アーティスト・インタビュー

チェンバーミュージック・ガーデン
特集ページへ

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024
カルテット with... Ⅱ

ダネル弦楽四重奏団 インタビュー

ダネル弦楽四重奏団

ワールドワイドな活動を展開するカルテットの猛者たちがにCMG2024に集結し、名曲や近現代の秘作、そして日本人奏者との共演でプログラムを構成する「カルテットwith...」。
6月10日に登場する「ダネル弦楽四重奏団」は結成から33年、これまでにショスタコーヴィチやヴァインベルクの全曲録音が世界で高く評価され、20~21年にはツィクルスの実演も欧米諸国で行いました。今回はピアニストの外山啓介と共演します。
2005年の初来日以来、たびたび日本で演奏会を行ってきたダネル弦楽四重奏団のメンバーに、日本の思い出や今回のプログラムの意図や聴きどころ、これまでの活動や今後のビジョン、カルテットのオリジナリティや特徴などについて聞きました。

ダネル弦楽四重奏団

2005年にサントリーホールのブルーローズで演奏されています(ヴァイオリン:マルク・ダネル/ジル・ミレが来日)。その時の印象を覚えていれば教えてください。
その後、札幌コンサートホールでは15回を超えるコンサートに出演し、東京をはじめ各都市でも演奏されてきました。日本の思い出や感想を聞かせてください。

マルク・ダネル:2005年が初の来日だったのですが、優れた文化と他にはない国民性、わずかな所作にも現れる品の良さなど、どこを見ても驚かされることばかりでした。私たちはすぐ日本人が大好きになりました。そして、サントリーホールのようなすばらしい伝統と文化を持つ場所で演奏した時間は誇らしく、忘れられません。
日本は愛さずにいられない国です。音楽への真摯な愛には感銘を受けますし、几帳面な国民性にも毎回驚かされます。そして私にとって特別なのは、どんな些細な部分にも美と上品さが宿る日本文化です。毎度の食事やあらゆる贈り物、人とわかちあう時間のすべてに、気品や独特の優雅さがあります。

ジル・ミレ:日本は大好きです。日本食も、札幌も! 札幌では本当にくつろげます。日本には室内楽用として、そしてもちろん弦楽四重奏用としても最高の音響を備えたホールがあります。観客も非の打ちどころがありません。

ヴラッド・ボグダナス:日本は大好きな国の1つです。日本に愛着を持ち始めたのは子供の頃。『宇宙刑事ギャバン』や『聖闘士星矢』や『キャプテン翼』など、日本のテレビ番組が大好きだったのです! 一番思い出深いのはジルの話した通り札幌で、何度も演奏しています。札幌コンサートホールKitaraはすばらしい場所ですし、いつも気さくなスタッフがもてなしてくれます。それから、アクロス福岡と屋台のある福岡や、多岐にわたるイベントが開催され活気あふれる武蔵野市民文化会館も挙げないわけにはいきません。コンサート以外にも、長年通う中でできた友達と過ごしたり、寿司などおいしい日本食を食べたり、日本のロックやヘビーメタルバンドの音楽を聴いたりするのも大好きです!

©MarcoBorggreve
ダネル弦楽四重奏団
1991年ベルギーのブリュッセルで結成。これまでにハイドン、ベートーヴェン、シューベルト、ショスタコーヴィチなどの弦楽四重奏曲のツィクルスや現代作曲家とのコラボレーションを積極的に行い、常に世界の音楽シーンを先導してきた。ヴァインベルクの17の弦楽四重奏曲の録音と全曲演奏会は、世界初の試みとなった。2022年からライプツィヒ・ゲヴァントハウスの協力を得て同ホールでショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲演奏・再録音に取り組むほか、23年からウィグモアホール(ロンドン)の専属カルテットとして活動している。
ヴァイオリン:マルク・ダネル/ジル・ミレ、ヴィオラ:ヴラッド・ボグダナス、チェロ:ヨヴァン・マルコヴィッチ

今回は得意のロシアものを演奏されますが、ダネル弦楽四重奏団は2005年のショスタコーヴィチの全曲録音やヴァインベルクの全曲録音が世界で高く評価され、20~21年にはツィクルスの実演も欧米諸国で行いました。
今回のプログラムの意図や聴きどころについて、またショスタコーヴィチの作品でピアニストと共演される期待などお聞かせください。

ヨヴァン・マルコヴィッチ:ロシアのレパートリーに多くの時間をささげ、ロシアのカルテットの伝統を受け継いできたダネル弦楽四重奏団としては、ロシアでほぼ同時代に書かれた3つの傑作をお届けできることを大変うれしく思います。第二次世界大戦中のショスタコーヴィチとプロコフィエフ、そして終戦直後のヴァインベルクの作品です。3作ともスタイルは異なりますが、どれも迫力があり、強烈な印象を残すでしょう!
前半はプロコフィエフの民族音楽から始まり、ヴァインベルクの印象深い弦楽四重奏曲第6番へと移ります。この曲は、1946年以降ソ連での演奏が禁止されたため、ダネル弦楽四重奏団がマンチェスターで初演した2007年まで演奏される機会はなかったはずです。後半はピアニストの外山啓介氏を迎えて、よく知られたショスタコーヴィチの名作、ピアノ五重奏曲でコンサートを締めくくります。感動的な3曲を日本の観客の皆さんと分かち合えるのが心から楽しみです!

ヴラッド・ボグダナス:五重奏曲の演奏も演奏仲間との出会いも、常に喜びをもたらしてくれます。毎回、新たなアイデアが生まれ、解釈の糧になります。外山啓介氏との共演も本当に楽しみです。

©Yuji Hori     
外山啓介(ピアノ)
第73回日本音楽コンクール第1位。東京藝術大学卒業後、ハノーファ音楽演劇大学留学を経て、東京藝術大学大学院を修了。2007年CDデビュー。これまでに9枚のCDをリリースし、『ラフマニノフ』『展覧会の絵』『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集』はレコード芸術誌特選盤に選出。18年、日本ショパン協会賞受賞。植田克己、ガブリエル・タッキーノ、マッティ・ラエカリオ、吉武雅子、練木繁夫に師事。現在、札幌大谷大学音楽学科特任准教授。桐朋学園大学非常勤講師。洗足学園音楽大学非常勤講師。

1991年ベルギーのブリュッセルで結成され、アマデウス弦楽四重奏団やボロディン弦楽四重奏団、ベートーヴェン弦楽四重奏団等のもとで学ばれて、今日の国際的な活躍に至った経緯などをお話ください。

マルク・ダネル:10代の頃、フランス人ヴァイオリニストのクリスチャン・フェラスとアマデウス弦楽四重奏団が、私にとって「神のような存在」でした。17歳の時に姉とケルン音楽大学に入りましたが、まもなくアマデウス弦楽四重奏団のメンバーが四重奏を教えているとわかったのです。ヴィオラとチェロの奏者だった姉と兄とともに、アマデウス弦楽四重奏団のもとで学ぶチャンスをつかもうと決めました。弦楽三重奏の指導を数回受けた後、アマデウス弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者ノーバート・ブレイニンから弦楽四重奏団を結成すべきと助言を受けました。しばらくケルン音楽大学のさまざまな学生と組んで弦楽四重奏を演奏しましたが、1991年初頭にボロディン弦楽四重奏団によるショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲の専門コースを受講すると、チェリストのヴァレンティン・ベルリンスキーから、弦楽四重奏に専念すれば際立った成功を収められるだろうと言われたのです。
私たちは助言に従って、弦楽四重奏一筋で行こうと決めました。そして1991年6月にジルが加わります。これが、弦楽四重奏団としての真のスタートでした。最初の数年間は鮮やかな思い出であふれています。年間350日をともに過ごしましたから。リハーサルは週7日行い、1日8時間かけることもざらでした。
指揮や作曲など、幅広い分野で傑出した指導者にも恵まれました。アマデウス弦楽四重奏団やボロディン弦楽四重奏団のほか、ヒュー・マグワイア、ヴァルター・レヴィン、ピエール・ブーレーズ、ベートーヴェン弦楽四重奏団などです。また、1年目からコンサートで50回(弦楽四重奏団としては40回)も演奏でき、結成からすぐ場数を踏めた点も幸運でした。
最初の大仕事は、1992年冬のオールドバラ音楽祭で3カ月間の出演契約を交わしたことです。この時私たちは、初めてショスタコーヴィチの弦楽四重奏の全曲演奏に挑戦しました。ありがたいことに、ボロディン弦楽四重奏団も一緒でした。

それ以来、ダネル弦楽四重奏団はこのサイクルと歩んできました。世界中で全曲公演を35回開催し、全曲録音も2006年と今年2024年の2回行いました。また、参加した6つのコンクールで入賞したのも幸運でした。いつしか、ウィーン古典派やロシアの作品、現代音楽を主なテーマとして、レパートリー作りを進めるようになりました。
ほかの大陸に行く回数も増えていきました。2005年は、初来日した記念すべき年です。それ以来、2年ごとに日本を訪れています。パンデミックの時期は、皆さんに会えなくてとても寂しかったです。

ダネル弦楽四重奏団にとってもう1つの大きな出会いは、1994年に初めて知ったミェチスワフ・ヴァインベルクの作品です。当時、彼の作品は未出版で、ほとんど演奏されていませんでした。それから30年かけて、ヴァインベルク独特の世界観を追求し、探し出したパート譜をコピーしてリハーサルしました。こうして、12回演奏し、収録したのです。
ベートーヴェン・サイクルも何度も演奏しました。きっと全曲演奏というスタイルはダネル弦楽四重奏団のDNAに刻み込まれているのでしょう。
ショスタコーヴィチについては、これまでに全曲収録のCDを2枚出しました。ほかに全曲を収録したのはヴァインベルク(初の全曲収録は2009年です)、チャイコフスキー、サイグン、ドビュッシー、デュサパン、グノー、その他、知名度の高くない作曲家のレパートリーも録音しています。来年は、プロコフィエフのCDリリース以外に、私たちのレーベル、アクサンタスとの共同プロジェクトも数多く予定しています。

©maq-st
札幌コンサートホールKitaraでの演奏
©MarcoBorggreve     

結成から33年の長い年月にわたってアンサンブルを維持し世界の室内楽の第一線で活躍を続けていく、そのモチベーションとは何でしょうか。

ジル・ミレ:私たちのレパートリーには、まだ演奏すべき曲がいくらでもあります。仕上げたい曲も、ともに成長したい曲も多いのです。個人的には、全部をやるには人生を2回生きなくては時間が足りません。

ヴラッド・ボグダナス:私にとって弦楽四重奏を演奏する日々とは、人間と音楽の冒険を描いた本のようなものです。私がダネル弦楽四重奏団に入ったのは19年前で最初から在籍したわけではありませんが、結成当時の経緯は知っています。毎シーズンが新しく始まる章のようです。今のところ、ダネル弦楽四重奏団の物語は申し分ないですし、次の章がどうなるのか興味津々です。

©MarcoBorggreve

ダネル弦楽四重奏団にとって「弦楽四重奏」とは、どのようなものでしょうか? 
あるいは、ダネル弦楽四重奏団のオリジナリティ=自分たちらしさとは何でしょうか?

ヨヴァン・マルコヴィッチ:弦楽四重奏が「1つ」であると同時に「4つ」でもあるところでしょう。「1つ」なのは、方向性を共有し、呼吸を合わせ、統一感のある音を出し、共通のアーティキュレーションで作品を表現しなければいけないからです。
「4つ」なのは、メンバーそれぞれが唯一無二だから。その個性がなければ、弦楽四重奏団の出す音には何の特徴もなくなってしまいます。弦楽四重奏とは調和とまとまりですが、4人の対話でもあります。ダネル弦楽四重奏団では、まとまりを築くのに何より時間をかけます。4人の頭脳と4人の個性を「1つ」にするのは極めて難しいことです。
一方で、自発性が生まれる余地を残すようにも気をつけています。ステージ上で創造性を発揮することこそが一番の目標であり、そのためには曲を自由に生き生きと解釈し、ダネルにしか出せない音を作ること、つまり自発性が欠かせないと信じているからです!
西欧とロシアの文化や伝統を融合させ、感情を前面に押し出すスタイルが、ダネル弦楽四重奏団独自のアイデンティティなのです。

©MarcoBorggreve

弦楽四重奏は、クラシック音楽の核となるような長い伝統と様式を継承するとともに、つねに革新の舞台となってきたジャンルだと思います。21世紀にカルテットとして活動することをどのようにとらえていますか? あわせて、今後の活動の目標、ビジョンについてお話ください。

ヨヴァン・マルコヴィッチ:弦楽四重奏という形式は今でも評価が高く、弦楽四重奏曲を作り続ける作曲家たちも、難しくてもやりがいがあると口をそろえます。私たちがこの音楽形式に人生を投じようと決めたのは、ハイドンやモーツァルトの膨大なレパートリーが大好きで、自分たちの情熱をすべての人に伝えたいからです。弦楽四重奏曲はとても豊かで奥も深く、名曲もたくさんありますから、1回の人生ではとても足りません!
一方で、厳しい鍛錬が求められ、ごまかしのきかない世界でもあります。解釈するには、私たち一人ひとりが考え、挑戦し、話し合い、全力を尽くすよう自分自身を駆り立てなければなりません。ですがその価値はありますし、日々成長や向上を感じられます。音楽家冥利に尽きる芸術的研究です!

弦楽四重奏団にとって屈指の目標は、ベートーヴェン・サイクルを演奏することです。まさに偉業です! 過去30年以上という長期にわたって世界中で演奏し、研究を重ねてきましたが、ようやく全曲を収録できる見通しが立ちました。今こそ、このヒマラヤ山脈に挑むべきだと感じています。優れたCDはたくさんありますが、この山に対する私たちなりの視点を示したいのです!
今後数年で、ほかにもCDの企画があります。定期的に演奏しているショスタコーヴィチやヴァインベルクのピアノ五重奏曲や、2005年に録音したヴァインベルクの弦楽四重奏曲の第2弾、美しいメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲などです。

©maq-st
札幌コンサートホールKitaraでの演奏

最後に、あなた方のCMG2024での演奏に期待する日本の音楽ファンにメッセージを。

マルク・ダネル:観客の皆さんは、私たちが2007年に初演する栄誉に預かったヴァインベルクの弦楽四重奏曲第6番が、20世紀の指折りの傑作だとおわかりいただけるでしょう。ほかにお聴きいただくのは、あまり演奏される機会はないものの見事な作品であるプロコフィエフの弦楽四重奏曲第2番、そして優れた日本人ピアニストの外山啓介氏とともにお届けする、ショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲です。
日本の皆さんにお伝えしたいのは、この伝説的なホールで、音楽と固く結ばれた観客の前で演奏できて本当に幸せだということです。

©MarcoBorggreve

チェンバーミュージック・ガーデン
特集ページへ