とっておき アフタヌーン Vol.8
とっておき アフタヌーン Vol.8

加耒 徹(バリトン&ナビゲーター)インタビュー

<Vol. 8 ドラマティック・ロシア!> <Vol. 9 ロマンをめぐる物語―“愛”>

サントリーホールと日本フィルハーモニー交響楽団が平日のマチネでお届けするシリーズ「日本フィル&サントリーホール とっておき アフタヌーン」。2018シーズン3回の公演にナビゲーター役として登場するバリトン歌手・加耒徹さんにお話を伺いました。

*加耒徹インタビュー動画はこちらyoutube ロゴ

バリトン歌手として、今まで何度も大ホールやブルーローズ(小ホール)に美声を響き渡らせ、また、クリスマスシーズンにはバッハ・コレギウム・ジャパンの一員として出演もされている加耒徹さん。「とっておきアフタヌーン」では、ナビゲーターという役に初挑戦です。

もともとシャイな性格なので、人前でしゃべるなんて想像もできなかったんですけれど、歌手にとってしゃべる重要性というのは感じています。とくに歌の場合、歌詞がある音楽なので、どういう曲かというのを説明するようなことから始めました。でも歌を聴くときに、一字一句を理解しないでほしいと言っています。逆にわかりすぎると、映画の結末を知ってから映画を観るようなことになってしまうので。音のドラマというのも感じてほしいなと思い、あまり細かくは説明しないようにしています。

今回は、ご自分が歌われる曲というより、オーケストラが演奏する曲を説明するかたちになります。

有名な曲ばかりなので、あまり説明もいらないかもしれません。曲に対する思い入れなどを、指揮者やソリストの方に私がインタビューするような形で伺えたら、いちばん良い流れになるのかなと思っています。

平日の昼間に開催する「とっておきアフタヌーン」シリーズは、ひとつのライフスタイルの提案でもあります。幅広く多くの方々にご来場いただきたいと願っていますが、はじめてクラシックのコンサートにいらっしゃる方には、どのように過ごしてほしいと思いますか?

純粋に、身を任せてほしい、リラックスして聴いてほしいというのが一番です。あとは、演奏する側がどうエネルギーをもって時間をつくり続けるかがすべてだと思うので。その場でなにを感じるかは、体験してみないとわからないことで、たとえば、「2楽章はとても重い音楽で……」なんて説明があったとしても、その曲を聴きながら、昔のことを思い出したりするかもしれない。感じ方というのはそれぞれ違うと思うので、音楽に身を任せてほしいですね。
でもそのきっかけとして、コンサートホールに来ていただかないとどうしようもないというのが、演奏家の永遠の悩みではあります。来ていただければきっと何かを感じていただけると思いますし、私のナビゲートで、その曲に出てくるポイントなどをちょっと伝えられたら、そして、それを探そうとしていただけたら、聴き方もまた変わるのかなと。最初にちょっと一言あるだけでも、聴く姿勢が変わって、クラシック音楽に対するハードルがひとつ下がった状態になればと思います。

  • 「とっておき アフタヌーン Vol.7」より

その舞台として、サントリーホールというのはどう思われますか?

それはもう高級感があって、なんというんでしょう、あの雰囲気。縦長のホールでは味わえないような……全体が見えて、演奏する側としても、どこを向いても自分の良さを出そうとできる、すごく気持ちいいホールです。集中できる環境ですしお客様に囲まれていて、客席をすごく近く感じられる安心できる距離感です。実際、よく見えるんですよ、客席。照明にもよりますけれど。みんな一緒にオーケストラを楽しみましょうという空気はつくりやすいと思います。

昼間の公演というのは、気分や体の調子の面で、いかがですか?

14時開演の公演は、すごく爽やかにできると思います。午前中だといろいろコンディションを考えなければならないですし、夜公演だと昼のスケジュールにも左右され、一度冷めてしまった身体をまたあたためて万全の声を出すのは、けっこう大変です。14時というのは、むしろ身体が起きてきて、いちばん良い状態ではないかと。バリトン歌手としても、身体がいちばんあたたまった時で、声がベストな状態だと思います。

今回、珍しい試みとして、パンフレットなどで指揮者・ソリストのひとりひとりにキャッチコピーがついています。加耒さんには「多彩なジャンルを歌いこなす注目の美しきバリトン」というコピーが。

ありがとうございます(笑)。みなさんのキャッチコピーも、それぞれの人間性が出ていて、すごくわかりやすいですね。男性ばかりですが、それぞれ特徴があって、似通っていない、いい良さを毎回出せるのではないかと思います。私も皆さんに会うのが楽しみです。

日本フィルとは初めての共演ですか?

そうなんです、このシリーズが初めてで。学生のときには、本当によく聴きには行っていました。学生席っていうのがあったので、いちばん前の席で。学生の頃はとにかく交響曲が好きで、日本フィルさんに限らず、それこそ毎週のように……東京文化会館が学校から近かったのですが、サントリーホールとか東京オペラシティとか好きなホールもあって、どこにでも聴きに行きました。やっぱり、オーケストラの音圧というか生の音の響きが好きだったからです。その頃は、マーラーとかベートーヴェン、チャイコフスキー、ラフマニノフが大好きで。今はすっかりバロック音楽のほうが好きになっちゃいましたけれど。

やはり、CDなどで聴くのとはぜんぜん違いますか?

家で、どんなに良いヘッドホンをつけて聴いても、違いますね。生の音の乾きというか、弦の撥弦のきしみとか、ちょっとかすれちゃった音とか、そういうのは生でないと聴けないですし。私の場合、ちゃんと出来上ったCDを聴くと、ここは音を継ぎ接ぎしたな、ここで音を間違えているな、など、どうしても気になってしまいます。でも生演奏なら、それもひとつの良さ。たとえばホルンの音がちょっとファファファーンってはずれちゃったとしても、それはそれで、かえって感動だったり。生でないと体験できないし、それが生の面白さだと思います。
ホールに聴きにいらっしゃる方は、ぜひ、そういうアクシデントというか、いつもと違うということも感じてほしいですね。今、そこで生まれている音なので。その人たちが全力でやって鳴った結果を、存分に楽しんでほしいです。“響き”は、耳だけでなく身体で感じるもので、どの席にいても感じ方が違うと思います。そこから生まれてきた響きの波というのが後ろの席まで通じるのが、生の良さ。そういう意味では、サントリーホールは、どこに座っても楽しめるのではないでしょうか。ステージ後ろのP席は、指揮者になった気分で楽しめると思いますし。今回の曲目は、指揮者のエネルギーというのも存分に感じられると思います。

ナビゲーターとして、各回の聴かせどころを教えてください。

名曲が揃っている感じで、毎回、なかなか良い、バランスのとれた選曲です。
Vol.8は、ロシアを代表するラフマニノフとチャイコフスキー。曲がもっとも伝わりやすいですし、私としてもいちばん進行しやすいかもしれません。時代的にも、特徴がとてもよく出ています。チャイコフスキーはイタリアに留学していたこともあって、イタリア音楽の影響を大いに受けていて、こてこてのロマンティック。ラフマニノフは重いところも見せられる。その対比を聴いてもらうだけでもぜんぜん違うと思います。ラフマニノフのピアノ協奏曲は誰もが知っている2番、むしろ何も話さなくてもいいのではないかという王道ですね。Vol.9は、いろいろな曲が入っているので、ナビゲートするのはいちばん難しいかもしれません。「愛」というテーマも、いちばんわかりやすくて、いちばん広いテーマです。
とにかく、毎回指揮者も違いますし、いらしたお客様には、またもう一度聴きに来たいと思っていただけるようにしたい……必ずそうなると思います。

加耒さんご本人の思い入れのある曲など、ありますか?

すべてにおいて、これまでの私の人生に関わりの深い……知ってて選んだのかな?と思ってしまいます。Vol.8ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』は、誰でも一度はハマる曲だと思うのですが、大学時代聴きまくって、くら〜い気持ちになっていました(笑)。暗い中の良さというのをラフマニノフはすごく持っているので、落ち込むだけ落ち込んでリフレッシュするというような。10代後半〜20代前半の若者にはあまりにもこたえる曲で、なんていい曲なんだ!と。それがロシア歌曲を勉強するきっかけになりましたし、卒業演奏もすべてラフマニノフにしました。この曲に出会っていなかったら、今、ロシア語を歌っていないだろうなと思います。
Vol.9メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』は、私がヴァイオリンを挫折した曲(笑)。小さい頃からずっとヴァイオリンをやっていたのですが、高校受験を考えるときに、この曲を練習していて、「これはダメだな」と自分の限界に気づかされた曲なんです。
チャイコフスキーの幻想序曲『ロメオとジュリエット』(Vol.9)も中学の部活時代にやった曲です。オーボエで。本当に、すべての曲が、私にとって思い出のある曲です。お客様の中にも、あ、私も知っているとか、個人的な思い出があるとか、この曲を目的で来たという方もいるかもしれませんしね。どんな曲が演奏されるのか知らずにいらっしゃった方も、曲との出会いを楽しめるシリーズだと思います。

毎回、加耒さんの歌がオープニングです。バリトン歌手としての聴かせどころを。

Vol.8では、ロシア民謡の『黒い瞳』を。ロシアの歌は、ずっと私が力を入れてやっていることですし、オケの演奏で歌えるなんて夢のようです。
Vol.9では、ニーノ・ロータの『ロミオとジュリエットのテーマ』、私にとっては初めての曲ですが、「愛」というテーマにふさわしく、甘く伝えられるかなと思います。

では、加耒さんにとっての“とっておき”は何ですか? ご出身地・福岡のJリーグチーム、アビスパ福岡の大ファンだということは、ブログなどでも書かれていますが。

そうですね、サッカーしかないですね。サッカーはね、深いというか、音楽と似ているところもあって、全然違うところもあって。やっぱり勝負ごとなので、それぞれの精神状態がチームに反映されるというか、別の意味で勉強になる場所だなと思います。リラックスすればいいですけれど、そうもいかないのがスポーツなので、オフにサッカー観に行って疲れるというのが、いちばんあるパターンです(笑)。
生で観に行くのがやっぱり好きですね。テレビでももちろん観ますけれど、空気感とか応援の声とか、テレビだといいところだけ見せているけれども、生だと、その時の空気で、あ、だからこういうムードになるんだとか、細かい駆け引きとかがわかるので。そこは音楽と似ています。とっておきの時間は、だから、サッカーを観に行っている時間ですね。アビスパはもう20年ぐらい追っかけをしていて、歌より長いですね。スポーツはどちらかが勝つか負けるかの世界なので、観に行って勉強になることも多いですね。

ますます公演が楽しみです。ありがとうございました。

  • 「とっておき アフタヌーン Vol.7」より 左:鈴木優人さん(指揮)、中央:宮田大さん(チェロ)と

  • 「とっておき アフタヌーン Vol.7」前日にお誕生日を迎えた加耒徹さん

  • 加耒徹(バリトン&ナビゲーター)インタビュー

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