インタビュー

日本フィル&サントリーホール
にじクラ ~トークと笑顔と、音楽と 第9回

坂入健司郎(指揮)・高橋克典(ナビゲーター&語り)インタビュー

日本フィルとサントリーホールが贈る、平日2時からのクラシックコンサート『にじクラ』。“トークと笑顔と、音楽と”をお届けする、この名曲コンサートシリーズは、俳優・高橋克典さんのナビゲートも好評です。来年1月21日(水)に開催される第9回の公演に先立って、高橋克典さんと、新進気鋭の指揮者・坂入健司郎さんに、お話を伺いました。

――3シーズン目となった『にじクラ』は、クラシック音楽を身近に楽しんでいただくために、高橋さんがナビゲーターとして舞台に立たれ、MCを務めていらっしゃいます。回を重ねられて、いかがですか?
高橋: はい。何より、毎回素晴らしい演奏を生で体感できて、色々な音楽家の方々の普段の顔も垣間見えて、とても楽しいお仕事をさせていただいていると感じています。
トークをはさむコンサートというのは、クラシックの公演としては特殊でしょうし、お昼間のコンサートとはいえ、どこまでカジュアルにして良いのか、どこまで音楽家の方々のプライベートに踏み込んでお話を伺っても良いのか、そしてサントリーホールという場ですから品位を崩さないように、クラシックコンサートのイメージを壊さないようにと考えながらやっています。

――お客様にとっても高橋さんにとっても、毎回異なるソリスト、指揮者との出会いがあるわけですが、次回(第9回)の指揮者は、坂入健司郎さんです。
坂入: ちょうど4年前に、このシリーズの前身である「とっておきアフタヌーン」で、高橋さんとご一緒させていただきました。あの公演は、ぼくのサントリーホールデビューでもあり、日本フィルとの初共演でもあったんです。
高橋: そうでしたね。
坂入: とても印象深いステージでした。あれから、様々なコンサートで指揮者として舞台上で喋ることがだいぶ増えたのですが、最初は本当に難しかったです。音楽で使う脳みそと、喋る脳みそというのは、こんなに違うのかと戸惑ったのですが、最近はだいぶ慣れました。

2022年2月2日
日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン Vol. 18

――音楽を演奏する時の頭の働きと、言葉を喋る時に使う頭は、全然違うんですね。
坂入: そうなんです、やってみてわかりました。そして、より良く音楽を伝えるために、トークというのは、やはりすごく重要ではないかと思います。
高橋: ぼくも奏者の方々に、どのタイミングでどのようなお話を伺うか、毎回とても気を遣います。たいてい演奏の直後にトークが入るので、まずはじめは、「いかがでしたか?」と問いかけるようにしています。そうすれば、演奏の中で色々感じられたことを、言葉で話すほうに移行しやすいかな、と。

――そこからだんだん、演奏者の素顔を引き出そうと。
高橋: そうですね。お客様も、コンサートでは演奏家としての顔しか見られないですし、演奏家の素顔や人間性を知る機会はなかなかないと思うので、そこをぜひご紹介したいと思っています。
いきなりプロフィールなどの情報を外側から伝えるのではなく、今、演奏したばかりの生身の人間として内面から、お客様に繋げられたらなぁと。そんな思いもあるので、ぼくはいつもリハーサルから見させていただいています。特等席で、贅沢に(笑)。
坂入: リハーサルから見てくださっているんですね。素晴らしい! オーケストラが本番まで準備する過程をわかってトークしてくださるのは、ぼくたちにとっても贅沢なことだし、お客さんも楽しいと思います。

――高橋さんと演奏者の方のトークが始まると、会場が一気にほんわかした空気になります。そしてまた、次の曲への期待感が増して、気分も昂まっていく。そのメリハリが良いですね。
第9回のプログラムは、「愛と情熱の調べ カルメンの世界」。前半はヴァイオリニスト髙木凜々子さんによる2つの超絶技巧作品。後半はビゼーの「カルメン」組曲で、高橋さんによる語りつきと伺っています。
坂入: カルメンはもともと4幕のオペラ作品ですが、そこから歌を抜いてオーケストラのために編まれた音楽が、「カルメン」組曲です。全12曲を第1組曲、第2組曲としてまとめてあるのですが、これはオペラの話の流れは無視した構成なんです。今回は、順番を組み替えて、幕開けの音楽からエンディングまで、話の筋をだいたい追えるように組曲を編み直して演奏します。
高橋: そして、それぞれの場面が伝わるように、合間に私の語りが加わります。
坂入: やはり、高橋さんの語りが入るとぐっとドラマチックになりますし、お客様も音楽に集中できるのではないかと。4時間ぐらいかかるオペラを、30分ほどに凝縮して観たような気分になっていただけると思います。

――『にじクラ』第1回でも、プロコフィエフ『ピーターと狼』を高橋さんの語りつきで楽しませていただきました。絵本の朗読などもお好きだそうですが、音楽の中での語りということで、工夫されていることはありますか?
高橋: 音楽は、聴いているだけで物語が見えてくる時があるように思います。前回の公演でも、ドヴォルジャーク「新世界より」を聴きながら、キューブリックの映画みたいだなと色々な絵が頭に浮かびました。ですから、言葉で具体的に限定しすぎず、お客様一人一人が音楽から自由に想像する楽しみを感じてもらえるよう、それを補佐するような語りができればと思っています。その曲のメロディー、世界観、情景に、なんとなく自分も思い当たるところがある、といった共感や感情が音楽だという気がします。
でも「カルメン」はもともとオペラですから、はっきりとストーリーがあるので、言葉を入れていくと、よりおもしろくなるでしょうね。どのような台本が来るか、楽しみに待っています。

2023年5月2日
にじクラ~トークと笑顔と、音楽と 第1回
『ピーターと狼』を朗読

――「カルメン」に対して、何かイメージをお持ちですか?
高橋: 実は、声楽家だった私の母は、オペラ歌手の佐藤美子先生に師事しておりました。佐藤先生は、日本で初めてカルメンを演じ広めた方と聞いています。ですから小さい頃からカルメンという作品に対して意識があって、今回何かとてもご縁を感じます。子どもの頃はね、カルメンの世界はなかなか大人すぎて、ついていけませんでしたけれど。今は、ラテンの血や振り幅の広い情感を、深夜番組よりもリアルに感じられます(笑)。
坂入: ぼくもやはり小さい頃から「カルメン」には馴染みがありました。オペラではなく組曲のほうをよく聴いていたんです。音楽が素晴らしくて! もちろんストーリーも知っていて、情念というか色恋沙汰の激しい物語がいっぱいあって、それを想像させるような内容の濃い音楽、強烈なインパクトがありました。小学校の図書室に、オペラを簡単に説明した絵本があって、ビゼーの「カルメン」と「アルルの女」……小学4年生にはとても衝撃的な(笑)。そういうのも見て、さらにこの音楽が好きになって、もう30年以上親しんでいる作品です。

――お二人とも幼い頃に、「カルメン」に出会われていたんですね、衝撃的に!
坂入: 大人になってからスペインに行って、フラメンコや闘牛を実際に見て体験してみると、フランス人のビゼーが音楽で描いたスペインは、現地の空気感を濃密に表しているなぁと驚きました。改めて「カルメン」の音楽の素晴らしさを再認識したんです。
高橋: ぼくも、テレビのドキュメンタリーの仕事でスペインに行った時に、天井の低い暗いバーのような地下の空間(タブラオ)で初めてフラメンコを見ました。たぎるような感情が、ギターと踊りで表される……肉体、リズム、エネルギーが充満していて、なんかぶっ飛んだんです。そういう世界観が、楽しみですね。

――濃いコンサートになりそうですね。
坂入: 前半に演奏する「ツィガーヌ」も、作曲家ラヴェルが憧れていたスペインの音楽なので、カルメンと世界観は統一されると思います。

――にじクラは、「トークと笑顔と、音楽と」がテーマですが、お二人にとって、笑顔の源、あるいは贅沢な時間というのは、どんなことですか?
高橋: なんでしょう……やっぱり家族ですかね。家族がうまくいっていると、一番嬉しいです。仕事も含めすべての源になっていますし、自分を育ててもくれます。あとは、猫ちゃんかな。黒木瞳さんのところで産まれたお猫様を2匹譲っていただきました。まだ2か月なんですけれど、とても癒しになっています。
坂入: ぼくは釣りが好きで、先日も休みに北海道に行って、でっかいニジマスが釣れたので、めちゃくちゃ笑顔だったのですが。そのときに思ったんです。釣りって、自分で思うようには仕切れない、魚の時間軸なんですよね。そこに身を投じて、魚とコミュニケーションをとる、この時間の豊かさ。
音楽をやっていると、指揮者はその作品の時間軸を作るために精一杯努力するんですけれど、お客様の立場に立ってみると、コンサートというのは、日常のルーティーンから外れ、自分が決めた時間軸ではない、天才作曲家たちが作った時間の流れに身を委ねること。すごく長くて眠くなる時もあれば、一瞬に感じる時もあり、息をのむぐらい永遠に感じる時間もある。自分の時間の流れとは違うところに身を投じる、委ねてみるというのが、贅沢なことなんじゃないかなと。
高橋: そうですよね、平日の午後に生の演奏を楽しむ贅沢。
最近よく考えるんですよね。僕らの世代は、仕事=経済で、利益を追いかけていた気がしますが、今は、どういう生き方をしたいかで仕事を選ぶ時代になってきたのかなと。本来、そうあるべきですよね。一日の中でどういう風に時間を使うか。どう暮らしたいのか。今、東京を拠点に俳優という仕事をしているなかで、このサントリーホールで音楽に没入できる時間、しかも仕事として……非常に贅沢でありがたいですね。

――先ほど、高橋さんは毎回リハーサルもご覧になるとおっしゃっていましたが、『にじクラ』シリーズでは、お客様にもリハーサル体験をご用意しているんです(事前申込・抽選)。
高橋: リハーサルって、とってもいい時間ですよね。指揮者がちょっと気になるポイントでオーケストラを止めて、一言二言指示すると、その後、ニュアンスが変わるんですね。そんな瞬間を見られるのは、とてもおもしろいですよ。
坂入: 指揮者とオーケストラが、視線や身振り手振り以外でコミュニケーションをとっているところって、皆さんなかなか見る機会はないから、楽しいと思います。指揮者としてはいちばん気が気じゃない、頭フル回転の時間ですけれど(笑)。
高橋: 指揮者ってそもそもなぜいるのか? その人が振ることで何が変わるんだろう? と、以前はよくわからなかったのですが、やはり指揮者によって音が変わるんですね。
一度、ドラマで指揮者の役をやらせていただいたことがあって、ぼくが指揮するフリをして音大生の方々が録音に合わせてオーケストラで演奏するのですが、録音テープに合わせてと言っても、やはり皆さん、目の前のぼくに合わせちゃうんですよ、反射的に。何十テイクやってもうまくいかない。一度だけ、ちょっと先を振れた時に、ちゃんとオーケストラを引っ張っていけた気がしたんです。うわ、こういうことかと。音の中に包まれて、持ち上げられるような、ものすごい浮遊感でした。
坂入: それは相当うまく振れたんですよ。ちょっと先に導いていくという動きは、まさにそうなんです。だから、プロのオーケストラは、本当にみんな指揮者をよく見ています。
高橋: 今度のトークでは、そんな話も入れてみましょうか。

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