サントリースポーツの活動に込められた「想い」とその未来図を、様々な視点からロングインタビュー形式で掘り下げる＜SPIRITS OF SUNTORY SPORTS＞シリーズ。

第1弾、東京サントリーサンゴリアス/田中澄憲ゼネラルマネージャーとサントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野/丸橋太一工場長によるクロストーク後半です。
前半：＜SPIRITS OF SUNTORY SPORTS＞第1弾『ビールとラグビー』前半

「ビールとラグビー」をテーマに語り合う２人のリーダー。後半はビールを飲みながら、さらに熱い語り合いとなりました。

【丸橋太一】
1974年、群馬県生まれ。サントリー入社以来、ビールづくりに携わっている。地元（群馬）にある群馬ビール工場で勤務の後、ドイツミュンヘン工科大学ビール醸造学科へ留学。2009年にドイツより帰国後、ビール商品開発研究部に所属し「〈香る〉エール」や「マスターズドリーム」の開発を手掛けた。その後、利根川ビール工場の技師長、ビール商品開発研究部の開発主幹、部長を経て、現在はサントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野の工場長を務める。

【田中澄憲】
1975年兵庫県生まれ。東京サントリーサンゴリアス　ゼネラルマネージャー。明治大学ラグビー部でスクラムハーフ（SH）として活躍後、サントリーに入社。選手引退後は採用担当やチームディレクターを歴任し、クラブの組織基盤づくりに取り組んだ。2017年に明治大学ラグビー部の監督に就任し、22年ぶりの大学日本一を達成。2021〜23年にサンゴリアス監督を務め、2024年より現職。

――ビールはいくつかの工場で同じ味をつくることに加えて、ビール自体も良くしていくために、少しずつ変わっているのですか？

丸橋：いつもの味と、皆さんは感じていただいていると思いますが、全く同じ味をつくっていると、やっぱり味に慣れていくので、だんだん美味しくないと感じてしまうこともあります。私たちは同じものをつくり続けるというよりは、毎回の仕込で学んだことを次の仕込で活かしていって、どんどん美味しくしていく、ザ・プレミアム・モルツをはじめ、どのビールもどんどん美味しくしていくことを日々やり続けています。そうしなければお客様に飽きられてしまいます。

――そのために日々飲んでいるのですか？

丸橋：そうですね（笑）。飲みながらくだらない話をしているようで、意外とそういうところで新製品のアイディアが浮かんだりします。「あ、こんなものがあったら面白いかもしれない」と浮かんで、それを商品にしたりすることもあります。意外にそういうふとした時のアイディアが大事ですね。

――田中さんは例えば監督時代には、新しい戦い方やフォーメーションを思いつくこともありましたか？

田中：同じだと思います。コーチやスタッフと試合後に飲むことがありますが試合についてあーでもない、こーでもないと言いながら、普段のミーティング時とは別のアイディアが出てくることがあったりします。ミーティングは少しフォーマルなので、コーチでも自分が思っている意見が言えない時もあると思います。ビールを飲みながら話していると、普段とは違い議論が活性化されることもありますし、「それ面白いじゃん。何でそれをミーティングで言わないの」ってことがあったりします（笑）。

丸橋：もう飲みたいですね（笑）。

田中：このあとはビールを飲みながらいろいろ聞きたいですね（笑）。

――では、ここで皆さんで乾杯を

田中：いゃー美味しい！丸橋さんのお話はとても勉強になります。先ほどドイツに行かれていたという話がありましたが、ラグビーの場合も海外の視察に行ったりします。そこでいろいろなチームに話を聞くのですが、ラグビーって世界共通で、いま日本の選手が海外のクラブに行って、そのチームに入ることになったとしても、全く適用できないということはなくて、戦術が似ているので適用できるのです。ビールづくりにおいて、海外では製造法が違うとか、考え方が全く違うということがあったりしますか？

丸橋：ビールをつくる設備はどこも大きくは変わりません。5,000年前のエジプトの壁画のビールのつくり方を今でもやっているくらいで、大きくは変わっていません。設備が金属になって耐久性が上がったり、効率が少し良くなったり、どうすればうまくいくか理解できるようにはなりましたが、基本的には麦芽とホップでつくっていて、つくり方は変わっていません。ですので、だいたい世界中どの工場に行っても、すぐに私は働けると思います。「ここはもう少しこうした方が良いな」と思うこともあったり、そういう部分はお互いにすぐに分かるので、そこはラグビーと似ているかもしれません。情報交換がとても早く出来て、一緒に見学すればいろいろな議論がどんどん出来るような感じです。

ビールをつくるということをしている人は、やっぱりビールを飲むことが好きなので、結局は人が好きな人が多いのです。人とビールを飲むことが好きな人が多いですね。そういう意味でもすぐに打ち解けられて、海外で「自分はビールのブリュワーだ」と言えば、「お、そうか、一緒に飲もう！」という感じになりますね。

――今までの中でいちばん美味しかったビールは何ですか？

丸橋：私は『マスターズドリーム』の開発をしていたのですが、その「マスターズドリームが出来た」と思った時のビールですね。そのチームみんなで飲んで、目を合わせて頷いた時です。開発期間10年で「ようやく出来た」と思った時です。

――田中さんは？

田中：それはもう優勝した後のビールですね。これから先もそういうビールを味わいたいですね。

――丸橋さんのサントリーらしいビールとは、どういうビールを目指していますか？田中さんは「サントリーらしいラグビー」とはどのようなラグビーを目指していますか？

丸橋：サントリーらしいビールとして私がいつも思っているのは、「やんちゃなビール」をいつもつくりたいと思っています。そのやんちゃなビールを誰よりも丁寧に仕上げるのが、サントリーかなと思っています。

――やんちゃなとはどういう意味ですか？

丸橋：この『ザ・プレミアム・モルツ』も、「こんな香りがあるようなビールは飲めるか！」と言われ続けたのですが、今ではこの香りがプレミアムビールの当たり前になっています。そのくらいに、今の市場を変えていくような、どんどん新しい提案をしていくことがサントリービールかなと思います。どんどん挑戦していくことですね。

――「飲めるか！」と言われ続けて、ずっと我慢した時間があるわけですね

丸橋：ありました、ありました。『香るエール』を出した時には、「こんな甘いビールは誰が飲むんだ！」と言われ続け、「でもこういう香りのフルーティーな飲みやすいビールの時代が来る」と信じてつくり続けました。

田中：私たちがずっと掲げているのは『アグレッシブ・アタッキング・ラグビー』ですので、それがサンゴリアス、サントリーのラグビーです。そしてそれをどうやって進化させていくかがとても大事です。勝つという目的のために、その精神、コアにあるものは変わらないのですが、ラグビー自体も変化していますし、他チームも進化しているので、そこでどうやって自分たちがアップデートしていくかがとても大事だと思います。それがサントリーらしいということかなと思います。ずっとそれにこだわり続けるのではなく、結果を出すために変えていく部分も必要だと思います。不易流行ということでしょうか。

――田中さんは9番だったので、8番の丸橋さんと9番の関係ですね

丸橋：私はぜんぜんレベルが違いますよ（笑）。

田中：スクラムからの8-9じゃないですか（笑）。ラグビーの良いところって、例えば初めて会った人に「ラグビーをやっていました」と言うと、「どこでやってたの？」という話になって、話が盛り上がりラグビーファミリーになるのです。そこはラグビーが他のスポーツと違うところかなと思いますね。だから、やっていたレベルということじゃなくて、高校でやっていたとか、草ラグビーだろうが、プロだろうが、すぐに打ち解けられるのもラグビーの良さだなと思います。だからレベルじゃないと思います。でも前十字靭帯を3回も断裂する人はなかなかいないですよ（笑）。

丸橋：結構、根性はありましたね（笑）。

田中：私も切っていますけれど、2回切るだけでも結構萎えます。

――丸橋さんがラグビーを見る時には、やっていたポジションを中心に見ているのですか？

丸橋：そうかもしれないですね。その選手のプレーを見ていて「あー」とか思ったりしますね（笑）。今は海外の選手も増えてきていて、チームビルディングがとても難しいと思うのですが、そこはどうやられているのですか？

田中：やっぱりまずひとつは、日本の文化や日本語、そういうことを勉強してもらっています。昔だったら外国人選手は助っ人感があって、外国人選手が少し優遇されるような感じがあったと思うのですが、今はそうではなくて、日本のクラブにプレーをしに来ているので、クラブの歴史も学んでもらっています。つい先日も、サントリーの理念を学んでもらったり、お酒の付き合い方を学ぶ機会を設け、選手、スタッフ全員で話を聞きました。そういう会社の理念や歴史、日本の文化をまず理解してもらう。それで外国人と日本人がセパレートしないようなグループを作って、週の初めにミニゲームをやったり、いろいろと交流が出来るようなことをやっています。

丸橋：一度、練習を見学させていただいた時も、皆さんがとても楽しそうにしていましたよね。

田中：和気あいあいとした感じでしたね。もう少し緊張感があっても良いのではないかと思いますけどね（笑）。昔と比べると、世代なのか、時代なのかもしれませんが、昔の緊張感というか、ライバル感はあまりないかもしれません。

丸橋：私がラグビーをやっていた時には、練習中に水を飲んではいけなくて、倒れるとヤカンの水をかけていたので（笑）。

田中：丸橋さんは工場長でいらっしゃるので、スタッフの方や工場で働いている方、若い方も入って来られて、考え方が違ったり、コミュニケーションの取り方が違ったりするのに気がつくことが多いのではないでしょうか。そこでの難しさはありますか？

丸橋：ありますね。過去には、気合で美味しいビールをつくるという世界もあったと思うのですが、今はいろいろな考え方や個性を活かして、どうパフォーマンスを上げていくか、ということをいつも考えています。

田中：分かります。それは全社的に言えることかもしれませんね。こういう話を今度はお店でビールを飲みながらしたいですね（笑）。

――そういう若手をビール好きにするなんてこともあるのですか？

丸橋：飲むことが好きじゃなくてもつくることを好きになるとか、つくる中のここが好きとか、何か好きなポイントを持って欲しいと思いますね。今やらせていただいているのが、実際にビールを飲んでいただいたお客様の顔を見ようとか声を聞こうとか、実際に若いメンバーにビールを自ら販売していただいたり、直接お客様と話をする機会をつくるようにしています。「自分のやっている仕事って、こんなにお客様にとって大切なことなんだ、影響のあることなんだ」ということを理解していただいて、その中で少しずつ自分の存在意義や、仕事の意味を理解していただければ良いなと思っています。

――マーケティングを度外視して、「これをつくりたいんだ」と言ってビールをつくることがあるそうですが、なぜそれが出来るのですか？

丸橋：私は、私がいる間に「サントリービールを日本一にしたい」と思っていまして、なぜサントリービールを選んだかと言うと、いちばんシェアの低いビールメーカーだったからです。それを1位にする、1位にするために何が出来るかと言うことだけを考えてやっています。

――それのヒントが「やんちゃ」なんですか？

丸橋：サントリーならではのビールは「やんちゃ」だと思います。やんちゃなビールを世界一丁寧につくる。

田中：サントリーの中では、結構「やんちゃ」という言葉が出てきます。やんちゃな社員とか、会長もよく使われます。ラグビーでもやんちゃな選手は絶対に必要ですね。

[終了]

（インタビュー＆構成：針谷和昌）
[写真：長尾亜紀・村松真衣]