アーティスト・インタビュー

チェンバーミュージック・ガーデン
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2025
クァルテット・インテグラ × 練木繁夫 ピアノ五重奏曲名曲選

クァルテット・インテグラ インタビュー

山田治生(音楽評論家)

(左より)山本一輝(ヴィオラ)、パク・イェウン(チェロ)、菊野凜太郎(ヴァイオリン)、三澤響果(ヴァイオリン)

クァルテット・インテグラが今年もチェンバーミュージック・ガーデンに帰ってくる。彼らは、2018年から4年間、サントリーホール室内楽アカデミーで学んだ後、現在は、ロサンジェルスのコルバーン・スクールでレジデント・アーティストとして研鑽を積んでいる。今回は、サントリーホール室内楽アカデミーのファカルティでもあるピアニストの練木繁夫と、シューマン及びブラームスのピアノ五重奏曲を共演する。1月の帰国ツアー時、彼らに演奏作品の魅力や師との共演についてきいた。

(左より)山本一輝(ヴィオラ)、パク・イェウン(チェロ)、菊野凜太郎(ヴァイオリン)、三澤響果(ヴァイオリン)

昨年、チェロのパク・イェウンさんがメンバーとなり、クァルテット・インテグラはどのように変化しましたか?

山本一輝(ヴィオラ)「最初は、パクさんには僕らのこれまでやってきたことに、そのまま入ってもらっていた様な感覚でしたが、知らず知らずのうちに彼女も私達もグループとして、ちょっとずつ変わってきたように思います。自分のパート(ヴィオラ)の話をすると、今は、彼女を信頼して頼りながら弾ける部分がある気がします。チェロへの聴き方が変わりました」

三澤響果(ヴァイオリン)「新しいメンバーが入って、音楽のやり方が少し変わったような気がします。それまではアンサンブルするぞという感じでしたが、今は、私は、もっとリードする、もっと見せる姿勢が増えました。前より、いい意味でindividual(個を主張するよう)になりました」

菊野凜太郎(ヴァイオリン)「イェウンが入るまでは、僕が一番年下でしたが、彼女は僕より5歳若い。彼女が入ったことによって、特に本番では、世代の違いによるフレッシュな音楽性が感じられます。違う世代の人と弾く新鮮な楽しさを毎回のコンサートで味わっています」

パク・イェウン(チェロ)「私が入ったときには、クァルテット・インテグラのスタイルはもう固まっていたため、はじめはどうすればうまく溶け込めるかを考えるのに必死でした。ただ最近は、インテグラに変化をもたらすことに重きを置けるようになったと思います。インテグラに参加して、メンバーと過ごす時間が増えて、それ以外の人との付き合いは減りました(笑)。でも、以前は1人だけで練習していましたが、今ではいつも一緒に音楽に取り組む仲間がいるので、とても楽しいです」

CMG2024より

昨年のチェンバーミュージック・ガーデンでは、アカデミー生であるカルテット・プリマヴェーラとエネスコの弦楽八重奏曲の第3、第4楽章を共演しましたね。いかがでしたか?

山本「プリマヴェーラと一緒にやって、1回目のリハーサルでは遠慮し合っていて、何か日本だなと思いました(笑)。でも、ゲネプロのとき、うまくいっていないところがあって、『どう思う?』と聞いたら、すごくいろいろ意見を話してくれて。私も初めての曲で余裕が足りなかったのですけど、最初のリハーサルからどう思うのか積極的にプリマヴェーラのみんなに聞いてみればよかったのかもしれませんね」

菊野「プリマヴェーラはよく準備してきていたと思いました。僕らもリハーサルがすごく楽しかった。彼女たちも合わせるだけでなく、感性から出てくるもので弾いていました。エネスコがエネルギッシュな曲なので、感情で訴え出てくるものが感じられて楽しかったです」

三澤「これまで先輩の団体としか共演したことがなかったので、遂に私たちが先輩となったのかと思いました。後輩であっても同じ目線でアンサンブルしたいので、気を遣わせないようにして、楽しく演奏できました」

パク「日本の方が総じて室内楽をとても大切にしているのがわかって、興味深かったです。というのも、私の知る限り、韓国には室内楽に特化したアカデミーや講義はあまりないですし、ほとんどの人はソロのレパートリーだけに力を入れたがっています。でも日本では多くの学生たちが室内楽にすごく真剣に取り組んでいます。また、楽しむだけでなく、真剣に室内楽に向き合おうと長い時間をかけて努力する姿に感銘を受けました。誰もが、もちろん楽しんでもいましたが、それ以上に真面目に頑張っていました。インテグラがかつて学んでいたのと同じ環境にいるアカデミー生たちと演奏できて良かったです。アカデミー生からも強い敬意が感じられました。そうですね、リハーサルではお互い心から敬意を払っていましたし、どちらかが一方的に演奏を教えるのではなく、ともに音楽に向き合おうとしていました。2つのグループが一体となって演奏しようとするチームワークはかなりうまくいったと思います」

クァルテット・インテグラ、カルテット・プリマヴェーラ(CMG2024より)
終演後、舞台袖にて

今年のCMGはシューマンとブラームスのピアノ五重奏曲です。クァルテット・インテグラとしてこれらの作品の演奏経験はいかがですか?

山本「シューマンもブラームスも、インテグラとしてそれぞれ4回ほど演奏したことがあります。ブラームスは2019年に富山(とやま室内楽フェスティバル)で練木先生と第1楽章を演奏したあと、練木先生が別の機会を作ってくださって、全曲の演奏もしました。伊藤恵さんとはシューマン、ブラームスとも共演しており、石井楓子さんとブラームスを、北村朋幹さんとシューマンを弾いたことがあります。海外ではイタリア・ナポリ近郊のカゼルタの室内楽シリーズでイタリア人ピアニストとシューマンを、また今年2月にロサンゼルスでロドルフォ・レオンさんとシューマンとブラームスを演奏しました」

二つの作品の魅力について教えてください。

山本「ブラームスには、編成が変化するという面白さがあります。時には、ヴァイオリン・ソナタになったり、チェロ・ソナタになったり、ピアノ三重奏になったり、ピアノ四重奏になったり、弦楽四重奏になったり、たぶん、全部の組み合わせがあると思います。ブラームスはパートを休ませることがすごく効果的になっていると思います。それを意識して聴くと面白いかもしれません。シューマンの方が5人で弾いている時間が長い気がします」

菊野「シューマンの方が僕らはピアノにコントロールされている感じがします。どこに行ってもピアノがある。僕らもメインになったりするのですが、やっぱりピアノありき」

山本「シューマンの方が、よりピアノと弦楽四重奏、という気がしますね」

三澤「シューマンではカルテットの1stヴァイオリンとして演奏する箇所が多いですが、ブラームスは場面によって役割が変化し、弾き分けなければならないので難しいです」

山本「シューマンがブリランテ(華やかで輝かしい)で、一方ブラームスはダークな作品になっていて、このコントラストが面白いですね。この2曲を続けて演奏するのは興味深いと思いました」

菊野「ブラームスの第2楽章なんか第2ヴァイオリンは40小節くらい休みがあったり(笑)、第2楽章のクライマックスで第2ヴァイオリンだけ演奏していなかったり。僕は、弾くよりも、楽しむ側ですね(笑)。シューマンの方がシンプルで分かりやすく、ブラームスは絡まり合って理解にもどかしい曲というコントラストもあります」

山本「それから、二人の作曲家のピアノ五重奏へのアプローチが違いますね。ブラームスが最初に弦楽五重奏曲を2台ピアノのためのソナタに直し、それをピアノ五重奏曲にしたこともあってか、音が厳選されています。逆にシューマンは、何ならもっとたくさん音書きたかったんじゃないかなと思ったりもします。そういう意味では二人が真逆のアプローチをしているような気がして面白いなと思います」

パク「一般的な話になりますが、ピアノ三重奏曲の演奏経験が少しある私からすると、ピアノ五重奏曲というのは弦楽四重奏曲とピアノ三重奏曲を同時に演奏するような印象を受けます。また、ピアノは左手で重音を弾くことが多いので、時には一緒にベースを奏でてくれる人がいると、演奏に力強さが増すため、弾いていて大きな満足感があります。私としては、シューマンのほうがフレキシブルに演奏できて、表現しやすい気がします。ブラームスはややオーケストラ的な感じがします。より重厚です」

三澤響果、菊野凜太郎(ヴァイオリン)
パク・イェウン(チェロ)、山本一輝(ヴィオラ)

今回共演するピアニストの練木繁夫さんはサントリーホール室内楽アカデミーのファカルティでもあります。

菊野「室内楽アカデミーの中で、一人だけのピアニストの先生でいらっしゃる。弦楽器弾きの僕らにはない視点で、いつもスコアを見て、コメントを下さっていたので、あっと気づくことが多く、そういう見方もあるのかと、目から鱗でした。そういう意味で、ファカルティのなかでもスペシャルな方です。練木先生に弦楽四重奏のレッスンを受けられたのは良い経験でした」

山本「最後の選抜演奏会(室内楽アカデミーで毎年4月に行われる成果発表の演奏会)のとき、『君たちに出会えて良かった。いつか、偉くなったら、コンサートで共演しよう』というコメントをくださったのをよく覚えています。今回CMGでゲストを迎えて共演するものをやろうという話になったときに、僕たちはまだ偉くなっていませんが、練木先生を呼ばせていただきました。富山で一緒に演奏した時、居酒屋で練木先生と同じお酒を飲んだのが良い思い出になっています」

三澤「室内楽アカデミーでピアノ・トリオのレッスンを聴講していたときに、練木先生が弾いてみせているのを聴いて、ピアノでもこんなに音色がいろいろ作れるのか、同じピアノなのにびっくりしました。練木先生は“魔法使い”みたいだなと思いました。今回はそんな先生と音色づくりを追求したいです」

山本「そういえば、室内楽アカデミーのピアノ・トリオのレッスンで練木先生がアカデミー生の代わりに弾いていて、他の先生が半分冗談で『ピアノの音程が低い』といわれて、練木先生が『じゃあ』と言って、和音のバランスを変えて音程をあげて聴かせていたのがすごく面白かったです。あと、桐朋学園でシューマンのピアノ四重奏曲の第1楽章で、ピアノに『ここは弦楽器の刻みみたいに』と指示されていて、練木先生が弾いて見せたら、本当に弦楽器の刻みの音がしました」
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練木繁夫(ピアノ)
練木繁夫(ピアノ)
サントリーホール室内楽アカデミーワークショップより

今回の演奏会についての抱負をお話しください。

菊野「前回の共演は、たぶん、まだアカデミー生だった僕らは学生気分で、リードを先生に任せてしまっていたような気がします。今回は、アカデミー生ではない共演なので、僕らの成長のようなものを先生にお伝えできればと思っています。音楽家として生きているものとして、対等な音楽のコミュニケーションが取れればいいなと思います」

山本「ブラームスの五重奏曲を一緒に弾いたとき『山本君、そこは僕とコンタクトとろうね』と言われて、コンタクトをとって演奏したのですが、弾き終わった後、『もっと』と言われたのを思い出しました。練木先生は、ヴァイオリンやチェロのソナタを数多くやってこられた方だと思うので、コンタクトとるというと、弦楽四重奏の暗黙の了解のようなものよりも本当にコンタクトをとらないといけないのかなと思いました。今回は、ここ数年で自分たちの環境が変わったので、前に一度一緒に演奏しているというのは無しにして、一から先生と作ってみたいです。弦楽四重奏のリハーサルと同じような感じでディスカッションできたらいいですね」

三澤「私の練木先生の印象は、冷静だけど、演奏は情熱的。めちゃ熱い演奏をされる。前はそれに圧倒され、とにかくピアノについていくぞと思って弾いていました。私もいろいろ経験して、自分が弾くという意識を持ちながら、それを客観的に聴くこともできるようになってきていると思うので、今回は、私も冷静かつ情熱的に先生と一緒に演奏できればいいなと思います」

パク「私がこのブラームス、シューマンの両作品を演奏するのは二度目になります。インテグラとして両作品を弾いてみたことは少なくとも一度はあります。シューマンの方は、それ以前にコルバーンでも一度、他の学生やピアニストのジャン=イヴ・ティボーデと共演経験があります。何と言ったらいいか、難しいですね……。少なくとも私は、メンバー間の意思疎通のとり方について経験を積むでしょうが、インテグラ全体でいえば、4人の個々の演奏家としてではなく、まとまったグループとして、ピアニストとどう意思疎通するかについても、経験を重ねられるのではないかと思います。とにかく楽しみにしています」

リハーサル風景(2025年)
インタビュー終了後

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