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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

葵トリオ インタビュー ~CMGでの7年プロジェクト

山田治生(音楽評論家)

2018年のミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得し、国際的に活躍している葵トリオ。
現在、ミュンヘン音楽・演劇大学にトリオとして在籍し、フォーレ四重奏団のディルク・モメルツに師事している彼らは、サントリーホール室内楽アカデミーの修了生でもある。ヴァイオリンの小川響子は第3期(2014~16年)と第4期(2016~18年)に、チェロの伊東裕は第3期に、ピアノの秋元孝介は第3期に、フェロー(受講生)として、サントリーホール室内楽アカデミーに参加していた。
葵トリオは、チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)に2021年から7年間、出演を予定している。CMGで取り組む7年プロジェクトのプログラムや、過去の室内楽アカデミーのこと、今後の活動などについて、3人に話を聞いた。

葵トリオの皆さんは、サントリーホール室内楽アカデミーで研鑽を積まれましたが、室内楽アカデミーでの経験が今の演奏活動にどのように活かされていますか? また、ファカルティ(講師陣)の指導や言葉で特に印象に残っていることを教えてください。

小川 室内楽アカデミーでは4年間、弦楽四重奏(注:カルテット・アルパのメンバーとして)とピアノ三重奏(注:レイア・トリオのメンバーとして)を勉強させていただきました。主要なレパートリーやリハーサルの進め方、コンクールへの取り組み方など、室内楽奏者として生きていく全てのことを学びました。
ファカルティの先生方や世界で活躍されている奏者の方々とCMGや、とやま室内楽フェスティバルのコンサートで演奏させていただいたことが、大変大きな経験でした。先生方の本気の演奏に触れることで、世界で渡り歩いていく実力を身を持って感じ、自分の足りない点をたくさん発見することができました。

伊東 室内楽アカデミーでは弦楽四重奏(注:カルテット・アルパのメンバーとして)を勉強していましたが、音程や音色などのアンサンブルのノウハウをたくさん教えていただきました。小川さんと弦楽四重奏を組んでいたので、葵トリオにもその経験が生かされていると思います。

秋元 室内楽アカデミーは室内楽のイロハを学んだ場所であり、プロの演奏家として求められる水準の高さを知らされた場所です(注:個人参加であった)。若林顕先生から教わった、「弦楽器の響きを通す空間を作る音」を生み出すテクニックや耳の使い方は、今も大切にしています。

CMG2016より ヴァイオリン:小川響子、チェロ:伊東 裕
CMG2016「チョーリャン・リン室内楽公開マスタークラス」より ピアノ:秋元孝介

皆さんは過去にサントリーホール室内楽アカデミーのフェローとしてCMGに出演していますが、2020年のCMGで葵トリオのお披露目となるベートーヴェンのピアノ三重奏曲全曲演奏会はコロナ禍のために中止となってしまいました。それでも、2021年から27年までCMGで、葵トリオとして新たに「7年プロジェクト」に取り組むことになりましたね。どのようなプログラムを予定しているのか教えていただけますか?

秋元 2020年のCMGでベートーヴェンのピアノ三重奏曲全曲演奏会は大変残念ながら実現できませんでしたが、2027年のベートーヴェン没後200年に向けてベートーヴェンの7つのピアノ三重奏曲を軸に古典から現代まで多彩なプログラムを皆さんにお届けします。葵トリオにとって初めての長期にわたるプロジェクトを室内楽アカデミーの時から出演させていただいたCMGで開催していただけることは本当に光栄です。
CMG 2021ではこのプロジェクトの幕開けとして相応しい溌剌としたベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番で始まり、続いて没後100年を記念して輝かしく流麗に満ちたサン=サーンスのピアノ三重奏曲第1番。メインのドヴォルザークピアノ三重奏曲第3番は、あまり頻繁には演奏されませんが非常に内容が濃く、常設トリオが取り組むべき40分にわたる大作です。

リモート演奏による動画(2020年6月公開) 
名古屋・宗次ホールでの演奏会(2020年11月)

7年がかりで全曲演奏するベートーヴェンのピアノ三重奏曲の聴きどころについて、それぞれの楽器の視点からお話ししていただけますか?

小川 初期の作品(注:ベートーヴェンの作品1は、ピアノ三重奏曲第1番から第3番までの3曲)は、ベートーヴェン自身もピアノ三重奏の各楽器のバランスを模索しているように感じます。ヴァイオリンは、弦楽四重奏における第2ヴァイオリンのような役目が多く、ピアノのメロディーを1オクターブ下で支えたり、内声を担当する場面が多いです。
作品番号を追うにつれ、弦楽器がピアノから独立し、各楽器の特徴が無理なく発揮できるバランス感に変わっていくところが、聴きどころだと思います。

伊東 ベートーヴェン以前のピアノ三重奏曲でのチェロの立ち位置は、ピアノの左手を補強するバスとしての役割が大きかったのですが、ベートーヴェンの特に中期以降は独奏楽器としてのチェロの魅力が楽しめると思います。

秋元 ピアノでは、ベートーヴェンのヴィルトゥオーゾ性が発揮されているところですね。

富山県教育文化会館での演奏会(2020年11月)
大阪・あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールでの演奏会(2020年11月)  ©松浦隆

2020年は、コロナ禍で大変な年となりましたが、演奏活動が制限されていた間はどのように過ごしていましたか?

小川 私はベルリンで過ごしていましたが、全てのコンサートがなくなり、人と一緒に演奏することもできない時期が約2ヶ月続きました。改めて基礎練習などをして、自分が不安を抱えている技術的な部分に向き合うことができました。

伊東 コンサートやリハーサルが無くなってしまい、誰かと一緒に演奏することができませんでした。その時期はこれまでより個人練習の時間が増えて、自分を見つめ直す時間となりました。

秋元 ドイツや日本のほとんどの演奏会が中止・延期となり、配信コンサートやリモートによる演奏動画収録に取り組みました。またコンサートへの準備とは異なる、じっくりと自分に向き合った練習をたくさんしました。

Aspen Online Concertに参加(2020年)
練習風景(2020年)

日本では常設のピアノ三重奏団がほとんどなく、世界的にも数少ない存在といえます。常設のピアノ三重奏団である葵トリオの聴きどころについて教えてください。また、グループとして、今後、取り組んでいきたい曲やレパートリーは?

秋元 ピアノ三重奏といえばソリスト3人が集まることが多いですが、常設のトリオでは、より室内楽的なアプローチが楽しめます。
また、葵トリオでは、(ソリストのトリオよりも時間がかけられるので)名曲ばかりではなく、なかなか普段聴くことのできないピアノ三重奏曲を聴くことができます。今後、全てのピアノ三重奏曲を網羅する気持ちでレパートリーを増やし、現代曲や委嘱作品にも積極的に取り組んでいきたいです。

皆さんにとって、葵トリオはどういう存在ですか? 葵トリオで活動する魅力は何でしょうか?

小川 音楽的にも人間的にも心の底から信頼できる仲間とする室内楽は、純粋に音楽に集中することができ、とても濃密で楽しい時間です。葵トリオは自分にとってHomeであり、お互いに刺激を与え合える関係だと思います。お互いの成長に感化し合いながら、トリオとして成長していきたいです。

伊東 長く継続して活動しているのでリハーサルや本番でアンサンブルに余計な気を使う必要がなく、音楽に集中出来ることが魅力だと思います。長く活動して一生勉強出来る場だと思います。

秋元 段違いに信頼できる奏者だからこそ正直な意見交換ができるところですね。3人がそれぞれの先生なのです。

©Nikolaj Lund Photography

ありがとうございました。トリオのこれからの活動、CMGでの「7年プロジェクト」を楽しみにしています。

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