アーティスト・インタビュー

日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン Vol. 14

齋藤友香理(指揮) インタビュー

齋藤友香理(指揮)

日本フィルとサントリーホールが贈る、エレガントな平日の午後『とっておきアフタヌーン』。気鋭の指揮者と注目のソリストによる、クラシックの「今」をお届けする2020~21シーズンは、10月5日Vol.14から聴衆の皆様に大ホールで楽しんでいただけるよう、演奏者、スタッフ一同、より気合いを入れて準備中です。「クラシック界に新風を吹き込む」指揮者・齋藤友香理さんが、日本フィルハーモニー交響楽団を率いて大ホールに初登場! 華やかなバリトングループ「ハンサム四兄弟」と初共演。どんな演奏を聴かせてくれるのでしょうか。

――ドイツのドレスデンを活動拠点とされていますが、どのような経緯があったのでしょうか?

オペラの勉強をするならドレスデンだ!との思いで、2013年に留学しました。日本で音楽大学を卒業して小澤征爾音楽塾で学び、小澤先生のアシスタントを務めていた時に、代役で子どものためのオペラを指揮させていただく機会があったんです。その経験が大きくて。オペラってなんて大変なことをやるんだろうという思いと共に、興味がすごく湧いて、本格的にオペラを学びたいと。ドレスデンは「ゼンパーオーパー(ザクセン州立歌劇場)」という素晴らしい歌劇場がある街で、毎日のようにオペラを聴く機会もあるんです。

© Yves. Petit
第54回ブザンソン国際指揮者コンクール(2015)
表彰式

――ドレスデン音楽大学で学ばれ、2015年には指揮者の登竜門とされるブザンソン国際指揮者コンクール(仏)で聴衆賞およびオーケストラ賞を受賞されています。そもそも指揮者を目指されたきっかけは?

幼い頃からピアノを習っていて、音楽専門高校、大学とずっとピアノ科専攻だったんです。高校3年生の時にクラスでミュージカルを上演することになりまして。そこではじめてオーケストラを指揮しました。それ以前に、合唱コンクールがあり、歌うのが嫌だったので、じゃあ私、指揮する!と。同じように軽い気持ちで、ミュージカルでも見様見真似で指揮をすることになって。その時に気づいたのです。華やかで注目されるキャストたちも、オーケストラの人も、全員が私を見ている。音楽を牛耳っているのは自分だ!と、やや優越感(笑)。その信頼関係に魅力を感じ、指揮者という職業にすごく興味を持ったんです。

© Yves. Petit
ブザンソン国際指揮者コンクール

――ピアノ以上の魅力があったのですね?

そうですね。ピアノは、ひとりで黙々と練習して、ひとりで披露して、自分だけで納得していたので、寂しかったのかもしれません。いろいろな人と一緒に音楽をすることに、とても魅力を感じたのです。憧れがあったんですね、オーケストラに。自分が思っていたことと違うことが来た時に、さあどうしよう、じゃあ私はこうしようかなと、いくつか手を持ちながら音楽をつくっていくのが面白くて。ひとりだと対話ができないんですよね。人と一緒にやると、音楽をやっている感じがすごくして、面白いなあと。まあ、そんな簡単なことではなく、それからが大変でしたけれどね。この10年浮き沈みが激しかったです(笑)

――今回の「とっておきアフタヌーン」は、オーケストラのみならず、バリトン歌手との共演になります。しかもハンサム四兄弟!

「両手に花」の逆バージョン?(笑)。しかも私、バリトンの声がすっごく好きなんです。かっこいいなあと憧れで。その方たちと共演できるのは光栄ですし、聴き惚れすぎてしまうかもしれないので、冷静に努めます。

ハンサム四兄弟

――どのような曲を演奏されるのでしょうか?

歌がメインなのでオペラの序曲やアリアを中心に。曲順もいろいろ考えました。どの曲にも、皆さん誰でも知っているメロディーが出てくると思います。『ウィリアム・テル』序曲など、ディズニーの作品に使われていたりもしますし、どこかで聴いたことあるメロディーを探していただいて、「あ、この曲だったんだ!」という風にコンサートを楽しんでもらえたらいいなと。やはり歌手がいると華やかさが増しますよね。歌うという行為は身近なものですが、プロの歌手が身体を使って音を発するのを生で聴くと、全然違う体感があると思います。

――オーケストラは、日本フィルハーモニー交響楽団です。

日本フィルさんとも今回初共演なんです。アシスタント時代に一度リハーサルに伺ったことがあり、その時はすごい大編成で、金管が素晴らしかったのを覚えています。とてもワクワクする感じ。恐る恐る弾くのではなく、演奏する楽しみの方が強いオーケストラという印象です。

堀田力丸
日本フィルハーモニー交響楽団

――初共演の相手には、ある意味勝負をかける感じですか?

そうですね。体重落ちるぐらいの緊張感はありますが、でも人間同士、共通しているのは音楽をやるということなので、そこを外さなければ、一体になってできると信じています。もちろんドキドキですけれど、楽しみの方が大きいです。準備する時間もたくさんありますし! コロナ禍以来、私はこれが最初の演奏会になりますので、満を持して臨みます!

――世界中でコンサートのない日々が続きましたが、この期間はどんな思いで過ごされましたか?

もともと音ってすぐ消えてしまうもので、例えば絵画なら残せるけれども、演奏はその場限り。心の中には残りますけれどね。そういう意味でも、演奏会が不要不急ということで最初に外されてしまうことの一つなのか……という残念な思いはありました。でも、音がない世界は考えられないですし、絶対どこかに音はあります。私にとっては演奏することも生で音楽を聴くことも、ドキドキするし身体が反応することなんです。良い演奏を聴くと身体がすごく楽になって、「来てよかった〜」と思います。その機会が無くなってしまうと、どうしても人間に足らないものが増えてしまうなという思いはありました。
音楽家として、音楽に対する貪欲さや執着心についてあらためて考えさせられたこともあり、初心に戻るいい機会でもありました。

――まだ通常とは少し異なるスタイルになりますが、お客様にとっても久しぶりのコンサート、いつも以上に期待感を持っていらっしゃる方も多いと思います。

演奏する私たちもそう思っているので、うまくお客様と重なるといいなと思います。会場の空気って、やはり違うと思うんです。生でないと感じられない。聴くのはもちろん、見ること、感じること、身体の全部を使って演奏会を楽しむことができるようになったら、最高だと思います。

――客席に人がいるからこそ、演奏も変わってきますか?

リハーサルと本番でもまったく違うんです。リハーサルでは余白を残し、本番の緊張感と共に奏者が解放できるものがあると思いますし、お客様がいてこそ出る力があると思います。本番の力ですね。オーケストラも、お客様に音楽を提供しようとなると全然違いますし、そう来たら、さあ私はこうしようかなと構え方も変わります。最初は私がオーケストラに仕掛けるんですけれど、お客様がいると仕掛け方もまた変わる。そこがやっぱり生は面白いんです。本番は何が起こるかわからない、もうスリル満点! その時その瞬間にしかない音。その音をお客様が感じ取っていると思える瞬間。指揮を振っているときは必死でそんなこと考えていられませんが、演奏が終わってお客様の反応があると、「あ、今日はいい感じだったかな」と肌で感じられるので、それを楽しみに準備しています。

――今回、指揮者・齋藤友香理さんのサントリーホール・デビューとなりますが、サントリーホールとの最初の出会いはいつでしたか?

小学生の時に、ピアニストのリヒテルさんが来日公演をするというので聴きに来たんです。でも急遽キャンセルと知り(当時はまだネット情報もなかったので、それを知らずに来ちゃったんですね)、ホールの入り口で立ち尽くして泣いたのを覚えています。それから一年足らずでリヒテルは亡くなってしまいましたね。
その後、新日本フィルの定期演奏会だったかな、P席で聴いたのが最初です。サントリーホール大ホールの上の広さが、P席だとよく感じられますよね。2階の奥の席も結構好きです。迫力ある音色が飛んできた後の、余韻が感じられる。すぐ拍手せずに、この余韻を聴いていたい、みたいな。どんな演奏会も良い印象で、日本になくてはならないホールです。その指揮台に登るというのは光栄なことですし、とっても嬉しいです。

――齋藤さんにとって、音楽以外での「とっておき」の時間はありますか? 

ひとりでいることが結構好きで、それも考え事をするためでなく、ボーッとするために。場所はどこでもいいのですが、できれば外で、誰もいなくて静かなところで、おいしい空気を吸いながら、自然に聞こえてくる音をずーっと聞いたりして、リセットする。ドレスデンでは、「ゼンパーオーパー」から歩いて5分ぐらいのところに住んでいるのですが、歌劇場の前に大きな銅像があるんです。夜中にその台によじ登って、正面に劇場を見ながらボーッと腰掛けているのは最高です。ひとりですから、泣こうが叫ぼうが何をしてもいい。癒やしの場所でもあり、唯一スイッチを切り替えてくれるところです。日本にいる間は、実家の近くの荒川の河川敷を歩いたりしています。広い庭園だとか公園で静かなひとりの場所を探すのが好きですね。

――これから目指す指揮者像などありますか?

お客様に「来てよかった」と思ってもらえるような、いい体感をしていただける時間、瞬間のある演奏をしたいです。「まあまあだった」ではなく、「これ来てよかった!」と1週間経っても覚えているような演奏会。私自身、いっぱい胸に残っていますもん、思い出したら泣いてしまうような演奏会。ゼンパーオーパーで初めて聴いた時のことも、今でも覚えているし、衝撃的で……あ、泣きそうです(笑)。そうやって心に残る、支えになる、みたいな演奏会を目指します。作曲家はすごいですよね。もう何百年前の作品が今も受け継がれて残っていて、今の時代の人が聴いてもやっぱり「いい曲だよね」と心を揺さぶられる。そこが魅力で、日本人だけれども西洋音楽に魅せられました。もちろん今は日本人作曲家の作品も増えて、オペラの作品もありますし、海外で日本人の作曲家の作品を演奏し発信したいという気持ちもあります。そして世界中の劇場に行ってみたいですね。

――齋藤さんの気っ風の良い、爽やかなお人柄が伝わったでしょうか? ハンサム四兄弟、そして日本フィルとの組み合わせで、楽しく華やかな演奏会になりそうです。どうぞお楽しみに。