アーティスト・インタビュー

日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン Vol. 19

出演者インタビュー ヴァイオリン:石上真由子

日本フィルとサントリーホールが贈る、エレガントな平日の午後『とっておきアフタヌーン』。2022~23シーズン最初に登場するソリストは、ヴァイオリニストの石上真由子さんです。生き生きとエネルギッシュな存在感、音楽への情熱が溢れんばかりに伝わってくる音楽家です。また、高校2年生で日本音楽コンクール第2位、その他国内外の数々のコンクールで優勝・上位入賞して注目されるも、医学の道を目指して医大に進み、医師免許取得。医師かヴァイオリニストか悩んだ末に……という経歴も気になるところ。演奏作品に込める想いからプライベートのお話まで、いろいろとお伺いしました。

――今回演奏していただくのは、ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調』、ラヴェル『ツィガーヌ』の2曲です。

ヴァイオリンの名曲はたくさんありますが、なかでも、このブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は、幼い頃から憧れの曲でした。とくにオーケストラ・パートが大好きで。譜面を見る前から真似して弾いたりしていたんです。ブルッフという作曲家はメロディーメーカーなので、もちろんヴァイオリン・ソロも、とても聴きごたえがあると思います。

――第1楽章のはじめから、印象的な旋律に心掴まれます。

ヴァイオリンという楽器の良さがすごく活かされている曲なので、今回はソリストとして、そこをお伝えできればと思います。同時に、オーケストラだけの間奏の部分も本当に素敵なので、楽しみに聴いていただければ。私もオーケストラ・パートを一緒に弾きたいぐらいです!(笑)

――ラヴェル『ツィガーヌ』も、緊張感ある特徴的なヴァイオリン・ソロではじまりますね。

『ツィガーヌ』は、私の人生に様々な転機をもたらしてくれた作品です。10代の頃に関西で大阪フィルと演奏した映像がNHKで放送されて、そこからいろいろなご縁が繋がっていったりして。本当にいろいろなきっかけをもたらしてくれた曲ですし、私は民俗音楽が大好きなので(ツィガーヌTziganeはフランス語で、流浪の民族ロマを意味する)、自分のパーソナリティをいちばんナチュラルに表現できる曲でもあり、今回、とっておきの1曲として選ばせていただきました。

――放送された2011年の演奏は、現在、YouTubeでも見ることができます。情熱的かつ哀愁が漂うような曲調ですが、ティーンエイジャーの石上さんがとても楽しそうに弾かれているのが印象的でした。

ヴィルトゥオーゾ・ピース(超絶技巧を駆使した曲)と言われる作品ですが、それ以上に、人間らしさや人の生き様、ロマ族の背景などが感じられる曲だと思うので、それを皆さんにも体感してもらえたら。聴きながら映像が浮かんだり、温度を感じたり、風の音がしたり、五感が刺激されるような演奏ができたらいいなと思っています。

©Takafumi Ueno
ヴァイオリン:石上真由子
日本音楽コンクールなど、国内外のコンクールで優勝・受賞多数。長岡京室内アンサンブル、アンサンブル九条山メンバー。Ensemble Amoibeシリーズ主宰。
Music Dialogue、シャネル・ピグマリオン・デイズ室内楽シリーズ、京都コンサートホール、公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト。

――異国を旅しているような気分になりそうです。

フランス人のラヴェルが、ハンガリーの女性ヴァイオリニストにインスピレーションを受けて、彼女にハンガリーの民俗音楽を教えてもらいながら研究を重ねて出来た曲だと言われています。ハンガリー語のように、はじめにアクセントが付く独特なリズム。その土地の言語や音楽が色濃く反映された作品です。

――6月2日の演奏がますます楽しみです。今回の指揮者、鈴木優人さんとは、すでに何度か共演されて信頼関係も厚いと伺っています。

個人的にお話しするようになったのは、ちょうど1年前ぐらいかな? たまに飲みでご一緒する仲になって。昨年9月に急にテレビの収録が決まった折に(NHK Eテレ『クラシック音楽館』)、思い切ってピアノ演奏をお願いしてみたら二つ返事でOKしてくださり、ピアニストとヴァイオリニストとして初めてご一緒しました。12月には、私がコンサートマスターを務めた愛知室内オーケストラを優人さんが指揮するという形で共演。でも、ソリストと指揮者という関係での共演は、今回が初めてなんです! しかも私はサントリーホールのステージでソリストとして演奏するのも初めてなので、とても楽しみです。

©Marco Borggreve
指揮:鈴木優人
東京藝術大学および同大学院修了。オランダのハーグ王立音楽院修了・第29回渡邉曉雄音楽基金音楽賞、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第18回齋藤秀雄メモリアル基金賞、第18回ホテルオークラ音楽賞受賞。バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)首席指揮者、読売日本交響楽団指揮者/クリエイティヴ・パートナー。

――おふたりで録音されたCDが近々発売になるそうですね?

はい、前述のテレビ収録直後に私がナンパしまして(笑)。「優人さん、CDなど一緒に……」「いいよ!」みたいなノリで。多忙なスケジュールを縫ってこの3月にやっとレコーディングできたのですが、本当に楽しかったです。
●ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番/石上真由子(ヴァイオリン)鈴木優人(ピアノ)/COLUMBIA/6月22日発売

――日本フィルハーモニー交響楽団との相性は、いかがですか?

今回で2度目の共演になります。京都で生まれ育った私が一昨年東京に引っ越してきて、最初のコンサートが日本フィルさんとの共演だったのです。コロナ禍まっただ中で、色んな公演中止のニュースが入ってくるなか、「やりましょう!」と決断してくださって。すごく幸せなコンサートになりました。音楽ってやっぱり生活に必要なものだったのだなあ、と改めて感じましたし、オーケストラの方々ともその気持ちを共有できたような気がしていて、そういう意味でも、とてもあたたかいオーケストラという印象です。

2020年9月 コロナ禍の中で開催された、日本フィル 第232回サンデーコンサートに出演し、メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』を披露。

――その時もヴァイオリン協奏曲を?

はい、メンデルスゾーンのコンチェルト(協奏曲)を。コンチェルトの演奏は、ソリストとオーケストラというよりも、室内楽の延長線上でやりたいと私はいつも思っていて。日本フィルさんとの演奏は、ひとり対大勢ではなく、私もその中に溶け込んで一緒にアンサンブルするという感覚がありました。音色もすごくあたたかくて。密な対話をするように演奏できると、幸福度がぜんぜん違うんです。本当にハッピーな体験でした。今回のブルッフも、きっとそうなると思います。

――(日本フィル企画制作部)石上さんがとても素敵で個性的なドレスで舞台に登場されて、自然なあたたかい演奏をしてくださったことが、オーケストラの楽員にも、当時客席でディスタンスをとりながら聴いてくださっていた聴衆の皆さんにも、本当に染み渡ったと思います。コロナ禍で多くの人が長い間楽しくない気分でいたときでしたので、余計に。忘れられない印象的な出会いでした。 ※この公演のダイジェスト動画は、テレビマンユニオン チャンネルでご覧いただけます。 動画はこちらから

――コロナ禍の話が出ましたが、一時は世の中からコンサートいうものが完全になくなってストップしてしまった状態でした。その後、無観客開催でのオンライン配信や様々な試行錯誤を経て、今は最大限の注意を払いつつかなりの確率で通常に近いコンサートが、コンサートホールで開催できるようになりました。この時期を経て、音楽家として何か変化したことはありますか?

やはりご来場いただくお客様も、「コンサートに行くぞ!」というある種の覚悟や決心のようなものが、以前よりも必要になったと思うんですね。それでも聴きたいといらっしゃってくださる。その気持ちが私たちにはとてもありがたいですし、その覚悟に応えられるような演奏をしなければと、身の引き締まる思いでひとつひとつのコンサートを演奏しています。とにかく、その2時間がスペシャルな時間になったら嬉しいです。音楽を聴いている間は現実から離れられたとか、逆に自分のことをすごく考えたとか、ハッピーになった、楽しかった、また来たいと思っていただけたら最高です。家にいたら生まれることがなかった何かが生まれる時間になったらいいなと思っています。

――演奏後の拍手もより大きくなったような気がします。互いに感謝の気持ちというか、想いを共にするというか。

客席と演奏者の一体感がより強まりましたよね。私たちも舞台上だけでアンサンブルしているのでなく、お客様の存在というのを以前よりも強く感じるようになりましたし、お客様もこれまで以上に私たちに想いをかけて来てくださっていると感じます。

――オンライン配信についてはどう思われますか? 「とっておきアフタヌーン」シリーズは、いち早くオンライン配信を始め、今シーズンも全公演有料オンライン配信(ライブ&リピート配信)を行います。

演奏家としては、自分の演奏の映像がアーカイブでも残るということで、今までとちょっと違う緊張感もあり、でもそれはとてもよい緊張感です。それと単純に、後から自分も観て反省できますし。日本フィルさんとの最初の共演も、私、後から何回も観ました。チャンネル登録して自分の演奏をお金払って聴くという(笑)。とても良いクオリティで撮ってくださっているので、映像もきれいで音響もとてもよく、CD音響ぐらいとても良いバランスで聴けます。もちろん生でも聴いてほしいとは思いますが、配信は配信でとても楽しめますよね。

オンライン配信公演の様子。客席最前列やPブロックなどから撮影し、迫力の演奏はもとより、演奏中の表情までも、何度でも繰り返し視聴することができます。

――映像だと、それぞれの楽器の演奏風景を間近で見ることもできますし、石上さんの素敵な衣装も質感までじっくり眺めることができます! 聴いてくださる人数も多くなりますしね。

私の出身・拠点が関西だったので、東京でのコンサートを配信で関西から聴いてくれる人も多くて、皆さん喜んでくださっています。遠方の方々にも聴いてもらえるのは嬉しいです。

――昼間14時からのマチネですが、夜のコンサートとは違う感覚がありますか?

以前は夜型の生活だったのですが、コロナ禍を機に思いきって朝型に変えてみたんです。ですから昼公演にはすごく強くなり、14時開催は体調的に最もいいピークだと思います! 聴きにいらっしゃる方も、2時間音楽を浴びて集中して聴くと、けっこう体力も精神力も使うと思うんですね。ですから、まだ昼間のフレッシュで元気な時間、活動的にアンテナ張っている時間帯に聴いてもらえるのは、良いのではないでしょうか。夜に開くアンテナもあると思うので、夜は夜でまた違って面白いとは思います。

――石上さんと言えば、医師免許をお持ちというご経歴も、よく話題にのぼります。

いちばん最初の夢がお医者さんになることだったので、昔の自分の夢を叶えてあげるためにも、意地でも医学部に入って免許取ったというようなところもあります。特別な良いお医者さんになりたいと思って頑張っていました。卒業間近になって、楽器が今のように弾けない生活は今の私にはきっと耐えられない、音楽だけに心を注ぐ生活をしてみたい、しなければならない、という思いが日に日に大きくなり、両親には1年だけ!と宣言して、医者の世界を一度ストップしたのですが、音楽生活で色々な人に知り合って、1年経ってもまだ序章だし、ここからまだまだ世界が広がるなと感じられて、医者には戻れなくなりました。医学の勉強と音楽と2つ同時にやっていたときとは違う時間のかけ方、熱量のかけ方ができるようになって、やはり音楽ひとつに心を注ぐことが自分にとって必要で大事だったんだなと気づきました。音楽のことだけを考えていられて、音楽で人の輪が広がっていくのを実感する今、とてもハッピーです。

――2022~23シーズンの『とっておきアフタヌーン』は、「心に音楽のエールを」が共通テーマです。今お話しいただいたような石上さんのフィールドの広さから、ぜひ観客の皆様にエールを送っていただければ。

音楽家として、私でなければ出来ないこと、私だからできることもたくさんあるだろうと思っていて。五感を呼び覚ますような、人間の人間たる部分に手が届くような演奏をしたいと常々思っています。技巧的な部分よりも、コンサートに来てくださった方々が「心のビタミンになった」「明日から頑張ろうと思えた」「現実世界についてめちゃめちゃ考えたけど、その先にポジティブな光が見えた」「ほっとした」と思ってもらえるような、琴線に触れられる演奏に心を注ぎたいと思っています。もちろん、「ヴァイオリンかっこよかった!」と思ってもらえたらめちゃめちゃうれしいですし。自分も「かっこいい楽器や」と思いながらヴァイオリンを続けてきたので。

日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン 2022~23シーズン Vol. 19~21
2022年6月2日(木)、9月27日(火)、2023年2月1日(水)の3回(いずれも14:00開演)

――最後に恒例の質問なのですが、石上さんにとっての“とっておき”は何ですか? 今ハマっていることや、気分転換の方法などがあれば教えてください。

歌舞伎です! ご褒美的に、リサイタルとか大きな本番が終わった後には必ず観に行きます。小さい頃、京都の南座に母がよく連れて行ってくれたのですが、最近自分のお金でチケット買って行くようになってから、どハマりして。歌舞伎座に歌舞伎見に行くために東京に引っ越してきたみたいに(笑)、毎月行ってますね。間とか緊張感、緩急、決め……音楽とけっこう通じているなと思うこともたくさんあって、ご褒美と勉強を兼ねて。
人とご飯を食べたりお酒を飲むのもすごく好き。歌舞伎もコンサートも、ひとりで行って静かにかみしめるのも好きなのですが、誰かと一緒に行った時は帰りにご飯を食べながらワーッと感想を述べ合って、そこまでセットでお楽しみです。今回の「とっておきアフタヌーン」もお昼のコンサートなので、終わった後にお茶したりワインなど飲みながら、皆さん楽しんでもらえたらいいですね。

――ステージ衣装も含め、ファッションもとてもこだわりをお持ちですよね?

服は好きですね。歩くのも好きなので、普段あちこち歩きながら目についたお店にふらっと入ってみたり、海外に行った時は古着屋さんをたくさん回ったりして、自分がピンときたものをステージ衣装にしたりします。古着のヴィンテージドレスとか。音楽で表現したいことプラスα、自分の中にある世界観を伝える手段のひとつとして、衣装にもこだわりたいと思っています。音楽と視覚が合わないのは嫌なので、音楽を伝えるのに妨げにならないものであり、かつ、自分自身を凝縮できるような衣装を常に探しています。

――まだまだお話を伺っていたい気分ですが、あとは「とっておきアフタヌーン」のステージトークでのお楽しみに。指揮者の鈴木優人さんとの掛け合いも、楽しみにしています。