背景(Context)
水は人々の生命や生活を支える貴重な資源であり、サントリーグループの企業活動の源泉です。水は再生可能な資源であり、地球上からなくなることはありませんが、人間が利用できる淡水は地球に存在する水の約0.01%にすぎません。
一方で、世界人口の増加や開発途上国の経済成長、気候変動などにより、世界規模での水資源問題が発生しています。2050年までに、世界で約50億人が深刻な水不足に見舞われるとの予測もあります※。この世界的な水不足には多くの問題が絡んでおり、例えば、水は飲用や生活用水としてだけでなく、食料の生産にも多く使われています。
私たちはグループ環境基本方針の最上位に「水のサステナビリティの実現」を掲げ、バリューチェーン全体を視野に入れて、自然界における水の健全な循環に貢献するためのさまざまな取り組みを進めています。
- ※世界気象機関(WMO)「The State of Climate Services 2021」
ガバナンス
グローバルサステナビリティ委員会
サントリーグループでは、グローバルサステナビリティ委員会(GSC)を中心に、環境経営の推進体制を整えています。GSCは、サステナビリティ担当役員の管掌のもと、水、気候変動、原料、容器包装、健康、人権、生活文化のサステナビリティに関する7つの重要テーマに関する戦略を立案し、その進捗を監督するとともに、事業のリスクや成長機会を分析し、四半期ごとに取締役会へ報告しています。
戦略
サントリーグループ「水理念」
サントリーグループはグローバルに事業を展開する企業として、また水に生かされ、水を生かす企業として、世界が抱える課題に真摯に向きあい持続可能な社会の実現に貢献していかねばなりません。
私たちはサントリーグループ環境基本方針に基づき、世界各地域の水課題の解決に貢献する取り組みを展開するに当たって、サントリーグループ「水理念」を策定しました。この理念のもと、事業活動を展開する世界各地の水資源の状況に応じた取り組みの設計、推進を行っています。
サントリーグループ「水理念」
水はグループにとってもっとも重要な原料であり、かつ、貴重な共有資源です。環境基本方針の最上位に掲げる「水のサステナビリティの実現」に向けて、次の理念をグループ全体で共有し、ステークホルダーの期待に応えていきます。
- 1.水循環を知る
使用する水の循環について科学的アプローチに従って流域を調べ、理解を深めます。 - 2.大切に使う
水の3R(Reduce/Reuse/Recycle)活動を通じて節水に努め、浄化した水は自然に還し、環境インパクトを軽減します。 - 3.水源を守る
サステナブルな未来を実現していくため、ステークホルダーと協力しながら使用する水の水源保全に努めます。 - 4.地域社会と共に取り組む
社会が豊かになるように、水課題の解決への貢献を通じて地域コミュニティを支援します。
ウォーター・スチュワードシップ
水は、ローカルな資源です。水の量を決める大きな要因である降水量は、地域ごとの地理的条件や季節、気象条件等により大きく異なります。また、地上に降った雨は、地表面の高低差によって流れる方向が決まっているため、流域ごとに水をめぐる状況は異なります。
十分な降雨量がある地域であっても、その流量に大きな季節偏在性があったり、気候変動により流量に大きな変化が生じたり、衛生上の処理や貯蔵を行う施設などが不十分であったりする場合、水資源の有効利用は難しくなります 。したがって、水の問題は流域ごとに考える必要があります。
サントリーグループは、ウォーター・スチュワードシップの重要性を強く認識し、地域の資産である自然資本を、各工場の流域、そしてバリューチェーンの展開地域において、しっかり守っていくための責任ある取り組み(統合的な水資源管理)を地域とともに推進しています。
リスク管理
水は、私たちのビジネスにとって最も重要な資源です。グローバルに事業を展開しているサントリーグループは、地域の生態系から得られる高品質な淡水に依存しています。水はサントリーの製品にとって最も重要な投入資源であるだけでなく、生産設備や冷却にも欠かせません。しかし、この水への依存は、サントリーグループの事業継続に重大なリスクをもたらします。
サントリーグループは、主要原料の生産地域について、事業への影響が大きいサプライヤー・生産地を特定し、干ばつリスク、洪水リスク、評判リスクなどをそれぞれ特定しています。また、自社工場を対象に水の供給のサステナビリティに関するリスク評価を実施しています。
これらのリスクについては、グループ全体のリスクマネジメント推進体制下において「グローバルリスクマネジメント委員会(GRMC)」や各事業会社に設置したリスクマネジメント委員会や、リスクマネジメントチームがリスク評価、対応計画の策定・実行・モニタリングを継続的に実施しています。
指標と目標
環境ビジョン2050
サントリーグループは、水や農作物など自然の恵みに支えられた食品酒類総合企業として、「人と自然と響きあう」社会の実現にむけて、創業以来、持続可能な社会の実現を目指してきました。1997年に「サントリーグループ環境基本方針」を、2014年に水のサステナビリティ、気候変動対策を柱とした「環境ビジョン2050」を策定しています。
水のサステナビリティに関しては、2050年に向け、以下のビジョンを掲げています。
- 全世界の自社工場での水使用を半減※
- 全世界の自社工場で取水する量以上の水を育むための水源や生態系を保全
- 主要な原料農作物における持続可能な水使用を実現
- 主要な事業展開国において「水理念」を広く社会と共有
- ※2015年における事業領域を前提とした原単位での削減
2030年目標と進捗
| テーマ | 環境目標 2030 | 2024年実績 |
|---|---|---|
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工場節水
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自社工場の水使用量の原単位をグローバルで35%削減※1。 |
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水源涵養
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自社工場※2の半数以上で、水源涵養活動により使用する水の100%以上をそれぞれの水源に還元。 |
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原料生産
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水ストレスの高い地域における水消費量の多い重要原料※3を特定し、その生産における水使用効率の改善をサプライヤーと協働で推進。 |
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水の啓発・安全な水の提供
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水に関する啓発プログラムに加えて、安全な水の提供にも取り組み、合わせて500万人以上に展開。 |
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※12015年における事業領域を基準とする
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※2製品を製造するサントリーグループの工場:国内24工場、海外45工場
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※3コーヒー、大麦、ブドウ
取り組み
「水理念」に基づく統合的な水資源管理
サントリーグループは、流域の健全な水循環に向けて「水理念」を掲げ、「水循環を知る」「水を大切に使う」「水源を守る」「地域社会と共に取組む」の4つの柱に啓発活動を加え、バリューチェーン全体を視野に水循環の健全化への取り組みを進めています。
流域の理解
「水理念」の冒頭に掲げているのが、「水循環を知る」ことです。サントリーグループは、流域単位で異なる水循環を科学的アプローチで理解し、施策を組み立てています。
水管理・節水
自社工場
「水理念」の2番目に掲げているのが、水を「大切に使う」ことです。サントリーグループは、厳密な水リスク評価に基づき、直接操業する各工場において節水活動や排水管理など、それぞれの工場に適した水利用を実践しています。
取水量および水原単位推移(グループ全体)
- ※原単位は製造1kℓあたりの使用量を表す
取水
取水量は生産量(製品として出荷される水の量)に応じて増加するため、サントリーグループでは、生産量の伸びに応じて水原単位削減 に努めています。また、節水活動・リサイクル活動の進展による取水量の削減にも努めています。
特に水ストレスの高い地域においては、水課題の実態を評価し、水総使用量の削減の必要性を検証し、取水量を抑制していきます。
消費
サントリーグループの工場では、商品の原料としてだけでなく、製造設備の洗浄や冷却用に多くの水を使用します。限りある水資源を大切にするため、できる限り使う水を少なくする(Reduce)、繰り返し使う(Reuse)、処理をして再生利用する(Recycle)という、「水の3R」を徹底し、2030年目標である「全世界のサントリーグループ自社工場での水使用を35%削減※」の達成に向けて活動を強化しています。
- ※2015年における事業領域を前提とした原単位での削減
排水
サントリーグループでは、排水をできる限り自然に近い状態で自然に還すため、法律と同等もしくはより厳しい自主基準値を設け、排水品質を徹底管理しています。工場からの排水は嫌気性排水処理設備※などで浄化処理し、下水道や河川へ放流。その際、測定装置による常時監視と検査員による日々の水質点検などを実施しています。
- ※微生物(嫌気性菌)を用いて汚濁物質を分解する処理方法
上流のバリューチェーン
サントリーグループでは、水ストレスの高い地域における水消費量の多い重要原料(コーヒー、大麦、ブドウ)を特定し、その生産における水使用効率の改善をサプライヤーと協働で推進しています。
また、重要原料を中心に再生農業の取り組みを進めています。再生農業は、化学肥料や農薬使用の削減によりGHG排出量を削減し、土壌中の生物多様性を再生することで土壌を肥沃(ひよく)化することで、水の有効利用ができるなど気候変動の緩和・適応効果が期待される農法です。
水源の涵養と保全
「水理念」の3番目に掲げているのが、「水源を守る」ことです。サントリーグループは、工場など自社の敷地内だけでなく、工場が立地している「流域」全体の中で行政や地域社会と連携し、地域ごとの状況に合わせて 世界各地の工場展開地域で保全と復元に取り組んでいます。
日本では、水源涵養(かんよう)機能の向上と生物多様性の再生を目的とした活動である「天然水の森」を2003年に開始しました。現在では、16都府県26カ所、12,000haを超える規模まで拡大し、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養しています。活動を進めるにあたっては、さまざまな分野の第一線で活躍されている研究者と連携し、科学的な根拠に基づいて100年先をも見据えた継続的な取り組みを展開しています。
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※1京都府長岡京市では、「西山森林整備推進協議会」のメンバーとして、地域の方々と協働して森林保全活動にあたっています。この活動の面積は「天然水の森」の総面積に算入していません
そして、事業を展開する世界各地で水資源の涵養と保全を実践しています。私たちは、水のサステナビリティのグローバルトップランナーを目指して、これからもさまざまな取り組みを継続していきます。
地域エンゲージメント
水理念の4番目に掲げているのが、「地域社会と共に取り組む」ことです。
サントリーグループでは、各生産拠点における年1回の水リスク評価にもとづき、地域行政やNGO、教育機関、地域住民などのステークホルダーと連携して流域の水課題に取り組んでいます。
地域エンゲージメントを支える体制
啓発活動
サントリーグループは、豊かな地球環境を次世代に引き継いでいくことは私たちの重要な責務だと考えており、2030年までに、合わせて500万人以上に水に関する啓発プログラムや、安全な水の提供を展開する目標を掲げています。
次世代環境教育「水育」
サントリーグループは、2004年以降次世代環境教育「水育」※を実施しています。子どもたちが自然の素晴らしさを感じ、水や、水を育む森の大切さに気づき、未来に水を引き継ぐために何ができるのかを考える、次世代に向けたサントリー独自のプログラムです。
現在、水育は世界9カ国で展開しており、2024年までの累計参加者は119万人を突破しています。
- ※「水育」はサントリーホールディングス株式会社の登録商標です
後援:環境省、文部科学省など
イニシアチブへの参画
サントリーグループは、水資源の保全を推進するため、水に関するさまざまな国際イニシアチブに参画しています。国連グローバル・コンパクト「The CEO Water Mandate」に署名しているほか、水の国際認証 Alliance for Water Stewardship(AWS)とは連携協定を締結し、日本における水管理の啓発やネットワーク構築などのリーダーシップを担っています。
AWSとの連携
サントリーグループは、統合的な水資源管理のマネジメントそのものを継続的に深化させるべく、2018年にウォーター・スチュワードシップにおいて国際的権威あるAWS認証を日本で初めて取得しました。2021年には、サントリーグループの水のサステナビリティの活動に共感した「AWSアジア・パシフィック」と連携協定を締結し、AWSメンバーシップ企業に参画。2023年には「サントリー九州熊本工場」が日本初となるAWSプラチナ認証を取得し、2025年には「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」および「サントリー天然水 南アルプス白州工場」で「Platinum」認証を取得しました。また、AWS国際事務局と連携協定を締結するなど、AWSとの取り組みを加速させています。2025年には、サントリーを含む日本メンバー5社※で、ワーキンググループとして「ジャパン・ウォータースチュワードシップ」を始動しました。
- ※MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社、栗田工業株式会社、日本コカ・コーラ株式会社、八千代エンジニヤリング株式会社
サントリーのAWS認証取得
| 2018年 |
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|---|---|
| 2019年 |
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| 2021年 |
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| 2023年 |
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| 2025年 |
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自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム
サントリーグループは、ネイチャーポジティブに貢献する取り組みを加速すべく、2022年4月より「自然関連財務情報開示タスクフォース(以下TNFD※1)フォーラム」に参画しました。また、2023年12月には「TNFD Adopter※2」に登録しました。
- ※1Taskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略
- ※2TNFD提言に基づく開示を行う意向をTNFDのWebサイトで登録した企業のことで、登録した企業は2024年もしくは2025年会計年度情報に基づく開示が必要とされる



