背景(Context)
グローバルに事業を展開しているサントリーグループにとって、ビジネスに関わるすべての人の人権を尊重することは重要な責務であり、持続的な成長の基盤と考えています。
サントリーグループは、「サントリーグループ人権方針」のもと、事業に関わるすべての人々の人権を尊重するため、ステークホルダーとの対話を重視しながら取り組みを強化し、バリューチェーン全体で人権尊重を推進しています。
この人権方針において、サントリーグループは国連の「国際人権章典」や「ビジネスと人権に関する指導原則」および労働基準(ILO中核的労働基準:結社の自由及び団体交渉権、強制労働・児童労働の禁止、雇用における差別の禁止など)など、国際的に認められた人権の尊重に取り組むことを明確に表明しています。
ガバナンス
サントリーグループでは、人権に関する取り組みを確実に実行するための明確なガバナンス体制を構築しています。
「サントリーグループ人権方針」は取締役会の承認を経て策定・改定されており、取締役会は人権課題に関する重要事項の報告を受け監督しています。
経営レベルでは、サステナビリティ担当役員が人権尊重の全社責任者となり、人権に関する取り組み状況などが役員報酬評価に組み込まれるなど、トップマネジメントにおいてコミットメントを確保しています。
実務面では、サステナビリティ部門、サプライチェーン部門、人事部門、法務部門、コンプライアンス部門などの機能部門と主要事業会社により構成される「人権ワーキングチーム」が設置され、毎月定期的に戦略の策定や施策の進捗確認を行っています。同チームはグローバルサステナビリティ委員会に活動状況を報告し、必要に応じて取締役会への報告・協議を行います。
さらに、人権課題は企業全体のリスク管理プロセスにも統合されており、グローバルサステナビリティ委員会はグローバルリスクマネジメント委員会と連携して人権リスクを最重要リスクの一つとして位置づけ、対応を協議しています。日本においては、従来から各事業所単位で「人権教育推進委員会」を運営し、地域ごとの人権啓発や課題対応も引き続き推進しています。
戦略とリスク管理
サントリーグループは、人権デュー・ディリジェンス(人権DD)をグローバルに実践しています。まず、「サントリーグループ人権方針」において、児童労働、強制労働、長時間労働、適切な賃金と福利厚生、差別・ハラスメント、結社の自由・団体交渉、救済へのアクセス、労働安全衛生など事業における重要な人権リスク領域を特定しました。これらの重点テーマを中心に、自社事業およびバリューチェーンでの人権リスク評価を定期的に実施しています。その際、社外の人権専門家やNGOとの対話、国連や業界団体の報告書情報に加え、グローバルなリスクデータ(例:Verisk Maplecroft社の指標など)を活用し、潜在リスクの洗い出しと優先度評価を行っています。
特にサプライチェーンでは、原料調達先などにおける児童労働や強制労働のリスクを重視しており、SedexのプラットフォームやSMETA監査を活用してお取引先の労働環境をモニタリングしています。また、人権DDのプロセスにおいては、リスクの特定・評価にとどまらず、予防および是正措置まで含めたPDCAサイクルを構築しています。万が一サントリーグループの事業活動によって人権への負の影響が明らかになった場合には、速やかに是正に取り組み、関係者への救済措置を講じます。これら一連の取り組みはグローバルの経営リスク管理とも連動し、定期的な報告と見直しを通じて戦略に反映されています。
人権デュー・ディリジェンス
サントリーグループは、強制労働・人身取引、児童労働・若年労働者における危険有害労働、差別、外国人・移民労働者の権利などをあげ、グローバルな人権の重要テーマを特定し、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に沿った人権DDを推進しています。
サステナビリティ部門、サプライチェーン部門、人事部門、法務部門、コンプライアンス部門などの機能部門と主要事業会社により構成される「人権ワーキングチーム」が主体となり、このプロセスを牽引します。同チームは定期的に戦略策定や活動の進捗確認を行い、グローバルサステナビリティ委員会へ報告、必要に応じて取締役会への報告も実施する体制です。
こうしたプロセスにおいて、女性や子ども、移民労働者など脆弱な立場の人々の人権にも特に配慮し、国連の「女性のエンパワーメント原則」や「子どもの権利とビジネス原則」などの枠組みも踏まえて取り組んでいます。
負の影響の特定と評価、予防と是正
具体的には、自社の事業所やサプライチェーンにおける人権リスクを継続的に特定・評価し、予防・軽減策につなげています。外部有識者との対話や国際NGOとのダイアログを定期的に行い、グローバルでの人権リスクの最新動向を戦略に反映しています。
また、国際的なリスクデータ(Verisk Maplecroft社の指数など)やSedexの自己評価質問票(SAQ)・第三者監査情報(SMETA)を活用して、自社工場約90拠点および主要原料の調達先における潜在的な人権リスクを評価しています。その結果に基づき、リスクの高い国・地域や原材料を優先して詳細調査(インパクトアセスメント)や是正支援を実施しています。
継続的なモニタリングにより把握した課題に対しては、外部専門機関やNPOとも連携しつつ取引先と対話を行い、改善策を講じています。
教育訓練
社内では、役員をはじめ従業員に対し人権方針の研修や周知徹底を行い、ビジネスパートナーに対してもガイドラインの提示と契約条項を通じて人権尊重を要請しています。
救済(グリーバンス・メカニズム)
サントリーグループでは、事業活動に起因する人権への負の影響が明らかになった場合には、国際基準に則った適切な手続きを通じて迅速に是正に取り組みます。このため、グループ内外に複数の相談・通報窓口を設置し、被害の申出や苦情に対応する体制を整えています。各窓口では通報者のプライバシー保護と報復の禁止を徹底し、関係部門が連携して問題の解決につなげています。
社内の救済制度
従業員向けに「コンプライアンス・ホットライン(内部通報制度)」を国内外で設置し、人権に関する問題を含むあらゆる相談・通報を受け付けています。国内では社外法律事務所を含む窓口、海外ではグローバル共通窓口を設け、多言語(日本語・英語・中国語・スペイン語など)で24時間報告可能な体制を整えています。通報者が不利益を被らないよう就業規則で報復禁止を規定し、通報後もフォローアップを行って保護を徹底しています。2024年にはグループ全体で208件の通報があり、その多くは労務・人事・マネジメントに関するもので、児童労働や強制労働に関する通報は発生していませんが、人権課題も含め適切に調査・是正措置を実施しています。
社外の救済制度
ビジネスパートナーや地域社会などサントリーグループ外のステークホルダーに対しても、人権に関する苦情を受け付ける窓口を設けています。現在、一次サプライヤーを含むお取引先や地域の方々からの通報は「お客様センター」および「ビジネスパートナーコンプライアンス・ホットライン」で受け付けており(日本語・英語対応)、内容に応じて担当部署で対応しています。
サントリーグループはビジネスパートナー各社にも自社内で同様の救済メカニズムを設置し、報復防止策を講じることを期待しており、サプライチェーン全体で人権救済の確保に努めています。さらに2023年には、技能実習生を含む移民労働者の救済強化を目的として「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」に加盟しました。
第三者NPOが運営するJP-MIRAIでは、移民労働者が母国語を含む9言語で匿名相談が可能であり、その報告を受け、迅速にリスク分析・是正対応を行う仕組みを構築しています。
是正に向けて
内部・外部のグリーバンス・メカニズムから寄せられた人権課題に対しては、当社は適切な調査と是正措置を講じ、その結果を通報者や関係者へフィードバックしています。是正完了まで進捗をモニタリングし、再発防止策につなげるプロセスも徹底しています。例えば2019年以降、サプライヤーの監査で判明した労働環境上の重要指摘事項544件のうち502件について是正完了を確認しており、残る件についても引き続き取引先と協働して改善に取り組んでいます。
以上のように、サントリーグループは人権方針に基づくデュー・ディリジェンスと救済プロセスを国際的な基準に即して整備し、ステークホルダーの期待に応える責任ある取り組みを進めています。