アーティスト・インタビュー

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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2026
クロンベルク・アカデミー 日本ツアー 2026

MINAMI(ヴァイオリン)インタビュー

片桐卓也(音楽ライター)

コロナ禍があけた2023年に初めて日本ツアーを行ったクロンベルク・アカデミー。その一環としてサントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンに初めて参加した。その時の印象もまだ鮮やかだが、2026年の公演にも参加してくれることとなった。そこで、現在クロンベルク・アカデミーで学びつつ、2025年秋からベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1ヴァイオリン奏者としてトライアルを開始したMINAMI(吉田南)さんに、今回の公演への抱負と、ユニークな教育システムで知られるクロンベルク・アカデミーで学ぶ魅力、ベルリンでの生活などを伺った。

――2025年の秋はMINAMIさんにとっては人生の大きな転機となったのではないでしょうか?クロンベルク・アカデミーで学ぶこと、同時にベルリン・フィル第1ヴァイオリン奏者へのトライアルを始めたということで、想像するだけでもかなり濃厚な時間を過ごされていると思うのですが、その転機はどうやって起ったのですか?
アメリカの大学(ニューイングランド音楽院)を修了する前に「修了後はドイツに渡り、クロンベルク・アカデミーのミハエラ・マルティン先生のもとで学びたい」という希望がありました。それが叶った形です。そして、たまたまWEB上でベルリン・フィルの第1ヴァイオリン奏者の募集があることを知り、気になったので応募してみました。予備知識もなくオーディションに行きましたが、ありがたいことに突破することができたので、現在はクロンベルク・アカデミーとベルリン・フィルの掛け持ちです。

――現在はベルリンにお住まいですか?
はい。トライアルと言っても、他の団員さんと全く同じように公演に参加することが条件です。ベルリン・フィルはほぼ毎週、公演を行っていますので、それに参加するためにはベルリンに住む必要があります。

――クロンベルク・アカデミーへはどのように通っているのでしょう?クロンベルクはフランクフルトからさらにちょっと奥に入った街だと思うので、ベルリンからだとけっこう時間がかかりますよね。
様々なケースがあるのですが、マルティン先生がベルリンにいらっしゃる時はベルリンでレッスンを受けることもあります。ベルリンからクロンベルクまで日帰りで出かけ、レッスンを受けることもあります。マルティン先生は、ご自身と私のスケジュールを擦り合わせ、臨機応変にレッスンの設定をしてくださっています。

――片道3時間半ぐらいかかりますかね。
そうですね。いまは高速鉄道がありますので、それほど大変では無くなったと思います。

©Marco Borggreve
ミハエラ・マルティン(ヴァイオリン)
Kronberg Academy 2025 ©Patricia Truchsess von Wetzhausen
クロンベルク・アカデミーにて

――クロンベルク・アカデミーはミハエラ・マルティンをはじめとして、今井信子(前講師)、フランス・ヘルメルソンなど、世界トップクラスの演奏家が講師となっており、そこに若き才能あふれる様々な国の若者たちが集う音楽を学ぶ場だと思うのですが、その講師陣だけではなく、他の世界的なアーティストも時々やって来ては、マスタークラスを開催するということが知られています。そのなかで、印象に残っている体験はありますか?
一番印象に残っているのはギドン・クレーメル氏のマスタークラスです。私が参加した時は、受講生が全員演奏を行って、その演奏に対して皆で意見を出し合うという、普通のマスタークラスではあり得ないようなスタイルで行われました。その他、キリル・ゲルシュタイン氏と共演し、ピアニストとしての意見を聞き、作品についての理解を更に深めたり、オーガスティン・ハーデリヒ氏のようなヴァイオリニストから、演奏の極意を学んだりすることもあります。同じ作品について様々な分析や解釈、技法があることに、改めて気づきます。

――もちろんマルティン先生とのマン・ツー・マンのレッスンも定期的に受けている訳ですよね?
そうです。マルティン先生のレッスンは本当に厳しくて、ひとつひとつの音を大切にしなさいと常に言われます。細かな音でもそこに意味があるはずで、何も考えないで弾くと、必ず指摘されますね。一音だけにこだわり、それをずっと弾くというようなレッスンになることもあります。ひとつの音も軽んじることなく、丁寧に音楽を構築していくということは、作品全体をさらに深く追究することになります。隅々まで行き届いた音楽にするため、一音を大切にする姿勢を常に持ち続けなければ、と思う日々です。

Kronberg Academy 2025 ©Patricia Truchsess von Wetzhausen
ギドン・クレーメル(写真中央)のマスタークラス集合写真

――室内楽を演奏する機会はあまり多くはなかったと思いますが、今回のCMGではクロンベルク・アカデミー公演で2回、それからフィナーレでも演奏されますね。
日本では桐朋学園に在籍していたので、まず高校の3年間、室内楽に取り組みました。原田幸一郎先生の弟子として室内楽の勉強は大切に思っています。原田先生はいつも「室内楽をちゃんとやらないとね」とおっしゃっていました。またアメリカの大学、大学院に在学中は固定のカルテットとトリオを結成し、様々な舞台で演奏してきました。アメリカの音楽大学は、日本と比べ物にならないほど室内楽のカリキュラムが豊富です。また、クロンベルク・アカデミーでは、入学後すぐ、昨年亡くなられたアルフレッド・ブレンデル氏の室内楽マスタークラスを受講し、アカデミーの学生たちと演奏しました。とても貴重な経験でした。
実はヴィオラのイ・ヘスさんとはアメリカ時代からの仲良しで、もう7〜8年ぐらいの付き合いがありますし、今回のツアーに参加するもうひとりのヴァイオリニスト、ギド・サンタナさんは先生が同じなので、よく知っています。ピアノのアンナ・ハンさんとは以前NYで知り合い、私がリサイタルをする時にピアノの伴奏を担当してくれる間柄です。チェロのアルネ・ツェラー君は初めて一緒に演奏します。

自身のリサイタルにて、同じくアカデミー生のアンナ・ハン(ピアノ、写真中央)とも共演
(上段)アンナ・ハン(ピアノ)、イ・ヘス(ヴァイオリン)
(下段)ギド・サンタナ(ヴァイオリン)、アルネ・ツェラー(チェロ)

――クロンベルク・アカデミーの先生方と一緒に演奏する機会は多いのですか?
クロンベルクはフランクフルトに近いこともあり、フランクフルト近郊で室内楽の演奏会をすることもあります。マルティン先生とは、これまで2回、一緒に演奏しました。最初のコンサートでは、とても緊張してしまって、それが先生に伝わるくらいでした。マルティン先生が「いつものあなたらしく演奏すれば良いのよ」とおっしゃったことを覚えています。2回目のコンサートでは、自分らしくのびのびと、良い演奏ができたと思います。
クロンベルク・アカデミーのコンサートに出演する先生も生徒も、それぞれが超個性的な演奏家で、皆が自分の考え方をしっかりと持っていて、それぞれアイディアや独自の解釈を持っています。それを擦り合わせながらひとつの演奏に練り上げて行く過程は、このクロンベルク・アカデミーでしか出来ない経験だと思います。今回の日本ツアーでも、私たちが音楽と取り組んだ時間と、それが実際の演奏となってホールに流れ出す<生まれる瞬間>を、聴衆の皆さんに楽しんでいただければ嬉しいな、と思います。

アカデミー講師のミハエラ・マルティン(右から2番目)とブラームス:弦楽五重奏曲 第2番で共演

――一方で、ベルリン・フィルという世界最高峰のオーケストラで演奏をし続けるというのも大変なことですね。
オーケストラの音楽については、知らない作品も多い訳ですから、毎週、本当に必死に楽譜と格闘し、きちんと理解するため奮闘しています。ベルリンに居る時はオーケストラの練習をする時間も長くなります。

――しかもペトレンコだけではなく、客演の指揮者の方も多く、それぞれの要求する音楽性も違っていると思います。
客演でいらっしゃる指揮者それぞれの個性を感じ取るということは、実は大切な作業で、それを音楽として表現して行くという仕事はとてもやり甲斐のあるものだと思います。また、ソリストも次々と客演される訳ですが、その方の音楽性によって、オーケストラの表情も変わります。また逆に、オーケストラが主導する場面で、ベルリン・フィル独特の音色で歌い回せば、ソリストが反応して、それまでとは異なる音楽の表情が出て来るという経験もあります。このような貴重な瞬間は、自分がソリストとして演奏する時にも、とても役立つものです。

――そう言えば、ベルリン・フィルはソリストとして活躍されている方も多く所属している団体ですよね。
そうなのです。ベルリン・フィルは言ってみれば優れたソリストたちの集団というイメージですね。オーケストラの運営の方も、団員それぞれの活動を尊重してくれているので、「あ、今週は◯◯さんがいないね」、「あの方はけっこう長くお休みしている、演奏旅行かな」などと気が付くこともあります。そうした関係が成立しているので、世界最高峰のオーケストラであり続けることが出来るのだろうと感じています。

――MINAMIさんもソロで活動する機会がありますね。
実は今年の9月にはフィンランドのいくつかのオーケストラと共演するためにお休みをいただくことになっています。また、来年はソリストとして、スペインツアーにも同行させていただきます。

――それは2025年のシベリウス国際音楽コンクールで第2位になられたからですね。シベリウスのヴァイオリン協奏曲最優秀演奏賞も受賞されました。
フィンランドやスペインの皆さんに私の音楽を聴いていただけること、とても楽しみです。

――オーケストラの活動と自分自身のソロ活動を両立させるのも、これからの課題になるでしょうか?
ベルリン・フィルのメンバーは、皆さん両立して音楽活動を行っていますので、どちらのキャリアも伸ばして行かなければならないと思っています。マルティン先生からはオーケストラでの演奏の技術と、ソロでの演奏の技術は、きちんと分けて考えるように指導を受けています。オーケストラでの経験は、自分の音楽の世界を広げるために役立て、それをさらにソロでの活動に活かして行ければ良いと思っています。

――ありがとうございました。6月のチェンバーミュージック・ガーデンでの演奏を楽しみにしています。

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