ステークホルダーのエンゲージメント:
- 地域
- バリューチェーン
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界のGHG総排出量の約3割が食料システムに由来しており、農業生産はその4割超を占めていると言われています。サントリーグループの商品に不可欠な自然の恵みである農作物からのGHG排出量を削減することは、サントリーグループのバリューチェーン全体のGHG排出量を削減する上で重要です。また、気候変動は収量の変動、栽培適地の移動など、農作物原料の生産活動に大きな影響を及ぼすと推測されており、持続可能な農業や気候変動への耐性がある育種の研究開発の推進がサントリーグループの事業継続にとって不可欠です。
このような観点から、サントリーグループでは、再生農業※をはじめとする持続可能な農業を商社、農家の方々、現地の専門家などと協働して推進しています。特に、トウモロコシ、大麦、サトウキビなどの栽培で開始している再生農業は、カバークロップの活用や不耕起栽培などの農法により、GHG排出量の削減と同時に、土壌中の生物多様性が再生されることで土壌が肥沃になり、化学肥料や農薬使用の削減、水の有効利用などの効果が期待されています。
また、水ストレスの高い地域において水消費量の多い重要原料(コーヒー豆、大麦、ぶどう)の栽培に関しては、水使用効率の改善をサプライヤーと協働で推進しています。
加えて、環境負荷や人権リスクが高いと想定されるコーヒー豆については、国際的なサステナブル認証を取得しているブラジルのバウ農園から一部調達をしている他、商社や現地パートナー企業などと連携して調達先の農家を支援するプログラムを推進し、課題を把握・是正するなど、バリューチェーンで働く人々の人権にも配慮しながら対応を進めています。
- ※再生農業:土壌の健全性や生物多様性などを保護・改善しながら、農家の生活向上にも資する、成果ベースの農業アプローチ
持続可能な農業を実施している原料および産地
| 事業 | 原料 | 産地国 |
|---|---|---|
| 飲料 | コーヒー 豆★ | ブラジル、グアテマラ、ウガンダ |
| 酒類・飲料 | トウモロコシ★ | 米国 |
| 酒類・飲料 | 大麦★ | 英国 |
| 酒類・飲料 | サトウキビ★ | タイ |
| 酒類 | アガベ★ | メキシコ |
| 飲料 | カシス★ | 英国 |
| 飲料 | ぶどう | 日本 |
移行計画における重要な取り組み③
ペットボトル:リサイクル素材または植物由来素材等100%達成に向けた取り組み
ステークホルダーのエンゲージメント:
- 地域
- バリューチェーン
- 産業界
- 国・地方自治体の政策
プラスチックはその有用性により、私たちの生活を豊かにしてきた一方で、使用済みプラスチックの不適切な取り扱いによる環境への影響が課題となっています。
サントリーグループは、循環型かつ脱炭素社会への移行を強力に先導すべく、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルをリサイクル素材または植物由来素材等100%に切り替え、化石由来原料の新規使用をゼロにする活動を推進しています。
サントリーグループ独自の「2R+B(Reduce・Recycle + Bio)」戦略のもと、樹脂使用量の削減とリサイクル素材または植物由来素材等の使用により徹底した資源の有効利用を図りつつ、化石由来原料を再生可能原料で代替していきます。
「ボトルtoボトル」水平リサイクルの推進
「ボトルtoボトル」水平リサイクルは、ペットボトルを資源として何度も循環させることができ、新規化石由来原料の使用量削減とCO2排出量の削減に寄与することが可能となります。メカニカルリサイクル※1による「ボトルtoボトル」水平リサイクルは、ケミカルリサイクル※2と比較して、環境負荷(原料調達からプリフォーム製造までの工程におけるCO2排出量)が少ないリサイクル手法であることから、「ボトルtoボトル」水平リサイクルを優先して推進し、ペットボトルを資源として何度も循環させることで持続可能な社会の実現を目指しています。
日本においてペットボトルの資源循環を推進するため、自治体・流通企業などと「ボトルtoボトル」水平リサイクルに関する協定を締結し、使用済みペットボトルを集め、リサイクルペットボトルに再生しています。水平リサイクルの実現には、消費者の理解と協力が必須であることから、消費者向けの啓発イベントや、協定を締結した自治体の小学校や中学校で、ペットボトルのリサイクルに関する啓発授業を展開しています。
使用済みプラスチックの再資源化事業に向けた取り組み
サントリーグループは、バリューチェーンを構成する12社で、使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む共同出資会社、(株)アールプラスジャパンを2020年に設立しました。2025年3月現在、参画企業は48社に広がっており、米国バイオ化学ベンチャー企業アネロテック社とともに、使用済みプラスチックの再資源化技術開発を進めています。
- ※1メカニカルリサイクル:マテリアルリサイクル(使用済みのペットボトルを粉砕・洗浄などの処理を行い、再びペットボトルの原料とすること)で得られた再生樹脂をさらに高温・減圧下で一定時間の処理を行い、再生材中の不純物を除去し、飲料容器に適した品質のPET樹脂にする方法
- ※2ケミカルリサイクル:プラスチックを化学的に分解して、元の原料やモノマーに戻してから再利用する方法
移行計画における重要な取り組み④
グリーン水素導入によるGHG排出実質ゼロ工場へ
ステークホルダーのエンゲージメント:
- 地域
- バリューチェーン
- 国・地方自治体の政策
サントリーグループは「環境目標2030」において、自社拠点でのGHG排出量を2019年比50%削減という目標を掲げています。現在、日本・米州・欧州の飲料・食品および酒類事業に関わるすべての自社生産研究拠点で購入する電力に100%再生可能エネルギーを利用しています。
さらに、2025年中には日本国内最大となる16メガワット規模のP2G(Power to Gas)システムを「サントリー天然水 南アルプス白州工場」および「サントリー白州蒸溜所」に導入予定です。同システムは、太陽光などの再生可能エネルギー由来電力を活用するため、水素の製造工程においてもCO2を排出しない「グリーン水素」※をつくることが可能となります。
同システムの導入によって、「サントリー天然水 南アルプス白州工場」の殺菌工程で使う蒸気の熱源など、工場で使用する熱エネルギーの燃料をグリーン水素へ転換することや、周辺地域などでのグリーン水素活用について、山梨県とともに検討し取り組んでいく予定です。
- ※グリーン水素:製造工程で水を電気分解する際に、太陽光などの再生可能エネルギー電力を活用することで、水素の製造工程においてもCO2を排出しない水素
財務戦略
脱炭素に向けた投資計画
サントリーグループは、2021年から2030年までに脱炭素を促進する1,000億円規模の投資を実施する予定です。これにより、2030年に想定されるGHG排出量を、約100万トン削減できる見込みです。
インターナル・カーボン・プライシング(ICP)の運用
サントリーグループでは、2021年以降インターナル・カーボン・プライシングを運用しています。主に気候変動対策に資する設備投資の投資判断に活用するなど、経営判断に広く活用しています。
<サントリーグループのICP概要>
| 価格 | 8千円/トン |
|---|---|
| 種類 | シャドープライス |
| 適用範囲 | サントリーグループ内 |
| 価格算定の前提条件 | 国際エネルギー機関(IEA)など国際機関の予測や、同業他社や先進的な環境の取り組みを推進している企業のベンチマーキング、加えて過去の社内意思決定事例の評価をもとに算定 |
資金調達
サントリーグループは、2023年にグリーンボンドで200億円を調達しました。今後、2025年までに以下の資金用途に活用していきます。
- エネルギー効率
- -自社工場におけるエネルギー使用量の削減に資する設備投資
- 再生可能エネルギー
- -グリーン水素の調達に関する費用
- -排水処理を通じたバイオガス精製設備、バイオマス熱供給に関する設備又はバイオマス発電設備の製造に関する設備投資
- -再生可能エネルギー由来の電力の調達に関する費用(再生可能エネルギー証書の購入)
リスクおよび影響の管理
リスク管理体制
サントリーグループでは、グローバルサステナビリティ委員会において、サステナビリティに関するリスクと機会の抽出・評価・管理を行っています。また、グローバルリスクマネジメント委員会において、定期的にサントリーグループにおけるリスクの抽出・評価を行い、サントリーグループにとって優先的に取り組むべきリスクを特定し、サントリーグループ全体でリスクの低減活動を推進しており、サステナビリティに関するリスクもこの活動の対象に含まれています。これらの活動については、その内容を取締役会において定期的に報告しています。自然資本関連リスクおよび気候変動関連リスクは最重要リスクの一つとして、このプロセスで対応状況をモニタリングしています。
なお、リスクと機会の抽出・評価のプロセスには、外部環境やリスクレポートなどの外部情報の収集、および役員へのヒアリングを組み込んでおり、抽出されたリスクと機会に対し、「リスクエクスポージャー(発生可能性×影響度)」および「対策レベル(対策の準備の度合い)」の二軸で評価し、優先的に取り組むリスクと機会を特定しています。
オペレーションにおけるリスク把握と管理に関しては、サプライヤーおよび自社工場については、Sedex※のプラットフォームを用いて環境および人権のリスク評価を行い、課題を把握した際は是正を促しています。また、救済システムとしては、従業員向けには内部通報システムを設けている他、サプライヤーやその関係者の方(コミュニティー)が利用できる通報窓口として、「サントリーグループビジネスパートナーコンプライアンス・ホットライン」と「お客様センター」の仕組みを設けています。
- ※Sedex :グローバルなサプライチェーンにおける倫理的なビジネス慣行を改善するためのNPOであり、会員企業が自社の倫理的な情報やバリューチェーン情報を共有できるプラットフォームを提供。
人権に関するリスク評価や対応状況の詳細は以下をご参照ください。
人権の尊重 サントリーグループのサステナビリティ サントリー
体制図
特定したリスクの管理方法
特定した優先的に対応すべきリスクについては、責任者およびモニタリング機関を任命の上、リスクへの対応策を実施します。対応状況はグローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)において報告・議論し、対応結果を踏まえて次年度の重要リスクを選定することで、抽出・評価・対策・モニタリングのPDCAサイクルを回しています。
指標と目標
サントリーグループでは、サステナビリティの課題の中でも特に事業への影響が大きいと想定している水および気候変動については、2050年を目標年とする長期ビジョン「環境ビジョン2050」に加え、2030年を目標年とする「環境目標2030」を設定しています。また、2030年に向けて容器包装に関する目標も設定し、活動を推進しています。
| 重要課題 | 2030年目標 | 2024年実績 | |
|---|---|---|---|
| 水 |
工場節水![]() |
自社工場の水使用量の原単位をグローバルで35%削減※1 特に水ストレスの高い地域においては、水課題の実態を評価し、水総使用量の削減の必要性を検証 |
|
水源涵養![]() |
自社工場※2の半数以上で、水源涵養活動により使用する水の100%以上をそれぞれの水源に還元 特に水ストレスの高い地域においてはすべての工場で上記の取り組みを実施 |
|
|
原料生産![]() |
水ストレスの高い地域における水消費量の多い重要原料※3を特定し、その生産における水使用効率の改善をサプライヤーと協働で推進 |
|
|
水の啓発・安全な水の提供![]() |
水に関する啓発プログラムに加えて、安全な水の提供にも取り組み、あわせて500万人以上に展開 |
|
|
| 気候変動 |
Scope 1,2
|
自社拠点でのGHG排出量を50%削減※4 |
|
Scope 1,2,3
|
バリューチェーン全体におけるGHG排出量を30%削減※4 |
|
|
| 容器包装 |
ペットボトルのサステナブル素材使用率![]() |
グローバルでのペットボトルのサステナブル素材使用率※5を100%にする |
|
-
※12015年における事業領域を前提とした原単位での削減
-
※2製品を製造するサントリーグループの工場:国内24工場、海外45工場
-
※3コーヒー豆、大麦、ブドウ
-
※42019年の排出量を基準とする
-
※5ペットボトル重量のうちサステナブル素材(リサイクルあるいは植物由来素材等)の比率
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」目標達成に向けた貢献
サントリーグループは、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された生物多様性の世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で定められた2030年までの23のグローバルターゲットのうち、主に以下9つの目標達成に向けて貢献していきます。
| 1.生物多様性への脅威を減らす | サントリーグループの主な貢献 | |
|---|---|---|
| ターゲット 2 | 生態系の回復 |
|
| ターゲット 3 | 「30by30」/保護地域およびOECM |
|
| ターゲット 7 | 汚染防止、栄養塩類の流出・農薬リスクの半減 |
|
| ターゲット 8 | 気候変動対策 |
|
| ターゲット 9 | 人々(特に脆弱な状況にある人々および生物多様性に最も依存している人々)への社会的、経済的および環境的な恩恵 |
|
| 2.人々のニーズを満たす | ||
| ターゲット 10 | 農林漁業の持続可能な管理 |
|
| ターゲット 11 | 自然を活用した解決策または生態系を活用したアプローチを通じた自然の恵みの回復、維持および増大 |
|
| 3.実施と主流化のためのツールと解決策 | ||
| ターゲット 15 | ビジネスの影響評価・開示 |
|
| ターゲット 16 | 持続可能な消費 |
|
TNFDコア開示指標 対応表
| 番号 | インパクトドライバー | 指標 | 測定指標内容 |
|---|---|---|---|
| - | GHG排出量 | ||
| C1.0 | 陸/淡水/海洋利用の変化 | 土地利用フットプリント |
|
| C1.1 | 陸/淡水/海洋利用の変化 | 陸・淡水・海洋利用の変化 |
|
| C2.0 | 汚染/汚染除去 | 種類別に土壌に放出された汚染物質の種類別総量 |
|
| C2.1 | 汚染/汚染除去 | 排水水質、排水量 |
|
| C2.2 | 汚染/汚染除去 | 廃棄物量 |
|
| C2.3 | 汚染/汚染除去 | 廃プラスチック量 |
廃プラスチック類
|
| C2.4 | 汚染/汚染除去 | 非GHG大気汚染物質総量 |
※日本国内生産拠点のみ |
| C7.2 | リスク | 自然に対する負の影響により、その年度に受けた重大な罰金、過料、訴訟の内容と金額 |
|
| C7.3 | 機会 | 自然関連の機会に対して行われた資本支出・融資・投資の金額(機会の種類別) |
|
| C7.4 | 機会 | 自然に対して実証可能な正の影響をもたらす製品・サービスからの収益の増加額と割合 |
|
- ※2024年は日本国内生産拠点が27工場、海外生産拠点が52工場のグループ計79工場を対象




