日本フィル&サントリーホール
にじクラ~トークと笑顔と、音楽と 第6回
出演者インタビュー 村治佳織(ギター)

日本フィルとサントリーホールが贈る、平日2時からのクラシックコンサート『にじクラ』。俳優・高橋克典さんのナビゲートで、“トークと笑顔と、音楽と”をたっぷりお届けする名曲コンサートシリーズです。第6回は、ソリストにギタリストの村治佳織さんをお迎えします。日本フィルと縁の深い演奏家であり、さらに今回は、村治さんがとても大切にされている思い入れのある曲を共演するということで、さまざまなお話を伺いました。25年1月29日(水)の開催が待ち遠しくなります!

——昨年、演奏活動30周年を迎えられた村治さんですが、デビュー時は中学3年生だったのですね。
はい。その前年にCDを出したり、リサイタルはしていたのですが、オーケストラとのコンサートデビューは15歳。まさに、日本フィルさんと、サントリーホール大ホールの舞台でした。
——その時の公演チラシが、ここにあります。「スター誕生コンサート」!
とにかく弾くのに一生懸命でした。学校の音楽室で音楽の先生にピアノ伴奏をしてもらいながら、気合いを入れて練習したのを覚えています。
本番では、オーケストラのいろんな音を聴かなくてはいけないので、弾きながら聴いて合わせて、指揮者と呼吸を合わせて……自分のことだけで精一杯でしたけれど、日本フィルさんはとてもあたたかな雰囲気で、大人の皆さんと何かをつくっていくという初めての体験でした。……まだ中学生だったんですね。頑張りました(笑)。
——それ以来、共演を重ねてきた日本フィルと今回演奏していただくのは、ロドリーゴ『アランフェス協奏曲』です。
『アランフェス協奏曲』は、それこそ中学生の頃から弾いてきました。スペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴは『アランフェス協奏曲』以外にもギター作品をたくさん作曲しており、幼い頃から馴染んでいましたし、私の4枚目のアルバム(『パストラル』1997年)は、全曲ロドリーゴ作品を収録しています。

——ロドリーゴ本人にお会いされたそうですね。
録音時はもちろん、お会いできるなんて思ってもいなかったですし、作曲家というのは遠い存在で、コンタクトするなんて考えたこともありませんでした。
ところが、しばらく後にそのアルバムを、ロドリーゴと親交のあった故・濱田滋郎先生(音楽評論家・スペイン文化研究家)が、ご本人に送ってくださったのです。数ヵ月後、ロドリーゴから手紙が届きました!盲目の方(幼少期に病で失明)なのですが、直筆のサインがされた手紙が、私の元に! 実在の方なんだ、と繋がった瞬間です。
その頃私は、高校を卒業してパリの音楽学校に留学中でした。手紙には、ご自宅のマドリッドの住所が記されていて、会いに行ける距離! タイミングの良いことに、私の留学生活をテレビのドキュメンタリー番組にしたいというお話がちょうどありまして。だったら、ロドリーゴさんに会いに行くという企画はどうでしょうかと提案してみたんです。結果、テレビカメラも一緒にご自宅を訪れることができ、私にとって人生の転機となるような出来事でしたし、日本のたくさんの方々にロドリーゴさんを知ってもらえる機会にもなりました。
その半年後に彼は亡くなられたので、あれは本当に、いろんなタイミングがピタッと合ったという感じでした。
——運命ですね。
97歳というご高齢だったので、言葉のキャッチボールこそできなかったのですが、彼の前で、彼の小品を2曲演奏させていただきました。ドキドキでした。ロドリーゴさんは、点字の楽譜を指で追いながら聴いてくださいました。とても美しい空間で、素敵な良いファミリーに囲まれて。彼の前向きな心意気がそれを成し得ているのだろうし、生命力が大きな方なんだなと感じました。それがまた、音楽にも表れているんだろうな、と。

——アランフェスはどのような風景でしたか?
当時の宮廷の人たちの避暑地だったところで、風光明媚な、緑の美しい、宮廷文化を感じられる場所です。それが、『アランフェス協奏曲』第3楽章のエレガントな雰囲気にも、よく表されていると思います。
でもロドリーゴさんは、この風景を見ないで、言葉で説明されたことをすべて想像で感じて、音にしたと思うと、すごいですよね。その情景を隣で説明してくれる良き伴侶にも恵まれたんだなあ、と思いました。
——ロドリーゴ夫妻が新婚旅行で訪れた地であり、また、二人はアランフェスの墓地に永眠されているそうですね。
作曲家ラヴェルのお父さんとお母さんが、アランフェス宮殿の公園でデートしていたという話もあるんですよ! ロドリーゴ『アランフェス協奏曲』とラヴェル『ボレロ』は、コンサートでよく一緒に取り上げられることがあるので、すごい偶然だなあと思って。そうやってさらに、作品に対してどんどん愛情が湧いてきました。おそらく『アランフェス協奏曲』は今までに100回近く、毎年必ず演奏していると思いますが、飽きることなどなく、毎回新鮮な気持ちで向き合っています。自分の人生経験も重ねられるようになり、捉え方も変わってきましたし、それは聴いてくださる方も同じで、いろいろな状況で聴かれて、感じ方が変わっていったり、変わらない部分もあったり。
——「にじクラ」で、園田隆一郎さん指揮する日本フィルと、経験を積まれた村治佳織さんがどんな表現をされるのか、とても楽しみです。
本当に楽しみです。私にとって2025年の弾き初めでもありますし。
指揮の園田さんは、とても歌心のある、あたたかいものが表れる方だなあという印象があるので、まさに、「笑顔と、音楽と」になると思います。
——サントリーホールという場は、村治さんにとってどんな場所ですか?
サントリーホールは力をくれます。楽屋に入った時から、精神を高めてくれるいい空気が流れていて。ステージから見ると、漆黒の空間が広がっているのも、とても好きです。宇宙的な空間。「ただいま」という感じもあり、なによりそうやって、サントリーホールでもリラックスして楽しめるようになった自分が嬉しいです。デビューの頃は、自分のことで一生懸命で、空間を感じとる余裕もなかったので(笑)。
観客としてもよく来ますよ。いろんなコンサートを、いろんな席で聴いてきました。ロビーに入ってからずっと、華やかな気分にさせてもらえて、大好きです。パワースポットですね、サントリーホールは。

——今回は、平日のマチネ(昼公演)ですが、夜の公演と何か違う感じがありますか?
むしろ私はここ数年、平日の夜公演はほとんどありません。それだけ、クラシック界でもマチネを楽しむ習慣が根付いてきたのではないでしょうか。健康的な時間帯ということで。昼のコンサートの余韻で、夜まで豊かに過ごせますよね。
——高橋克典さんと村治さんのトークも、楽しみです。
私も普段からいろんなジャンルの方とお話をする機会がありますが、クラシック音楽に興味を持ってくれる方は多いですよね。高橋さんは音楽番組の司会もされておられましたし。チェロも弾かれるとか? トークも楽しみです。
そういう意味でもこのシリーズはすでに、リラックスして楽しむ良い雰囲気が出来上がっている感じですし、クラシックコンサートはちょっと敷居が高いと思っていらっしゃる方にとっても、最初の一歩になるのではないでしょうか。私たち演奏者も、ウエルカムな気持ちでステージに立ちますし!
——ギターは何本ぐらいお持ちなのですか?
私は10本ちょっと持っているなかから、メインで使うのは2~3本。ソロ演奏の時はこれ、オーケストラと弾くときはこれ、と決めていることもありますし、楽器の状態がとても良い時は、どのコンサートでもこのギターを弾きたいという時期もあります。スペインの製作家ロマニリョスのギターを長い間使っているのと、最近はジェイコブソンというアメリカの製作家の、パワフルなギターを使うことが多いです。10年ぐらい寝かせていたのですが、だんだんまろやかさも加わってきて、今は新戦力としてメインで使っています。当日どのギターで弾くかは迷うところですが、お楽しみにしていただければ嬉しいです。
——最後に、村治さんにとって、贅沢な午後の過ごし方、あるいは、心の元気につながる時間などがあれば、教えていただけますか?
鍼とかマッサージが大好きで! 演奏会の前日や終わった後に、自分へのご褒美として行きます。まさに贅沢な午後の過ごし方、最高に幸せを感じますね。
——演奏家は、アスリートのように筋肉を使われますものね。
指先だけでなく、背中の肩甲骨周り、腰、首……非常に細かい筋肉を使っています。頭脳と肉体の流れを常に良くしておくことが大切で、体力はヨガなどでつけながら、ギターの練習で筋肉を鍛え、そして鍼、マッサージへ10代の頃から行きまくっていて(笑)、今10ヵ所ぐらい行ける場所があります。私の演奏活動をサポートしてくださる方もいらっしゃるし、身元も職業も明かさずふらっと行く場所もあります。鍼、整体、カイロ、アロマ、バリ式、台湾式足裏……さまざまな種類。美容院でヘッドマッサージを受けて、その後に鍼とか、たまにハシゴすることも。
自分自身が快くリラックスした流れの良い状態で演奏して、良いエネルギーをお客様にお届けしていきたいと思っています。お客様も素晴らしいアンテナで感じ取られますので、それこそ笑顔でいい気持ちで帰っていただきたいですし、それがまた私のエネルギーにもなるんですね。ですから、日常から、どんな瞬間も楽しめるように心がけていきたいと思っています。
——当日のお衣装も楽しみです。
冬のアランフェスをイメージしてみます。
