伝統をつなぐ挑戦者
『宮里藍 サントリーレディスオープン』の舞台裏2025.06.02


――静まり返る最終18番ホール。カップに向かう一打に、全ての視線が注がれる。打球の音が、空気を震わせ、観客席から一斉に歓声が上がる――。

毎年6月、神戸の六甲国際ゴルフ倶楽部を舞台に開催される「宮里藍 サントリーレディスオープンゴルフトーナメント」。国内外のアマチュア選手に広く門戸を開き、プロと同じ舞台で戦う機会を用意し、次世代ゴルファーの育成をサポートし続けている。21年大会からは優勝と2位の選手に海外メジャートーナメントの一つであるAIG女子オープン(全英女子)の出場権が付与されるようになり、世界に開かれているトーナメントへと進化した。

国内女子ゴルフトーナメントを代表する大会の一つとして、多くのファンや選手、関係者に愛され続けてきたこのトーナメントを、裏側で静かに、そして熱く支え続ける社員がいる。2025年大会で運営に携わって5年目となる、サントリーホールディングス株式会社 スポーツ事業部の藤田慎吾氏だ。この大会には、サントリーの『やってみなはれ』の精神と、ホスピタリティが詰まっている。サントリーレディスオープンに懸ける思いと、サントリースポーツについて、藤田氏に聞いた。

藤田氏  
スポーツ事業部ゴルフ担当 藤田慎吾
着任して2か月で本番 知らないことだらけの中で立て直した大会

藤田氏は、2006年にサントリーに入社し、営業、業務用企画部門、広告代理店への出向、宣伝部とさまざまな部署や業務を経て、現在のスポーツ事業部に配属された。

藤田氏がこの大会に初めて携わったのは、2021年の大会だ。前年の2020年はコロナ禍で中止になっていたため、復活の年にいきなり現場責任者として大会を運営することになった。異動が決まってからわずか2か月しかなかった。前回大会の準備期間を覚えている人も減っていて、全てが未知の状態からのスタートだったという。

「本当に、最初は心が折れそうになりました」

2020年大会の中止による、いわば「ほぼ空白の2年間」を埋め戻す作業も大変だった。数十社におよぶ関係者の顔も分からず、コロナ禍でリアルでの名刺交換もなかなか叶わない。リモートで会議をまわしながら、数か月で大会を組み上げなければならなかった。

「もう、分からないから、どんなことでも聞くしかありませんでした。とにかく自分から動いて、乗り切るしかなかったんです」

 
大会の様子1
2024年大会の様子1​

藤田氏を突き動かしたのは、この大会に込められた周囲からの思いだった。第1回大会から関わり続ける協力会社のスタッフたち、何十年と大会を支えてきた人たち。関係者が30年以上にわたって受け継いできた大会への思いを、簡単に終わらせるわけにはいかなかった。コロナ禍を経ての大会でもあり、リスタートのような形だった。だから、自分がもう1度この大会を作っていくのだという気持ちにもなれたという。

そして翌年、観客が3年ぶりに戻ってきた2022年の大会。最終日、山下美夢有選手が18番ホールで逆転優勝を果たすと、スタンドは割れんばかりの歓声に包まれた。

「その瞬間、泣いていたかもしれないです。やっぱりこの瞬間を見るためにやっていたんだなと。感動しているお客さまの歓声と表情を見て、全て報われた気がしました」

2024年の大会終了後には、大会会長の鳥井信宏現社長から藤田氏も含めた関係者に対して「よかったよ」と、労いの言葉を掛けられた。それがさらに藤田氏の心を震わせたという。

大会の様子2
2024年大会の様子2​
「前例」より「挑戦」を
深化し続ける宮里藍 サントリーレディスオープン

大会運営の担当と聞くと、6月の大会に向けての準備が仕事の大半を占めるという印象を持つかもしれない。だが、それだけが藤田氏の活動の全てではない。大会の準備には約10か月を要するが、その合間にも、パートナー営業活動やAIG女子オープン(全英女子)を活用してのコーポレートブランディングや、元世界ランキング1位でサントリー所属の宮里藍プロが主催するジュニア大会「宮里藍インビテーショナルSupported by SUNTORY」「春高ゴルフ」(全国高等学校ゴルフ選手権春季大会)への協賛などを通してのジュニア育成支援活動、各ゴルフ団体との調整など、年間を通じて多岐にわたる業務に取り組んでいる。表には出にくいものもあるが、これらも重要な活動の一部である。

宮里藍 サントリーレディスオープンが掲げるのは次世代育成と、世界への挑戦。そしてサントリーファンの拡大だ。藤田氏はその軸をぶらすことなく、さまざまな仕掛けをしてきた。

「サントリーは、前例踏襲を好まない会社なんです。だから毎年、必ず新しいことに挑戦する。『今年は何をやるんだ?』と、社内からも言われます。大変だけど、楽しいですよ」

サントリーでは、失敗を恐れることなく新しい価値の創造をめざし、あきらめずに挑みつづけようとする『やってみなはれ』の精神が社員に息づいている。新たなもの、横に広げる変化も大事とする一方で、深化していくことも重視するのだという。

「時代も変わっていきますし、お客さまの価値観もどんどん変わってくるので、その時々でどういったものが一番喜んでもらえるのかというのは、常に考えてニューネスを作っています。良いものは良いもので、それをさらにブラッシュアップするようにしています」

大会の様子3
2024年大会の様子3​

本大会も毎年ブラッシュアップされている。例えば、2024年からは新たに10万円を超えるプラチナチケットを導入。特別シートでの観戦(1番ティーイングエリア・18番グリーン)やクラブハウスの利用や専用駐車場・オールインクルーシブでの飲食など豪華な特典を用意し、より上質な観戦体験を提供したいと考えられている。

さらに今年は、サントリー食品インターナショナルの人気サービス『TAG LIVE LABEL』とのコラボ商品も進化させる。前回大会に取り入れたサントリー所属契約選手の写真入りオリジナルラベル飲料の販売を、今年は起用する選手のラインナップを増やし、新たにランダムなガチャ体験が楽しい自動販売機型での販売を導入することを予定している。

サントリー所属契約選手の写真入りオリジナルラベル飲料1
2024年大会での『TAG LIVE LABEL』販売の様子​
サントリー所属契約選手の写真入りオリジナルラベル飲料2

そして、毎年大会ごとにホスピタリティの質を上げていくことを目標としている。
今年の大会のホスピタリティのテーマは



サントリーレディスをもっとワクワクする、
お祭りのような、一体感を感じる空間にしたい
選手もギャラリーも、
1年に1回、この日を毎年楽しみにしてもらいたい


と定めたそうだ。選手にもギャラリーにも青い物を身につけてもらい、会場の一体感を醸成し、選手も来場者も大会を楽しめる『SUNTORY BLUE FEST.』という企画も準備中だ。

宮里藍 サントリーレディスオープンに来場するギャラリーの6割ほどは、2回目以上のリピーターだという。来場者に毎年新鮮に楽しんでもらい、また足を運んでもらうことが肝要だ。

「また行きたい。毎年違う。そう感じてもらえる大会を目指しています。他のトーナメント関係者からも視察のリクエストがくるようになりました。それぞれの良いところを取り入れ合って、ゴルフ界をますます盛り上げていけたらと思っています」

そのような積み重ねが、サントリーブランドへの共感につながっているという。実際に大会後の調査では、来場者の約9割が「大会を通じてサントリーに好感を抱いた」と回答したそうだ。

SLOの取組に対する評価
宮里藍 サントリーレディスオープンの取組に対する評価
「記憶」と「感動」がサントリーファンをつくる

藤田氏が全力で大会を盛り上げようとする背景には、『製品だけでは伝えきれないサントリーの想いを、体験を通して届けたい』という執念がある。

「他のサントリースポーツのバレーやラグビーにも共通すると思いますが、サントリーのスポーツを応援することで、サントリー推しになっていただく。今まで、製品だけではアプローチしきれなかった方たちに、サントリーの製品に出会っていただく。『宮里藍 サントリーレディスオープン』も、バレーやラグビーと同じように“橋渡し”の役割を果たせればと思っています」

ゴルフ観戦のワクワクとともに、その場で味わうザ・プレミアム・モルツや伊右衛門のおいしさ。その記憶が観客の心に残り、ブランドへの共感に繋がっていく。スポーツが、企業の顔を伝えるコンテンツになり、従来製品では届かなかった人にもサントリーの想いが届くようになる。藤田氏は、この大会でそのことを証明することを目指している。

インタビューに答える藤田氏
「『宮里藍 サントリーレディスオープン』が『サントリー』を好きになるきっかけにもなってほしい」と話す藤田氏​

藤田氏の原点は、入社当初からの営業時代に築いた「ファンをつくる」という意識にあるという。地方を一人で回り、数百件の飲食店を訪ね、足で信頼を築いた日々。そして、出向先の広告代理店時代に手掛けたプロモーションや、業務用企画時代のキャンペーンやイベントの企画。それらの経験の積み重ねが今、「サントリーのファンを増やす」という大会運営の芯になっている。

それは、一般消費者に対してだけではない。大会を共に支える協賛企業にとってもそうだ。地元の企業にとって「宮里藍 サントリーレディスオープン」は大変ありがたいことに知名度の高い大会となっており、パートナーとして参加いただくことによって、地域社会の中での認知度向上につながっている。地元の商工会やライオンズクラブなど横のつながりを通じて、看板の掲出やテレビ中継による露出が話題となり、企業にとって大きなメリットになっていると感じていただいている。特に全国放送を通じて広い範囲への発信が可能となるため、より大きなパートナー枠を希望する企業にとっても、非常に魅力的な取り組みとして評価いただけている。

「静寂から歓声へ。あの瞬間のゾクッとくる感じは、スポーツじゃないと味わえません。あの瞬間があるから、また頑張れるんです」

藤田氏は、学生時代、高校・大学と野球に打ち込んできた。スポーツを通して経験できることには、日常生活では味わえない独特の緊張感があり、価値観がある。藤田氏の人格もスポーツによって培われた部分が大きいという。

5年目となる今年、すでに藤田氏の頭の中では2026年大会の構想まで動き出しているという。

「今年は何やるの?と聞かれるうちは、やめられません。大会を通じて、1人でも多くの人に、サントリーファンになってもらえることが一番の喜びです」

変化を恐れず、想いをつなぐ。大会の舞台裏には、そんな『やってみなはれ』の精神が生きている。


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